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第五章

二話【ベンゾウ】

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依頼報告を終え、近くの施設から家のある島へと帰っていくジビカガイライ。

島の施設では、薄汚れたビーチベッドに横たわり酒を飲む老人がガラス越しに、日光浴を楽しんでいた。

「ただいま、ギド爺。また昼間っから飲んでるのか? 仕事は?」

「うるせ~ おりゃ運搬屋じゃねぇ! ヒック」

「ベンゾウは?」

「随分前に家に帰ったよ!」

施設を出ると穏やかな波打ち際の先、砂浜の向こうに、煉瓦造りの立派な屋敷が見える。

海の向こうには島があり、その森の中に大きな山が見える。

砂浜にはベンゾウの物と思われる足跡とは別に、違う足跡が続いていた。

「お客様かしら?」

クロの首を撫でながら歩くセシル。

気にもしない弁慶が、家へと入っていく。

立派な外見の屋敷の中には、大きなテントが張られており、その周りに部屋が並ぶ。

テントは以前、惣一郎が出した物であった。

そのテントを潮風から守る様に建てられた屋敷。

帰るなり真っ直ぐテントに入っていく。

「ただいま。やっぱりあんたか、サーズリ」

「弁慶殿、頼む! ベンゾウ様を説得してくれ」

苦労している様な年配の男。

白髪混じりの長髪を縛る疲れた顔で、弁慶に助けを求めて来た。

「勇者祭だろ? 言ったって無駄だよ! ベンゾウが出る訳無いだろ」

「毎年俺が責められるんだ! 勇者祭になんで勇者が出ないのかって。祭りも今年で六回目だ! 頼む一度でいい、顔を出すだけでいいから、ベンゾウ様を説得してくれ」

「だってよ、ベンゾウ」

奥の仕切りの向こうから現れる、赤い下着姿の細身の女性。

猫の様な耳を動かし、長い銀髪を揺らす。

長い足の付け根に手を添え、片方ヒビが入り割れている分厚い眼鏡。

美人なのに、その眼鏡が台無しにしていた。

サーズリはつい目を逸らす。

「勇者はご主人様だ。世界を救ったのも!」

凛と凄む、細身だが筋肉質なベンゾウ。

「服を着ろ! 困ってるだろ」

弁慶が近くに脱ぎ捨てられた服を拾い投げると、

「まぁ、サーズリの旦那。アタイもベンゾウと同じ意見だ。何回来ようと参加はしないぞ」

っと、散らかった靴を拾い集める。

すると大きな犬神のクロが、ベンゾウを包む様に回り込みしゃがむ。

ベンゾウもクロにもたれかかり、ズボンを履き始める。

「ああ~ やっぱ無理か……」

渋々肩を落とすサーズリが、マジックバックから冷えた箱を取り出す。

「差し入れだ、ワーテイズで評判のプリンだ」

するとズボンに片足突っ込んだ状態で、飛びつくベンゾウ。

「また来るよ」と、悲しげに帰っていくサーズリ。

苦労してる様だ……



「依頼報告はしておいたからな、リーダー」

嫌味っぽく、ベンゾウの抱える箱からプリンを一つ取る弁慶が、そのままテーブルにつく。

テーブルにはセシルがすでに、お茶を並べていた。



すでに3個目を食べているベンゾウの耳が、ピクっと動くと手が止まる。

遅れてクロが顔を上げ、外を気にすると突然大声をあげる!

「次元が開くぞ!」

急に喋る犬に驚きもせず、外に顔を向ける弁慶とセシル!

慌てて手を使い、四足獣の様に外に走り出すベンゾウ!

弁慶達も追いかける!

島の上空には黒い雲が渦を巻き、陽の光を遮っていく。

足首にズボンを引きずる、下着姿のベンゾウが、静かに涙を流す……

その左手首には、金属のプレートの付いた組紐の飾りが光っていた。






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