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第九章
三話 【山あり谷あり】
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翌朝、工房から聞こえる鉄を叩く音で目を覚ます惣一郎は、テテオに挨拶して庭で朝食の準備をする。
昨夜のお礼に、朝は惣一郎がご馳走する。
朝なので簡単なメニューになるが、テテオもカカも喜んでくれた。
食後、午前中はいつも工房で作業すると言うテテオを、見学させてもらう惣一郎。
職人の仕事に目が離せなかった。
午後テテオは店番との事で、町をぶらつく惣一郎達。
何処の家も緑が多く、庭の大木の上に家がある家もあった。
広くは無いが、長閑な印象の町が惣一郎は気に入っていた。
町のギルドを訪ねると、田舎の村の郵便局を思わせるギルドだった。
数人が働くギルドのカウンター、その向かいに背もたれの無い椅子が数個並び、窓の横の掲示板には、数件の依頼が張り出されていた。
惣一郎はカウンターで、何か運搬の依頼はないか尋ねてみるが、一件も無かった。
張り出された依頼も素材収穫依頼だけだったので、諦めて外に出る。
すると弁慶がいきなり前に出る。
その背中に鼻ぶつけた惣一郎は、
「ちょっ、いきなり何を」
そのまま、疼くまる弁慶。
ベンゾウはその先で、男の首を刎ねていた。
弁慶は青ざめた顔で、額には汗が吹き出していた。
何があった……
ベンゾウが戻り、弁慶を寝かすと胸に矢が刺さっていた。
え?
「ご主人様! キュアを!」
慌てて惣一郎は杖を握り、キュアを唱える。
少し顔色が落ち着く弁慶。
だが矢は深く刺さっていた。
パニくる惣一郎は、見てる事しか出来なかった。
ベンゾウは小刀で矢が刺さった根元を少し切り、矢を抜くと血が溢れる。
「ご主人様! ご主人様!!」
はっ!っと自分の事だと気付く惣一郎は、クリーンをかけて、薬草を押し込み、もう一度キュアをかける。
ベンゾウの焦った顔は変わらない。
刺さった場所が悪いのだ。
人が集り、ギルドの職員も出てくる。
慌てて担架を持ってくるが、弁慶には小さすぎる。
見る見る呼吸が浅くなって行く弁慶。
まだ状況が分からない惣一郎は、ダンジョンで手に入れた回復薬を思い出し、飲ませようとするが、飲む力が無い。
惣一郎は口に含み、弁慶に口を重ねる。
すると、顔色が血の気を戻す。
念の為と、残った回復薬を胸の傷口に垂らすと、押し込んだ薬草が押し戻され、見る見る傷口が塞がる。
ホッと腰を落とすベンゾウを見て、惣一郎も安心する。
「何があった?」
ベンゾウは、首を刎ねた男を見る。
惣一郎は近付き確認する……
何故ここに!
エリオットだった。
手には弓と毒の入った小瓶が転がっていた。
惣一郎はまだ頭が真っ白だった。
弁慶はもう大丈夫だろうが、意識は戻らない。
集まった人に手を借りて荷車に乗せると、そのまま武器屋に戻る。
エリオットの遺体も回収して。
テテオに事情を話し庭をまた借り、荷車に印を結び惣一郎はテレキシスで荷車を浮かせると、弁慶をベッドに滑らせ寝かせる。
惣一郎はベンゾウに弁慶を頼み、ソファーに腰を下ろす。
矢は惣一郎を狙った物だろう。
弁慶は身を挺して、矢から惣一郎を守った。
ベンゾウは瞬時に、エリオットの首を刎ねた。
だが何故エリオットがここに?
魔道具を取り出し身につけて、マルジさんにコールを送る。
『惣一郎殿! よかった、やっと連絡が取れた!昨日から何度も送り続けていたのですが、兎に角、今どちらに? エリオット元王子が逃亡したのです!』
慌てるマルジだった。
『ええ、死ぬところでしたが、仲間が身を挺して守ってくれました。その仲間も死にかけましたが、今は無事です』
静かな喋りだった。
『くっ! 申し訳ありません…… 元王子派の人間がエリオットの逃亡を手助けした様でして。国の英雄に……謝罪しきれない……兎に角、エリオットを捉えねば!』
『俺が持ってます…… 王子の首を』
『…………重ね重ね。すぐにそちらへ向かいます。どちらにおられるのでしょうか?』
『ワーテイズのサイソス』
『すぐ…
コールを切った惣一郎の顔には感情がなかった。
「ご主人様、弁慶が!」
ベッドへ駆け寄ると、弁慶の目が開く。
「旦那様、無事で何より」
惣一郎は黙って抱き寄せ、耳元で囁く。
「済まなかった…… ありがとう」
今まで疑っていた、自分が許せないのだろう。
その後も何度も謝っていた。
弁慶は真っ赤な顔で、
「妻として当たり前の事、お気になさらず」
と、弁慶も腕を回す。
回復薬とはいえ、死にかけの傷を癒せば相当体力も使うのだろう。
弁慶はまた、幸せそうに眠りにつく。
「ご主人様、気付くのが遅れてごめんなさい」
ベンゾウは、惣一郎が装備で矢など刺さらないと知っていたのだが、それを知らない弁慶が犠牲になるとは思ってもみなかった。
惣一郎はベンゾウもそっと抱き寄せる。
「よくやった、俺は全く気付かなかったよ! ベンゾウが謝る事は何も無いぞ!」
ホッとするベンゾウは、
「妻として当たり前の事!」
とふざけて見せたが、内心責任を感じていた……
昨夜のお礼に、朝は惣一郎がご馳走する。
朝なので簡単なメニューになるが、テテオもカカも喜んでくれた。
食後、午前中はいつも工房で作業すると言うテテオを、見学させてもらう惣一郎。
職人の仕事に目が離せなかった。
午後テテオは店番との事で、町をぶらつく惣一郎達。
何処の家も緑が多く、庭の大木の上に家がある家もあった。
広くは無いが、長閑な印象の町が惣一郎は気に入っていた。
町のギルドを訪ねると、田舎の村の郵便局を思わせるギルドだった。
数人が働くギルドのカウンター、その向かいに背もたれの無い椅子が数個並び、窓の横の掲示板には、数件の依頼が張り出されていた。
惣一郎はカウンターで、何か運搬の依頼はないか尋ねてみるが、一件も無かった。
張り出された依頼も素材収穫依頼だけだったので、諦めて外に出る。
すると弁慶がいきなり前に出る。
その背中に鼻ぶつけた惣一郎は、
「ちょっ、いきなり何を」
そのまま、疼くまる弁慶。
ベンゾウはその先で、男の首を刎ねていた。
弁慶は青ざめた顔で、額には汗が吹き出していた。
何があった……
ベンゾウが戻り、弁慶を寝かすと胸に矢が刺さっていた。
え?
「ご主人様! キュアを!」
慌てて惣一郎は杖を握り、キュアを唱える。
少し顔色が落ち着く弁慶。
だが矢は深く刺さっていた。
パニくる惣一郎は、見てる事しか出来なかった。
ベンゾウは小刀で矢が刺さった根元を少し切り、矢を抜くと血が溢れる。
「ご主人様! ご主人様!!」
はっ!っと自分の事だと気付く惣一郎は、クリーンをかけて、薬草を押し込み、もう一度キュアをかける。
ベンゾウの焦った顔は変わらない。
刺さった場所が悪いのだ。
人が集り、ギルドの職員も出てくる。
慌てて担架を持ってくるが、弁慶には小さすぎる。
見る見る呼吸が浅くなって行く弁慶。
まだ状況が分からない惣一郎は、ダンジョンで手に入れた回復薬を思い出し、飲ませようとするが、飲む力が無い。
惣一郎は口に含み、弁慶に口を重ねる。
すると、顔色が血の気を戻す。
念の為と、残った回復薬を胸の傷口に垂らすと、押し込んだ薬草が押し戻され、見る見る傷口が塞がる。
ホッと腰を落とすベンゾウを見て、惣一郎も安心する。
「何があった?」
ベンゾウは、首を刎ねた男を見る。
惣一郎は近付き確認する……
何故ここに!
エリオットだった。
手には弓と毒の入った小瓶が転がっていた。
惣一郎はまだ頭が真っ白だった。
弁慶はもう大丈夫だろうが、意識は戻らない。
集まった人に手を借りて荷車に乗せると、そのまま武器屋に戻る。
エリオットの遺体も回収して。
テテオに事情を話し庭をまた借り、荷車に印を結び惣一郎はテレキシスで荷車を浮かせると、弁慶をベッドに滑らせ寝かせる。
惣一郎はベンゾウに弁慶を頼み、ソファーに腰を下ろす。
矢は惣一郎を狙った物だろう。
弁慶は身を挺して、矢から惣一郎を守った。
ベンゾウは瞬時に、エリオットの首を刎ねた。
だが何故エリオットがここに?
魔道具を取り出し身につけて、マルジさんにコールを送る。
『惣一郎殿! よかった、やっと連絡が取れた!昨日から何度も送り続けていたのですが、兎に角、今どちらに? エリオット元王子が逃亡したのです!』
慌てるマルジだった。
『ええ、死ぬところでしたが、仲間が身を挺して守ってくれました。その仲間も死にかけましたが、今は無事です』
静かな喋りだった。
『くっ! 申し訳ありません…… 元王子派の人間がエリオットの逃亡を手助けした様でして。国の英雄に……謝罪しきれない……兎に角、エリオットを捉えねば!』
『俺が持ってます…… 王子の首を』
『…………重ね重ね。すぐにそちらへ向かいます。どちらにおられるのでしょうか?』
『ワーテイズのサイソス』
『すぐ…
コールを切った惣一郎の顔には感情がなかった。
「ご主人様、弁慶が!」
ベッドへ駆け寄ると、弁慶の目が開く。
「旦那様、無事で何より」
惣一郎は黙って抱き寄せ、耳元で囁く。
「済まなかった…… ありがとう」
今まで疑っていた、自分が許せないのだろう。
その後も何度も謝っていた。
弁慶は真っ赤な顔で、
「妻として当たり前の事、お気になさらず」
と、弁慶も腕を回す。
回復薬とはいえ、死にかけの傷を癒せば相当体力も使うのだろう。
弁慶はまた、幸せそうに眠りにつく。
「ご主人様、気付くのが遅れてごめんなさい」
ベンゾウは、惣一郎が装備で矢など刺さらないと知っていたのだが、それを知らない弁慶が犠牲になるとは思ってもみなかった。
惣一郎はベンゾウもそっと抱き寄せる。
「よくやった、俺は全く気付かなかったよ! ベンゾウが謝る事は何も無いぞ!」
ホッとするベンゾウは、
「妻として当たり前の事!」
とふざけて見せたが、内心責任を感じていた……
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