白の衣の神の子孫

キュー

文字の大きさ
上 下
27 / 81
第二章 見知らぬ土地へ

神殿への道 3

しおりを挟む
  紫紺の上衣、総団長のレ・イーコ・ブラックの元へ第三団の早馬の伝令者が到着した。
  馬を乗り換え、早駆けしてきた彼は、到着後すぐに通信部の騎士の助けを借りながら自ら報告するべく、総団長の執務室までたどり着いた。
「第三団が辺境伯の元へ向かう途中、豪雨による山の地滑りと河川氾濫に巻き込まれました。第三団の半数が生死不明です。」
「……藤黄の……団長は無事か?」
「いえ、不明です。被害は隊列の後方に集中していました。団長は最後尾に……恐らく……死亡したと……思われます。」
そうか……と、紫紺のイーコは目を閉じ、額に右の手の平を当て動きを止めた。その姿は日頃よくやる、思考を巡らせるポーズであり、側にいた副団長は見慣れた行為だった。だが目の前の、団長の頭の中で、災害の対策を練っているのか、先日出発を見送った藤黄の若者を悼んでいるのか、副団長にはわからなかった。
「災害対策本部を設置する。災害救助隊と、捜索隊を早急に編成。準備が出来次第向かわせろ。近隣の村や街の被害は?」
  団長が無言でも指示は出さねばならない。
「それも、不明です。すでに各地区に向かわせる無事な者は向かっています。被害の状況はすぐに次の伝令が持ち帰ります。」
  副団長が通信部の騎士に必要な指示をし、伝令の話を聞いていると、総団長は顔を上げ、書棚の方へ近寄り背表紙に書かれた文字を指で追う。辺境伯の領地付近の地図と街道と宿場町、王都の商工会関係のリストと騎士団内備品と備蓄の書類を取り出し、机に広げる。団長は再び書棚に向かい並ぶ資料を見つめながら、口を開く。
「城の……宰相に連絡して、情報の統合の為至急面会の許可を貰って……ああ、団内の各部署に招集の連絡を……すぐに会議を始める。ぐずぐずするな、早く行け。それから…しばらく家に帰れないと、嫁さんに伝言を頼んでおけよ。着替えもな。」
「はい。」
うわぁ、当分家に帰れないぞ、と内心悲鳴を上げながら、通信部の騎士が走って行った。

  山肌は崩れ土砂が川に沿って流れ落ちている。その勢いは物凄いもので、森の木々ごと放射状に飲み込んで拡がり、峠は不通、川周辺は土砂に埋もれ、近くの村にまで土砂の帯は届いた。サンガ村にたどり着いた七班と八班は埋まった家屋に残された者はいないか、怪我人はいないか、自警団と共に救助活動に入っていた。
「班長からの新しい指示は?状況は?」
「山の…様子を見に行った奴の話では、地滑りで一面、土砂が酷くて…近づけないって……」
「ここより東の村には五班と六班が行ってるって聞いたぞ。」
「そいつ等は何か知らないのか?団長と副団は?」
「わからない。」
「俺達、団長探しに行った方がいいんじゃないか?」
「班長に聞いたら、宿まで伝令出したから、連絡待ちだって。勝手な行動するなと念押された……」
「……他の奴等も…宿まで戻ってるよな。」
「………そう……だよな。」
「……ほら、手が止まっているぞ。」
同僚の無事を祈り、よしやるかと、目の前の壊れた家屋を片付けるため手を動かし始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

中途半端な俺が異世界で全部覚えました

黒田さん信者
ファンタジー
「中途半端でも勝てるんだぜ、努力さえすればな」  才能無しの烙印を持つ主人公、ネリアがひょんな事で手に入れた異世界を巡れる魔導書で、各異世界で修行をする! 魔法、魔術、魔技、オーラ、気、などの力を得るために。他にも存在する異世界の力を手に入れ、才能なしの最強を目指す! 「あいにく俺は究極の一を持ち合わせてないもんでな、だから最強の百で対抗させてもらうぜ!」  世界と世界を超える超異世界ファンタジー!

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&
ファンタジー
その日、魔法学園女子寮に新しい寮母さんが就任しました、彼女は二人の養女を連れており、学園講師と共に女子寮を訪れます、その日からかしましい新たな女子寮の日常が紡がれ始めました。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

処理中です...