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1章
15.ラディカの花 『今回の議題は、ずばり、風魔術の燃費の悪さについてだ』
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テトがゆっくりと目を開けると、そこは見渡す限りの花畑だった。
紫がかった桃色の花弁を持つ草花が、風にそよそよと揺れている。
『ここは……俺、気絶したんじゃ……?』
テトは混乱しながらも、身体を起こそうとする。
ところが、身体に力が入らない。まるで生まれたての子猫のように、ふにゃふにゃとしているのだ。
『あれ……力が、入らない……』
そのとき、ふと視界の端に人影が映る。
振り向くと、そこにはアセリアが花をむしり取りながらこちらの様子を見守っていた。
その瞳は安堵と心配の色を混ぜ合わせたような複雑な表情をしている。
(ああ、良かった。アセリアは無事か。って、なぜ花をむしって……)
「テト、良かった、目が覚めた……!」
『ぐえっ』
アセリアはテトに駆け寄ると、飛びつくように抱きついてきた。
いつもは文句を言うところだが、今のテトにはその力もない。
(なんだこれ、一体どうなって……)
「じっとしてたほうがいいよ、魔力の使いすぎでだるくなってるんだと思う。ちゃんと休めば治るから」
『あー、なるほど。そういうことね』
(これが魔力切れってやつか)
さすがにあれだけ持って行かれると、星獣の身にもこたえるらしい。
『それで、アセリア……ここはどこなんだ』
尋ねるとアセリアは、少しドヤった笑顔を浮かべる。
「ここは、ラディカの花畑だよ」
『……えっ?』
(それって確か、探してた薬草の名前だよな)
テトは慌てて周囲を見渡す。
すると確かにその花には、どことなく既視感があった。森に来る前、アセリアが見せてくれた、絵にそっくりだ。
『よかった、見つかったんだな。……っていうか、ラディカって貴重な薬草な筈じゃ……多すぎない?』
「そうなんだけどね。魔力だまりがあった影響じゃないかな。ここにだけ群生してるんだ」
『へえ。ここって魔力だまりがあったところか』
(つまり、俺の生まれ故郷だな)
少しみないうちに、すっかりロマンチックな場所になったものだ。
「これだけあれば、しばくお母様は大丈夫」
『そうだな。安心だ。でもアセリア、よくここまで1人で来れたな』
「んー、ラディカには魔物が近付かないって言われてる。
それに森をなぎ倒したおかげかわからないけど、あの後全然魔物に襲われなかったんだよね」
アセリアはクスリと微笑む。
『マジか。……まあ、結構な威力の魔術だったしなあ』
きっと空から見たらあの場所だけ不自然に、ぼっこりと穴が開いていることだろう。
「テトが倒れたの、私のせい。……ごめんなさい。調子にのった」
アセリアはテトを胸に抱きしめる。
ぎゅっと密着すると、優しい鼓動がテトにも伝わってきて、心地が良い。
『全然いいよ。まあ、好き放題使えるってなったら、調子のるのも仕方ないって』
(逆に子供らしくて、安心した)
今までほとんど魔術を使えなかったのだ。
それで調子に乗るなといわれても、無理だろう。
『しばらく休めば、魔力も回復するんだし気にするな。実際もう結構楽になってるし』
「……本当? 普通はそんなに早く、むり」
『本当だって。回復量とかも、普通の人間とじゃ違うんだろうさ』
そういって毛並みを擦り付けるとアセリアはようやくほっとしたうに笑った。
「わかった。テトはもうすこし、ゆっくり休んでて」
『おう』
帰るにしても、魔力が万全であるほうがいいだろう。
アセリアの言葉に、テトは安心したように目を閉じる。
毛並みを撫でてくれるアセリアの手と、吹き抜ける風が心地よい。
(こんなふうに、アセリアとゆっくり過ごすのはいいな)
ラディカの花の香りが鼻をくすぐる中、テトはそう思いながら、再び夢の中へと意識を沈めていった。
+++
その後魔力が回復したテトは、アセリアと共に無事に城に戻ることができた。
ラディカを抱えていたおかげか、殆ど魔物にも襲われることがなかったためだ。
(しかし、このままではいけない)
翌日、そう考えたテトは、アセリアと今後についての議論を行うことにした。
『今回の議題は、ずばり、風魔術の燃費の悪さについてだ』
机の上に二本足で立ったテトがきりりとした顔で告げる。
対するアセリアは、椅子に座ってぱちぱちと手を叩いた。なかなかノリの良い生徒だ。
テトは少し、得意げな気分になる。
『既に知られている通り、風魔術は他の属性より劣るとさてれている。
それは風が目に見えないがために、望み通りの結果を得るために、余分な魔力を消費している現状のせいだ。
故に、他の魔術より効果が弱くなりがちである。ここまでは良いかね?」
「はい、先生」
アセリアは頷く。
『では、アセリアくん。風ってどうやって発生するか知ってるかね?』
テトの問いかけに、アセリアはきょとんとなる。
「どうって、魔術で……、ううん……、魔術を使わなくても風は発生するから……」
その反応に、テトは満足した。
(ふふふ、やはりアセリアでもしらないんだな。
風を知る。
これこそが、俺が考える風魔術の変革なのだ!)
紫がかった桃色の花弁を持つ草花が、風にそよそよと揺れている。
『ここは……俺、気絶したんじゃ……?』
テトは混乱しながらも、身体を起こそうとする。
ところが、身体に力が入らない。まるで生まれたての子猫のように、ふにゃふにゃとしているのだ。
『あれ……力が、入らない……』
そのとき、ふと視界の端に人影が映る。
振り向くと、そこにはアセリアが花をむしり取りながらこちらの様子を見守っていた。
その瞳は安堵と心配の色を混ぜ合わせたような複雑な表情をしている。
(ああ、良かった。アセリアは無事か。って、なぜ花をむしって……)
「テト、良かった、目が覚めた……!」
『ぐえっ』
アセリアはテトに駆け寄ると、飛びつくように抱きついてきた。
いつもは文句を言うところだが、今のテトにはその力もない。
(なんだこれ、一体どうなって……)
「じっとしてたほうがいいよ、魔力の使いすぎでだるくなってるんだと思う。ちゃんと休めば治るから」
『あー、なるほど。そういうことね』
(これが魔力切れってやつか)
さすがにあれだけ持って行かれると、星獣の身にもこたえるらしい。
『それで、アセリア……ここはどこなんだ』
尋ねるとアセリアは、少しドヤった笑顔を浮かべる。
「ここは、ラディカの花畑だよ」
『……えっ?』
(それって確か、探してた薬草の名前だよな)
テトは慌てて周囲を見渡す。
すると確かにその花には、どことなく既視感があった。森に来る前、アセリアが見せてくれた、絵にそっくりだ。
『よかった、見つかったんだな。……っていうか、ラディカって貴重な薬草な筈じゃ……多すぎない?』
「そうなんだけどね。魔力だまりがあった影響じゃないかな。ここにだけ群生してるんだ」
『へえ。ここって魔力だまりがあったところか』
(つまり、俺の生まれ故郷だな)
少しみないうちに、すっかりロマンチックな場所になったものだ。
「これだけあれば、しばくお母様は大丈夫」
『そうだな。安心だ。でもアセリア、よくここまで1人で来れたな』
「んー、ラディカには魔物が近付かないって言われてる。
それに森をなぎ倒したおかげかわからないけど、あの後全然魔物に襲われなかったんだよね」
アセリアはクスリと微笑む。
『マジか。……まあ、結構な威力の魔術だったしなあ』
きっと空から見たらあの場所だけ不自然に、ぼっこりと穴が開いていることだろう。
「テトが倒れたの、私のせい。……ごめんなさい。調子にのった」
アセリアはテトを胸に抱きしめる。
ぎゅっと密着すると、優しい鼓動がテトにも伝わってきて、心地が良い。
『全然いいよ。まあ、好き放題使えるってなったら、調子のるのも仕方ないって』
(逆に子供らしくて、安心した)
今までほとんど魔術を使えなかったのだ。
それで調子に乗るなといわれても、無理だろう。
『しばらく休めば、魔力も回復するんだし気にするな。実際もう結構楽になってるし』
「……本当? 普通はそんなに早く、むり」
『本当だって。回復量とかも、普通の人間とじゃ違うんだろうさ』
そういって毛並みを擦り付けるとアセリアはようやくほっとしたうに笑った。
「わかった。テトはもうすこし、ゆっくり休んでて」
『おう』
帰るにしても、魔力が万全であるほうがいいだろう。
アセリアの言葉に、テトは安心したように目を閉じる。
毛並みを撫でてくれるアセリアの手と、吹き抜ける風が心地よい。
(こんなふうに、アセリアとゆっくり過ごすのはいいな)
ラディカの花の香りが鼻をくすぐる中、テトはそう思いながら、再び夢の中へと意識を沈めていった。
+++
その後魔力が回復したテトは、アセリアと共に無事に城に戻ることができた。
ラディカを抱えていたおかげか、殆ど魔物にも襲われることがなかったためだ。
(しかし、このままではいけない)
翌日、そう考えたテトは、アセリアと今後についての議論を行うことにした。
『今回の議題は、ずばり、風魔術の燃費の悪さについてだ』
机の上に二本足で立ったテトがきりりとした顔で告げる。
対するアセリアは、椅子に座ってぱちぱちと手を叩いた。なかなかノリの良い生徒だ。
テトは少し、得意げな気分になる。
『既に知られている通り、風魔術は他の属性より劣るとさてれている。
それは風が目に見えないがために、望み通りの結果を得るために、余分な魔力を消費している現状のせいだ。
故に、他の魔術より効果が弱くなりがちである。ここまでは良いかね?」
「はい、先生」
アセリアは頷く。
『では、アセリアくん。風ってどうやって発生するか知ってるかね?』
テトの問いかけに、アセリアはきょとんとなる。
「どうって、魔術で……、ううん……、魔術を使わなくても風は発生するから……」
その反応に、テトは満足した。
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