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第二章

十話【奇妙な同居人】

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ポカポカに温まった惣一郎が、ガラス張りのリビングに大きなソファーセットを置き、ビールを飲む。

スワロはレモン酎ハイが気に入っている。

床から生えた枝は、器用にお猪口で日本酒を飲んでいた。

「コレは美味いぞ、惣一郎!」

枯れ木の貴婦人が頬をピンクに染めながら飲んでいた。

「なぁドリー、一緒に住むのは良いがルールを決めよう」

「ほう、制約を交わすのじゃな」

「そんな所だ。まず、寝室には絶対に入るな!」

「別に覗いたりせんが、まあ良い。約束しよう」

「あと、誰かが入っている時に、風呂とトイレに出るのも禁止だ!」

「何とも、繊細なのじゃな其方は……」

「わかったのか?」

「ああ、約束しよう。其方らが入ってる時は厠と浴場には入らんと誓おう…… おや!」

「ん?」

「またあの蟲じゃ。木々が騒いでおる」

外はすっかり暗く、ガラスは室内を写すだけだった。

「近いのか?」

「いや、大分離れておる」

じゃ、いいか……

「しかしコレ、外からはコッチは本当に見えないのか? 明かりとか」

「さよう、木の中は外界と繋がっておらん別次元じゃ。こちらから見えても向こうからは見えんよ」

何とも不思議空間……

「其方の魔力があれば、もっと広く、この木の中に町の一つも作れるじゃろ」

マジで…… 

「凄い、町持って歩けるのか」

驚くスワロ……






翌日、こうして奇妙な同居人を迎え、旅を続けていく事になる惣一郎は、北にあるルルリカ街を目指し、のんびりと歩き始める。




「なぁドリー、ダンジョンってあるのか?」

惣一郎はポケットに話しかける。

「だんじょん? 何じゃそれは?」

ポケットが答える。

やはりこの世界にダンジョンはない様だ……



しばらく歩くと、真新しく木が倒れた跡がある。

昨夜ドリーが言っていたのは、この辺りだろうか?

サーチの反応は…… 近いが、多い。

近付いて行くと、倒れた厄災に大きな蝿が群がっていた。

木を薙ぎ倒したのは、この死骸なのだろうか?

惣一郎は殺虫スプレーを取り出し、振り撒きながら近付く。

バタバタと倒れる蝿の厄災。

1m近い体をひっくり返し、脚を畳み死んでいく。

飛び立つ蝿も、瞬間移動で前に出てスプレーを吹きかける。

あっという間に十匹近い蝿が転がる。

蝿が群がっていた厄災は、大きな緑色のバッタであった。

先の尖った顔は、半分くらい蝿に喰われていた。

コイツが蝿にやられた気がしない惣一郎。

近くを見渡しサーチを広範囲で広げるが、反応は無かった。

昨夜のうちに飛び去ったのかも知れない。

蝿を収納しているとスワロが、バッタに魔石が無いと言い出す。

胸に大きく齧られた痕。

魔石部分だけを食べていった様だ。

惣一郎はバッタも収納する。

「主人の収納スキルに限界はないのか?」

至極真っ当なご意見。

だが惣一郎にも分からなかった……

「ほぉ、そんなに蟲の死骸を持っておるのか?」

ポケットから声が聞こえる。

「ああ、割と増えて来たな~ 蟻が大量だ」

「木に与えれば良かろう……」

「えっ、蟲の死骸食べるのか?」

「土に還る物は全て養分となり、木も大きく成長していくのだぞ」

「へぇ~ そうなのか…… まぁでも、死骸は売れるし、魔石も残して置きたいんだ」

「好きにするが良い…… 手に余るならと思って言ったまでじゃ」

「そうか、ありがとう」

スワロはポケットと話す惣一郎がどこか可笑しく、クスクスしながら後を付いて歩き出す。



惣一郎は途中、鹿の様な生き物を見かけるが、グルピーもオークも出ない森に、どこか違和感を感じながら歩いて行く。

「そろそろ飯にするか」

「ああ、お腹ぺこぺこだ!」





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