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第六章

二十話【不安な旅立ち】

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ダリの実は確かに効いた。

さっきまでの吐き気も治り、また先を急げそうだった。

「ありがとう、効いたよ」

「いえ同じ旅人、助け合いですからね。っと、申し遅れました。私も旅をして薬を売り歩く[ブラギノール]と言います」

「えっ! あ、ブラギノールさんね。びっくりした。俺は惣一郎と言います。助かりましたよ、おかげで先を急げる」

「いえ、いけません! 吐き気や眩暈が治っても、魔力に干渉している事に違いはないのですから。今日はもう無理しないほうがいいです。転移は日に三度が旅人の常識ですよ!」

「そ、そうなのですか…… すいません遠くに行くのは初めてでして」

「いえ、それでこちらの水筒は?」

「すいません、助けて頂いたのに。でもそれは偶然手に入れた物でして一つしかないんです。代わりに薬を売ってくれませんか? まとめて買わせて貰いますよ」

「そうですか、残念です。ええ勿論、薬を売るのが商売ですから、こちらも助かります」

嬉しそうにボラ…… いや、ブラギノールは、惣一郎の目の前に箱を広げ、薬の説明を始める。

酔い止めに頭痛薬、咳止めに下痢止めなど、多種多様の薬の中に、痔の薬はなかった……

全てこのブラギノールが作った薬らしく、効き目も実証済みな事から、惣一郎はあるだけ全て買ってもいいと思ったが、ブラギノールがそれを断る。

「他にも必要な方がおりますから!」

ええ人や!

分けてもらえるだけ買取、言い値の金貨に色を付けてを渡す。

「いや、いい取引が出来ました!」

「いえ、こちらこそ! もしかしたら船旅になるかもしれないので、本当助かります」

「船旅? 失礼ですが、どちらに?」

「いえ…… ちょっと北に……」

「まさか、エノルガス大陸に渡る気なのですか?」

「いえいえ、まさか…… あはは!」

しまった、うっかり過ぎた!

ブラギノールは惣一郎をマジマジと見て、話を続ける。

「驚きました。そうですよね、まさか大陸を渡るなど。どの道船なんか出てないですしね」

そうなのか……

「私も明日、北の[ルド]に向かう予定なのです。良ければご一緒しませんか?」

「ルドですか?」

「ええ、前回から2年も開いてしまったので、薬を届けに行かないと」

不味いな……

先を急ぐと言っておいて、北に向かうのもバレてるし、断り辛いぞ……

「ルドはここから三つ先にある村ですし、丁度いいでしょう。私も長い事一人旅で、話し相手も欲しかったですしね!」

躊躇してたら決まってしまっていた様だな……

まぁ、いいか?

その後もお喋りが止まらないブラギノールと、軽く店で食事をすると、今晩の宿に向かい始める。

惣一郎は話を聞きながら、ミネアにコールで事情を説明する。




宿は、ブラギノールが毎回使っている宿があるとの事で、何処にいても水の音が聞こえる町を後をついて歩いていく。

「ここです。[ゲッシノル亭]ここの夕食に出るシチューは絶品で、惣一郎さんもきっと気に入りますよ!」

開けっ放しの扉をくぐり、カウンターに立つ女性に目が止まる惣一郎。

久々のビンゴ!

40半ばだろう家庭的な女性は、スタイルも崩れておらず、町娘に許されたエプロンから溢れそうな胸を揺らし、笑顔で迎えてくれた。

「いらっしゃい! あら久しぶりね、ブラギノールさん! 去年はどうしたんだい?」

「いや女将、また世話になるよ。去年は西で大雨が続いたせいで体を壊す人が多くてね~ 私も休みなく飛び回っていたんだよ」

「ブラギノールさんの薬は人気だからねぇ」

「そだ、今回はひとりじゃないんだ。そこで知り合ったばかりなんだが……」

「初めてまして、美しいお姉さん! 私、惣一郎と言う者でして、こうして貴方と出会う為に、旅を続けて参りました!」

「「 …………… 」」

「……はぁ」

「……惣一郎さん、女将は既婚者ですよ?」

しまった! スワロがこんな時に俺は……

これじゃキッドと変わらないじゃないか!

「えっと、お泊まりですか?」

「もちろん喜んで、貴方のお誘いお受けします!」

「「 …………… 」」

俺は病気なのだろうか……


スワロを助けに向かう惣一郎の幸先不安な一人旅が、こうして始まった。






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