白の衣の神の子孫

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第一章 神の子孫

藤黄の衣 1

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  二十八歳にして、藤黄とうおうの上衣を賜った。

「マ・アーク・ジャジャ、藤黄、おめでとう。若き第三団長の誕生だな。」
「ありがとうございます。」

  最高位の紫紺しこんの上衣に身を包んだレ・イーコ・ブラックが団長室のすぐ側の廊下で、偶然通りががったアークに声を掛けた。時間があるならと、団長室に入るよう誘う。アークは部屋の中に導かれ、祝福の言葉をかけられる。人より早い昇進にアーク自信も驚き、戸惑っているが、目の前の総団長が今の位についたのは三十になってすぐだったと聞く。早いと言われるアークの藤黄など、若き十代の頃のイーコ団長が二段飛び越えての就任だったと記録されている。それを考えると、いかに総団長が規格外の人物か理解できる。

  王国の騎士団の総長は金髪碧眼、五十になったばかりの、美丈夫である。深く礼をしたままのアークに、堅いな~リラックス、リラックス~と軽く肩をポンポンと叩く。
「アーク、藤黄になったことだし、任地に独り身で行くのは侘しかろう?僻地にそうそう娯楽も無いだろうから、連れ合いがいれば、張り合いも出るだろう。そろそろ、身を固めることを考えてはどうかな?俺の姉に娘が二人いるんだが……一度会ってみないか?」
  頭を深く下げたまま、アークはそうか、これが目的か?……と考え、誤解を与えぬよう慎重かつ確実に辞退の言葉を伝える。まだ、未熟者ゆえ、身を固めるには早すぎると。付け加えるのを忘れずに。
「そうかぁ……君のように将来有望な若者は姪っ子ちゃんにピッタリだと思ったんだよねぇ。残念だなぁ。誰かに持ってかれる前に取り込んどきたかったけどね……もう少し考えてみてよ。身内になるなら大歓迎だ。」
冗談とも本気とも思える軽口の真意はくみ取れず、素なのか演技なのか計れない。それだけにアークは目の前の人が、心底恐ろしいと感じ身震いする。

  公式の場や職務中以外の総団長の砕けた口調と態度は団内では有名で、総団長は下の者にも気軽に声を掛ける。そのため、下級騎士達は、人格者の総団長に憧れ、偶然出会う事を願う。幸運にも『お声掛け』があると、羨ましがられて仲間内で祝福と言う名の尻パンチの嵐に合う。アークも経験があるが、しばらく椅子に座りたく無いくらい、痛かったのを覚えている。さすがに団長クラスではそんな慣習はない。だが、年に一度の総会に顔を合わせると、打ち上げの時に必ず誰かが団長全員に一杯奢るという役目を押し付けられる。その選定がどういった基準かは聞かされていないが、ここ数年アークばかりが当たっている。一番下位の役目ならば、今年からはそれも無くなるのだろう。

  部屋を出る際、総団長に再び礼をして、扉を閉め息を吐く。踵を返し歩き出したアークは家族になんて報告しようか考えて、自然に笑顔になっていた。



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