異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付

文字の大きさ
上 下
69 / 409
第四章

三十八話 【難民キャンプ】

しおりを挟む
草原の道を軽々と進むクロの荷車は、途中多くの荷物を運ぶ団体とすれ違う。

避難民なのだろうか、みんな暗い顔に見えた。


先に進むと草原の奥、遠くに5つの大きな影が見えた。

「ノイテですね」

牛の様な魔獣だそうだが、魔獣でも温厚で、肉が美味く冒険者の収入源になっている。

焦茶色に4本の角が見える牛は、平和そうに草を食べていた。

食糧もお金にも余裕がある惣一郎達は、わざわざ狩る必要もないと、あたたかく見送る。

颯爽と馬車より早いスピードで、ずっと走りっぱなしであったが、景色が一向に変わらない。

クロも、疲れただろう!

休憩しようと荷車を止め、道脇でクロに水を出す。

が、あまり疲れた様子がなかった。

ベンチテーブルを出し、スワロとベンゾウにも飲み物を出して、のんびりと休憩する。

雲の流れが早い空を、まったりと眺めていると、地面から微かな振動を感じた。

ベンゾウとクロも気づいた様で、周りを見渡すが何も無い。

周りの反応にスワロも警戒する。

「地震か?」

ベンゾウが地面に耳をあてる。

「ご主人様、何か下にいる!」

微かな振動が、はっきりとした物に変わり、惣一郎も地面に手を置き確かめる。

何かが近づいてくる感じであったが、ゴゴゴと大きな振動になってからは、徐々に離れて行き、振動は無くなった。

全員の頭に大きなクエッションマークが浮かぶ。

ただ、何となくこの草原を早く出た方がいい気はした。

休憩を終え、クロにまたお願いして荷車が走り出す。

少しペースを上げて。




草原を抜け森に入ったのは、すっかり暗くなった頃だった。

テントを出す場所を探し、しっかりと食事をとる。

しっかり睡眠をとり、すっかり夜が明け、ピッタリくっつくふたりを起こす。

朝食はパンケーキとヨーグルトで簡単に済まそうとしたが、久しぶりに食べたパンケーキは美味く、色んな味でお腹いっぱい食べた。

ベンゾウとスワロにも好評だった。

また旅に戻り、森の中の道を進むとスワロが、

「ここからは、森の中を歩きになります」

と言い、クロを止める。



道から外れて森の中を南に進むと、少し開けた崖の上に出る。

下にはいくつものテントの様な仮設の住居が並んでおり、多くの人が生活している様子が見えた。

難民キャンプに着いた様だ。

崖を迂回して下に降りると、途中に3人の男達がおり、いきなり攻撃的な態度で、

「ここの人間じゃないな、キャンプに何の様だ?」

っと、剣を向けてくる。

ベンゾウが構えるも惣一郎が前に出て、

「マイズの村を目指している」

と答える。

男達は、惣一郎が何も知らない旅の冒険者と思ったらしく「マイズね~」っといきなり剣を突く。

突いたはずの肘から先が無い事に気づく前に、男の喉元には怪しく光る小刀が突きつけられていた。

小刀は、叫ぶ事も許さない威圧感だった。

汗を吹き出し痛みに耐える男に、惣一郎は、

「先に進みたいんだけど」

と言うと、後ろの2人が異常にやっと気づく。



1人は腕のない男の手当で残り、もう1人がキャンプへ案内する。

予想より荒んでいた。

痩せた子供達が元気なく井戸の周りで洗濯をし、テントの中では食糧と引き換えに、女が男を誘い、あちこちで泣き声や悲鳴に似た声も聞こえた。

案内されたテントには、昼間から酔っ払った男が、奴隷だろう獣人に暴力を振るってる最中だった。

情報が聞きたかった惣一郎は、流石にこりゃ違うと思った現状にイラつきを覚える。

「[サディーニ]さん、こちらの冒険者が、マイズに行きたいそうでして」

衣服が乱れた太った男は、

「マイズに何の様だ! もう人が住めるとこじゃないぞ!」

っと酒を飲む。

「ええ、厄災でお困りと聞き、ノイデン共和国から来ました」

惣一郎が静かに答えると、サディーニの目の色が変わる。

「援軍か! 本隊はいつ来るんだ?」

そこに、腕を無くした男を抱えたもうひとりの男が入って来て、

「サディーニさん、そいつらに!」

するとサディーニは、何かを察した様にまた気力の無い目に変わり、椅子に座る。

「ここに分けるほどの食糧なんてないぞ、帰れ」

っと酒を飲む。 

スワロが一歩前に出て、

「私はマイズの族長リケの娘、スワロ。厄災討伐の為にノイデンより冒険者惣一郎殿を、マイズの村までの案内の途中、この避難所に立ち寄っただけだ。生きる希望を無くしたのなら勝手に死ね! だがまだ諦めてないなら、この悪夢は直に終わる!」

凛とした態度のスワロに目が覚めたのか、サディーニはマイズの村の族長リケを知る者であった事もあり、現状を話し始めた。

カーマの町に住んでいた避難民達は、エリリンテの兵が敗れた後、前線で防衛線を張る為と町を追いやられ、水の出るこの場所で耐え忍んで来た。

物資もほぼ届かず、狩りが出来る男達や冒険者達も前線に連れて行かれた事もあり、ここで他の難民から物資を奪い合う盗賊の様な生活に落ちたと語る。

だが、リケを知る者としての礼儀で説明はしたが、厄災にこの男が勝てるとは思わないし、話した通り分ける食糧もないと、サディーニは酒を飲む。

すっかり蚊帳の外の男達は、場違いな空気に口を閉じていた。

惣一郎は出ようと、スワロの肩を叩く。

テントを出て、前線のカーマの町に向かうのかと思いきや、惣一郎は来た道を戻り始める。

スワロには惣一郎がこのまま、ここの人達をほっとく訳が無い事を知っていた。

崖を登り道に出ると、クロに草原までダッシュでお願い!っと荷車を走らせる。

クロにも伝わっていたのだろう、全速力で走り出す。

あまりの速さに恐怖を覚える惣一郎だった。




草原まで戻って来ると、みんなで遠くに見たノイテを探す。

クロは道から草原の中に入っていき、草原を荷車が走る。


まだ陽は高かった。





しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。  これが全ての始まりだった。 声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。  なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。 加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。  平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。 果たして、芳乃の運命は如何に?

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...