風魔術は最強でした! ~転生したらもふもふ猫だったので、風魔法で無双しつつ魔女のペットとして暮らしていきます~

子子

文字の大きさ
上 下
24 / 24
1章

23.対人戦3 (まるで理性をなくした獣だな)

しおりを挟む
 風の刃では、男の猛攻を止められない。このままでは、遅かれ早かれ男の剣撃が届いてしまう。

  全身から血を流しながら迫り来る男に、この窮地をどう打開すればいいのか、テトは必死で思考を巡らせだ。

『そ、そうだアセリア。俺の言う通りに風を操ってくれ!』

 刹那、閃いた妙案に、急いでアセリアへと指示を出す。

(どうか上手くいってくれ)

 アセリアはテトの案に従って、新たな詠唱を始めた。

 その声は、嵐を呼び起こすかのように力強い。

 同時に、一瞬目の前がくらりとするほど強烈な勢いで、身体から魔力がアセリアのほうへと流れていく。

「うおおおおっ」

 その間にも奴隷の男は、アセリアの元へと迫る。

『来たぞ、 アセリア! 今だ!』

「《《風よヴェントゥス 荒れ狂えフレネシス渦巻く暴風となれスピラリス・テンペスタス》」

「!!」

 アセリアに男の剣の間合いに入るその寸前。
 突如として、 男の周り・・・・で風が猛烈に渦巻き始める。

「っ……!? これは……」

 突然竜巻の中に取り込まれ、さすがの男も、動揺を露わにした。

 その間にも、まるで台風の目に閉じ込められたかのように、男は強烈な風に囲まれていく。

「く……っ」
 男は驚愕の声を上げながら、必死に風を切り払おうとする。 

 だが、高速で回転する風は、先程のようにはうまく切り裂けない。剣を幾度振るえど、弾かれるばかりで、まともに刃が入っていかないのだ。
 
 何をしようとも形のない風が、その軌道を逸らし、たわむれのように男の体に傷を付けていく。どれほど身体強化の力を持ってしても、この風圧には抗えない。

「ぐ、あああああああっ」

(……っ、キッツ。めちゃくちゃ持って行かれる。でも――イモリのときほどじゃない!)

 竜巻は次第にその巨大さを増し、空を割り、浮かぶ雲へとその尾を突き立てる。

 その姿を見ていた野次馬達は戦慄き、中には逃げ出すものさえ現れ始めた。 

「な、なんだと……これが風魔術だと!?」

「バカを言え……! こんなもの、もはや天変地異ではないか!」

 まるで生きているかのように、竜巻が男を襲い続ける。  

「……ん、終わり」

 その時間も、長くは続かなかった。
 竜巻の中、男が倒れた気配察したアセリアが魔力の供給を止め、風に停止を求める。

 すると糸が解けるように竜巻が霧散し、やがて初めから何ごともなかったかきように、訓練場に静寂が戻った。

(あいつは?)

 砂煙が収まると、男はその場に倒れ伏していた。完全に意識はなく、ぴくりとも動かない。

(生きてるか? 生きてるよな?)

『とりあえずアセリア、審判を』
「……判定して」
「……っ! 奴隷の男、戦闘不能! アセリア様の勝利です!」

 我に返った審判の声が、静まり返った訓練場に響き渡る。  

 一拍おいて、その言葉に、野次馬達が息を吹き返したように騒然となった。

「な、なんということだ……! アセリア様が勝つなんて」

「い、一体どういうことなんだ……!? 誰か説明してくれ!」
「まさか、アセリア様があのような力を秘めていたとは」
「問題は風魔術だ。誰だ、風の魔術が使えないなどと言いだしたのは! 十分、戦場でも役に立つではないか」

 驚きと動揺の声が、次々と上がっていく。  

 誰もが、風属性の力など、大したことはないと思っていたのだから当然だ。

「ふ、ふざけるな!! こんな勝負は無効だ!」

 そんな中、第三王子フレアの怒号が響き渡る。

「アセリア、貴様卑怯な手を使ったな!? 一体何をした!」

 フレア王子は青筋を立てて、憤怒の形相で男を指差す。 

「あの奴隷は、そう簡単に倒せる相手ではないはずだ! そう、貴様が、何か妙なことをした筈に違いない、そうでなければおかしい!!」

 怒髪天を衝く勢いとは、まさにこのことだろう。フレア王子は錯乱したように叫ぶ。

「おい、起きろ!」

 そして、怒り狂うままに、倒れている奴隷の男に近づいた。

「貴様が負けた振りをしているのはわかっている! 戦闘中にアセリアとどんな密約を交わした!? 俺様を舐めるとどうなるか、わかっているのだろうな!!」

 フレア王子はそう叫びながら、男を蹴り上げる。しかしそれでも男が微動だにしないと分かると、容赦なく繰り返し、足蹴にし始めた。

「くそ! 起きろ! 死ぬなら俺の役に立ってから死ねよ! このクズ野郎! 役立たずめ! この、このこのっ!」

 フレンは罵声を浴びせながら、男を蹴り続ける。

(まるで理性をなくした獣だな)

「いいか、お前だけではない! お前の部下も全員、皆殺しにしてやるからな!」

 フレンは部下たちにも怒りの矛先を向け、脅すように叫ぶ。

 そして右腕を中に掲げると、その手に炎を生み出した。

「《炎よイグニス――》!」

 刹那、

「止めていただけますか、兄上」

 凛とした声が、暴力の嵐を遮る。

「な……ッ!?」
「離れてください」

 アセリアだった。
 少女の可憐な声の筈が、冷たく響く。
 まるで死の鎌を首筋に突きつけられているかのようなぞくりとする気配を覚え、テトは思わず尻尾を丸めた。

 アセリアはフレア王子へとゆっくりと歩みより、初めてみるような鋭い表情で彼を見据える。

 そして――

「《《風よヴェントゥス》」

 ぼそり、と呟く。
 それと同時に、今まさに形を成して放たれようとしていた炎が、アセリアの放った風により、ふうっと掻き消えた。

「は――ッ!?」

 蝋燭に灯した炎を吹き消すように。容易く炎を御してみせたアセリアに、フレア王子は絶句する。

 何を言うこともできず、呆然とその場に立ち尽くしている。

「兄上、彼に手を出すのは、やめてください。この人、もう私のものなので」

「な、何だと!?」

 フレア王子はアセリアを睨みつけ、怒鳴り返す。
 だが、アセリアはほんの僅かも怯まない。

「まさか、約束を忘れたとでも?」

「ッ……そ、それは――、む、無効だそんなもの!! こんな勝負、成立して良いわけが――」

「黙れ、フレア。貴様、父上の決定に異を唱えるつもりか」

 鋭い叱責は、第一王子アーサーのものだった。さすがの言葉に、フレア王子は顔色をはっと変え、口をつぐむ




しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

一乃
2024.05.02 一乃
ネタバレ含む
2024.05.03 子子

ありがとうございます!更新頑張ります

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~

夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。 全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。 適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。 パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。 全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。 ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。 パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。 突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。 ロイドのステータスはオール25。 彼にはユニークスキルが備わっていた。 ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。 ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。 LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。 不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす 最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも? 【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。