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003 【大魔導士スワロ】

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あれから騎士団や貴族の方々が、マイズの村に視察によく訪れて来る。

それをマイズの村の代表として、忙しく対応するスワロは、疲れていた。

「はぁ~ 癒されたい……」

その日も、領主が訪れる予定であった。

だが誰もが、マイズの村の為でも、倒された厄災の燃えた巣を確認する為に訪れて来る訳でも無かった。

ゴキコロリ。

すでにこの名が、国中の話題となっており、聡い者達は早々と、光剣の大魔導士スワロが、ゴキコロリの関係者か、よく知る者として、近づく為に訪れて来るのであった。

それでもスワロはマイズ復興と、族長スワロがここに居ると広まる事を願い、見え透いた世辞や甘い言葉に耐える日々を送っていた。

「スワロ様[カーマ領]領主がお見えになりました」

村に一番最初に戻って来てくれた[イルマ]が報告に来る。

ダークエルフの青年イルマは、厄災が襲って来る前に、村から地方に遠征に出ていた事で難を逃れた村の者であった。

遠くの街で厄災による被害を知るが、閉鎖され戻れず、討伐に参加するも苦渋を舐めた一人であり、彼もまた、幼い妹と両親を厄災に奪われた者である。

「スワロ殿、村にも随分と人が増えたじゃないか!」

領主に同伴して来たのは、カーマの街のギルドマスターロウガであった。

元ツギートのギルマスは、厄災討伐後に前線基地だった街の復興の為、カーマの街でギルドのギルマスとして復興に尽していた。

まだ、ふた月と経ってないが懐かしさを感じる顔に、スワロも安心を覚える。

「今日は、新しく領主になられたお方の護衛で来たんだ、驚くぞ!」

マイズの村も含むカーマ領は、前領主が厄災討伐の際に亡くなっており、ずっと空白だった。

馬車から現れたのは、

「お久しぶりでございます。スワロ様」

片膝を突き頭を下げる領主は、クロイツであった。

元々親戚筋ではあったが今回無理をし、この周辺の復興の為に領主になったのだ。

「この度、カーマ領を引き継ぎました[クロイツ・ギルデリン・カーマ]に御座います」

「久しぶり、クロイツ!」

もう一度言うが、まだふた月と経ってない。

だが、彼らには久々と思えるほど色々あったのだろう……

3人は再会に華を咲かす。

厄災討伐を目にしたクロイツは、ジビカガイライを神の使者と崇拝していた。

そんなクロイツが、今回訪れたのはマイズの村の為でもあったが、使者の一人スワロに、領内の問題を相談に来たのであった。

「実はスワロ様、復興はこの一か月でマイズを中心とした外側から、大分進んできております。多くの者も故郷へと次々と戻って行き、厄災の素材で潤った国からも援助物資がどんどん送られて来ております。ですが……」

「ですが?」

「実は、一度盗賊に身を落とした者は、すぐには生き方を変えられない者もおりまして、支援物資が狙われる被害も多く報告を受けております」

「そうですか、残念ですね」

「ええ、この近くでも先日輸送中の物資が襲われております。まだ人も少ない村ですので狙われる恐れも! どうかお気をつけ下さい」

するとロウガが、

「その為、村の護衛に冒険者を派遣する事になったのだ。明日には着くと思う! どうか面倒を見てやってくれ!」

と、追加する。

「わかりました、お気遣い感謝します」

惣一郎が救った国で前を見ない者がいる。

スワロはそれに心を痛める。


死の大地と化した周辺にも、徐々に生き物が戻りつつあった。

マイズの村にも、鳥の鳴き声が聞こえる。

クロイツ達が帰って行った後、スワロは村の畑を見に行く。

畑では、故郷に戻って来てくれた数人のダークエルフと移住しに来てくれた者達が、芽吹いたばかりの村の希望に、目を輝かせながら作業していた。

「スワロ様、見て下さい! 水路を引き直したお陰で、この渇いた地ですくすくと育っております」

惣一郎に分けてもらった食糧が、マジックバッグの中で芽を出したのである。

ジャガイモであった。

この世界にはない野菜。

スワロは惣一郎が作ってくれた、このジャガイモを薄く切って油で揚げ、塩を振っただけのおやつが大好きだった。

村の特産にしようと、種芋を作る為に畑で育て始めた、今やこの村の希望である。

「ええ、この様な場所でも逞しく育ってくれ、なんと心強い! この村を支える物になるはずです。よろしくお願いしますね」

「はい! お任せ下さい」

返事を聞くと族長自ら手を汚し、畑作業を手伝い始める。




翌朝、瓶に張られた水で顔を洗っていると、イルマが慌てた様子で訪れる。

「スワロ様、冒険者の方々が今朝到着しました」

「え! 早くないか? わかった今行きます」

4人の冒険者の内の1人が、スワロを見るなり大声を出して近づいて来る。

「お姉様~!」

帽子を目深にかぶる女性に見覚えが……

「えっ! ピノ? ピノなの!」

盗賊に襲われ、耳を無くしたピノであった。

「逢いたかったです! お姉様!」

すっかり以前のピノを取り戻した様子に、スワロは感激して涙をこぼす。

「ピノ! 良かった、心配してたのよ」

「ええ、いつまでも塞ぎ込んではいられないです! ピノはもう大丈夫です!」

辛い過去を乗り越え、元気に振る舞うピノに、スワロは感激し、惣一郎達にも伝えたい気持ちでいっぱいだった。

ロウガの粋な計らいであった。

再会を喜ぶ二人に、他の冒険者が割って入る。

「ピノ、申し訳ないが今はそれどころでは!」

「そうだった! お姉様、盗賊がこちらに向かって来ています! すぐに迎え撃つ準備を!」

盗賊の集団を目撃したピノ達は、急いで知らせに休まず走って来てくれた様だった。

馬の息も荒い。

「わかりました、イルマ! すぐに皆に知らせて! 戦えない者は隠れる様に!」

スワロは亜流美を構え、ピノ達と村の入り口へ向かう。

厄災は村を襲い居座ったが、幸いな事に建物などへの被害はほとんど見られなかった。

村の外壁も、そのままの状態である。

高さ3m程の丸太を組んだ外壁が村を囲む大きな大木を繋ぐ様に張られ、弓で応戦できる様にと内側に足場が組んである。

スワロ達はそこに立ち、盗賊を待ち構える。

外壁の上にはスワロとピノ、マイズの村の弓を使える者4人。

門には、応援の冒険者3名とイルマ他、5人であった。

馬の足音が徐々に近づいて来る。

木の上に登った村の者が、

「来ました! 西側正面! 数は40!」

今のマイズの村人より多い数に、スワロは、

「良かった! 数は少ない! 十分引きつけてから迎え撃つぞ!」

族長の檄に、皆やる気を奮い立たせる!

外壁の目立つ所にひとり立つ、スワロ!

「止まれ! マイズの村に如何なる用か!」

盗賊も馬鹿ではない!

弓の射程ギリギリの所で止まり、盗賊の頭だろう男が答える。

「おいおい、こんな場所に上玉じゃねーか!」

そのやらしい笑みに、真っ先に切れたピノの光剣が2本宙に現れ、カシラを襲う!

1本目を剣で弾かれるが、2本目が肩を斬る!

「なっ! やりやがったな! 皆殺しだ!」

40人近い盗賊が一気に押し寄せる!

焦らすスワロの左腕が上がり、盗賊との距離を測ると、腕が振り下ろされる!

「撃て!」

矢が飛び交い、盗賊に雨を降らせるが盗賊も木の盾で避けながら被害を抑え近づく!

矢では6人減らしただけだった。

ピノの光剣が応戦する!

以前スワロも怒りから、数を限界を越え増やした経験がある。

今のピノがまさにそうだった。

スワロも深く集中する。

すると門にはたどり着く盗賊の一人が[インフェルノ]の魔法で、門を吹き飛ばす!

爆風の中、イルマ達が中に入れまいと剣で応戦する!

乱戦になると弓が射づらくなり慌てる中! スワロの光剣が4本、8本っと数を増やし、盗賊を襲う!

バタバタと数を減らして行く盗賊!

ピノは憧れの眼差しでスワロを見る!

舞う8本の光剣の中、スワロは外壁から飛び降り、ゆっくりと歩き出す。

盗賊の中を掻き分ける様に歩くスワロに、近づく事も出来ない盗賊達。

その残党をイルマと冒険者達が次々と倒して行く。

後方で指示していた頭の前まで進むスワロ。

顔から汗を噴き出す盗賊のカシラに、容赦なく光剣が飛ぶ!

両足両腕に刺さる光剣が、光の粒となり消えると、盗賊達は誰一人立っている者がいなかった。

村人と冒険者に怪我人は出ても死者はいなかった。

「生きている者は、手当し捕縛! 死者は捨て置け!」

イルマが仲間を先導し、生き残った盗賊を縛り上げて行く。

その数は11人であった。

「さすが、光剣の大魔道士! ピノの光剣とは比べ物にならないな!」

冒険者の言葉に、ピノ自身がなぜか誇らしげだった。

戦闘を終えるスワロは、何かを思い出す。

厄災を倒してからはずっと、穏やかな気持ちでいたスワロ。

久々の戦闘に、惣一郎達との旅の思い出を鮮明に思い出し亜流美を握り締める。

「惣一郎殿……」

「追いかけないのですか?」

スワロの独り言を聞いたイルマが問いただす。

はっ!っと我に帰るスワロ。

「ええ、私にはここで皆を……」

「スワロ様! スワロ様が皆を想う様に、我々もスワロ様の幸せを願っております。マイズの村を厄災から取り戻し、復興の為にここまで尽力されておられる。十分では?」

「私は……」

村人が集まり出し、スワロに膝を突き頭を下げる。

「スワロ様! 他国にはまだエリリンテが救われた事を知らない者いるやも知れません。ですが我々では国を越える力が足りません」

「ええ、スワロ様! 族長として世界に散った仲間の為に、旅に出てはいかがですか?」

スワロは、左手のレーテウルを見つめる。

「私は……[仲間]の為に、旅に出ます!」

「「「 はっ! 」」」

「族長! どうかお気をつけて!」



陽射しが高く暖かい日の事だった。



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