こっち向いてニャン!

鹿嶋 雲丹

文字の大きさ
上 下
7 / 10

第7話 チャーコとユキナ

しおりを挟む
「サバオとキジタロー、どっか行っちゃった……」

 ユキナちゃんは深いため息を吐きながら、肩を落とした。

「惚れ薬使ったら、あの二匹 ふたりも私に懐いてくれると思ったのになぁ……」

 その言葉に、僕の胸がうっすらと重くなる。

「ぼ、僕は! ユキナちゃんのこと大好きだよ!」

 意を決して叫んだ僕を、ユキナちゃんはまじまじと見つめてくる。そして、プッと吹き出した。

「ねぇ、チャーコ……なんでそんなへんてこなTシャツ着てるの?」

「えっ⁉」

 お腹を抱えて大笑いしているユキナちゃんに指摘されたのは、僕が着ている白いTシャツだ。

 中央にでかでかと、“ネコ(茶トラ)”とプリントされている。正直、センスのかけらもないデザインだ。

 僕は急に恥ずかしくなってきて、べそをかいた。

 サバオさんはブルーのストライプシャツ、キジタローさんは暗めの色の和服を着ていた。どうして僕だけ、こんな服なんだ。不公平だ。

「あ、ごめん、チャーコ……笑い過ぎた……」

 ユキナちゃんは、膝を抱えて落ち込んでいた僕の頭をそっと撫でた。

「う、うん、大丈夫……ありがとう……」

「あーあ、でもチャーコだけだよ、私と遊んでくれるのはさぁ……なんでサバオとキジタローは、私に冷たいのかなあ?」

 ユキナちゃんは僕の前に座り込みながら、首を傾げた。

「僕は、譲渡会でユキナちゃんと目が合ったから……」

「うん。あの時は、運命だ! って思ったよ!」

 ユキナちゃんはにっこりと笑った。

 僕の胸がキュンとなる。

「サバオさんは昔、沢山の人間の子ども達に囲まれて、怖い思いをしてるんだ」

 僕はユキナちゃんに、昔サバオさんから聞いた話を伝えることにした。人間の姿でいられる三十分の間に、言っておかなくちゃ。

「怖くて、誰か助けて! って思ってたところに現れたのが、サツキちゃんなんだ」

「……それ、お姉ちゃんがサバオを拾った時の話?」

「うん。キジタローさんも同じなんだよ。元は人間に飼われていたけど、沢山兄弟が生まれて飼いきれなくなって捨てられたんだって……」

 さっとユキナちゃんの顔色が変わった。

「知らなかった……そっか、だからあの二匹 ふたりはあまり人間が好きじゃないんだ」

「うん……猫も人間も、そうしてしまうことには理由があるんだよ。だから、わかって欲しいな」

「うん……」

 ユキナちゃんは、少し落ち込んだような表情かおで頷いた。

「ユキナちゃんなら、自分の思いをぶつけるだけじゃなくて、相手の気持ちを考えることもできるよね? 僕はいつも、にゃーしか言えないから……サバオさんとキジタローさんのこと、伝えられて良かったよ」

「チャーコ!!」

 ユキナちゃんは叫んで、僕にしがみついてきた。

 僕は、僕より小さい体のユキナちゃんをぎゅっと抱きしめる。

「……チャーコの匂いがする……」

 ユキナちゃんは、ぼそりと言った。

「ふふっ、だって僕はチャーコだもの」

「うん……チャーコ、ありがと……大好きだよ」

 僕もだよ。あぁ、ユキナちゃんは、いつまで僕を甘えさせてくれるかなぁ……

 鼻先を、ユキナちゃんの頭にそっとつけて、息を吸ってみる。

「なんで、頭の匂い嗅ぐの?」

 ユキナちゃんが変な表情かおをしている。

「えっ、いや、猫だから?」

 なんとなく、いけないことをしたのかもしれない、と僕は少し焦った。

「……ちゃんと毎日洗ってるよ」

「うん、いい匂いがしたよ!」

 あっ、良かった……嫌われてない……

「私、サバオとキジタローを追いかけるの、もうやめる……その分、チャーコと遊ぶことにする」

 ユキナちゃんが真っ直ぐに僕の目を見て言った。

「本当? すっごく嬉しい!」

 僕の胸はどきどきして、顔がポカポカと熱くなる。

 ……三十分……僕は、なかなか濃厚な時間を過ごせたと思う。

 サバオさんとキジタローさんは、どうだったかな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

かわいい美女の○○○を受けるだけで稼げるサイト

にしのこうやん
キャラ文芸
男性の皆さん、もしもインターネットでかわいい女の子の○○○を受け入れるだけでお金を稼げるサイトを見つけたら・・・。 契約しますか?それとも契約しないですか? この物語は主人公がかわいい女の子の○○○を受けるだけでお金を稼げるサイトと契約した結果どんな結末を迎えるのかを知る事ができます。 この話は著作者の妄想にしかすぎません。 実際は過酷かもしれませんね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...