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第三章
六話[隊長の決断]
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馬の回復を待つと陽は高く上がっていた。
王都の近くにも関わらず、深く危険な森が敵の侵略から王都を守っているのだろう。
士郎は焦る気持ちから先頭を走り、次々と魔物を撃ち倒していた。
後ろの馬車では驚きを隠せないノイマが、窓から乗り出し、鬼気迫る士郎の背中を見ていた。
「凄まじいですね……」
並走する騎兵が隊長に話しかける。
「まさか[オーク]の群れに遭遇するとは…… ですが彼はそれをモノともしない。本当に何者なのでしょうか」
緑色の肌に下顎から伸びる牙の蛮族。
冒険者の天敵として知られる魔物の群れに、不運にも遭遇してしまった移送隊。
その群れの中を士郎がハナの指差す方へ次々と黒い石弾を撃ち込む!
オークの群れの中を突破すると、馬車と檻を積んだ荷車を先に行かせ、馬に乗った士郎とハナが、後方に下がる。
「先に行って下さい! 追いかけて来るオークを倒しながら後を追います!」
とても見た目の年齢からは感じない、逞しさを感じた。
士郎自身もこの狙撃スキルは、自分に向いていると思い始める。
オークの群れを突破し、少し距離を進むと、徐々にスピードを落とし止まる移送隊。
檻を引く一頭の馬が痙攣し始めると、息荒く横に倒れる。
無理をさせ過ぎたのだ。
回復させたつもりでもオークに襲われ、急に全力疾走する羽目になった馬は息が上がり、汗で濡れた全身から蒸気を登らせていた。
「隊長! これ以上は馬が持ちません!」
兵士達が慌ただしく水を運び、馬を休ませる。
「シロウ殿、本来森は一気に抜けたい所ですが、これ以上は無理な様です。今日はここまでにしましょう」
「まさか、オークの群れと鉢合わせるなんて、シロウがいなかったらあそこで終わってた!」
「ああ、この隊をあの数のオークの群れから守るなんて、凄い事だぞ!」
手を休めずに士郎を褒める兵士達が、士郎とハナのふたりにも休む様にと気遣ってくれる。
護衛として信頼を得た士郎だったが、気持ちは焦っていた。
「シロウ。今はどうする事も出来ません。休める時に休んでおきなさい」
服の袖を引っ張り心配するハナが、士郎を無理矢理休ませる。
『安心してくれ、俺が周囲を見張っていよう。何かあればすぐに知らせる』
そう言い残し消えるダリノの霊は、近くの木の上に現れ、周囲を見張り始める。
深夜、ノイマと話す兵士の声で目が覚める士郎が聞き耳を立てていた。
馬はだいぶ回復したと言うが、倒れた馬は息を引き取ったそうだ。
回復したと言っても、無理をさせている事に違いはないだろう。
「このまま奴らの檻を引いて行くのは無理です。隊長! ご決断を」
止血したと言っても、元軍人の6人は逃げる気力もないほど弱っていた。
このまま王都に連行しても最終的に死刑は免れない。
いっそ此処で処刑しアイテムボックスで運べば、移動に余裕が出来ると言う話しであった。
残酷だが士郎に口出せる話ではなかった。
「しかし我々の目的はあくまで連行せよとの命令です。王都で裁きを受けさせないと…… それにまだ、聞き出さねばならぬ事もありますし……」
決断に悩む隊長のノイマ。
聞き出す事とは、団長の事だろう。
起き上がる士郎にノイマが気付き、声をかける。
「起こしてしまいましたか」
「いえ、ちょうど目が覚めただけです」
起きた事で横で丸く眠るハナの温もりが冷め、お腹が冷える士郎が檻の6人を見る。
血を失った事で、夜の森の寒さに無防備に震えていた。
「彼らは死刑になるのですか?」
「ええ、それは免れないでしょう」
「隊長! ダリノの件もあります! 生かしておく必要はないでしょ!」
「王都まで後どのぐらいですか?」
「森を抜ければ半日ほどです。今から出れば明日の夜にも着くでしょう」
そこにダリノの霊がそばに現れる。
『シロウ。牙狼の群れが近くに』
シャリーの為にも先を急ぎたい……
「ノイマさん。牙狼の群れが近くまで来てます」
「サーチですか! ふむ…仕方ないですね。責任は私が持ちます。今は連れ帰る事より、我々が生き残り報告する事を優先しましょう」
彼らがして来た事の、これがこの世界の出した結果だと…… 自分に言い聞かせる士郎だった。
まだ暗い森を馬車を囲む様に、身軽な馬の手綱を引く騎兵が走る。
荷車がなくなった事に気付いているハナも何も聞かず、後方では無数の狼の遠吠えが聞こえていた。
王都の近くにも関わらず、深く危険な森が敵の侵略から王都を守っているのだろう。
士郎は焦る気持ちから先頭を走り、次々と魔物を撃ち倒していた。
後ろの馬車では驚きを隠せないノイマが、窓から乗り出し、鬼気迫る士郎の背中を見ていた。
「凄まじいですね……」
並走する騎兵が隊長に話しかける。
「まさか[オーク]の群れに遭遇するとは…… ですが彼はそれをモノともしない。本当に何者なのでしょうか」
緑色の肌に下顎から伸びる牙の蛮族。
冒険者の天敵として知られる魔物の群れに、不運にも遭遇してしまった移送隊。
その群れの中を士郎がハナの指差す方へ次々と黒い石弾を撃ち込む!
オークの群れの中を突破すると、馬車と檻を積んだ荷車を先に行かせ、馬に乗った士郎とハナが、後方に下がる。
「先に行って下さい! 追いかけて来るオークを倒しながら後を追います!」
とても見た目の年齢からは感じない、逞しさを感じた。
士郎自身もこの狙撃スキルは、自分に向いていると思い始める。
オークの群れを突破し、少し距離を進むと、徐々にスピードを落とし止まる移送隊。
檻を引く一頭の馬が痙攣し始めると、息荒く横に倒れる。
無理をさせ過ぎたのだ。
回復させたつもりでもオークに襲われ、急に全力疾走する羽目になった馬は息が上がり、汗で濡れた全身から蒸気を登らせていた。
「隊長! これ以上は馬が持ちません!」
兵士達が慌ただしく水を運び、馬を休ませる。
「シロウ殿、本来森は一気に抜けたい所ですが、これ以上は無理な様です。今日はここまでにしましょう」
「まさか、オークの群れと鉢合わせるなんて、シロウがいなかったらあそこで終わってた!」
「ああ、この隊をあの数のオークの群れから守るなんて、凄い事だぞ!」
手を休めずに士郎を褒める兵士達が、士郎とハナのふたりにも休む様にと気遣ってくれる。
護衛として信頼を得た士郎だったが、気持ちは焦っていた。
「シロウ。今はどうする事も出来ません。休める時に休んでおきなさい」
服の袖を引っ張り心配するハナが、士郎を無理矢理休ませる。
『安心してくれ、俺が周囲を見張っていよう。何かあればすぐに知らせる』
そう言い残し消えるダリノの霊は、近くの木の上に現れ、周囲を見張り始める。
深夜、ノイマと話す兵士の声で目が覚める士郎が聞き耳を立てていた。
馬はだいぶ回復したと言うが、倒れた馬は息を引き取ったそうだ。
回復したと言っても、無理をさせている事に違いはないだろう。
「このまま奴らの檻を引いて行くのは無理です。隊長! ご決断を」
止血したと言っても、元軍人の6人は逃げる気力もないほど弱っていた。
このまま王都に連行しても最終的に死刑は免れない。
いっそ此処で処刑しアイテムボックスで運べば、移動に余裕が出来ると言う話しであった。
残酷だが士郎に口出せる話ではなかった。
「しかし我々の目的はあくまで連行せよとの命令です。王都で裁きを受けさせないと…… それにまだ、聞き出さねばならぬ事もありますし……」
決断に悩む隊長のノイマ。
聞き出す事とは、団長の事だろう。
起き上がる士郎にノイマが気付き、声をかける。
「起こしてしまいましたか」
「いえ、ちょうど目が覚めただけです」
起きた事で横で丸く眠るハナの温もりが冷め、お腹が冷える士郎が檻の6人を見る。
血を失った事で、夜の森の寒さに無防備に震えていた。
「彼らは死刑になるのですか?」
「ええ、それは免れないでしょう」
「隊長! ダリノの件もあります! 生かしておく必要はないでしょ!」
「王都まで後どのぐらいですか?」
「森を抜ければ半日ほどです。今から出れば明日の夜にも着くでしょう」
そこにダリノの霊がそばに現れる。
『シロウ。牙狼の群れが近くに』
シャリーの為にも先を急ぎたい……
「ノイマさん。牙狼の群れが近くまで来てます」
「サーチですか! ふむ…仕方ないですね。責任は私が持ちます。今は連れ帰る事より、我々が生き残り報告する事を優先しましょう」
彼らがして来た事の、これがこの世界の出した結果だと…… 自分に言い聞かせる士郎だった。
まだ暗い森を馬車を囲む様に、身軽な馬の手綱を引く騎兵が走る。
荷車がなくなった事に気付いているハナも何も聞かず、後方では無数の狼の遠吠えが聞こえていた。
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