白の衣の神の子孫

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第一章 神の子孫

藤黄の衣 12

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  誰が最初に切り出すのか。三人は重い空気の中、互いの様子を伺う様に視線を絡めた。
「……っ」
最後に顔を合わせたのはいつだったか。それから何年たったのか。

覚悟を決めたように、ザ・ザが頭を下げる。それに気付いたダ・ダが並んで同じように頭を下げた。

「すまなかった。ルーイに謝罪する。」
急に謝る二人がルーイは理解できない。意外だった。
「謝罪とは?何だ?わからないが。」
突き放すようにルーイが言葉を投げる。
「子どもだったとはいえ、酷いことをしたと、今では思う。」
「今更……」
目を会わせないまま、ザ・ザが絞り出すように謝る。肩が小刻みに震え、偽りのない言葉であるのは感じられるのだが、何せもう何十年も前の事。今更謝られても、どう扱えば良いのかわからない。かといって、許すよと言うのもなんか違うよなとルーイは考えた。

  ルーイの記憶の中の兄達。子どもの頃の二人から受けたひどく乱暴な扱いは、物心付いたばかりのルーイには強烈な印象だった。

「怪我をさせて、悪かった。子どもの頃とはいえ、加減も分からず、酷いことをした。人族の赤子の肌があんなにも弱いと……知らなかった。」
静かに話すザ・ザ。
 
  ようやく歩けるくらいの足の遅いルーイは兄達がどうしてからかうように追い立てて来るのがわからなかった。飛びかかり、引っ掻き、噛みつく兄達。抵抗の出来ないルーイには恐怖でしかなかった。

  獣人の子の幼い頃は種族によって違いはあれど、全身が毛で覆われ、生まれて何日も過ぎれば這って行動的になる。多産のため、一度に数人も珍しくなく、兄弟はじゃれあい、成長する。全身を覆う毛は次第に抜け、立って歩く頃には、特徴的な耳や尻尾以外は、生え変わった短い目立たない毛になり、見た目は人族と変わらなくなる。
  人族の子を育てた経験を持つものは一人もいなかった。生まれてすぐの赤子は毛のないつるつるで、兄達はそれまでと同じように弟にじゃれ付いた。

「俺も、ビックリしたんだ。あっという間に血を流し、泣き出したから。」
同じように口を開くダ・ダ。

  兄達はしばらく触ることを禁じられ、不思議な弟を見ていた。いつになっても動かない。直ぐに兄弟や姉妹達は這って走って、遊びに加わったのにこの弟は全然違うものだ。
  それでも、ゆっくり大きくなり、ハイハイする。構う。怪我する。叱られる。
  また大きくなる立って歩く、抱き付く、転ぶ。泣く。撫でる。血が出る。弟が逃げる。追う。段差を落ちる。怪我する。叱られる。
 
  それでも体調の悪い母は、代わる代わる、ぐずぐず泣いてベッドに潜り込んで来る子ども達を、優しく受け入れ温かい手で撫でた。子ども達はそれだけで安心して眠りにつく。

 そんな衝突を繰り返し、ルーイは兄と会うことを怖がって母の側を離れなくなった。ルーイがいつも母の側で怖がっているため、兄弟達は母に近付けず甘えられない不満を募らせる。

「子どもの頃は、母をルーイに取られたと嫉妬していた……」

  兄や姉達は、弟とはいえ、懐きもしない見た目も成長速度も違う未知の存在を理解できなかった。

「どんどんルーイは大きくなるし、直ぐに俺たちの身長を越えちゃったから、俺たちと違うルーイが怖くなったんだ。」
「うん。どんどん大きなって、近寄るのが怖かった。どこまで大きくなるのかって……母はいつもルーイを庇っていたし……」

  ルーイが怪我をして泣くと母も悲しそな顔をする。ザ・ザ達がルーイに対する不満を口にすると、母は少し辛そうに、見た目は違っても血の繋がった兄弟よ?と言い微笑んだ。弟ばかりをかばう母を見たくなかった。
「……庇う?いつも庇われて……許されていたのは、ザ・ザ達の方じゃないか。」
兄達は自分達の言い分ばかりで、ルーイはつい、言い返す。

  ルーイが暴力に怯え、母のベッドから出なくなる度に、兄達は悪くない、子どもだから力加減が出来ないから許してあげて、一緒に遊びたいだけなのよと、母は何度も繰り返した。しかし、どんなに頑張っても足の遅いルーイは追い付かれる。どんなに力を込めても力の弱いルーイはかなわない。どんなに恐怖を感じているかを訴えても少ない語彙では伝わらず、ただ泣くしかなかった。

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