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1章
5.アセリアと風属性 「だって戦いにも、生活の役にも立たないから」
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(ええ、風属性ってそんなにヤバい魔術なの?)
風属性だから何が悪いのかと問いかけたテトに、アセリアはぎょっとしたまま固まってしまった。
『おーい、アセリア』
「……あ、ごめん。そんなこと初めて言われたから……」
『すまんが、魔術には詳しくない』
「……そっか、猫だもんね」
『そこは星霊だもんね、だろ』
言い返すと、アセリアはふふっと楽しげに笑った。
その顔から寂しさが消え血色が戻るのを見て、テトはほっと胸をなで下ろす。
「星霊の世界ではどうか分からないけど、人間の世界では、風属性は役立たずの授かる属性だって言われてるんだ」
『へ? なんでまた』
「だって戦いにも、生活の役にも立たないから」
テトは首を傾げた。
前世の知識では、風魔法といえば風刃で敵を切り裂いたり竜巻を起こしたり、索敵をこなしたり、それこそ空を飛んだりと、何かと使い勝手のいい魔法だというイメージがある。
現実でもひとたび嵐が起きれば、家屋だって人だって、たやすく吹き飛んでしまう。
台風や竜巻の恐ろしさを知らない人間なんて、どこにもいない。
(なのに、風が、使えない?)
『うーん、何で役に立たないのか、さっぱり分からないんだけど』
考えても分からず音を上げると、アセリアはまた少し驚いた顔をした。
長いまつげを数度またたいた後、そっとテトを地面に下ろして近くに落ちていた木の棒を手に取る。
「この世には、四つの属性があって、人は必ずそのどれかに属しているんだ」
アセリアは木の枝を使って、地面に四つの丸を描いていく。
『それって、火、水、風、土か?』
「正解。そのうち、火は一番すごいって言われてる」
『へえー? 何でまた』
「火をつけることができると、日常でも便利だし、何より戦いにおいして火魔術師はやっぱり有利だよ」
『あー、なるほどね。そういう』
確かに四つの属性の中では、火が最も危険性の高い属性ではあるだろう。
仮に魔術師一人で火炎放射器なみの火力が出せるなら、町を火の海にすることだってたやすい。
「水属性は、水を出せるから大切にされるんだ。日常生活でも、遠征でも重宝されるし、何より術者が一番多い。高位の水魔術師には、回復術を使えるものもいるしね」
『おお、この世界では、回復は水属性の担当なのか』
「……星霊界では違うの?」
(おっと、失言だった)
テトは咄嗟に取り繕った。
『まー、そうだな。俺の知ってる知識と、結構違うみたいだ。だから、ときどき妙なことを言うかもしれないが、それはこの世界の常識を知らないだけだから、気にしないでくれ』
「うん、わかった」
幸い、アセリアは信じてくれたらしい。
『それで? 土属性は何ができるんだ?』
問いかけつつ足下にすり寄ってやると、アセリアは嬉しそうにまたテトの喉元を撫でた。
「土属性は、土を耕したり、砦を作ったりするときに求められるかな。工作兵なんかに、多いよ」
『なるほど。そこは結構、予想どうりだな』
「……それで、風属性はね」
そう言うと、アセリアは2歩ほどテトより前に進み出て、掌を前へと突き出した。
「《風よ 突風となれ》」
詠唱が紡がれる。
テトに取っては耳なじみのないその言葉が唱えられたと同時に、ざわり全身を見えない何かに撫でられたような奇妙な感覚が襲った。
(な、なんだ!?)
違和感に毛が逆立ち、身震いが起きる。
威嚇する猫のように毛並みを膨らませたテトの目の前で、次の瞬間、突如として風が吹き荒れた。
風属性だから何が悪いのかと問いかけたテトに、アセリアはぎょっとしたまま固まってしまった。
『おーい、アセリア』
「……あ、ごめん。そんなこと初めて言われたから……」
『すまんが、魔術には詳しくない』
「……そっか、猫だもんね」
『そこは星霊だもんね、だろ』
言い返すと、アセリアはふふっと楽しげに笑った。
その顔から寂しさが消え血色が戻るのを見て、テトはほっと胸をなで下ろす。
「星霊の世界ではどうか分からないけど、人間の世界では、風属性は役立たずの授かる属性だって言われてるんだ」
『へ? なんでまた』
「だって戦いにも、生活の役にも立たないから」
テトは首を傾げた。
前世の知識では、風魔法といえば風刃で敵を切り裂いたり竜巻を起こしたり、索敵をこなしたり、それこそ空を飛んだりと、何かと使い勝手のいい魔法だというイメージがある。
現実でもひとたび嵐が起きれば、家屋だって人だって、たやすく吹き飛んでしまう。
台風や竜巻の恐ろしさを知らない人間なんて、どこにもいない。
(なのに、風が、使えない?)
『うーん、何で役に立たないのか、さっぱり分からないんだけど』
考えても分からず音を上げると、アセリアはまた少し驚いた顔をした。
長いまつげを数度またたいた後、そっとテトを地面に下ろして近くに落ちていた木の棒を手に取る。
「この世には、四つの属性があって、人は必ずそのどれかに属しているんだ」
アセリアは木の枝を使って、地面に四つの丸を描いていく。
『それって、火、水、風、土か?』
「正解。そのうち、火は一番すごいって言われてる」
『へえー? 何でまた』
「火をつけることができると、日常でも便利だし、何より戦いにおいして火魔術師はやっぱり有利だよ」
『あー、なるほどね。そういう』
確かに四つの属性の中では、火が最も危険性の高い属性ではあるだろう。
仮に魔術師一人で火炎放射器なみの火力が出せるなら、町を火の海にすることだってたやすい。
「水属性は、水を出せるから大切にされるんだ。日常生活でも、遠征でも重宝されるし、何より術者が一番多い。高位の水魔術師には、回復術を使えるものもいるしね」
『おお、この世界では、回復は水属性の担当なのか』
「……星霊界では違うの?」
(おっと、失言だった)
テトは咄嗟に取り繕った。
『まー、そうだな。俺の知ってる知識と、結構違うみたいだ。だから、ときどき妙なことを言うかもしれないが、それはこの世界の常識を知らないだけだから、気にしないでくれ』
「うん、わかった」
幸い、アセリアは信じてくれたらしい。
『それで? 土属性は何ができるんだ?』
問いかけつつ足下にすり寄ってやると、アセリアは嬉しそうにまたテトの喉元を撫でた。
「土属性は、土を耕したり、砦を作ったりするときに求められるかな。工作兵なんかに、多いよ」
『なるほど。そこは結構、予想どうりだな』
「……それで、風属性はね」
そう言うと、アセリアは2歩ほどテトより前に進み出て、掌を前へと突き出した。
「《風よ 突風となれ》」
詠唱が紡がれる。
テトに取っては耳なじみのないその言葉が唱えられたと同時に、ざわり全身を見えない何かに撫でられたような奇妙な感覚が襲った。
(な、なんだ!?)
違和感に毛が逆立ち、身震いが起きる。
威嚇する猫のように毛並みを膨らませたテトの目の前で、次の瞬間、突如として風が吹き荒れた。
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