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第一章 神の子孫
藤黄の衣 5
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「誰だろう?」
工房の入り口の近くの路上で二人は静かに話をしていた。
猫系の獣人族の男は何かをソーダに渡し、去って行った。
「ソーダ!」
声を掛けるとソーダが振り返った。
「アーク。いつからそこに?」
「ん。今来たとこ。今の人は?知ってる人?」
人族から見たら獣人族の個体区別は慣れないと見分けづらい。アークもきっと、先の獣人に再び会ってもわからないだろう。
「前の職場の人だよ。」
「ふーん。」
「ほら、あめ玉やるよ。」
「わあい。」
もう、今見た人の事など忘れてしまった。アークはあめ玉を口に放り込み、工房内に走り込んだ。
そんな昔の記憶を思い出したのは、トラネク商会の主人と再び顔を会わせ、父の話題になった時だった。
何度か手紙をやり取りし、今度食事にでもと、誘われた。休みの日の夜、トラネク商会系列のレストランに行った。名前を告げ案内されたのは豪華な内装の個室で、アークは自分は場違いではないかと、帰りたくなった。ニコニコ笑いながら待つトラネクに挨拶して、騎士となり給料をもらう身なので、自分の分は払わせて下さいと伝え、席に付く。
内心持ってきた金額で足りるだろうかと、ビクビクしていたが、運ばれてきた料理は、美しく盛り付けられているが、一般的な家庭料理で、ちょっとだけお高かったが、アークが払える範囲の金額だった。
トラネクはアークに気付かれないようこっそり、予定していた料理の変更を店に伝えていた。急な注文にも対応できる店と料理長に満足したトラネクが、商談にこの店をよく使うようになった事は瑣末な事である。
お互いの最近の出来事を聞き、食事を進め、最後にお酒でもと言われたアークは、軽めのを一杯だけ……と応じた。
「アーク君の家族は父親だけだと聞いたが…」
初めの頃こそ、お互いに丁寧な口調だったが、商談じゃないんだし、肩が凝るからやめましょうと、トラネクが微笑みながら言うと、アークは、かしこまった口調は慣れてなくて助かりますと、つられて笑って、それ以来言葉使いを気にせずに話している。それでも、アークは騎士に相応しく、年長者に対し礼儀と敬する気持ちを持っている。
「ええ、母は子どもの頃に亡くなって、父だけなんです。皮工芸の職人なんですよ。」
「そう……」
少し下を向いて、目を伏せたトラネクを見て、アークは昔の記憶を呼び起こした。
「あ、昔……お会いしましたね……」
正確には、アークがトラネクを見ただけなのだが。
「……会った事があるかもな………」
「ええ。父の勤める工房の前で……たしか……」
記憶をさぐり、一緒にいた人物をおもいだす。
「ソーダがいて……一緒にトラネクさんがいて……」
「………」
あの時も、今と同じように辛そうな表情だった。
「たしか……ソーダはトラネク商会にいたと、言った…」
次々と当時の思い出が浮かんで来る。
「…昔…父と……何かありました……?」
「アーク君は勘が鋭い。誤魔化せないな。」
何故だかわからないが、ソーダとの関係ではなく、父ルーイと目の前にいるトラネクさんは関係があると、感じた。
「全てを話そう。」
そう言って、長い話を始めた。初めて聞く父とその家族の話を黙って聞いていたアークは祖父は父に会って謝りたいのだと感じた。しかし、父の気持ちを考えると、今すぐに何とかなるものでは無さそうで、祖父はまた会ってほしいと他の子ども達も、今では母の事は誰が悪い訳ではなかったと理解していると、アークにつげた。
「ええ、お会い出来て、良かった。また話を聞かせて下さい。」
その後、アークは王都から離れ、滅多に会う機会はなかったが、いずれ父と祖父を会わせたいと、思っていた。
工房の入り口の近くの路上で二人は静かに話をしていた。
猫系の獣人族の男は何かをソーダに渡し、去って行った。
「ソーダ!」
声を掛けるとソーダが振り返った。
「アーク。いつからそこに?」
「ん。今来たとこ。今の人は?知ってる人?」
人族から見たら獣人族の個体区別は慣れないと見分けづらい。アークもきっと、先の獣人に再び会ってもわからないだろう。
「前の職場の人だよ。」
「ふーん。」
「ほら、あめ玉やるよ。」
「わあい。」
もう、今見た人の事など忘れてしまった。アークはあめ玉を口に放り込み、工房内に走り込んだ。
そんな昔の記憶を思い出したのは、トラネク商会の主人と再び顔を会わせ、父の話題になった時だった。
何度か手紙をやり取りし、今度食事にでもと、誘われた。休みの日の夜、トラネク商会系列のレストランに行った。名前を告げ案内されたのは豪華な内装の個室で、アークは自分は場違いではないかと、帰りたくなった。ニコニコ笑いながら待つトラネクに挨拶して、騎士となり給料をもらう身なので、自分の分は払わせて下さいと伝え、席に付く。
内心持ってきた金額で足りるだろうかと、ビクビクしていたが、運ばれてきた料理は、美しく盛り付けられているが、一般的な家庭料理で、ちょっとだけお高かったが、アークが払える範囲の金額だった。
トラネクはアークに気付かれないようこっそり、予定していた料理の変更を店に伝えていた。急な注文にも対応できる店と料理長に満足したトラネクが、商談にこの店をよく使うようになった事は瑣末な事である。
お互いの最近の出来事を聞き、食事を進め、最後にお酒でもと言われたアークは、軽めのを一杯だけ……と応じた。
「アーク君の家族は父親だけだと聞いたが…」
初めの頃こそ、お互いに丁寧な口調だったが、商談じゃないんだし、肩が凝るからやめましょうと、トラネクが微笑みながら言うと、アークは、かしこまった口調は慣れてなくて助かりますと、つられて笑って、それ以来言葉使いを気にせずに話している。それでも、アークは騎士に相応しく、年長者に対し礼儀と敬する気持ちを持っている。
「ええ、母は子どもの頃に亡くなって、父だけなんです。皮工芸の職人なんですよ。」
「そう……」
少し下を向いて、目を伏せたトラネクを見て、アークは昔の記憶を呼び起こした。
「あ、昔……お会いしましたね……」
正確には、アークがトラネクを見ただけなのだが。
「……会った事があるかもな………」
「ええ。父の勤める工房の前で……たしか……」
記憶をさぐり、一緒にいた人物をおもいだす。
「ソーダがいて……一緒にトラネクさんがいて……」
「………」
あの時も、今と同じように辛そうな表情だった。
「たしか……ソーダはトラネク商会にいたと、言った…」
次々と当時の思い出が浮かんで来る。
「…昔…父と……何かありました……?」
「アーク君は勘が鋭い。誤魔化せないな。」
何故だかわからないが、ソーダとの関係ではなく、父ルーイと目の前にいるトラネクさんは関係があると、感じた。
「全てを話そう。」
そう言って、長い話を始めた。初めて聞く父とその家族の話を黙って聞いていたアークは祖父は父に会って謝りたいのだと感じた。しかし、父の気持ちを考えると、今すぐに何とかなるものでは無さそうで、祖父はまた会ってほしいと他の子ども達も、今では母の事は誰が悪い訳ではなかったと理解していると、アークにつげた。
「ええ、お会い出来て、良かった。また話を聞かせて下さい。」
その後、アークは王都から離れ、滅多に会う機会はなかったが、いずれ父と祖父を会わせたいと、思っていた。
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