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第13話 反省会
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「お、これが歯ブラシってやつかあ……で、これが歯磨き粉……へえぇえ……この世界は龍神様みたいにバカでかい建物はたくさんあるし、なんせモノだらけでびっくりだぜ……あ、ミツキちゃん、ちゃんと歯磨きしたんだな、えらいな」
俺はベッドで寝息をたてているミツキちゃんを振り返った。
洗面台の棚には、既に使われた歯ブラシセットが無造作に置かれている。
ミツキちゃんが使ったものだ。
「ほんとは、ママのとこに帰りたいだろうにな……」
俺はなんとなく、ミツキちゃんの歯ブラシをきちんとコップに入れた。
「おぇ、これまっじぃ……」
初めて歯磨きというものをしてみたが。
なんだろうか、このネチョっとした白い、歯磨き粉とかいうやつは……まずい。まずすぎる。
こないだ食べたラーメンや、今日食べたハンバーガーとかいうやつは、めちゃくちゃうまかったのに。
俺はすぐさま、コップに汲んだ水でうがいを繰り返した。
それでも、舌に残ったスースーする妙な味は抜けきらない。
「あー……ハンバーガー食いてぇ……ラーメンでもいい……まあいっか、明日も食べれば」
俺が便利でキレイな、この馴染みのない世界の、馴染みのない一連の行動ができるのは、すべて強制的に頭にぶち込まれた情報があるからだ。
今はすらりとした長身の美女の姿をした、黒龍様に。
※ ※ ※
「君とミツキちゃん二人だけだと、ホテルの人に怪しまれる。私が母親役になるから、両親と娘という設定にしよう」
そう言って俺の懐から飛び出し、黒龍様は人目につかない物陰で、黒猫からすらりとした体型の美女になった。
「わあ、すごーい!」
それを見たミツキちゃんは、無邪気に目を輝かせて喜んでいたけどさ。
まだ子どものミツキちゃんなら、魔法だよ~と言えば納得しそうだけど、まあ、普通は受け入れられないわな。こんなこと。
俺はミツキちゃんを未来から連れてきた。
あのイケメンだけど頭がカチコチに固そうな男を、どうしても自分のパパにしたいらしい。
パパが欲しいって気持ちは、いじらしくて可愛いと思う。
最初に会った血縁上のパパを見て、違和感を感じたのもさすがだな、と思った。
あの男はチャラすぎる。ミツキちゃんのパパにはふさわしくない。うん。
で、あの頭の固そうな男だ。
いや、確かに見た目はよかったよ。背は俺よりあるし、かっこいいコート着てたし、おまけにそれ似合ってたしさ。靴だって、キレイだった。
『見た目って大事なのよ、ほら、ちゃんとしなさい』
……そういえば、昔、妻にそんなことを言われたような気がする。
服なんて、着れりゃあなんだっていいじゃないか。
髪があちこちにはねてようが、誰も気にしちゃいないしさ。
靴下に穴が空いてても、靴が泥だらけでも、母ちゃんがぶすっとした顔でなんとかしてくれるし。
俺は小さい頃から、そんな調子で生きてきた。
だから、幼馴染でもあった妻にアレヤコレヤと言われたけれど、結婚してからは母ちゃんがしてくれていたことは全部妻がやってくれた。
だから、俺は困ったことは一度もなかった。そう、妻がいた頃は。
いなくなった後の俺とすれ違う奴の表情は、どれも渋いものだった。母ちゃんを頼ろうにも、もう年老いて面倒みきれないと言われたし。
「早くこのミッションを終えてあいつに戻ってきてもらわないと、俺の見た目がやばいんだよ」
「君がそう思ってる限り、仮に妻が戻ってきてもまた愛想を尽かされるよ」
ベッドに戻ると、黒龍様はまた黒猫の姿になっていた。
「え……なんでですか?」
「君は妻に頼りすぎなんだよ。少しは自力でなんとかしようと努力しないとね。だいたい、妻にやってもらうのが当たり前っていう胡座をかいた態度の積み重ねが、今回の家出に繋がったんじゃないのかね?」
「そ、そうなんですか?」
暴言に関しちゃ本当に悪かったと思っていて、もう二度と言わないと心に誓っているけれど、それだけじゃ足りないというのか。
「私はこの子のベッドで寝るから。おやすみ」
黒龍様は、さっさとミツキちゃんが寝ているベッドに潜り込んでしまった。
さて、明日はどうしようか。
ミツキちゃんに、願いは叶えられないけどお手伝いならしてあげる、なんて言っちゃったけどさ。
「どう手伝ったらいいのかなぁ……明日、黒龍様にアドバイスもらおうっと」
考えてもなにも浮かばないし。こんな時は他力本願に限るよ。
「なんだ、このベッド……真っ白ですげぇキレイ……良く眠れそう」
やっぱ、汚いよりキレイな方がいいよな。
俺はベッドで寝息をたてているミツキちゃんを振り返った。
洗面台の棚には、既に使われた歯ブラシセットが無造作に置かれている。
ミツキちゃんが使ったものだ。
「ほんとは、ママのとこに帰りたいだろうにな……」
俺はなんとなく、ミツキちゃんの歯ブラシをきちんとコップに入れた。
「おぇ、これまっじぃ……」
初めて歯磨きというものをしてみたが。
なんだろうか、このネチョっとした白い、歯磨き粉とかいうやつは……まずい。まずすぎる。
こないだ食べたラーメンや、今日食べたハンバーガーとかいうやつは、めちゃくちゃうまかったのに。
俺はすぐさま、コップに汲んだ水でうがいを繰り返した。
それでも、舌に残ったスースーする妙な味は抜けきらない。
「あー……ハンバーガー食いてぇ……ラーメンでもいい……まあいっか、明日も食べれば」
俺が便利でキレイな、この馴染みのない世界の、馴染みのない一連の行動ができるのは、すべて強制的に頭にぶち込まれた情報があるからだ。
今はすらりとした長身の美女の姿をした、黒龍様に。
※ ※ ※
「君とミツキちゃん二人だけだと、ホテルの人に怪しまれる。私が母親役になるから、両親と娘という設定にしよう」
そう言って俺の懐から飛び出し、黒龍様は人目につかない物陰で、黒猫からすらりとした体型の美女になった。
「わあ、すごーい!」
それを見たミツキちゃんは、無邪気に目を輝かせて喜んでいたけどさ。
まだ子どものミツキちゃんなら、魔法だよ~と言えば納得しそうだけど、まあ、普通は受け入れられないわな。こんなこと。
俺はミツキちゃんを未来から連れてきた。
あのイケメンだけど頭がカチコチに固そうな男を、どうしても自分のパパにしたいらしい。
パパが欲しいって気持ちは、いじらしくて可愛いと思う。
最初に会った血縁上のパパを見て、違和感を感じたのもさすがだな、と思った。
あの男はチャラすぎる。ミツキちゃんのパパにはふさわしくない。うん。
で、あの頭の固そうな男だ。
いや、確かに見た目はよかったよ。背は俺よりあるし、かっこいいコート着てたし、おまけにそれ似合ってたしさ。靴だって、キレイだった。
『見た目って大事なのよ、ほら、ちゃんとしなさい』
……そういえば、昔、妻にそんなことを言われたような気がする。
服なんて、着れりゃあなんだっていいじゃないか。
髪があちこちにはねてようが、誰も気にしちゃいないしさ。
靴下に穴が空いてても、靴が泥だらけでも、母ちゃんがぶすっとした顔でなんとかしてくれるし。
俺は小さい頃から、そんな調子で生きてきた。
だから、幼馴染でもあった妻にアレヤコレヤと言われたけれど、結婚してからは母ちゃんがしてくれていたことは全部妻がやってくれた。
だから、俺は困ったことは一度もなかった。そう、妻がいた頃は。
いなくなった後の俺とすれ違う奴の表情は、どれも渋いものだった。母ちゃんを頼ろうにも、もう年老いて面倒みきれないと言われたし。
「早くこのミッションを終えてあいつに戻ってきてもらわないと、俺の見た目がやばいんだよ」
「君がそう思ってる限り、仮に妻が戻ってきてもまた愛想を尽かされるよ」
ベッドに戻ると、黒龍様はまた黒猫の姿になっていた。
「え……なんでですか?」
「君は妻に頼りすぎなんだよ。少しは自力でなんとかしようと努力しないとね。だいたい、妻にやってもらうのが当たり前っていう胡座をかいた態度の積み重ねが、今回の家出に繋がったんじゃないのかね?」
「そ、そうなんですか?」
暴言に関しちゃ本当に悪かったと思っていて、もう二度と言わないと心に誓っているけれど、それだけじゃ足りないというのか。
「私はこの子のベッドで寝るから。おやすみ」
黒龍様は、さっさとミツキちゃんが寝ているベッドに潜り込んでしまった。
さて、明日はどうしようか。
ミツキちゃんに、願いは叶えられないけどお手伝いならしてあげる、なんて言っちゃったけどさ。
「どう手伝ったらいいのかなぁ……明日、黒龍様にアドバイスもらおうっと」
考えてもなにも浮かばないし。こんな時は他力本願に限るよ。
「なんだ、このベッド……真っ白ですげぇキレイ……良く眠れそう」
やっぱ、汚いよりキレイな方がいいよな。
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