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第十六章
七話 【ベンゾウの過去】
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シェンスーの街中にある、古びた魔導書店のカビ臭い地下で、若い青年が出迎える。
「ようこそ! いや~ この施設を任される様になってから初めての利用者ですよ! あっすいません興奮して、施設長の[トヌマ]です」
「ジビカガイライの惣一郎だ」
「ジビカガイライ! あのジビカガイライですか! 今話題の!」
「話題は知らんが、ジビカガイライだ。すまんが先を急ぐ! ゴーデンセル炭鉱街まで行きたいんだが」
「炭鉱街ですか、今恐ろしく強い魔獣が出たと、ギルドも大騒ぎですね。なんでも足が沢山あ…」
「すまんが先を急ぐ! 方角は?」
「すいません、興奮しちゃって! 炭鉱街までギルドから増援の馬車が出てます。次の出発は明日の朝ですが」
「方角と距離を知りたいんだが!」
「北ですが、ここからですと2日はかかりますよ! もう直ぐ陽も落ちますし、何もない田舎街ですが、今日はもう休まれてはいかがですか? 今ギルドまで、ご案内しますね」
「いや急ぐんだって! もう行くよ邪魔したな!」
惣一郎は話を切り上げ、魔導書店を出る。
「ベンゾウに聞いた方が早かったな!」
「………」
「ベンゾウ?」
「あっ、ごめんなさいご主人様! なに?」
「いや…… 大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ! 急ごう」
「ああ」
心配が残る惣一郎は、ここから舟で飛び立つのは目立つと、一旦クロの荷車で街を出る事にする。
土壁の建物が並ぶシェンスーの街を出て、北を目指す。
街から少し離れると舟に乗り換え、空へ飛び立つ。
ベンゾウは、心ここに在らずといった感じであった。
しばらく飛ぶと山が見え、手前の森からはギルドの指示か、グラマラの葉を燃やす煙が遠くに見えてくる。
だが、ムカデの姿は見えなかった。
ゴーデンセル炭鉱街。
壊れた遺跡の様な街に、人の姿は無かった。
「旦那様、誰も居ないぞ! 人が住んでる気配がない」
「昨日今日、厄災に襲われた感じじゃないな~」
街の入り口には、グラマラの葉を燃やした火が消えかけ、燻っていた。
すると、崩れた建物の影から人影が現れる。
「何者だ!」
冒険者風に武装したドワーフだった。
背の低い髭面の男は、両手に斧を持ち構えている。
「ギルドの依頼で、魔獣を討伐に来た者だが、この街は…… 遅かったのか?」
「応援か! いや、魔獣はまだここまでは来ていない。街は山の麓にある。ここは以前住んでいた街だ」
「なるほど……」
話を聞いていないベンゾウは、暗い顔で街を眺めていた。
「それで、魔獣は?」
「今朝、森に近づく魔獣を、応援の冒険者達が、その葉を燃やし、追い返した。前線では激しく戦ったそうだが、姿を消した魔獣は、今日はもう来ないだろう、じき陽も落ちる」
ん? 夜は来ないのか?
そこに現れた小柄な影。
獣人を色濃く残す、二足歩行で歩く服を着た猫。
「ジビカガイライですかニャ?」
ニャ? まんまじゃん!
「私は、古くから街に住んでいる[ノン]ですニャ!」
すると、慌てるベンゾウが駆け寄り、
「オババさま……」
っと声をかける。
「ん? まさか……[リコ]かニャ?」
リコ? ベンゾウの本名か?
「違う[ニコ]だし、今はベンゾウ」
「そう言ってるニャ、リコ! リコとは会えたのかニャ?」
「弟はリコじゃない![チコ]!」
「だからそう言ってるニャ!」
「チコは…… もう……」
「………そうかニャ、お前が姿を消してから、リコは[ドルゼンの街]の施設に送られたのだが、リコを追って施設を飛び出してからは、誰も行方を知らなかったニャ…… そうか…… リコ、お前は何をしてたニャ!」
「ベンゾウは…… 依頼がこなせなくなって奴隷に……」
オババの耳が動くと、ドワーフの男が、
「オババ! 取り敢えず街に案内しては?」
っと、話を遮る。
惣一郎達は、知らないベンゾウの過去に息を止め聴き入っていた。
プハ~ 弟がいたのか……
「ようこそ! いや~ この施設を任される様になってから初めての利用者ですよ! あっすいません興奮して、施設長の[トヌマ]です」
「ジビカガイライの惣一郎だ」
「ジビカガイライ! あのジビカガイライですか! 今話題の!」
「話題は知らんが、ジビカガイライだ。すまんが先を急ぐ! ゴーデンセル炭鉱街まで行きたいんだが」
「炭鉱街ですか、今恐ろしく強い魔獣が出たと、ギルドも大騒ぎですね。なんでも足が沢山あ…」
「すまんが先を急ぐ! 方角は?」
「すいません、興奮しちゃって! 炭鉱街までギルドから増援の馬車が出てます。次の出発は明日の朝ですが」
「方角と距離を知りたいんだが!」
「北ですが、ここからですと2日はかかりますよ! もう直ぐ陽も落ちますし、何もない田舎街ですが、今日はもう休まれてはいかがですか? 今ギルドまで、ご案内しますね」
「いや急ぐんだって! もう行くよ邪魔したな!」
惣一郎は話を切り上げ、魔導書店を出る。
「ベンゾウに聞いた方が早かったな!」
「………」
「ベンゾウ?」
「あっ、ごめんなさいご主人様! なに?」
「いや…… 大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ! 急ごう」
「ああ」
心配が残る惣一郎は、ここから舟で飛び立つのは目立つと、一旦クロの荷車で街を出る事にする。
土壁の建物が並ぶシェンスーの街を出て、北を目指す。
街から少し離れると舟に乗り換え、空へ飛び立つ。
ベンゾウは、心ここに在らずといった感じであった。
しばらく飛ぶと山が見え、手前の森からはギルドの指示か、グラマラの葉を燃やす煙が遠くに見えてくる。
だが、ムカデの姿は見えなかった。
ゴーデンセル炭鉱街。
壊れた遺跡の様な街に、人の姿は無かった。
「旦那様、誰も居ないぞ! 人が住んでる気配がない」
「昨日今日、厄災に襲われた感じじゃないな~」
街の入り口には、グラマラの葉を燃やした火が消えかけ、燻っていた。
すると、崩れた建物の影から人影が現れる。
「何者だ!」
冒険者風に武装したドワーフだった。
背の低い髭面の男は、両手に斧を持ち構えている。
「ギルドの依頼で、魔獣を討伐に来た者だが、この街は…… 遅かったのか?」
「応援か! いや、魔獣はまだここまでは来ていない。街は山の麓にある。ここは以前住んでいた街だ」
「なるほど……」
話を聞いていないベンゾウは、暗い顔で街を眺めていた。
「それで、魔獣は?」
「今朝、森に近づく魔獣を、応援の冒険者達が、その葉を燃やし、追い返した。前線では激しく戦ったそうだが、姿を消した魔獣は、今日はもう来ないだろう、じき陽も落ちる」
ん? 夜は来ないのか?
そこに現れた小柄な影。
獣人を色濃く残す、二足歩行で歩く服を着た猫。
「ジビカガイライですかニャ?」
ニャ? まんまじゃん!
「私は、古くから街に住んでいる[ノン]ですニャ!」
すると、慌てるベンゾウが駆け寄り、
「オババさま……」
っと声をかける。
「ん? まさか……[リコ]かニャ?」
リコ? ベンゾウの本名か?
「違う[ニコ]だし、今はベンゾウ」
「そう言ってるニャ、リコ! リコとは会えたのかニャ?」
「弟はリコじゃない![チコ]!」
「だからそう言ってるニャ!」
「チコは…… もう……」
「………そうかニャ、お前が姿を消してから、リコは[ドルゼンの街]の施設に送られたのだが、リコを追って施設を飛び出してからは、誰も行方を知らなかったニャ…… そうか…… リコ、お前は何をしてたニャ!」
「ベンゾウは…… 依頼がこなせなくなって奴隷に……」
オババの耳が動くと、ドワーフの男が、
「オババ! 取り敢えず街に案内しては?」
っと、話を遮る。
惣一郎達は、知らないベンゾウの過去に息を止め聴き入っていた。
プハ~ 弟がいたのか……
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