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第一章 エリカと圭介
第6話 憶測
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「表に出たがらないのを引っ張り出す方法? ……なにそれ、弟が不登校にでもなったの?」
汐里が、紙パックのストローからずるずると音を立てながら聞いてきた。ちなみに、聞いてるのは私の方だ。
今は昼休み中で、私はいつものように汐里と向かい合ってお昼ごはんを食べている。
「まあ、そんなとこ……」
本当は、中学三年生の弟じゃなくて圭介のことなんだけど。
でも、汐里には言えない。
圭介が虫に乗っ取られそうで困ってるなんて話、私だって信じてないんだから。
「うーん、なんで学校に行きたくなくなっちゃったのか、その原因によるかな? いじめ?」
「ううん。なんだろ……なにが原因なのかは、よくわからないけど、なんとなく……」
私はまたお茶を濁した。
「ふぅん……でもまあ、中学って義務教育だから休んでも大丈夫なんじゃない?」
汐里はお弁当のカニさんウィンナーに、ぐさりとフォークを刺した。
汐里のきれいな彩りのお弁当は、毎朝お母さんが早起きして作ってくれているらしい。
私はそれを見るのが好きだけど、今はもっと大事なことがある。
「いや……うちの親が心配しててさ……」
「うーん、じゃあ、ただゴネてるだけっていう前提で考えよう。モノで釣るとか」
「モノか……」
私は袋からはみ出したパンに齧りつく。
あんことバターを挟んだコッペパンだ。
「私のオススメは、3大欲求を刺激することよ!」
色鮮やかな黄色をした卵焼きを刺したフォークを掲げ、汐里は熱弁した。
「3大欲求?」
「そっ。睡眠欲、食欲、性欲の3つよ」
汐里はさすがに声を潜めた。
「性欲ってさ……」
私はなんとなく不快になった。
そりゃ、圭介だって高校二年生ともなれば、異性に興味を持っても不自然じゃない。
いや、むしろその方が健全な気さえする。
私は思わず、グラビアアイドルの雑誌を見てにやけている圭介を想像した。
うっ、なんだろ……すっごい嫌悪感!
「まあ、エリカの弟はまだ中学生だから、可愛いアイドルグループの写真集とか、好きなアニメのキャラグッズとかどうよ?」
「あぁ、まあ、それくらいなら許せるかな」
グラビアアイドルは許せん。
でも私、圭介の好み全然知らないんだよなぁ……
脳裏に、バイト先のスーパーでたまに見かける圭介のお母さんの姿が浮かぶ。
いきなり圭介の家に行って、部屋を見せてくれなんて言えないしな……怪しすぎる……
「選ぶの手伝おうか? ほら、駅前にお店があるじゃん?」
汐里は電車で、私は自転車で通学している。
学校の最寄り駅から3駅下り方面にある駅が、汐里の自宅の最寄り駅だ。
「ありがとう……今度ジュースおごるわ……明日からゴールデンウィークに入るから、休み明けね」
忘れそうだな、なんとなく。
「うん。私、ゴールデンウィーク中なんにも予定ないから、暇つぶし用の漫画買おうかな……あー、彼氏欲しいなぁ……」
汐里はぶつぶつ言いながら、スマホで候補の漫画を検索し始めたのだった。
汐里が、紙パックのストローからずるずると音を立てながら聞いてきた。ちなみに、聞いてるのは私の方だ。
今は昼休み中で、私はいつものように汐里と向かい合ってお昼ごはんを食べている。
「まあ、そんなとこ……」
本当は、中学三年生の弟じゃなくて圭介のことなんだけど。
でも、汐里には言えない。
圭介が虫に乗っ取られそうで困ってるなんて話、私だって信じてないんだから。
「うーん、なんで学校に行きたくなくなっちゃったのか、その原因によるかな? いじめ?」
「ううん。なんだろ……なにが原因なのかは、よくわからないけど、なんとなく……」
私はまたお茶を濁した。
「ふぅん……でもまあ、中学って義務教育だから休んでも大丈夫なんじゃない?」
汐里はお弁当のカニさんウィンナーに、ぐさりとフォークを刺した。
汐里のきれいな彩りのお弁当は、毎朝お母さんが早起きして作ってくれているらしい。
私はそれを見るのが好きだけど、今はもっと大事なことがある。
「いや……うちの親が心配しててさ……」
「うーん、じゃあ、ただゴネてるだけっていう前提で考えよう。モノで釣るとか」
「モノか……」
私は袋からはみ出したパンに齧りつく。
あんことバターを挟んだコッペパンだ。
「私のオススメは、3大欲求を刺激することよ!」
色鮮やかな黄色をした卵焼きを刺したフォークを掲げ、汐里は熱弁した。
「3大欲求?」
「そっ。睡眠欲、食欲、性欲の3つよ」
汐里はさすがに声を潜めた。
「性欲ってさ……」
私はなんとなく不快になった。
そりゃ、圭介だって高校二年生ともなれば、異性に興味を持っても不自然じゃない。
いや、むしろその方が健全な気さえする。
私は思わず、グラビアアイドルの雑誌を見てにやけている圭介を想像した。
うっ、なんだろ……すっごい嫌悪感!
「まあ、エリカの弟はまだ中学生だから、可愛いアイドルグループの写真集とか、好きなアニメのキャラグッズとかどうよ?」
「あぁ、まあ、それくらいなら許せるかな」
グラビアアイドルは許せん。
でも私、圭介の好み全然知らないんだよなぁ……
脳裏に、バイト先のスーパーでたまに見かける圭介のお母さんの姿が浮かぶ。
いきなり圭介の家に行って、部屋を見せてくれなんて言えないしな……怪しすぎる……
「選ぶの手伝おうか? ほら、駅前にお店があるじゃん?」
汐里は電車で、私は自転車で通学している。
学校の最寄り駅から3駅下り方面にある駅が、汐里の自宅の最寄り駅だ。
「ありがとう……今度ジュースおごるわ……明日からゴールデンウィークに入るから、休み明けね」
忘れそうだな、なんとなく。
「うん。私、ゴールデンウィーク中なんにも予定ないから、暇つぶし用の漫画買おうかな……あー、彼氏欲しいなぁ……」
汐里はぶつぶつ言いながら、スマホで候補の漫画を検索し始めたのだった。
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