ドレモト外伝 異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!短編集

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005【カツオとワカメ】

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「ちっ! なんだよマーマンかよ」

ここはチョイロの港から西に、海沿いを進んだ先にある漁業が盛んな[トノマの町]の商会であった。

「ブロ 売りたい」

「あぁ~ん マーマンがブロをだ? なんの冗談だぁ」

「ブロ 捕る カツオ 売る!」

「あっはははは! ブロはお前らの天敵だろうが、それを捕まえて来るだと! コイツは傑作だ! ああいいぜ、捕まえて来れるならな」

「約束 カツオ ブロ 売りに来る」

「はいはい、さっさと出てけ! 商売の邪魔だ!」

マーマンのカツオは、そのまま商会を出て、海岸へ向かう。

海岸を進むと林の中に、8人のマーマンがいた。

「カツオ! おかえり」

「ワカメ ただいま」

カツオは拙い言葉で仲間に、約束を取りつけてきた事を伝えると、奥からエルフの子供が現れ、

「お魚さん! おかえり」

「お魚 違う カツオ」

カツオとワカメが、奴隷として捕まっていた仲間を助け出した際、偶然居合わせた子供であった。

奴隷商から逃走中のカツオ達は、先立つものもなく、腹を空かせた仲間の為に、ブロ狩りを決意したのであったのだ。

マーマン達は、4本の木の間に大きな穴を掘り、固い木で、槍を削り出す。

カツオは固いサンゴで防具を作る。

「カツオ なんだソレ」

「体 守る ある男に 教わった」

それは惣一郎が以前貸した、プロテクターを真似たものであった。



翌朝、早朝から海に入るカツオ。

仲間達は木の上で、カツオの帰りを待ち構える。

これも以前、力無い冒険者の知恵を真似たものであった。

だが、カツオは中々戻って来なかった。

ブロの棲家である入江から離れており、カツオがブロを見つける事が出来なかった為である。

力無く戻ってくるカツオ。

「ブロ いない」

「場所 違う?」

「ハラ へった」

落ち込むマーマン達に、エルフの少女は、

「場所じゃなくて、時間なんじゃない?」

「そうだ! 朝 ブロ 入江帰る ここじゃない! お前 天才!」

マーマン達は木の皮を咥え、飢えを凌ぎ、夜を待つ事にした。



夜になり、暗い海に入るカツオ。

仲間達は木の上でコクコクと、居眠りをする。

しばらくすると、カツオが傷だらけで帰って来た!

「カツオ 来た! みんな 起きろ!」

ワカメがみんなを起こし、槍を構える。

息を切らし、傷だらけのカツオは、追いかけて来るブロを必死で誘導する。

カツオは事前に、砂浜に刺して置いた槍を手に取り、仲間の元へ走る!

ブロもすぐ後ろに迫って来ていた!

だが、先に穴に落ちたのはカツオだった。

勢いよくブロもその上に落ちる!

木の上で混乱するマーマン達!

「カツオ!」

すると、落ちてから動かないブロが、動き出す。

「危なかった! 穴 忘れてた!」

丁度カツオが持っていた槍が、運良くブロの口の中から頭部を貫いていたのだ。

「「「「 カツオ! 」」」」

幸運に恵まれたマーマン達は、木から降りると喜び跳ね回る!

少女も混ざり、ゴハンゴハンと跳ね回る。

マーマン達は、簡易のソリを作り、ブロを乗せると、傷ついたカツオを残し、夜にもかかわらず、逃亡中なのも忘れ、テンション高く、町へ向かう。

だが道中ふと、少女が、

「ねぇ、みんなで行って大丈夫?」

「「「「 忘れてた! 」」」」

その場で悩み出す、マーマン達。

するとそこに、早朝から漁に出る為、準備をしていた漁師が現れる。

「オメ~達、こんな所で何を騒いでんだ?」

ワカメが、代表して答える。

「ブロ 売りに来た!」

「売りに来たってオメ~ こんな時間にか? 店もギルドもやってね~ぞ」

「ハラ へった すぐ 売りたい」

「オメ~達が、倒しただか? あんれ立派なブロじゃね~か!」

「仲間 死にそう すぐ売れるとこ どこ?」

「だども、売っても飯屋もやってね~ぞ。 こんな時間に起きてる奴は、漁師ぐらいなもんだ」

ワカメ達は、腹を押さえて悩み出す。

「オラが、食いもんと交換してやろうか?」

「本当か! 頼む!」

漁師は、これから餌に使う小魚数十匹と、自分の弁当を出す。

余りにも釣り合わない交渉だった。

「食い物!」

「待って! この魔獣はいくらで売れるの?」

「さぁ?」

「きっともっと、いっぱいのご飯と交換出来るはずよ! これっぽちじゃまた、みんな直ぐお腹減るわ!」

「ちっ! 余計な事を! マーマンだけなら騙せたのに、だば勝手に飢え死にしろ!」

マーマン達は、よだれを垂らしながらゴハン~っと漁師を見送る。

「もう少し我慢しましょ! きっと売れればいっぱい食べられるわ!」

肩を落とし諦めるマーマン達は、カツオの所に戻る。

翌朝、手当をしたカツオとワカメふたりで、町へブロを運ぶ。

重そうに少しずつ進みながら。

空腹で力が出ないふたりは、何とか商会の前まで運ぶ。

「おいおい、本当に倒して来やがったのか!」

驚く職員は、立派なサイズのブロを見て、目を丸くする。

「しかも頭部へ一撃か!」

職員は、安く買い叩こうと騙す気でいたが、自分の頭に穴が開く姿を思い浮かべ、考えを改める。

「ちっ! ほらよ45ギーだ! とっとと持って帰りな!」

カツオは残された片腕で麻袋を拾い、商会を出る。

その足で食べ物を大量に買い、ブロを運んだソリに乗せて、みんなが待つ林へ戻る。



すると海岸を、エルフの少女と仲間のマーマンを乗せた檻を引く奴隷商人達と、ヘラヘラ笑う漁師を見かける!

「んだ、奴隷の首輪ばしてたんで、ピンと来たんだよ! こりゃ逃げ出したんだと!」

「ああ、助かった、エルフは貴重だからな! ほれ、礼だ」

奴隷商人達はまだ、カツオ達に気付かない。

「ワカメ! 隠れる!」

ワカメの腕を引っ張り、草むらへ姿を隠す。

ワカメは果物を食べながら、

「カツオ! 食べ物が!」

「黙る! 隠れる!」

砂浜に残された食糧を見つける商人達は、

「おい! 近くにいるぞ!」

っと警戒を強めるが、カツオ達を見つけられず、そのまま奴隷商のあるチョイロの町に戻って行った。




腹いせにグチャグチャにされた食糧を前に、

「カツオ どうする」

「決まってる 助ける!」

っと、まだ食べれそうな食糧をかき集め、持てるだけ持って、奴隷商人達の後を追う。




距離を取りながら後を追うと、商人達は檻を引く馬を止め、野営の準備を始める。

チョイロの町はまだ先だ、ここで休むのだろう。

カツオとワカメは木陰に隠れ、商人達が寝静まるのを待つ。



深夜、そっと檻に近づくワカメが、食べ物を中に入れて隠れる。

カツオが小石を投げると、マーマンのひとりが気が付き、小声でみんなを起こし食べ物を食べる。

だが、檻の中に少女の姿だけなかった。

少女だけ、商人達が寝る側の木に、縛り付けられていた。

「ワカメ みんな 助ける 海 逃げろ! カツオ エルフ 助ける」

コクンと頷くワカメ。



そーっと忍足で、少女が縛られた木の後ろに回り込むカツオ。

小さな石のナイフで紐を切ると、少女の口を塞ぎ、茂みに隠れようとする!

だが、少女の足に縛られた紐が、商人を起こす!

「やっぱり来やがったな!」

「お魚さん! 逃げて!」

小さなナイフを構え、少女の前に立つカツオ!

4人の商人達は剣を抜き、構えると!

馬が暴れ出し、繋がれた檻を引っ張り走り出す!

「なっ! もう一匹いやがったか!」

馬にしがみつくワカメ!

そのまま馬ごと崖から落ち、下の岩場で檻が壊れると、マーマン達が泳いで沖に逃げていく。

「クソ! 構うな、エルフが先だ!」

だが、その一瞬の隙をつき、カツオは少女を引っ張り走り出していた!

「追え! 絶対逃すな!」

暗い茂みを、夢中で走る少女とカツオ!

追手はそこまで来ている。

「ハァハァ、お魚さん! ハァハァ、もう走れないよ」

カツオは少女を抱え、近くの岩場へと隠れる。

「ハァハァ、お魚さん、どうして助けてくれるの?」

「ある男 カツオ 助けてくれた 名前も くれた だから 困ってる人 助ける 当たり前」

カツオが胸から、潰れた果物を少女に差し出す。

「お魚さん…… ありがとう」

「朝まで ここ 隠れる いいな! 絶対 出るな」

そう言い残し、カツオが茂みへ消えていく。



しばらくすると離れた場所から、

「いたぞ! こっちだ!」

っと、声が遠のいて行く。

お魚さん……




翌朝、エルフの一団が馬で、チョイロを目指しやって来る。

「おい! マーマン、生きてるか?」

傷だらけで倒れるマーマンは、出血の量から生きてはいないと思われていた。

だが、力無く片目を開けるマーマン。

「我々は攫われた、同胞の子供を探している。見かけなかったか?」

「し、しげみ……い…わば」

最後の言葉と最後の力で、岩場を指差した片腕のマーマン。

エルフ達が、示された方に目をやると、朝日が岩場の影で道を作っていた。


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