異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付

文字の大きさ
上 下
66 / 409
第四章

三十五話 【冷たい空】

しおりを挟む
「たっ、大変なんだ。カハルだ! カハルの一味が来た!」

次から次へと、今度は何? カハル? 

惣一郎は疲れていた。

徹夜明けで少ししか、寝ていなかったからだ。

チーム名も適当なわけだ。

この騒ぎにギルマスも、二階から降りてくる。

「何事だ!」

「カハルの一味が来たんだ! この街に来るぞ!」

ギルマスの顔色が変わる。

「すぐ町の門を閉めろ! 門から近い者は避難させるんだ! よりにもよって、こんな時に……」

カハルの一味とは、厄災によって故郷を追われた難民が、盗賊に成り下がった者達の事だった。

難民の受け入れは各地で行われていたが、景気の悪い今のこの国では、その難民の扱いにも問題が多く、一部の難民は国への不満から盗賊になり、略奪を繰り返し問題になっていた。

その中でもカハルの一味は、元冒険者や騎士達の集まりで、武力と残忍な行いで名を知られていた。

厄災の出現はこんな形でも暗い影を落としていた。

まぁ、相手が盗賊なら、惣一郎達の出番は無いだろう。

「冒険者諸君! どうやらこの街はまた、危機的状況にある。今、前線で活躍してくれていた冒険者は、前回のムカデ討伐で戦える状況にない。ここに居る諸君で、この危機を乗り越えるしか無いのだ! 奴らの中には見知った者も居るだろう、だが、奴らはもう人の道を外れた者たちだ。決して油断はするな! この街を我らで守るぞ!」

「「「 おおおおおおお! 」」」

ベンゾウも腕を上げ叫ぶ。

この子はどうしてこう、感化されやすいのか……

「惣一郎殿、他所から来た其方には申し訳ないが、この街の行く末がかかっている。もしもの時は力添えをお願いしたい」

そう言うとギルマスが深々と頭を下げると、ギルドにいる数十人の冒険者達も一斉にこちらを見る。

わざとだな…… 断れない奴じゃんコレ!

「わかったよ……」

惣一郎が了承すると、そこにいた冒険者達は、ざわざわ騒ぎだし、行けるかも、街を守るぞ! など、口々に士気を高めていた。



門の前の広場に、武装する冒険者達が集まり出す。

ギルマスが忙しそうに、配置などを指揮していた。

すると門の上にいた見張りが「来たぞ!」っと叫ぶ。

惣一郎達も興味から、3m程の壁の上に登り、敵を確認する。

「あれ、60人はいない? こっち15人じゃん」

不利な状況にも惣一郎は、出番が来そうって事に面倒臭いとぼやくだけだった。



門の向こうで馬や荷車に乗った盗賊達の中を、一台の馬車が前に出る。

中から現れた男は、ぼろ布を纏った少女を抱えていた。

「よぉ[ロウガ]久しぶりだな。今は、ギルマスなんかやってるんだってな!」

ギルマスの知り合いらしい。

街の壁の上には、ギルマスと遠距離攻撃が出来る冒険者が5名ほど立っていた。

「カハル! 落ちぶれたな、ここに何の様だ!」

「いや~ 新種の魔獣で大変だったそうじゃないか? 心配でよ~ 予定一つ飛ばして会いに来てやったぜ!」

情報は筒抜けと言う事か、もしかしたら新種が現れたのもコイツらの仕業かも知れない。

門の中には冒険者が9名、合図を待っていた。

「心配かけた様だなカハル。もう新種の件は片付いた。用はないだろう、帰れ!」

「おいおい、いいのかよ! 土産も持って来たんだぜ~ ほら!」

ボロを纏った少女を、投げ落とすカハル。

少女は耳を千切られた、ピノであった。

顔も殴られ腫れ上がり、血だらけで、生きているのかも、ここからじゃわからなかった。

「キサマーー! 攫ったのか!!」

声を荒げ、怒りをあらわにするギルマス。

合図を出すにはまだ距離があり、固く握られた拳からは血が滲んでいた。

惣一郎は壁を飛び降り、状況が分からないのか普通に歩いてピノに近づく。

スワロとベンゾウもその後を追い歩き出す。

カハルもギルマスも、あまり自然に歩み寄る惣一郎に、違和感すら感じず、ただ見ていた。

惣一郎はピノに近付き、まだ小さく息をしていた少女に冷静にクリーンをかけ、傷の手当てを始める。

「な、なんだ? 娘の保護者か?」

自然と現れた惣一郎に、カハルは近くで何かを感じ取っていたが、手下の盗賊達の手前、感じ取った何かを考える前に虚勢を張る。

「その小娘、いい杖持ってたんで攫ったんだが、具合も良かったぜ~ ケケケケッ」

下品に笑うカハルに惣一郎は静かに、

「ベンゾウ、スワロ…… やれ」

静かにキレる惣一郎の言葉に、ふたりは動き出す。

手当てを簡単に済ませ惣一郎は、少女を抱え門に向かって歩き出す。

「なっ、待て」っとカハルが言い終わる前に、首が前に落ちる。

その横には、分厚いメガネの銀髪の少女が、冷たい目で怪しく光る2本の小刀を持っていた。

スワロが杖を構えると、8本の青白く光る光剣が現れ、雨の様に盗賊達に光線となって降り注ぐ。

馬車の上に銀髪の少女はもういない。

盗賊達の悲鳴の先に閃光となっていた。

スワロは深く集中し光剣を作り出す、8本、16本、32本と……

壁の上では思考が止まった冒険者達が、この惨状を目に焼き付けているだけだった。

ピノを抱えた惣一郎は門の前で止まり、壁の上のギルマスに、

「開けて」

っと、言葉を投げる。

数々の死線を乗り越え、ギルドマスターという地位まで登りつめた男は、湧き出す汗に震えた声で、門を開ける様に指示をする。

中の冒険者達に、すぐ治癒室に運ばれていくピノを見送り、心配そうに駆けつけたクロの頭を撫でる惣一郎。

振り返ると、もう終わっていた……

「「 ご主人様 惣一郎殿 」」

戻るふたりに「お疲れ様」と声をかけ、惣一郎はギルマスに、

「倉庫に戻ります。後の事はお任せします」

そう言い残し、3人と1匹はその場を去ろうとする。

静まり返り動けない冒険者達。

すると、ベンゾウがクンクンと匂いを嗅ぎ、國千代が空を切る。

その場にいた冒険者の、1人の首が落ちる。

内通者だろう…… だが、どうでもいい。

街の危機を救った惣一郎達に歓声も無く、ただ空は曇っていた……





しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...