14 / 53
第一章 エリカと圭介
第14話 検索結果
しおりを挟む
白い花、頭。
これは、圭介の頭に咲いた白い花が、私にしか見えないとわかったその日に検索したキーワード。
絶対に私以外にもいるはずだと思った。
こんなバカバカしい話、ブログやSNSのいいネタじゃないか。
だけど私の予想を裏切って、検索にヒットしたのは、本物の白い花ばかりだった。
違う、私が知りたいのはこれじゃない!
私は焦ってキーワードを変えてみた。
でもどんなに画面をスクロールしても、私みたいに、急に誰かの頭に白い花が咲いて困っている、なんてことは出てこなかった。
もちろん、一番知りたかった“こうしたら解決した”もない。
あれから、一週間以上が経つ。
寝起きのスッキリした今の頭で検索したのは、小さい子が好きなものはなにか、だった。
圭介と私だけが共有しているなにかを、圭介に思い出させるためのアイテムを探さなければならないのだ。
それがさっぱり思いつかない私は、インターネットの力を借りることにした。
ヒットした、7つの答え。
キャラクターグッズ、おもちゃ、絵本、歌、食べ物、恐竜、工作。
その内、気になったものをメモ用紙に書き写す。
「失敗したジュースと駄菓子は、食べ物に当てはまるよな……あとはキャラクターグッズ、おもちゃ、絵本……歌は聞こえないからダメだし……」
私はメモ用紙に大きくバツを書き込む。
『金曜日にさ、団地のフリマがあるんだよ』
唐突に、昨夜の幸太の言葉を思い出す。
「明日のフリマで、懐かしいおもちゃがあるか見てみようかな……いや、その前に今日選んだもので正解するかもしれないし……今日は何にしよう」
私はメモ用紙のキャラクターグッズ、おもちゃの部分に“明日のフリマ”と書き込みながら考える。
メモ用紙を眺めると、選択肢は絵本以外なかった。
「絵本か……本屋……いや、図書館があるじゃん!」
私はふと思いつき、市内の図書館の開館スケジュールを調べる。
「近くの公民館は休みだけど、図書館は開いてる……祝日でも開いてるんだ、良かったぁ」
私はほっとため息を吐いた。
図書館は、団地から歩いて20分くらいのところにある。
すぐ近くにある公民館の図書室より、置いてある本は多いし、フロアの面積もかなり広い。
「よし、今日はここに行こう。今日のバイトは夕方からだし……あとは、あのサプリだ」
私は思考を切り替えて、昨日の夜に圭介から見せられたサプリメント会社のホームページを探し始める。
特徴は、いかにも健康そうな、爽やかな笑顔を浮かべた男性モデル。
それに、睡眠は大事です、最近よく眠れていますか? の文字だ。
「えっと……これじゃない……」
私は“安眠”、“サプリメント”のキーワードでヒットしたものを片っ端から開いていく。
「あっ、あった、これだ! えっと……へぇ、口コミ件数、けっこうあるな……これ、みんなサクラなんじゃないの?」
昨夜は気がつかなかった、続々と届く感謝の声、の文字。
そこには無料サンプルを試したという体験談が、複数紹介されていた。
そのどれもが、飲む前よりよく眠れるようになり、生活水準があがって良かった! という内容だ。
年齢は20代~70代までと幅広い。
「私も試しに取り寄せてみよう……無料だし」
送料無料!
数量限定サンプル!
お申し込みはお早めに!
「それにしてもうまいよな、この謳い文句……限定、とか品薄とか言われるとさ、人気があるなら安心かもとか、早く注文しないと手に入らないかも、とか思うもんな……」
ぽちりと、目立つオレンジ色のボタンを押す。
すぐに画面は、名前、住所、連絡先を打ち込むものに変わった。
「はあ……申し込んだ……」
私はため息を吐いて、枕に顔を埋める。
あのサプリメントは危険だ。そして、うまく行けば圭介を脅すこともできるかもしれない。
しんと静まりかえった空気に、カチコチという時計の音だけが耳に入ってくる。
体を回転させて、私はベッドの天井を見た。
二段ベッドの下段だから、天井がとても近くに感じる。
上段のベッドの主である妹は、友達と出かけるのだと言って朝早くから家を出ていた。
「一人部屋っていいよな……なんか落ち着くわ……」
脳天気な弟や、やかましい妹とわいわいしてるのも嫌いではない。
だけど、たまには静かな部屋で一人になりたいと思ってしまうのだ。
「高校出たら働いて、お金貯めて一人暮らしするんだ……」
一人呟く言葉が、すぐそこにある薄暗い板に跳ね返って落ちた。
今のバイト代は、一部を家に入れていれている。
差し引いて残った分は自分の小遣いにしていて、その中から少しでも貯められたらと思っているが、結局なんだかんだ使ってしまっていた。
お金を貯めるのって難しい。
日頃から“お金が貯まらない!”と言っている母の言葉がよくわかる。
「あと約2年で、学校も卒業か……」
なんだか不透明な未来は、思い描くのが難しい。
そして圭介の未来は、私が正解を出さなきゃ難しいどころか消滅してしまうんだ。
そう思うと、焦りで気がおかしくなりそうだった。
「図書館、行くか」
枕元の時計の針は、10時30分を示している。
ぼんやりしていると、あっという間にバイトに行く時間になってしまう。早く行動しなくっちゃ。
「圭介、どんな本を読んでたっけかなぁ……ちゃんと思い出せよ、私!」
私はかすかな不安を片隅に追いやって、勢いよく体を起こしたのだった。
これは、圭介の頭に咲いた白い花が、私にしか見えないとわかったその日に検索したキーワード。
絶対に私以外にもいるはずだと思った。
こんなバカバカしい話、ブログやSNSのいいネタじゃないか。
だけど私の予想を裏切って、検索にヒットしたのは、本物の白い花ばかりだった。
違う、私が知りたいのはこれじゃない!
私は焦ってキーワードを変えてみた。
でもどんなに画面をスクロールしても、私みたいに、急に誰かの頭に白い花が咲いて困っている、なんてことは出てこなかった。
もちろん、一番知りたかった“こうしたら解決した”もない。
あれから、一週間以上が経つ。
寝起きのスッキリした今の頭で検索したのは、小さい子が好きなものはなにか、だった。
圭介と私だけが共有しているなにかを、圭介に思い出させるためのアイテムを探さなければならないのだ。
それがさっぱり思いつかない私は、インターネットの力を借りることにした。
ヒットした、7つの答え。
キャラクターグッズ、おもちゃ、絵本、歌、食べ物、恐竜、工作。
その内、気になったものをメモ用紙に書き写す。
「失敗したジュースと駄菓子は、食べ物に当てはまるよな……あとはキャラクターグッズ、おもちゃ、絵本……歌は聞こえないからダメだし……」
私はメモ用紙に大きくバツを書き込む。
『金曜日にさ、団地のフリマがあるんだよ』
唐突に、昨夜の幸太の言葉を思い出す。
「明日のフリマで、懐かしいおもちゃがあるか見てみようかな……いや、その前に今日選んだもので正解するかもしれないし……今日は何にしよう」
私はメモ用紙のキャラクターグッズ、おもちゃの部分に“明日のフリマ”と書き込みながら考える。
メモ用紙を眺めると、選択肢は絵本以外なかった。
「絵本か……本屋……いや、図書館があるじゃん!」
私はふと思いつき、市内の図書館の開館スケジュールを調べる。
「近くの公民館は休みだけど、図書館は開いてる……祝日でも開いてるんだ、良かったぁ」
私はほっとため息を吐いた。
図書館は、団地から歩いて20分くらいのところにある。
すぐ近くにある公民館の図書室より、置いてある本は多いし、フロアの面積もかなり広い。
「よし、今日はここに行こう。今日のバイトは夕方からだし……あとは、あのサプリだ」
私は思考を切り替えて、昨日の夜に圭介から見せられたサプリメント会社のホームページを探し始める。
特徴は、いかにも健康そうな、爽やかな笑顔を浮かべた男性モデル。
それに、睡眠は大事です、最近よく眠れていますか? の文字だ。
「えっと……これじゃない……」
私は“安眠”、“サプリメント”のキーワードでヒットしたものを片っ端から開いていく。
「あっ、あった、これだ! えっと……へぇ、口コミ件数、けっこうあるな……これ、みんなサクラなんじゃないの?」
昨夜は気がつかなかった、続々と届く感謝の声、の文字。
そこには無料サンプルを試したという体験談が、複数紹介されていた。
そのどれもが、飲む前よりよく眠れるようになり、生活水準があがって良かった! という内容だ。
年齢は20代~70代までと幅広い。
「私も試しに取り寄せてみよう……無料だし」
送料無料!
数量限定サンプル!
お申し込みはお早めに!
「それにしてもうまいよな、この謳い文句……限定、とか品薄とか言われるとさ、人気があるなら安心かもとか、早く注文しないと手に入らないかも、とか思うもんな……」
ぽちりと、目立つオレンジ色のボタンを押す。
すぐに画面は、名前、住所、連絡先を打ち込むものに変わった。
「はあ……申し込んだ……」
私はため息を吐いて、枕に顔を埋める。
あのサプリメントは危険だ。そして、うまく行けば圭介を脅すこともできるかもしれない。
しんと静まりかえった空気に、カチコチという時計の音だけが耳に入ってくる。
体を回転させて、私はベッドの天井を見た。
二段ベッドの下段だから、天井がとても近くに感じる。
上段のベッドの主である妹は、友達と出かけるのだと言って朝早くから家を出ていた。
「一人部屋っていいよな……なんか落ち着くわ……」
脳天気な弟や、やかましい妹とわいわいしてるのも嫌いではない。
だけど、たまには静かな部屋で一人になりたいと思ってしまうのだ。
「高校出たら働いて、お金貯めて一人暮らしするんだ……」
一人呟く言葉が、すぐそこにある薄暗い板に跳ね返って落ちた。
今のバイト代は、一部を家に入れていれている。
差し引いて残った分は自分の小遣いにしていて、その中から少しでも貯められたらと思っているが、結局なんだかんだ使ってしまっていた。
お金を貯めるのって難しい。
日頃から“お金が貯まらない!”と言っている母の言葉がよくわかる。
「あと約2年で、学校も卒業か……」
なんだか不透明な未来は、思い描くのが難しい。
そして圭介の未来は、私が正解を出さなきゃ難しいどころか消滅してしまうんだ。
そう思うと、焦りで気がおかしくなりそうだった。
「図書館、行くか」
枕元の時計の針は、10時30分を示している。
ぼんやりしていると、あっという間にバイトに行く時間になってしまう。早く行動しなくっちゃ。
「圭介、どんな本を読んでたっけかなぁ……ちゃんと思い出せよ、私!」
私はかすかな不安を片隅に追いやって、勢いよく体を起こしたのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ
ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。
【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】
なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。
【登場人物】
エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。
ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。
マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。
アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。
アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。
クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。
初恋
三谷朱花
ミステリー
間島蒼佑は、結婚を前に引っ越しの荷物をまとめていた時、一冊の本を見付ける。それは本棚の奥深くに隠していた初恋の相手から送られてきた本だった。
彼女はそれから間もなく亡くなった。
親友の巧の言葉をきっかけに、蒼佑はその死の真実に近づいていく。
※なろうとラストが違います。
四次元残響の檻(おり)
葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。
どんでん返し
あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~
ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが…
(「薪」より)
闇の残火―近江に潜む闇―
渋川宙
ミステリー
美少女に導かれて迷い込んだ村は、秘密を抱える村だった!?
歴史大好き、民俗学大好きな大学生の古関文人。彼が夏休みを利用して出掛けたのは滋賀県だった。
そこで紀貫之のお墓にお参りしたところ不思議な少女と出会い、秘密の村に転がり落ちることに!?
さらにその村で不可解な殺人事件まで起こり――
冤罪! 全身拘束刑に処せられた女
ジャン・幸田
ミステリー
刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!
そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。
機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!
サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか?
*追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね!
*他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。
*現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。
旧校舎のフーディーニ
澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】
時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。
困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。
けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。
奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。
「タネも仕掛けもございます」
★毎週月水金の12時くらいに更新予定
※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。
※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる