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第三章

七話[帰還]

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陽が沈み始めると、夕陽に照らされた美しい王都が見えて来た。

頑丈塀に囲まれた広い城下町。

その奥に更に高い塀に囲まれ聳え立つ立派なお城という、王都と言うに相応しい壮大な景色が士郎の目に飛び込む。

今まで見た街が、すっぽりいくつも入る程の広さであった。

『見えて来た! あれが王都だ』

家に帰って来た…… そんな感情が伝わる言い方のダリノだったが、士郎の気持ちは複雑だった。

2人の騎兵が先行し、馬車を置き去りに、どんどんと距離を離して行く。



馬車が城下町の入り口に着く頃には、鎧を纏った騎士達が大勢で出迎えていた。

「お帰りなさいませノイマ殿」

馬車に乗ったまま挨拶するノイマ。

馬に乗った騎士がそのまま馬車を誘導し、城下町へと入って行く。

士郎とハナが乗る馬も、騎士達に囲まれ馬車の後をついて行く。

反乱を起こしたギリタ軍を捕らえて帰って来たと瞬く間に話は広まり、馬車を見物に来る人集りができ始める。

騎士達はそれを掻き分けるように進み、高い壁の屋敷に入って行く。

騎士の詰所でもある宿舎だそうだ。

貴族の騎士は屋敷を持っているが、一般の騎士たちはこのような詰所が城下町に幾つかあり、そのうちの一つとの事。

そしてノイマはここの管理を任されている役付きの騎士なのだそうだ。

塀に囲まれた宿舎の前に馬車を止め、手慣れた様子で荷下ろしと馬を連れて行く兵士達。

騎士達もアイテムボックスから出した死体を並べ始める。

「シロウ殿、護衛の任務お疲れ様でした。おかげさまで無事に帰って来れた事を感謝します」

「いえ、初めてで不慣れな所もあったと思います」

「とんでもない! 貴方がいなければ私達は全員ここに帰って来れなかった事でしょう。今回の件は私の方からギルドに良くお話させて頂きます。コレは一部ですが受け取ってください」

ノイマの横に立つ若い兵士が、3つの麻袋が乗った盆を士郎に差し出す。

「今回の報酬は後日ギルドの方へ。コレは我々からの感謝の気持ちです」

ここで中身を見るのはマナー違反だろうと、そのまま麻袋を受け取り、ハナの持つバッグに入れる。

重いな……

「では、名残惜しいですがこれから忙しくなります。何かあれば私はここに詰めておりますので…… 今度食事でもしましょう。ではまた」

そう言うとノイマは屋敷へと消えて行く。

一緒に移送した兵士達もすでに消えていた。

彼らは今からが忙しくなるのだろう。

士郎は屋敷を一瞥し、頭を下げると宿舎を後にする。

「ダリノさん! 薬はどこで?」

『こっちだ! まだやってるといいが』

見えないダリノの後を追い、ハナと走り出す士郎。



入り組んだ路地の奥でドアを叩く士郎。

窓から店内の明かりがつくのが見えて、ホッとする。

「なんだ! もう今日は終わってる」

「すいません! 急ぎ薬を買いたいのですが」

『俺の名前を!』

「ダリノさんの使いで来ました」

「ダリノの? ったくこんな時間に…… 入れ」

ドアが開き中へ入ると、小太りの年配の店主が奥へと案内する。

「それで」

『アルミナの小瓶だ』

「アルミナの小瓶を一つ」

「おいおい、金はあるんだろうな? ダリノからしつこく頼まれてやっとの思いで手に入れた物だ、安くはないぞ!」

そういえば金額を聞いてなかった士郎が店主に値段を聞くと、所持金全部で足りるか心配になる金額であった。

高い…… っが背に腹は変えられん。

カウンターに金貨を並べる士郎にハナが、さっき貰った麻袋を取り出す。

『済まんな』

ハナを守って死んだんだ、安いものだと責任を感じる士郎。

店主が奥からガラスの入れ物に入った小瓶を慎重に持ってくる。

無駄に豪華な入れ物だったが、魔法がかかってるそうで、一度でも開ければ色が変わるそうだ。

中身は本物って事なのだろう。

「夜分にすいません、助かりました」

「次はちゃんと昼間に来てくれ」

不機嫌だった店主はカウンターの金貨にニコニコと顔色を変え、士郎は礼を言って店を出る。

『こっちだ!』

っと死人に振り回される士郎が、後を追いダリノの家へと向かう。

既婚者のダリノは宿舎近くに家を借りているという。

死んで間もないからかダリノの記憶に欠けてる物はなかった。





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