上 下
29 / 194
第二章

十一話【早く言え!】

しおりを挟む
森にベンチテーブルを出し、作り置きの餡かけチャーハンを、中華スープにワカメとネギを入れた物と一緒に食べる。

出発前に町で作った物だが、湯気が立っている。

つくづく便利なスキルだ。

ドリーは飲み物しか摂らないので、種の中だ。

惣一郎は早々と食べ終え、お茶を啜りながら森を眺めていた。

大きな木の隙間から降り注ぐ木漏れ日。

風に揺れる音。

動物や虫の声。

厄災とは別に小さい虫もちゃんといる。

ただ見た事もないし名前も知らない虫。

まったりとした時間に、安らぐ惣一郎。

「ご馳走様でした」

手を合わせるスワロ。

「主人の食事は、何を食べても美味いな!」

「嫌いな物はないのか?」

「ああ」

ベンゾウ程ではないが、スワロも良く食べる。

お茶を淹れスワロに出すと、ドリーが顔を出す。

「妾にも!」

大分砕けて来た精霊。

ドリーにもお茶を淹れると、

「惣一郎は、何処に向かっておるのじゃ?」

「ん? ああ、森の北にある街だ」

「ほぉ、襲われておる集落か…… ズズズー」

「ああ、明日には…… なんて?」

「何がじゃ?」

「襲われている? 街がか?」

「ああ、その事か。昨夜から木が騒いでいたのでな」

「早く言えよ! 直ぐに向かうぞ!」

慌ててテーブルを収納する惣一郎。

スワロは食べたばかりで苦しそうだ。

ドリーのお茶を取り上げ、種に入る様に言うと、理喪棍にまたがりスワロを後ろに乗せる!

飛び上がり森の上空に出ると、遠くまで一瞬で転移する!

それを4~5回繰り返すと、遠くに煙が見えた!

「おいおい、何でもっと早く言わないんだ!」

また転移すると街の上空に出る。

瓦礫と化した街はあちこちから煙をあげ、まだ燃えている家屋も見える。

大きな外壁だけがぐるりと囲み、街の中央には、壊し飽きて寝ている様な巨大な厄災。

20m近くあるのではないか……

黒い外殻に白い模様に前脚2本が異様に長い、[ゴライアスオオツノハナムグリ]!

鍵爪の付いた鎖の様な長い前脚で大きな建物を抱える様に動かないでいる。

人の気配は…… 数人だけ?

後は転移で逃げたのだろうか?

大きな街にしては少な過ぎる。

惣一郎はそのまま、厄災の上空から殺虫剤を撒き、離れた所に降り立つ!

薬は余り効いて無い様だ!

「スワロ!」

惣一郎の声に杖を振り上げるスワロ!

惣一郎も盾を出し、ククリ刀を回し始める。

上空に現れた、大きな青龍刀が一本。

光る青龍刀はゆっくりと、さらに大きくなって行く!

最初に見た倍の大きさになると、スワロが目を開け、厄災めがけ杖を振り下ろす!

空にグルン!っと跳ね上がり、厄災に斬りかかる青龍刀!

だが大きく擦れる音をあげ、丸い体に滑る様にズレ落ちた光剣は、横の2本の脚を斬り落とすだけだった!

グイグググ……

妙な鳴き声をあげ長い前脚を鞭の様に横に振ると、瓦礫を薙ぎ倒しながらスワロに飛んで来る!

惣一郎の盾が前に現れ、瓦礫を跳ね返すが、遅れて来た鍵爪に引っ掛けられ、剥がされる!

そこにまた2本目の鞭が襲いかかって来る!

瞬間移動でスワロとの間に現れた惣一郎が、幻腕で大きくしなる前脚を受け止めるが、逸らすだけで吹き飛ばされる!

厄災は残された脚で向きを変え、また前脚を振り上げる!

惣一郎は吹き飛ばされながらもダメージは無い。

ただ援護が間に合わない焦りから、どうせなら!っとさらに遠くへ瞬間移動する!

勢い良く瓦礫を吹き飛ばしながら、スワロを襲う鍵爪を、杖で受ける気なのか諦めたのか、覚悟を決めたスワロが杖を前に構える。

惣一郎の前に強制転移したスワロが、力む瞼をゆっくりあげる。

「あれ!」

「スワロ、光剣じゃ丸い体に弾かれる! 炎槍か雷撃は!」

はっ!っと思い出した様に杖を構えるスワロ。

深く深く集中を始めると、厄災の上空に渦を巻き始める黒い雲が現れる!

所々でピカっと光る黒雲が広がると、厄災めがけ巨大な光の柱が、音も無く厄災と空を繋ぎ、景色を暗くする!

瞬時に遅れて耳を壊す様な大きな音が、全身にぶつかって来る!

ドッゴォォォォーーーーゴロゴロゴロ。

やったか!?

スワロがパクパクと何かを喋っているが聴こえない。

固まる厄災から煙が上がり始め、前脚が力無く地面に落ちる。

生存者は…… 良かった無事の様だ。

「やり過ぎだ!」

「ええ! なに~?」

「やり過ぎ、だ!!」

「なに、聴こえぬのだ!!」

「カムサムニダ!!」

「聴こえない、の、だ!!」

もういい……






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

男女比1対999の異世界は、思った以上に過酷で天国

てりやき
ファンタジー
『魔法が存在して、男女比が1対999という世界に転生しませんか? 男性が少ないから、モテモテですよ。もし即決なら特典として、転生者に大人気の回復スキルと収納スキルも付けちゃいますけど』  女性経験が無いまま迎えた三十歳の誕生日に、不慮の事故で死んでしまった主人公が、突然目の前に現れた女神様の提案で転生した異世界で、頑張って生きてくお話。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

処理中です...