4 / 81
第一章 神の子孫
藤黄の衣 3
しおりを挟む
「少しはゆっくりできるのか?出発はいつだ?」
「ソ・ルーシェ辺境伯の領地は遠いからな、準備に三日で出発する。」
「そうか、明日は休みにしたから、一緒に買い物に出よう。」
「ありがとう。父さん。…明後日は祖父に挨拶に行こうと思うが、どうする?」
手に持った杯を食卓に置き、ルーイは静かに首を振った。生家を飛び出してもう何年たつだろう。同じ街に住むというのに、未だ近付こうともしない。それだけ蟠りが大きいのだろう。
「じゃあ、俺だけ挨拶して……」
「いや、やっぱり俺も行くよ。」
少し悲しそうな顔をする父に、無理はしなくていいよ……とアークは声を掛け、空になった杯を突き出した。
アークの祖父カークは伝え聞いた王都に憧れていた。一族が住む地を独り離れ街に出て職を探している時に、知り合った娘の実家が偶然にも商家で、頼み込んで雇ってもらった。
カークは見た目は猫系獣人で商家の主が猫の系統の獣人であったこともあり、住み込みで必死に働く姿を認められ、気に入られたという。祖父は商家の娘と結婚し、子沢山の獣人の例に漏れず、何人も子どもを授かった。商売繁盛、家庭円満だったがルーイを身ごもったことで、一変する。
小柄な獣人の母の腹は日に日に、大きくなる。カークはそれを見て確信した。この子は人族の姿をしているに違いないと。
見かけは猫系の獣人族であるため、同族と思われ、確認されなかったからつい、話していなかった。純血でない混ざりの一族のであることを。まれに人族型の子が生まれることを。結婚する前に、伝えておくべきだったのに。
カークは子どもの頃、集落で人族型の出産があった。聞いていた通りに難産で、大人が総出で手伝いに行った。子ども達は総長の家に集められ、年長の子に世話されながら、その緊張の夜を不安で震えながら丸まって塊になって過ごした。
赤子とはいえ、獣人よりもはるかに大きい人の子だ。母体の負担は大きい。
産まれた子を見てショックを受けてはいけないと、カークは妻に話す前に義理の父に告白した。義理の父はカークをひどくなじり、もしもの事があれば只では済まさないと、激昂した。
さんざん悩んだが、妻に祖先に人族がおり、お腹の子は多分人型の子であろうと告げた。
驚いていたようだったが、意外にも取り乱したりせず、腹を撫でながら、無事に生まれる事を祈っているようだった。腹を蹴るその元気な子には何の罪もないと、もしも自分が命を落としても、夫は悪くないと言い、子どもを育てて欲しいと父とカークに頼む。
産み月を待たずに出産した。命を落とすことはなかったが、床から起き上がることが出来なくなった。乳を含ませ、元気に育つように子守唄を歌って寝かしつける。
兄や姉は形の違う子どもをどうしても弟として、認められなかった。母の体を壊した人の子に親しみを持てず、気に入らないといつもの兄弟がじゃれあう調子で突き飛ばすと簡単に怪我してしまう。いつまでも赤ちゃんで成長が遅く母を独占してしまうので、誰もルーイに近付かなくなった。
「ソ・ルーシェ辺境伯の領地は遠いからな、準備に三日で出発する。」
「そうか、明日は休みにしたから、一緒に買い物に出よう。」
「ありがとう。父さん。…明後日は祖父に挨拶に行こうと思うが、どうする?」
手に持った杯を食卓に置き、ルーイは静かに首を振った。生家を飛び出してもう何年たつだろう。同じ街に住むというのに、未だ近付こうともしない。それだけ蟠りが大きいのだろう。
「じゃあ、俺だけ挨拶して……」
「いや、やっぱり俺も行くよ。」
少し悲しそうな顔をする父に、無理はしなくていいよ……とアークは声を掛け、空になった杯を突き出した。
アークの祖父カークは伝え聞いた王都に憧れていた。一族が住む地を独り離れ街に出て職を探している時に、知り合った娘の実家が偶然にも商家で、頼み込んで雇ってもらった。
カークは見た目は猫系獣人で商家の主が猫の系統の獣人であったこともあり、住み込みで必死に働く姿を認められ、気に入られたという。祖父は商家の娘と結婚し、子沢山の獣人の例に漏れず、何人も子どもを授かった。商売繁盛、家庭円満だったがルーイを身ごもったことで、一変する。
小柄な獣人の母の腹は日に日に、大きくなる。カークはそれを見て確信した。この子は人族の姿をしているに違いないと。
見かけは猫系の獣人族であるため、同族と思われ、確認されなかったからつい、話していなかった。純血でない混ざりの一族のであることを。まれに人族型の子が生まれることを。結婚する前に、伝えておくべきだったのに。
カークは子どもの頃、集落で人族型の出産があった。聞いていた通りに難産で、大人が総出で手伝いに行った。子ども達は総長の家に集められ、年長の子に世話されながら、その緊張の夜を不安で震えながら丸まって塊になって過ごした。
赤子とはいえ、獣人よりもはるかに大きい人の子だ。母体の負担は大きい。
産まれた子を見てショックを受けてはいけないと、カークは妻に話す前に義理の父に告白した。義理の父はカークをひどくなじり、もしもの事があれば只では済まさないと、激昂した。
さんざん悩んだが、妻に祖先に人族がおり、お腹の子は多分人型の子であろうと告げた。
驚いていたようだったが、意外にも取り乱したりせず、腹を撫でながら、無事に生まれる事を祈っているようだった。腹を蹴るその元気な子には何の罪もないと、もしも自分が命を落としても、夫は悪くないと言い、子どもを育てて欲しいと父とカークに頼む。
産み月を待たずに出産した。命を落とすことはなかったが、床から起き上がることが出来なくなった。乳を含ませ、元気に育つように子守唄を歌って寝かしつける。
兄や姉は形の違う子どもをどうしても弟として、認められなかった。母の体を壊した人の子に親しみを持てず、気に入らないといつもの兄弟がじゃれあう調子で突き飛ばすと簡単に怪我してしまう。いつまでも赤ちゃんで成長が遅く母を独占してしまうので、誰もルーイに近付かなくなった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説


騎士団長のお抱え薬師
衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。
聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。
後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。
なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。
そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。
場所は隣国。
しかもハノンの隣。
迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。
大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。
イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
嫌われ者の【白豚令嬢】の巻き戻り。二度目の人生は失敗しませんわ!
大福金
ファンタジー
コミカライズスタートしました♡♡作画は甲羅まる先生です。
目が覚めると私は牢屋で寝ていた。意味が分からない……。
どうやら私は何故か、悪事を働き処刑される寸前の白豚令嬢【ソフィア・グレイドル】に生まれ変わっていた。
何で?そんな事が?
処刑台の上で首を切り落とされる寸前で神様がいきなり現れ、『魂を入れる体を間違えた』と言われた。
ちょっと待って?!
続いて神様は、追い打ちをかける様に絶望的な言葉を言った。
魂が体に定着し、私はソフィア・グレイドルとして生きるしかない
と……
え?
この先は首を切り落とされ死ぬだけですけど?
神様は五歳から人生をやり直して見ないかと提案してくれた。
お詫びとして色々なチート能力も付けてくれたし?
このやり直し!絶対に成功させて幸せな老後を送るんだから!
ソフィアに待ち受ける数々のフラグをへし折り時にはザマァしてみたり……幸せな未来の為に頑張ります。
そんな新たなソフィアが皆から知らない内に愛されて行くお話。
実はこの世界、主人公ソフィアは全く知らないが、乙女ゲームの世界なのである。
ヒロインも登場しイベントフラグが立ちますが、ソフィアは知らずにゲームのフラグをも力ずくでへし折ります。

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜
赤井水
ファンタジー
クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。
神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。
洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。
彼は喜んだ。
この世界で魔法を扱える事に。
同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。
理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。
その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。
ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。
ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。
「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」
今日も魔法を使います。
※作者嬉し泣きの情報
3/21 11:00
ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング)
有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。
3/21
HOT男性向けランキングで2位に入れました。
TOP10入り!!
4/7
お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。
応援ありがとうございます。
皆様のおかげです。
これからも上がる様に頑張ります。
※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz
〜第15回ファンタジー大賞〜
67位でした!!
皆様のおかげですこう言った結果になりました。
5万Ptも貰えたことに感謝します!
改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる