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1章

14.初戦闘2 「俺、目覚めさせちゃいけない子を目覚めさせちゃったんじゃ……?」

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(まずい、このままじゃやられる!)

 咄嗟にテトはアセリアの肩から飛び上がると、イモリめがけて爪を振るった。

(くらえ、身体強化つき猫パンチ)

 ズバアアアッ!

『へ……』

 半ばやけくそで放ったにも関わらず、しっかりと肉を裂く感覚があった。

 まるで、うろこのある魚に包丁を突き立てたような感覚だ。

 決して気持ちのいい感覚ではないが、振るった爪は見事にイモリの腕を切り裂き――切り落とす。

「テト、すごい!」
『お、おう……どうだ見たか! 猫舐めんなよ!』
(身体強化、すげえ)

『って、うわ、再生した』

 せっかく切り落としたにも関わらず、ドヤっているうちにイモリの腕がしゅるりと生えてくる。

『ア、アセリア、このままじゃまずいぞ。これじゃ、あいつら倒せない! このままじゃ俺がゴハンになる』

「……ん、やっぱり。相性悪い。もっと遠くに飛ばせたらいいんだけど」

『遠く……遠くか』

 森の中では、木々に遮られて距離をとれない。
 ならば――

『空高く吹き飛ばして、落下のダメージを与えるのはどうだ?』
「空……?」

 アセリアははっと空を見上げた。

 深い森の空は枝葉に遮られ、光さえろくに届かない。

(だが、今のアセリアの放つ魔法の威力なら、これくらいどうにか出来る筈!)

『アセリア。全力で風を巻き上げろ!』

「うん」

『持ってけ魔力!』

 アセリアとの繋がりを、全力で開く。

『風よ、渦巻け』

 瞬間、かつてないほど膨大に、魔力が吸い取られていく感覚が全身を駆け抜けた。

(ひえ……!)

 アセリアの前で、風が渦を巻く。

 木々が揺れ、枝葉が折れて舞い上がり暗い森の中に僅かな光が差し込み始める。

 しかし――

(駄目だ、障害物が多すぎる)

 アセリアは渦を巻こうと風を操るが、周囲の木々が邪魔になってうまく威力が出せないでいる。

 重量級のイモリがしっかりと爪で地面を掴んでいることもあり、今の風の強さではうまく巻き上げられないのだ。

『くっ、このままじゃまずい。せめてもう少し開けた場所があれば……』

「周りの木がなければいいの?」

『ああ、障害物さえなければ、もっとこう、竜巻の威力が出ると思うんだけど――』

「わかった」

(ん? お、おおおおおおっ!?)

 瞬間、さらに魔力を持っていかれる感覚があった。

 同時に竜巻の規模がさらに膨れ上がる。

 アセリアその竜巻を維持したまま、さらに詠唱を重ねた。

「《風よヴェントゥス 荒れ狂えフレネシス 森を切り裂け《セカ・シルヴァム》!》」

 一瞬の静寂の後、竜巻の中に、さらに凄まじい風が吹き荒れた。

 周囲の木々は根こそぎなぎ倒され、まるで巨人の手で薙ぎ払われたかのような光景となる。

 風の抵抗がなくなったのを確認し、アセリアはにっと口の端をつり上げた。

「《風よヴェントゥス》!」

 アセリアの声と共に、竜巻がぐんぐん威力を上げていく。

 そうして、局所的に発生した巨大な竜巻がとうとう、イモリを地面から引き剥がし、その巨体をぐるぐると空へ巻き上げていく。

「ギュアアアアアッ」

『っ、よっしゃあ!』

 イモリは悲鳴にも似た声をあげながら、遠く彼方へと飛んでいった

 あっという間に、空のシミになる。

『よ……、よし、もう大丈夫だ、アセリア! 風を止めろ』

 テトの声を合図に、アセリアが最後の詠唱を放つ。

「《風よ、止まれ《ヴェントゥス・セッサ》!》」

 風が止まった。
 瞬間、イモリの体が一気に地面に向かって落下していく。

 やがて長い時間をかけたあと、ぐしゃっ、という鈍い音を立てて、イモリが地面に激突した。

 もはや身動きひとつしない。

 否、元の形が何だったのか判別出来ない程度には潰れていて、そのグロテスクさにテトは思わず顔をそむける。

 さすがのイモリも雲の上から落とされればミンチになるらしい。

『おろろろろろ』

「……倒せた!」

 対して、アセリアはご満悦といった顔である。

『いや本当、すごいよ。何か途中、同時に二個魔法使ってなかった?』

「うん」

『あれ普通ってできるものなの? 何か詠唱も、俺が習ったのとにいっと違った気がするんだけど』

「……ん、やってみたらできた。詠唱は……応用?」

『そ、そうか』

 テトはあたり一面、すっかり風通しのよくなった森から、空を見上げた。

(もしかして俺、目覚めさせちゃいけない子を目覚めさせちゃったんじゃ……?)

 そんな予感がしつつも、この世界の常識に欠けるテトでは、ぼんやりとした判断しかできない。

(ま、いっか。ろくに魔術使えないよりいいだろ)

 もしもアセリアが道を間違うようなことがあれば、そのときは魔力タンクとして、責任持って対処しよう。

『よし、アセリア。このままさらに森の奥に――ッ?』

 そう言ってアセリアの肩に飛び乗ろうとした瞬間、ぐらりと視界のがかしいだ。

(あれ……?)

「テト!!」

 アセリアの声が聞こえる。

「テト、しっかりして!!」

 悲鳴のような、懇願のような切実な声。

(どうたんだ、アセリア。そんな声を出して……)

 早く尻尾でもふもふして、宥めてやりたい。

 そう思うのに身体はまく動かず、テトの意識は闇に飲み込まれていくようにして、ふつりと途切れた。



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