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第九章
一話 【すれ違う心】
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真っ直ぐ北に行くと、国境の街がある。
前回は巣の確認に西寄りに国境を越えたが、本来はその街から、隣国ワーテイズに入るそうだ。
元王子と言う協力者を失ったワーテイズがどう動くか、気になる惣一郎はのんびり旅をしながら探りを入れるつもりであった。
しばらく行くと大きな街道に出る。
国境へと続く街道にもかかわらず、人影はなかった。
のんびり揺られながら街道を進む中、弁慶はずっと惣一郎を見ていた。
『あれだけの恩を大国に売りながら、何の見返りも名声も望まないとは、とんでもないな旦那様だ。あの厄災を…あの数を…… 強いと言う言葉だけで語る事は出来ない。旦那様、あたいは世界一の幸せを掴んだのかも知れない』
弁慶のうっとりとした視線を惣一郎は、
『なんだ…… 悪寒がする。不気味に笑う鬼人の視線によるものだろうか? 何を企んでいるのだ。急に現れ取り入ろうとする鬼人の娘! 何か裏があるはずだ…… 気を抜けばやられるかも知れない! だが俺は騙されないぞ! フフフ』
『はっ! 旦那様が微笑みかけている! あたいは受け入れられたと言う事か! 鼓動が早い、動悸、息切れ、心不全だろうか…… 噂に聞く恋の病とは心不全だったのか… どうしたのだ目が合わせられない! 変な女と思われてはいけない』
『ほら見ろ、俺の真実を見透す目に、動揺してるな! 挙動まで怪しくなって来た。だが奴の狙いはなんだ? 金か? 命か? 確かに殺虫剤を買った金は多目に貰っているが…… いかんなこの前の裸が頭から離れない。あのナイスバディーで迫られたら、俺は…… そうか! あれも罠か危ない。すでに先手を取られていたとは…… 油断するな惣一郎! これまで通り騙された振りを続けなくては』
大きな雲が流れる高い空の下、ふたりの気持ちはすれ違っていた。
すると前に町が見えてくる。
ここも関所を挟み、町が二つの国を繋いでいた。
町は閑散としており、開いてる店もなく、ガラの悪そうな人が数人道の端で酒を飲んでいた。
「おっ、久しぶりに見たぜ、国境越えようとする奴は。ワーテイズに行ったっていい事なんて無いぜ! それよりよ~ ここで俺といい事しね~か? ケケケ」
「うゎ~ 絵に描いたようなチンピラだな」
「あ! オメーに話しかけて…」 ドガン!
弁慶に上から叩かれたチンピラは、車に轢かれたカエルの様だった。
ピクピクとまだ息はある。
「やりやがったなテメー!」
3人も出て来たチンピラの仲間は、例外なく轢かれたカエルになって行く。
「旦那様を馬鹿にしたら殺す!」
これも何かの策だろうか? 出しかけた鉄球を仕舞う惣一郎だった。
チンピラをほっとき、関所へ向かう。
アロス側の兵士が居なかった。
もしかしてさっきの? が頭をよぎるが、無視して通り、一日ぶりにワーテイズに入る。
こちらも誰も居なかった……
国境がもぬけの殻とは…… いいのか?
町にも誰も居ない。
惣一郎はアロス側に戻りカエルになったチンピラの一人に話しかける。
「なぁ、国境に誰も居ないんだが」
………
はっ! もしかして俺に情報を与えぬ様に弁慶は……
すると弁慶がチンピラの襟を摘み持ち上げ、
「旦那様が聞いてる! 答えよ!」
「ふん、誰が教えるか」
すぐ地面に叩きつけ、次のチンピラを持ち上げると同じセリフを言う弁慶。
真っ青な顔で話し始める、チンピラその2。
勘が外れた惣一郎は……
あれ? 違うのか?
と静かに思う。
当たり前だ……
チンピラの話では、もう何年も国境は使われておらず、稀に冒険者が素通りするぐらいとの事。
両国どちらも無駄な人員を使うのを辞め、安い賃金で町の者に任せた結果がこの状況らしい。
ワーテイズ側はそれも、生活のしづらさから大分前に誰も居なくなったと言う。
なるほど、じゃ普通に通って問題無いのね?
弁慶に手で、離してあげる様に指示してワーテイズ側に戻り先に進む。
惣一郎達はクロの荷車に乗り、チンピラに聞いた北の町[サイソス]を目指す。
中々尻尾を出さないな…… 弁慶。
『キャ♡ また見られてる! もっと胸元開けた方が良いのか? ベンゾウ殿に後で聞こう!』
すれ違う糸が複雑に、絡み合って行く……
前回は巣の確認に西寄りに国境を越えたが、本来はその街から、隣国ワーテイズに入るそうだ。
元王子と言う協力者を失ったワーテイズがどう動くか、気になる惣一郎はのんびり旅をしながら探りを入れるつもりであった。
しばらく行くと大きな街道に出る。
国境へと続く街道にもかかわらず、人影はなかった。
のんびり揺られながら街道を進む中、弁慶はずっと惣一郎を見ていた。
『あれだけの恩を大国に売りながら、何の見返りも名声も望まないとは、とんでもないな旦那様だ。あの厄災を…あの数を…… 強いと言う言葉だけで語る事は出来ない。旦那様、あたいは世界一の幸せを掴んだのかも知れない』
弁慶のうっとりとした視線を惣一郎は、
『なんだ…… 悪寒がする。不気味に笑う鬼人の視線によるものだろうか? 何を企んでいるのだ。急に現れ取り入ろうとする鬼人の娘! 何か裏があるはずだ…… 気を抜けばやられるかも知れない! だが俺は騙されないぞ! フフフ』
『はっ! 旦那様が微笑みかけている! あたいは受け入れられたと言う事か! 鼓動が早い、動悸、息切れ、心不全だろうか…… 噂に聞く恋の病とは心不全だったのか… どうしたのだ目が合わせられない! 変な女と思われてはいけない』
『ほら見ろ、俺の真実を見透す目に、動揺してるな! 挙動まで怪しくなって来た。だが奴の狙いはなんだ? 金か? 命か? 確かに殺虫剤を買った金は多目に貰っているが…… いかんなこの前の裸が頭から離れない。あのナイスバディーで迫られたら、俺は…… そうか! あれも罠か危ない。すでに先手を取られていたとは…… 油断するな惣一郎! これまで通り騙された振りを続けなくては』
大きな雲が流れる高い空の下、ふたりの気持ちはすれ違っていた。
すると前に町が見えてくる。
ここも関所を挟み、町が二つの国を繋いでいた。
町は閑散としており、開いてる店もなく、ガラの悪そうな人が数人道の端で酒を飲んでいた。
「おっ、久しぶりに見たぜ、国境越えようとする奴は。ワーテイズに行ったっていい事なんて無いぜ! それよりよ~ ここで俺といい事しね~か? ケケケ」
「うゎ~ 絵に描いたようなチンピラだな」
「あ! オメーに話しかけて…」 ドガン!
弁慶に上から叩かれたチンピラは、車に轢かれたカエルの様だった。
ピクピクとまだ息はある。
「やりやがったなテメー!」
3人も出て来たチンピラの仲間は、例外なく轢かれたカエルになって行く。
「旦那様を馬鹿にしたら殺す!」
これも何かの策だろうか? 出しかけた鉄球を仕舞う惣一郎だった。
チンピラをほっとき、関所へ向かう。
アロス側の兵士が居なかった。
もしかしてさっきの? が頭をよぎるが、無視して通り、一日ぶりにワーテイズに入る。
こちらも誰も居なかった……
国境がもぬけの殻とは…… いいのか?
町にも誰も居ない。
惣一郎はアロス側に戻りカエルになったチンピラの一人に話しかける。
「なぁ、国境に誰も居ないんだが」
………
はっ! もしかして俺に情報を与えぬ様に弁慶は……
すると弁慶がチンピラの襟を摘み持ち上げ、
「旦那様が聞いてる! 答えよ!」
「ふん、誰が教えるか」
すぐ地面に叩きつけ、次のチンピラを持ち上げると同じセリフを言う弁慶。
真っ青な顔で話し始める、チンピラその2。
勘が外れた惣一郎は……
あれ? 違うのか?
と静かに思う。
当たり前だ……
チンピラの話では、もう何年も国境は使われておらず、稀に冒険者が素通りするぐらいとの事。
両国どちらも無駄な人員を使うのを辞め、安い賃金で町の者に任せた結果がこの状況らしい。
ワーテイズ側はそれも、生活のしづらさから大分前に誰も居なくなったと言う。
なるほど、じゃ普通に通って問題無いのね?
弁慶に手で、離してあげる様に指示してワーテイズ側に戻り先に進む。
惣一郎達はクロの荷車に乗り、チンピラに聞いた北の町[サイソス]を目指す。
中々尻尾を出さないな…… 弁慶。
『キャ♡ また見られてる! もっと胸元開けた方が良いのか? ベンゾウ殿に後で聞こう!』
すれ違う糸が複雑に、絡み合って行く……
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