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第六章

十九話【久々の一人旅】

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魔女は惣一郎達が、エノルガス大陸に向かう事を知らない。

変装した惣一郎がひとり、村を持って北に向かう事で会議は落ち着く。

村の入り口の木をケンズールの街に置いて来たゴゴ達も、変装し引き続き情報を集める事になる。

危険を承知で……

ドワーフ達が急ぎ作る惣一郎の出した合金の糸を織り込んだネックウォーマーの完成を待つ事で惣一郎も折れる。

ミネアもババから伝承について、詳しく話しを聞くと言う。

他の者も今、出来る事で協力する。

エノルガス大陸へ行く事を反対する者は、ひとりもいなかった……

惣一郎はドラゴンの鎌を収納し、必ず魔女に突き刺してやると、燻る火に誓う。





「こんなものか?」

「ええ、十分普通の旅人に見えます、惣一郎様」

町で仕入れた普通の服に、旅人らしく大きな荷を担ぐ惣一郎。

首には用心の為、金属の糸を織り込んだ布を巻いて顔半分を隠す。

元々見た目、普通の惣一郎は何処からどう見ても普通の旅人で、印象に残らない格好だった。

「なんや、もう出るんか?」

勝手に入って来て品の無い言葉を話すドラミ。

「ああ、転移屋で行ける所まで進むつもりだ」

「夜には戻るんやろ? 頼みがあんねん」

「頼み?」

「ユグポンの消耗が思ったより大きいねん、毎晩魔力を村で放出してやってくれんか?」

「ユグポンが?」

小さくても次元を開いたからだろうか?

「せ、せやねん! ほな、頼んだで」

ん? 動揺してる?

言いたい事を言うだけ言って逃げる様に帰るドラミ。

ふとベンゾウを見ると、背を向け頭の後ろで両手を組み、吹けない口笛を吹こうと一生懸命惚けるベンゾウ……

なんだ? なにか企んでるのか?

するとゴゴ達も出発すると挨拶に顔を出す。

「おお、それなら目立ちませんな!」

感心するゴゴは首に巻いた布で顔半分隠すも、図体がデカいからか、目立ちそうだ……

「おまえは目立つぞ?」

「えっ! そんなどう見ても普通ですよ、なっ」

「………」

普通ってなんだろう…… 不安になる惣一郎。

「まぁ、ふたり一組で別れて行きますので」

「誰と?」

「ジジですが?」

「組み直せ!」

結局キューテッドの仲間だったエルネンドと組むゴゴ。

ジジはもうひとりのガリンバと、ハクとキューテッドと、その三組がケンズールから情報を集めにばらける。

「お前らも決して無理はするなよ! 怪しまれたりつけられたらすぐに逃げるんだ。絶対戦うなよ」

「わかりました」

不安は残るが、それだけ言うと惣一郎は村を出る。

ベンゾウが駄々を捏ねると思っていたが、残された騎士達の他、ジルやローズなど戦闘経験がない者も数名、訓練がしたいと申し出たので、相手を頼んだら素直に引き受けた。

タイガやドラミもいるし大丈夫だろう。

ギネアは村に魔女を連れて来た責任を感じ、まだ酷く落ち込んでいるそうだ。

今はそっとしておこう。



森の中を転移しながら、ユースエル街を目指す惣一郎。

ひとりでの行動は久しぶりに感じる。

サーチを絶えず発動しながら惣一郎は、魔女の目的、魔女崇拝者、上位種、対抗策などを考えながら、森の変わらぬ景色の中を進む。

何千年と昔のお伽話の魔女。

勇者に倒された魔女が、力を失いながらも今日まで生きていた。

魔女が生きていたから呪いは解けず、蟲が増え続けているのか?

復讐したかった国はすでに、この世には無い。

分からない事を今考えても、答えが出ないのは分かっていたが、ひとりだとどうしても考えてしまう。

そのおかげか時間が進むのも早く、ユースエルの街が見えて来た。

何度か来た小慣れた街だったが、ひとり旅人の格好だったからか、歓楽街では良く話しかけられる。

「お兄さん、一人旅? 溜まってるでしょ、いい子いるよ!」

「お兄さん、うちで一杯やって来なよ!」

派手な看板の正体を見た惣一郎は、ヘラヘラと笑って誤魔化し、真っ直ぐ転移屋を目指す。

転移屋に着くと勇者の時と違って対応も冷たい。

「何処まで?」

「北を目指したいんだが」

「じゃ左の奥から[コーネイツ]、金貨7枚だ」

あれ? まぁ高いけど前より安い?

転移屋も人を見て、値段を決めている様だった。



そのまま転移屋から転移を繰り返す事6回目。

惣一郎の瞬間移動の転移とは違うのか、軽く酔って来た惣一郎。

[ゴリダダ]と言う町で、少し休む事にする。

湖の近くなのか、至る所に噴水や用水路があるおしゃれな町並み。

休憩には丁度よかった。

噴水で冷えた水をペットボトルで飲んでいると、近くにいた男が話しかけてくる。

「おや、変わった水筒ですね」

40を越えた感じの旅人だろう、大きな荷を持つ男。

「ええ、まぁ」

疑心暗鬼の惣一郎は、人の良さそうな男の首元が気になる。

「透明で軽そうだ、少し見せて貰えませんかね」

軽い眩暈と吐き気がする惣一郎。

正直関わりたくないが、図々しく隣に座る男の押しの強さに、ペットボトルを見せる。

軽さに驚き、ガラスでもない透明な入れ物に、興味深々だった男が、次に言う言葉を想像できた惣一郎。

ダンジョン産は通じないよな~

「素晴らしい! これを何処で! 是非売って頂けないでしょうか?」

ほら来た……

すると男はここでようやく、惣一郎の青い顔に気付く。

「おや、具合が悪いのですか?」

「ああ、すまんが今は頭が回らん、またの機会にしてくれ」

「転移酔いですか? 出てくる所が見えたものでして」

男はゴソゴソと自分の荷の中から、紙に包まれた黒い丸薬の様なものを差し出す。

「酔い止めの[ダリの実]です。おひとつどうぞ」

親切そうな顔の男だが、今の惣一郎は少し戸惑う。

だが、荷を漁る後ろ姿に傷はなかった。

「なに、お代を請求したりはしませんよ!」

っと笑う男に惣一郎は、毒でもキュアがあるしいいかっと、一粒口に入れる。

「にっが!」

「あはは、そりゃダリの実ですしね! 日に転移を何度もしては、体の魔力が干渉して酔うのです。お急ぎでもほどほどにしないと」

そう言う事なのね……






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