白の衣の神の子孫

キュー

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おまけの話

赤い石の行方

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  母が失くなったのはまだ俺が小さい時。母がまだ生きていた時から、既に兄達はルーイには近づかず、話もしなかったが、俺は彼らほどルーイを嫌ってはいなかったんだ。

「母さま。お話聞かせて。」

  母のベッドに潜り込んだルーイに構わず、俺はちょくちょく母の部屋に入り込んで話をねだった。

「ト・トは神様の話が好きね。」

  母が話す空想の物語も楽しかったが、一番聞きたかったのは、父のルーツの神の話。母も父から聞いたと言っていたが、父にねだっても「忙しい」の一言でかまってくれなかったのだ。この時の母から聞いた話が切っ掛けで、地方の歴史や遺跡に興味を持って、俺のその後の進路に影響を与えたのだと思う。

「ここより南の地方の森の中に、神殿を守る村がいくつもあるそうよ。その中の一つがカークの、父様のいた村でね、神様が降りられた村と言われているの。あなた達は神様の血を受け継ぐ者。特にルーイ、あなたは神様の子孫と呼ばれているのよ。」

ベッドの毛布にくるまったルーイがピクリと動いて、母の声をじっと聞いているのがわかった。

「ト・トは神様の子孫じゃないの?」
俺が母に問いかけると母は微笑んで、答えてくれる。
「ト・ト、あなたも神様の血を受け継いでいるわ。でも神様の子孫と呼ばれるのは人族型のみ。そのお姿を写した人族型のみが特別に子孫と呼ばれているのよ。」
「ちぇ~。獸人は呼ばないのかぁ。ルーイはいいなあ、神様の子どもって呼ばれて……」
毛布がゴソリと動いた。

「でも、ト・トあなたも血を引く者だから、大人になって、お嫁さんが人族型の子を産んでくれるかもしれないのよ?」
「母さまみたいに?」
「ええ。ルーイもね。」
「………こ」
「こ?」
毛布の奥から、声が聞こえた。
「こんな…姿…やだよ……」
ルーイは俺達と違う人族型に生まれたことを嫌がっているようだった。

  昔、ある村の外れに一夜にして神殿が現れ、神様が降り立った。
  同じように神殿をまつる他の村に、神様が降りられた事はない。だが、その村の神殿には身の丈は倍もあろうかという人型の神様が降り、村の美しい娘を娶り、子を残したというのだ。その子ども達がまた子を成し……神殿を守るその村に神の血筋の者が増えていった。村を出てたどり着いた村でまた子を成していった。そんな村の中の一人がカークであると。

「村には神の血を引く者と、それ以外の者がいるよね?それはどうやって分けるの?わかんなくなっちゃうよね。」
「村にそれぞれの決まり事があるようよ。カークの村は大人になる時に赤い宝石を貰うか、村を出るときに貰うそうよ。」
「母さまの石がそうなんだね。」
母の胸の宝石が父の物だったと教えてもらい、羨ましく思う。自分も大人になったら貰えるのかなあ………貰えたらいいなと思っていた。
「他の村では産まれた時に原石を贈られるそうよ。あなたが大人になる時にはあなたの宝石を用意するわね。」
  母はそう言った。俺は自分の石を想像して楽しみにしていた。しかし、その母は俺が成人するまで生きてはいなかった。父は成人した兄達に赤い宝石を贈っていた。当然、次の俺も貰えるはずだった。

  母が亡くなってからは、父は仕事ばかりで家に帰ってこない。兄達ともなんだかギクシャクして、不満を話せる相手もなく、イライラしていた。誰も俺を見ない。腹が立つ。避けられる。なんだ?この家は?ルーイは部屋から出ても来ないし、兄も知らん顔だ。俺もわざわざ機嫌取りなんかしたくない。ムシャクシャして物に当たったり、妹に怒鳴ったりして、今考えてもいつもの俺とは違う酷い態度だった。テーブルの上の母の姿絵を眺めて、その横の箱を開ける。赤い宝石………次に成人するのは俺だ。父は顔も合わせないし話もしない。俺が部屋を荒らしても叱りもしない。なんだよ。もう、こんな家出ていってやる。家を出る時赤い石を貰った父。だけど、俺は黙って出るから石を貰えない。なら、この母の石を貰ってもいいよな。

  俺は石を持って、家出をした。
  まあ一人で生きてく、そんな根性なかったから、友人宅でしばらくお世話になっていたわけだが。

  俺の首元にあった母のネックレスは路上でケンカした際に引きちぎられた。宝石はなんとか取り返したが、チェーンは千切れて失くしてしまった。俺の家出は一年もたたずに終了し、家に戻った。母の宝石の事は誰にも言えず、隠し持っていたのだった。

  俺の成人の時に父から赤い宝石を貰った。忘れていなかったんだと、嬉しかったが、やっぱり母の赤い宝石も手放せず、正直に話すこともできずにいた。
  ルーイが成人した。家族と話をしなくなっていた俺は、ルーイが成人と同時に外に出される事も知らなかった。それを知ったのはルーイの出発の日だった。見送る父は寂しそうだった。

  ずいぶん後になって、父はルーイに母の宝石を譲るつもりだった事を知った。そして、その事をルーイに謝る事ができたのは更に年月が過ぎた、彼の子どもアークに初めて会った時だった。
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