異世界に飛ばされた俺は霊感が強いだけ!

夜間救急事務受付

文字の大きさ
上 下
44 / 102
第三章

六話[隊長の決断]

しおりを挟む
馬の回復を待つと陽は高く上がっていた。

王都の近くにも関わらず、深く危険な森が敵の侵略から王都を守っているのだろう。

士郎は焦る気持ちから先頭を走り、次々と魔物を撃ち倒していた。

後ろの馬車では驚きを隠せないノイマが、窓から乗り出し、鬼気迫る士郎の背中を見ていた。

「凄まじいですね……」

並走する騎兵が隊長に話しかける。

「まさか[オーク]の群れに遭遇するとは…… ですが彼はそれをモノともしない。本当に何者なのでしょうか」

緑色の肌に下顎から伸びる牙の蛮族。

冒険者の天敵として知られる魔物の群れに、不運にも遭遇してしまった移送隊。

その群れの中を士郎がハナの指差す方へ次々と黒い石弾を撃ち込む!

オークの群れの中を突破すると、馬車と檻を積んだ荷車を先に行かせ、馬に乗った士郎とハナが、後方に下がる。

「先に行って下さい! 追いかけて来るオークを倒しながら後を追います!」

とても見た目の年齢からは感じない、逞しさを感じた。

士郎自身もこの狙撃スキルは、自分に向いていると思い始める。

オークの群れを突破し、少し距離を進むと、徐々にスピードを落とし止まる移送隊。

檻を引く一頭の馬が痙攣し始めると、息荒く横に倒れる。

無理をさせ過ぎたのだ。

回復させたつもりでもオークに襲われ、急に全力疾走する羽目になった馬は息が上がり、汗で濡れた全身から蒸気を登らせていた。

「隊長! これ以上は馬が持ちません!」

兵士達が慌ただしく水を運び、馬を休ませる。

「シロウ殿、本来森は一気に抜けたい所ですが、これ以上は無理な様です。今日はここまでにしましょう」

「まさか、オークの群れと鉢合わせるなんて、シロウがいなかったらあそこで終わってた!」

「ああ、この隊をあの数のオークの群れから守るなんて、凄い事だぞ!」

手を休めずに士郎を褒める兵士達が、士郎とハナのふたりにも休む様にと気遣ってくれる。

護衛として信頼を得た士郎だったが、気持ちは焦っていた。

「シロウ。今はどうする事も出来ません。休める時に休んでおきなさい」

服の袖を引っ張り心配するハナが、士郎を無理矢理休ませる。

『安心してくれ、俺が周囲を見張っていよう。何かあればすぐに知らせる』

そう言い残し消えるダリノの霊は、近くの木の上に現れ、周囲を見張り始める。




深夜、ノイマと話す兵士の声で目が覚める士郎が聞き耳を立てていた。

馬はだいぶ回復したと言うが、倒れた馬は息を引き取ったそうだ。

回復したと言っても、無理をさせている事に違いはないだろう。

「このまま奴らの檻を引いて行くのは無理です。隊長! ご決断を」

止血したと言っても、元軍人の6人は逃げる気力もないほど弱っていた。

このまま王都に連行しても最終的に死刑は免れない。

いっそ此処で処刑しアイテムボックスで運べば、移動に余裕が出来ると言う話しであった。

残酷だが士郎に口出せる話ではなかった。

「しかし我々の目的はあくまで連行せよとの命令です。王都で裁きを受けさせないと…… それにまだ、聞き出さねばならぬ事もありますし……」

決断に悩む隊長のノイマ。

聞き出す事とは、団長の事だろう。

起き上がる士郎にノイマが気付き、声をかける。

「起こしてしまいましたか」

「いえ、ちょうど目が覚めただけです」

起きた事で横で丸く眠るハナの温もりが冷め、お腹が冷える士郎が檻の6人を見る。

血を失った事で、夜の森の寒さに無防備に震えていた。

「彼らは死刑になるのですか?」

「ええ、それは免れないでしょう」

「隊長! ダリノの件もあります! 生かしておく必要はないでしょ!」

「王都まで後どのぐらいですか?」

「森を抜ければ半日ほどです。今から出れば明日の夜にも着くでしょう」

そこにダリノの霊がそばに現れる。

『シロウ。牙狼の群れが近くに』

シャリーの為にも先を急ぎたい……

「ノイマさん。牙狼の群れが近くまで来てます」

「サーチですか! ふむ…仕方ないですね。責任は私が持ちます。今は連れ帰る事より、我々が生き残り報告する事を優先しましょう」

彼らがして来た事の、これがこの世界の出した結果だと…… 自分に言い聞かせる士郎だった。




まだ暗い森を馬車を囲む様に、身軽な馬の手綱を引く騎兵が走る。

荷車がなくなった事に気付いているハナも何も聞かず、後方では無数の狼の遠吠えが聞こえていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件

なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。 そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。 このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。 【web累計100万PV突破!】 著/イラスト なかの

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...