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第六章

九話【裏切り】

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カマキリの目がこっちを見ている様だったが、食べる手を止めない。

思考が止まり、ただカマキリを見上げる壁の上の傭兵達。

タイガも間近に見る大型の蟲に、固まる。

ホルスタインは倒れているギネアを抱え、額に汗を流す。

そんな中、ベンゾウはキョロキョロとカマキリを無視して、スワロを探す。

クンクン。

「どうだ、何か分かるかベンゾウ」

この男も背後のカマキリに動じず、消えたスワロを探す。

「匂いが動いてないよ。ここで消えたみたい」

「ここで?」

「でも、もう一人は、町の方に」

「キッドか!」

「わかんない」

どう言う事なんだ、なぜキッドだけ町に?

「他の匂いは? それ以外にも誰かいた様な匂いはするか?」

「その人だけっぽいよ…… スワロ消えたの?」

カマキリを無視する惣一郎とベンゾウに、まさか気付いてないのか?っと不安になるタイガ。

「だ、旦那…」

「誰か、誰かスワロを見なかったのか!」

急に大声を出す惣一郎。

背後のカマキリも手が止まる!

意味がわからないこの状況に焦りからか、怒りを露わにする惣一郎に何かを感じたカマキリが、警戒し食べかけの狼男を落とすと、両手の鎌を広げて威嚇する!

ギッチチチチ!

トゲトゲの脚を曲げ、低く構えるカマキリ!

それを惣一郎は背を向け、まだ無視をする。

その惣一郎の後ろに、ふわりと降り立つベンゾウ。

両手から青白い炎がワッと吹き出すと、2本の小刀に凝縮されていく!

ピタッと止まるカマキリ。

「ご主人様、今それどころじゃないの!」

言葉を残す様に消えるベンゾウが、ふわりとカマキリの後ろに、白いローブを広げ着地する。

後ろの気配に気付くカマキリの、振り返ろうと曲げた首が落ち、腕が落ち、胴が千切れるように前に倒れる。

ドスンっと見た目の大きさより軽い音をたて、脚が力無く折れ崩れる。

ベンゾウも怒っていた。

訳も分からず、消えたスワロに。

その場にいた惣一郎以外の全員が、巨大なカマキリが出た以上の驚きを見せる……



惣一郎はホルスタインに抱えられたギネアに掴み掛かり「起きろギネア!」っと、声を荒げる。

「うっ、ううぅ……」

「ギネア! 何があった! スワロは!」

「うぅぅ、ここは…」

「ギネア、誰にやられた!」

「…………そうだ! キッド! アイツは!」

やはりキッドなのか……

ギネアが思い出す怒りを抑えながら、語る。

魔法を放つ為、集中するスワロにキッドが後ろから、首輪をかけたのが見えたそうだ。

正気なく立つスワロにギネアが駆け寄ると、腹にキッドの拳がめり込み、苦痛に膝を突くと、壁際に不自然に生えた木の中から、ふたりの男女が現れ、スワロをその木の中に連れて消えるを視界の端に捉える。

キッドがその木を種にすると「すまない」っと、苦痛に歪むギネアの顔に拳を振り下ろし、意識を失ったと言う。

襲って来たライノルフ達は、壁の上の傭兵に襲い掛かるが、ギネア達には見向きもしなかったそうだ。

ツリーハウスか……

ツリーハウスの中に居ては強制転移出来ない。

中の2人はキッドの仲間か?

「ベンゾウ、キッドを追うぞ! タイガ、後は任せる。ギネアを連れ村に戻っててくれ」

「あっ、ああ」

ベンゾウと惣一郎は、キッドの匂いを追い、町に走り出す。

状況が飲み込めない傭兵達は、惣一郎達を目で追うが、見えなくなると外壁の外に視線を戻す。

無数のライノルフの死骸と、バラバラになった巨大な蟲。

苦痛と悔しさに震え立つ鱗族。

肩を貸す大型な獣人の女性に、オロオロする虎の獣人。

傭兵全員が口を開けたまま、町の危機は去ったと思っていいのか悩んでいた。








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