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第二章 見知らぬ土地へ
神殿への道 1
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不安定な足元の石を撥ね飛ばし、自らの操る馬の歩を進める。広範囲に拡がる森を間近に山沿いを長く隊列が続く。
宿泊所を出発した頃は雲一つない青空を見上げて、今日は暑くなるぞ早めに休憩いれないとな…とアークは副団長と話していた。だが、昼を過ぎた頃から空の様子は急変した。
森を抜け川沿いで昼休憩を取り、山に向かう道を進む最中に、風が強く吹き始め、時折立ち止まって耐えなければならなくなるほどの突風が吹き付ける。予定していた次の宿はこの先の峠を一つ越えなければならないし、戻るにしても越えてきた森林を再び通らなければならない。
雨粒が降り始め、再び空を見上げる。厚い雲が物凄いスピードで動いていく。雨の中でも先を急げば越えられない距離ではないが、このまま天候が悪化すればたとえ夏期の長い陽でも、明るいうちに目的地までたどり着けないだろう。また、山道で足下が悪くなると、体力を奪われ、訓練された騎士と言えども、ケガや事故に繋がりかねない。
一時隊を停止させ、アークは空を睨む。
「進路変更!戻るぞ!伝令を出せ!」
団長の一声で、ざわつく声がピタリと静まった。
指示を手短に副団長に伝えて、副団長と伝令を列の最後尾に走らせる。伝令は隊長に方針を伝えながら、戻ってくるはずだ。副団長は現在の最後尾を先頭として、方向を変え進む。団長のアークはこのまま、最後尾を守るつもりだ。
この先の天候次第では、野宿は厳しいものとなる。戻るにしても、この人数が一度に泊まれる場所は近くにはない。道中、隊を分けて宿を確保しつつ移動し、残りの隊はその時の状況次第で野宿か朝出発した宿まで戻るのだ。
森に入ると幾分風の影響は減ったが、暗く視界は悪い上に強くなった雨と滑る足下に悩まされる。今までにも、夏期の急な悪天候を経験したことがある。雨や風の強さは長くても半日耐えれば弱くなる。
「森に入り、雨と風は弱まりました。隊を止め嵐が収まるのを待ちますか?道すがら、夜営が出来そうな場所の目星をつけてあります。」
伝令が先頭の副団長からの知らせを伝えに戻ってきた。
アークは副団長らしいなと、嬉しくなった。高い身体能力に加え状況判断のセンスも良い。上司が指示を出す前に集めた情報を分析し可能性を提示し判断を求めて来る。それを嫌がる上司もいるのだがアークは大歓迎だ。
「いつもの演習ならそれもありだが……なあ、今回はどうかな……」
アークはさっきから項の辺りがチリチリするのを感じていた。雨の降り方が尋常じゃない。頭の中でこの辺りの地図を思い浮かべる。小さな村が点在していた。
「うん、決めた。変更はない。後で補充がきく荷物は捨てて馬の負担を減らせ。できる限り早く森を抜ける。先に森を抜けた七班と八班はサンガ村に入れ。増水を警戒、自警団に協力。あとの班は副団の指示にしたがうように。」
伝令が先頭の副団長のもとへ向かった。
「後は副団が班を割り振って各村に向かわせるだろう。彼なら、俺が一々指示しなくてもいい。水害なんて、杞憂に終わるに越したことはないのだがな…」
アークは未だに、チリチリする首の後ろを押さえながら呟いた。
宿泊所を出発した頃は雲一つない青空を見上げて、今日は暑くなるぞ早めに休憩いれないとな…とアークは副団長と話していた。だが、昼を過ぎた頃から空の様子は急変した。
森を抜け川沿いで昼休憩を取り、山に向かう道を進む最中に、風が強く吹き始め、時折立ち止まって耐えなければならなくなるほどの突風が吹き付ける。予定していた次の宿はこの先の峠を一つ越えなければならないし、戻るにしても越えてきた森林を再び通らなければならない。
雨粒が降り始め、再び空を見上げる。厚い雲が物凄いスピードで動いていく。雨の中でも先を急げば越えられない距離ではないが、このまま天候が悪化すればたとえ夏期の長い陽でも、明るいうちに目的地までたどり着けないだろう。また、山道で足下が悪くなると、体力を奪われ、訓練された騎士と言えども、ケガや事故に繋がりかねない。
一時隊を停止させ、アークは空を睨む。
「進路変更!戻るぞ!伝令を出せ!」
団長の一声で、ざわつく声がピタリと静まった。
指示を手短に副団長に伝えて、副団長と伝令を列の最後尾に走らせる。伝令は隊長に方針を伝えながら、戻ってくるはずだ。副団長は現在の最後尾を先頭として、方向を変え進む。団長のアークはこのまま、最後尾を守るつもりだ。
この先の天候次第では、野宿は厳しいものとなる。戻るにしても、この人数が一度に泊まれる場所は近くにはない。道中、隊を分けて宿を確保しつつ移動し、残りの隊はその時の状況次第で野宿か朝出発した宿まで戻るのだ。
森に入ると幾分風の影響は減ったが、暗く視界は悪い上に強くなった雨と滑る足下に悩まされる。今までにも、夏期の急な悪天候を経験したことがある。雨や風の強さは長くても半日耐えれば弱くなる。
「森に入り、雨と風は弱まりました。隊を止め嵐が収まるのを待ちますか?道すがら、夜営が出来そうな場所の目星をつけてあります。」
伝令が先頭の副団長からの知らせを伝えに戻ってきた。
アークは副団長らしいなと、嬉しくなった。高い身体能力に加え状況判断のセンスも良い。上司が指示を出す前に集めた情報を分析し可能性を提示し判断を求めて来る。それを嫌がる上司もいるのだがアークは大歓迎だ。
「いつもの演習ならそれもありだが……なあ、今回はどうかな……」
アークはさっきから項の辺りがチリチリするのを感じていた。雨の降り方が尋常じゃない。頭の中でこの辺りの地図を思い浮かべる。小さな村が点在していた。
「うん、決めた。変更はない。後で補充がきく荷物は捨てて馬の負担を減らせ。できる限り早く森を抜ける。先に森を抜けた七班と八班はサンガ村に入れ。増水を警戒、自警団に協力。あとの班は副団の指示にしたがうように。」
伝令が先頭の副団長のもとへ向かった。
「後は副団が班を割り振って各村に向かわせるだろう。彼なら、俺が一々指示しなくてもいい。水害なんて、杞憂に終わるに越したことはないのだがな…」
アークは未だに、チリチリする首の後ろを押さえながら呟いた。
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