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第七章

二話【マナー】

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なぜか夕飯の仕込みの最中のはずの女将の旦那に、部屋に案内され休む惣一郎。

ブラギノールさんは隣の部屋である。

狭い部屋にベッドが置かれ、窓際の植木鉢が唯一の装飾品だった。

惣一郎はその植木鉢の植物だけをアイテムボックスに収納すると、残った鉢に種を置く。

小さな植木鉢でも問題なく村への入口となる木が生える。

その小さな緑に触れると惣一郎は村におり、ミネアが出迎える。

「おかえりなさい惣一郎様」

「ただいま。すぐに戻るんだけどね!」

「そうなんですか?」

「さっき話した人と宿に泊まることになってね。夕食も向こうで食べるよ。部屋に鉢植えがあってさぁ、ユグポンに繋がるか試しただけなんだ」

「そうでしたか……」

中庭ではまだ戦闘訓練が行われており、肩で息をするタイガとジャニーを、しれっとした顔のベンゾウが見下ろしていた。

「ご主人様! もう用事済んだの?」

「いやまだ。ちょっとのぞいただけで、すぐに戻るよ」

「えぇ~」

不満そうなベンゾウの頭に手を置く惣一郎。

「旦那、ハアハア。訓練にならんぞ!」

だろうね……

「ドラミは?」

「わかんない」

「そう言えば朝から見ませんね」

「ドラミの方が訓練になるんじゃないか?」

「ベンゾウ、ちゃんとやってるよ!」

ちゃんとするから、ついて行けないんです……

「呼んで来ますか?」

「いや、後で行き合ったら頼んでおいてくれ。ゴゴ達から連絡は?」

「いえ、まだです。暗くなる前に戻るとは言ってましたが」

「無事なら良いんだ。それと大陸を渡るのに船が出てないらしいんだ。何か手を考えないと」

「船ですか……」

ミネアが考え始めると、籠一杯に獲れた野菜を持ってジル達が畑から帰ってくる。

「旦那様、お帰りは夜かと!」

「うん、一旦戻っただけ」

すると考え込むミネアに気がつくジル。

「どうしたの? ミネア」

「いえ、大陸を渡る船がないらしくて」

「誰も行かないものねぇ」

ジルまで一緒に考え始める……

「まぁ、近くまで行けば何か別の手があるかも知れん。邪魔してごめんよ」

「いえ、お役に立てずに…… 夕食は採れたての野菜たっぷりのシチューですよ!」

「すまん、道中知り合った人と宿に泊まることになってね、一緒に食事する約束なんだ」

「知り合った? 大丈夫なのですか?」

「ああ、首に傷も無いし、薬を売って旅をしてる人なんだ」

「あら、まさかブラギノールさん?」

「えっ、知ってるのジル!」

「はい、以前は村にもよく来てました。あちこち旅してる薬屋は珍しいですからね。ブラギノールさんなら大丈夫でしょう」

「ブラギノールさんなら私も子供の頃に助けて貰った記憶が……」

ジルの後ろのインドも知っているようだった。

まさかの有名人……

「彼ならあちこち旅して回ってるので、何か情報をお持ちかも知れませんよ」

なるほど…… 相談してみるか?

「わかった、ありがとう。じゃ一旦戻るよ。また夜には帰る」

「はい、お気をつけて」

ベンゾウ、降りろ……

背中によじ登るベンゾウを下ろすと、惣一郎はまた宿へと戻って行く。



玄関を出るとまた狭い部屋だった。

しかし便利な種だ……

植木鉢でも使えるとは、アイテムボックスにも一つ、用意しておこう。

ベッドにクリーンをかけると時間まで横になり、ネットで鉢と鉢植え用の土を購入する惣一郎。

部屋の外からは美味そうな匂いが漂い始める。




コンコン。

「惣一郎さん、食事の準備が出来たそうですよ」

「はい、今行きます」

一階の食堂に降りると、宿に泊まってた人達が数人、狭い食堂ですでに夕食を食べていた。

テーブルに座ると女将が忙しそうに料理を運んでくるが、話しかける暇も隙も無く、戻って行く。

照れちゃって可愛い♡

「さぁ食べましょう! どれも美味しいですよ」

そう言うとブラギノールさんが食べ始める。

クチャクチャと……

実に残念だ。

良い人なのだが、クチャラーだったとは……

料理は確かに美味いのだが、ブラギノールさんの口から漏れるクチャクチャという音に、美味さも半減していた。

気にしだすと味なんて分からん!

クチャクチャと、ニコニコ笑顔のブラギノールさんを目の前に、惣一郎は静かに料理を口に運ぶ。

鳥肌を立てながら……





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