12 / 53
第一章 エリカと圭介
第12話 転がっているヒント
しおりを挟む
「あ痛っ! なにこれ⁉」
ただでさえ疲労感と眠気で不機嫌な私に、新たに左足の小指の痛みが追加された。
見れば、中身のはみ出たダンボールがあちこちに転がっている。
「あ、姉ちゃんお帰り! 夜のデート終わったん?」
脳天気な中三の弟、幸太がダンボールにぬいぐるみを放り込みながら笑った。
「デートじゃねぇわ……それより、なにこの荷物? 邪魔なんだけど」
「金曜日にさ、団地のフリマがあるんだよ。そこに出すの! 小遣い稼ぎだよ……俺、姉ちゃんが圭介兄と一緒にいるとこ見たもんね……なーんか深刻そうな顔しちゃってさあ、あやしぃ~」
幸太の一重瞼の目が、いやらしく歪む。
「おい! それ誰かに言ったのか⁉」
私は慌ててリュックの中に手を入れ、ドーナツとチョコレートを掴んだ。
「言ってない」
えへへ、と幸太は手のひらを突き出してきた。
ほんっとにしっかりしてるんだから!
「ほら! これやるから、黙っとけよ!」
口止め料。失敗案の小さなリングドーナツとパラソル型のチョコレート。
「やったあ! うん、黙っとく黙っとく!」
こんなもんで口止めできるなら、安いもんか……
早速チョコレートの派手な銀紙を破き始めた幸太を横目で見て、私は小さくため息を吐いた。
でも、そうか……誰かに見られてる可能性はあるんだよな……でも、次の日曜までだし……今はそんなことを気にしてる場合じゃないし。
「なあ幸太……圭介の頭に、白い花咲いてなかった?」
「はあ? なにそれ?」
チョコレートを咥えた幸太は、きょとんとしている。
だよな……
「あ、いや、なんでもない。フリマかぁ……金曜ってことは、明後日出すのか」
私は転がっているダンボールの中をちらりと覗き見る。
ぬいぐるみ、缶バッジ、ボール、カードゲーム……どれも弟達が小さい頃に遊んでいた記憶がある。
「そうか、おもちゃってこともあるよな……私ら、なにで遊んでたっけなぁ……ふぁ……眠……ダメだ、寝ないと頭働かないや」
「いらないもん売って小遣い稼げるなんて、最高だよな!」
手に入れたものはさっさと食べてしまわないと、弟や妹に取られてしまう。
幸太は小さなドーナツを口に放り込む。
「いらないものか……」
ぼんやりした頭に、写真集とアニメのキャラクターグッズが浮かぶ。どちらも、先日手に入れたけれど役に立たなかったものだ。
「私のいらないものも、売ってもらえる? あんたの小遣いにしていいからさ」
「えっ、マジで? やった、いいよ!」
私は妹と私の部屋から、女性アイドルグループの写真集と缶バッジやアクリルキーホルダーを持ってきてダンボールに入れた。
「え……姉ちゃん、こんなの好きだったの?」
幸太がアイドルグループの写真集をペラペラとめくりながら呟いた。
「俺、これ欲しいからもらってくわ……それにこのキャラ、敬太がこないだノートに落書きしてたぜ……好きなんじゃねぇの?」
「あぁ、もう私には用済みだから、あんた達の好きにしなさいよ……わたしゃ風呂入って寝るわ」
意外なところに需要があったな……やっぱり高校生の圭介にはグラビアじゃなきゃダメだったのかも……いや、それは私が嫌だわ……
「姉ちゃん、グラビアアイドルのやつはないの?」
「そんなもん、自分で買え!」
私は幸太に苛立ちをぶつけ、風呂場のドアを乱暴に閉めたのだった。
ただでさえ疲労感と眠気で不機嫌な私に、新たに左足の小指の痛みが追加された。
見れば、中身のはみ出たダンボールがあちこちに転がっている。
「あ、姉ちゃんお帰り! 夜のデート終わったん?」
脳天気な中三の弟、幸太がダンボールにぬいぐるみを放り込みながら笑った。
「デートじゃねぇわ……それより、なにこの荷物? 邪魔なんだけど」
「金曜日にさ、団地のフリマがあるんだよ。そこに出すの! 小遣い稼ぎだよ……俺、姉ちゃんが圭介兄と一緒にいるとこ見たもんね……なーんか深刻そうな顔しちゃってさあ、あやしぃ~」
幸太の一重瞼の目が、いやらしく歪む。
「おい! それ誰かに言ったのか⁉」
私は慌ててリュックの中に手を入れ、ドーナツとチョコレートを掴んだ。
「言ってない」
えへへ、と幸太は手のひらを突き出してきた。
ほんっとにしっかりしてるんだから!
「ほら! これやるから、黙っとけよ!」
口止め料。失敗案の小さなリングドーナツとパラソル型のチョコレート。
「やったあ! うん、黙っとく黙っとく!」
こんなもんで口止めできるなら、安いもんか……
早速チョコレートの派手な銀紙を破き始めた幸太を横目で見て、私は小さくため息を吐いた。
でも、そうか……誰かに見られてる可能性はあるんだよな……でも、次の日曜までだし……今はそんなことを気にしてる場合じゃないし。
「なあ幸太……圭介の頭に、白い花咲いてなかった?」
「はあ? なにそれ?」
チョコレートを咥えた幸太は、きょとんとしている。
だよな……
「あ、いや、なんでもない。フリマかぁ……金曜ってことは、明後日出すのか」
私は転がっているダンボールの中をちらりと覗き見る。
ぬいぐるみ、缶バッジ、ボール、カードゲーム……どれも弟達が小さい頃に遊んでいた記憶がある。
「そうか、おもちゃってこともあるよな……私ら、なにで遊んでたっけなぁ……ふぁ……眠……ダメだ、寝ないと頭働かないや」
「いらないもん売って小遣い稼げるなんて、最高だよな!」
手に入れたものはさっさと食べてしまわないと、弟や妹に取られてしまう。
幸太は小さなドーナツを口に放り込む。
「いらないものか……」
ぼんやりした頭に、写真集とアニメのキャラクターグッズが浮かぶ。どちらも、先日手に入れたけれど役に立たなかったものだ。
「私のいらないものも、売ってもらえる? あんたの小遣いにしていいからさ」
「えっ、マジで? やった、いいよ!」
私は妹と私の部屋から、女性アイドルグループの写真集と缶バッジやアクリルキーホルダーを持ってきてダンボールに入れた。
「え……姉ちゃん、こんなの好きだったの?」
幸太がアイドルグループの写真集をペラペラとめくりながら呟いた。
「俺、これ欲しいからもらってくわ……それにこのキャラ、敬太がこないだノートに落書きしてたぜ……好きなんじゃねぇの?」
「あぁ、もう私には用済みだから、あんた達の好きにしなさいよ……わたしゃ風呂入って寝るわ」
意外なところに需要があったな……やっぱり高校生の圭介にはグラビアじゃなきゃダメだったのかも……いや、それは私が嫌だわ……
「姉ちゃん、グラビアアイドルのやつはないの?」
「そんなもん、自分で買え!」
私は幸太に苛立ちをぶつけ、風呂場のドアを乱暴に閉めたのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
紙の本のカバーをめくりたい話
みぅら
ミステリー
紙の本のカバーをめくろうとしたら、見ず知らずの人に「その本、カバーをめくらない方がいいですよ」と制止されて、モヤモヤしながら本を読む話。
男性向けでも女性向けでもありません。
カテゴリにその他がなかったのでミステリーにしていますが、全然ミステリーではありません。
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
旧校舎のフーディーニ
澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】
時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。
困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。
けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。
奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。
「タネも仕掛けもございます」
★毎週月水金の12時くらいに更新予定
※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。
※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
7月は男子校の探偵少女
金時るるの
ミステリー
孤児院暮らしから一転、女であるにも関わらずなぜか全寮制の名門男子校に入学する事になったユーリ。
性別を隠しながらも初めての学園生活を満喫していたのもつかの間、とある出来事をきっかけに、ルームメイトに目を付けられて、厄介ごとを押し付けられる。
顔の塗りつぶされた肖像画。
完成しない彫刻作品。
ユーリが遭遇する謎の数々とその真相とは。
19世紀末。ヨーロッパのとある国を舞台にした日常系ミステリー。
(タイトルに※マークのついているエピソードは他キャラ視点です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる