7 / 194
第一章
七話【ここから】
しおりを挟む
惣一郎は奴隷商のミノタウルスに、金貨300枚を渡し、スワロと部屋を出ようとする。
「待て待て、契約しなきゃ奴隷は建物から出れねぇ! 知り合いだったのか? だが焦るな」
惣一郎もパニックになっていた。
何度見てもスワロだった。
そのスワロはまだ信じきれないのか、ずっと若々しい惣一郎を見続けている。
「早く、その契約を!」
「だから焦るな! 今するよ、知り合いを買い戻すなんざ珍しくもねぇ。 ほら、ここに立ちな」
スワロの腰に手を回し、魔法陣に乗せようとする惣一郎。
痩せている……
そのスワロは、まだ惣一郎を見ている。
魔法陣が光だし、ふたりの首に紋様が浮かび上がると、静かに消えていく。
「契約の規約はどうする? 必要なさそうだが」
「ああ、要らん、解らないことがあれば、また来る」
「ああ、そうしな! じゃ以上で…って、あれ? どこ行きやがった」
惣一郎は窓から見えた町の外の林へ、スワロを抱き抱え、瞬間移動で飛んでいた。
スワロも、いきなり変わる景色にやっぱり夢かと、また目から力をなくす。
惣一郎は林の中にテントを出し、スワロを中に連れて入る。
クリーンをかけるとスワロが「まさか……」っと、懐かしい感覚に信じ始める。
「スワロ、お前だったのか召喚された勇者は」
惣一郎はテーブルに、飲み物や食事を並べながら、ゆっくりと話しかける。
まだ作り置きは無いので出来合いの物だ。
「コレって……」
「スワロ、大変だっただろ。まずは食べてゆっくり休むんだ。後の事はそれからだ」
テーブル出された料理から、漂う香辛料の香り。
見覚えのあるカレーに目を奪われる。
ひとくち口に運ぶスワロは、ぼろぼろと涙を流しながら惣一郎に駆け寄り、両手で惣一郎の顔に触れる。
「惣一郎殿なのか、本当に惣一郎殿なんだな!」
「ああ、そうだよスワロ……」
堰を切ったよう様に惣一郎に抱きつき、声を上げて泣き出すスワロ。
惣一郎もまた、涙が止まらなかった。
時間を忘れ抱き合うふたり。
スワロは、惣一郎の顔を触りながら静かに眠りにつく。
夜にベッドで目を覚ますスワロ。
惣一郎はテーブルで作業をしていた。
「起こしたか?」
「いや、惣一郎殿…… 夢じゃ無いんだな」
「ああ、まさかこの世界で…… スワロに逢えるなんてな」
ゆっくりとベッドから出るスワロ。
惣一郎は温かい食事を出し、スワロに勧める。
「胸が一杯だ。聞きたい事が山ほどある」
「ああ、ゆっくり話そう……」
惣一郎は出した料理の脇に、温かいお茶を淹れて置くと、静かに話し始める……
「そうか…… 腕を失い、命までかけて世界を救ったのか……」
「いや、俺はただ、救うつもりなんて」
「ベンゾウ殿は凄いのだな…… なのに… それなのに私は」
スワロは……
亡くなった後[世界]から勇者として、この世に召喚されたそうだが、惣一郎の料理も杖も無いスワロは、その期待には応えられず、何度も危ない目に遭い、やがて奴隷商に囚われ売られたそうだ……
幸いにもこの荒野では売れ残り、ひもじい生活を強いられるも、体や命に危険は無かったらしい。
正に運命の悪戯。
お互い死んだ後の世界で巡り合う。
ひとり寂しかった惣一郎にも、見知った……
スワロと出会う事が、どれだけ救いになるか……
だが、惣一郎にずっと抱えていた罪悪感が込み上げる。
「全部俺のせいだ…… 済まなかったスワロ!」
「何を言う、惣一郎殿の所為なんかじゃ、全部私が悪いのだ。分不相応なのだ…… マイズを取り戻す事もひとりじゃ何も出来なかった…… 惣一郎殿に頼り、自分が強くなったなどと勘違いしていたのだ。聖騎士に囲まれた時も魔法が使えないだけで、なんと無力だった事か…… それなのに、世界を救う使命を受けたと舞上がり、来てみればこの様だ! 恥ずかしい限りだ……」
大変だったのだろう……
杖も無く連れて来られた異世界で、ひとり生きていく辛さは、惣一郎には良くわかる。
「スワロ、お互い死んで別の世界で巡り逢えたんだ、凄い事じゃ無いか! また一緒にやらないか? 厄災を倒す旅を」
「惣一郎殿……」 グスン……
「待て待て、契約しなきゃ奴隷は建物から出れねぇ! 知り合いだったのか? だが焦るな」
惣一郎もパニックになっていた。
何度見てもスワロだった。
そのスワロはまだ信じきれないのか、ずっと若々しい惣一郎を見続けている。
「早く、その契約を!」
「だから焦るな! 今するよ、知り合いを買い戻すなんざ珍しくもねぇ。 ほら、ここに立ちな」
スワロの腰に手を回し、魔法陣に乗せようとする惣一郎。
痩せている……
そのスワロは、まだ惣一郎を見ている。
魔法陣が光だし、ふたりの首に紋様が浮かび上がると、静かに消えていく。
「契約の規約はどうする? 必要なさそうだが」
「ああ、要らん、解らないことがあれば、また来る」
「ああ、そうしな! じゃ以上で…って、あれ? どこ行きやがった」
惣一郎は窓から見えた町の外の林へ、スワロを抱き抱え、瞬間移動で飛んでいた。
スワロも、いきなり変わる景色にやっぱり夢かと、また目から力をなくす。
惣一郎は林の中にテントを出し、スワロを中に連れて入る。
クリーンをかけるとスワロが「まさか……」っと、懐かしい感覚に信じ始める。
「スワロ、お前だったのか召喚された勇者は」
惣一郎はテーブルに、飲み物や食事を並べながら、ゆっくりと話しかける。
まだ作り置きは無いので出来合いの物だ。
「コレって……」
「スワロ、大変だっただろ。まずは食べてゆっくり休むんだ。後の事はそれからだ」
テーブル出された料理から、漂う香辛料の香り。
見覚えのあるカレーに目を奪われる。
ひとくち口に運ぶスワロは、ぼろぼろと涙を流しながら惣一郎に駆け寄り、両手で惣一郎の顔に触れる。
「惣一郎殿なのか、本当に惣一郎殿なんだな!」
「ああ、そうだよスワロ……」
堰を切ったよう様に惣一郎に抱きつき、声を上げて泣き出すスワロ。
惣一郎もまた、涙が止まらなかった。
時間を忘れ抱き合うふたり。
スワロは、惣一郎の顔を触りながら静かに眠りにつく。
夜にベッドで目を覚ますスワロ。
惣一郎はテーブルで作業をしていた。
「起こしたか?」
「いや、惣一郎殿…… 夢じゃ無いんだな」
「ああ、まさかこの世界で…… スワロに逢えるなんてな」
ゆっくりとベッドから出るスワロ。
惣一郎は温かい食事を出し、スワロに勧める。
「胸が一杯だ。聞きたい事が山ほどある」
「ああ、ゆっくり話そう……」
惣一郎は出した料理の脇に、温かいお茶を淹れて置くと、静かに話し始める……
「そうか…… 腕を失い、命までかけて世界を救ったのか……」
「いや、俺はただ、救うつもりなんて」
「ベンゾウ殿は凄いのだな…… なのに… それなのに私は」
スワロは……
亡くなった後[世界]から勇者として、この世に召喚されたそうだが、惣一郎の料理も杖も無いスワロは、その期待には応えられず、何度も危ない目に遭い、やがて奴隷商に囚われ売られたそうだ……
幸いにもこの荒野では売れ残り、ひもじい生活を強いられるも、体や命に危険は無かったらしい。
正に運命の悪戯。
お互い死んだ後の世界で巡り合う。
ひとり寂しかった惣一郎にも、見知った……
スワロと出会う事が、どれだけ救いになるか……
だが、惣一郎にずっと抱えていた罪悪感が込み上げる。
「全部俺のせいだ…… 済まなかったスワロ!」
「何を言う、惣一郎殿の所為なんかじゃ、全部私が悪いのだ。分不相応なのだ…… マイズを取り戻す事もひとりじゃ何も出来なかった…… 惣一郎殿に頼り、自分が強くなったなどと勘違いしていたのだ。聖騎士に囲まれた時も魔法が使えないだけで、なんと無力だった事か…… それなのに、世界を救う使命を受けたと舞上がり、来てみればこの様だ! 恥ずかしい限りだ……」
大変だったのだろう……
杖も無く連れて来られた異世界で、ひとり生きていく辛さは、惣一郎には良くわかる。
「スワロ、お互い死んで別の世界で巡り逢えたんだ、凄い事じゃ無いか! また一緒にやらないか? 厄災を倒す旅を」
「惣一郎殿……」 グスン……
23
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる