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第三章輝き

5 壊れた時計

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  別荘の庭をちょこちょこ走り回る小さなマックたちを見つめるファータとミリナ。あれから四年の月日が流れた。最近ファータは床から起き上がれない日が続いていた。今日は天気も良く、久しぶりに庭にあるベンチに座って、元気に遊ぶ子ども達をながめていた。
「姉さん、ありがとう。」
いくら感謝しても足りない。目の前の光景が夢のようだ。 いつも手元に置いていた懐中時計をミリナに手渡す。
「時期を見て、これをあの子に。誰の物かは絶対に言わないで。」
「わかった。預かっておくわ。」

  ファータの渡した懐中時計は事故当時の時間を、マークス王子が亡くなった時間を指したまま止まっていた。針はつまみを回しても動かない。ファータはこの時計が戻ってきた時から、修理はせずに、息子に手渡す日のために、切れた鎖を新しくし、少しずつ時間をかけて、彫金をほどこした。時計の王子の刻印と名前は削りとった。誰が見ても王との関係を探られないように。息子の安全を考えると、こんなもの、渡さない方がいいとわかっている。でも、マークスの形見を渡したい。彼の息子の証を残したい。ファータはこっそり鎖に仕掛けを施していた。飾りに紛れて、息子の名前を。

暗号を読み解くと、彼の名前が現れる。

マック・レディ・ド・ラ・アスターネス

これが彼の本当の名前。
王族の血が流れる証。

  マックの五歳の誕生日が来る前にファータは亡くなった。ひっそりと身内のみにおくられ、墓碑には、彼女の好きだった花のモチーフが刻まれていた。

  ファータが亡くなってほどなく、ミリナはシーラ星に住居を移した。以前から、仕事で付き合いのあった研究所からぜひ来てほしいと打診されていて、フルが単身で来ていたのだ。
  ミリナはファータがマックに少しでも長く触れ合えるように、ファータのいる別荘と自宅を往き来し、時々子どもたちを連れてフルのいるシーラを訪れる。そんな生活を続けていたが、ファータが亡くなった今は、留まる理由はない。シーラに向かう、宇宙船の中、子ども達のはしゃぐ声が聞こえる。

「ジグ、本当ににいいの?」
「うん。」
  タクーンでは長男と次男は騎士養成学校に通っていた。将来、騎士になりたいの?と聞いたら、次男はなりたい!と元気に答えた。長男は少し考えて、別に、とはぐらかした。
「パパのいる所には騎士の学校はないの。」
「うん、サツに聞いた。」
「だから、普通の学校に入るのよ。いいの?」
「じいちゃんに、たのんだ。騎士になりたい、学校、通わせてくれって。そしたら、まかせとけって。」
「まあ、そんなこと、一言も言ってなかったじゃない。お父さんったら…なんて約束するのよ。」
「じいちゃんは約束してくれたけど、一つ宿題くれた。」
「宿題?」
「家族皆で過ごす事。」
「それで、一緒に行くって…」
「期間は一年以上。それでもやっぱり騎士になりたかったら、面倒みてくれるって。」
「わかったわ。騎士養成学校には寮もあるし、一年後でも、二年後でも、行く時は私がパパを説得するわよ。」
「ありがとうママ。」
ジグがミリナに抱き付いた。
「サツは何も言わないけど、ジグ、聞いてる?」
「サツは騎士にはこだわってないよ。家族は一緒がいい、って言っていたから、大丈夫だと思う。」
「そう。」
「あ、シーラの有名な武術あったよね。あれ習いたいって言ってた。」
「サツは騎士学校で剣術に、柔術、銃の大会も上位だったわよね…なにを目指してるの?あの子。」
「え?サツは最強だよ。」
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