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第二章

七話[記憶のかけら]

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ギルドに着いたのは夕方近かった。

ラルグは真っ直ぐカウンターに行き、職員の女性に話しかける。

「コイツに討伐依頼の報酬を払ってやってくれ。鬼熊2頭と小熊だ。1頭は赤毛の奴だ」

驚く職員が動き出す。

赤毛?

そこに4人組の冒険者が入ってくる。

「ギルド長! 見てくださいよ鬼熊ですよ! 今晩はたらふく飲めます…… あれ、兄ちゃんこの前の?」

ギルドで初っ端馬鹿にして来た男だった。

ヘラヘラした笑みで頭を下げる士郎。

どうも!

「コイツは今日、2頭倒したぞ。しかも1頭はあの赤毛だ」

「冒険者殺し!」

まさかって顔で士郎に注目が集まる。

「買取出来ない程の有り様だがな、信じないなら北西の森の入り口付近だ。見てくるといい」

ギルマスが言うなら間違いない! そんな空気に騒つくギルド。

受付嬢がトレイに麻袋を置き、

「こちらが依頼報酬です。赤毛の方は追加報酬も含まれてますので、カードをお出しください」

士郎が慌てて冒険者カードを取り出すと、ラルグがぶん取る!

「カードは明日の夕方に取りに来い。町長にも話をつけておく」

そう言い残し、奥へと消えて行く。

今日の礼も言えないまま、麻袋だけ受け取り、騒つくギルドを後にする士郎だった。

「デリラ。なんかギルマス、怒ってなかった?」

『さぁどうかしら? シロウの強さに驚いてるだけじゃないかしら?』

「昨日の訓練見てたろ。手も足も出なかっただろ」

剣ではね……

「それより金が入ったんだ! コレで新しい指輪を買ってさぁ」

『そんな訳にいかないわよ! あの指輪じゃないとダメに決まってるでしょ!』

そりゃそうか……

渋々、夕飯まではまだ時間があるので、革職人でも見て帰ろうかと歩き出す。

何か思い出すことを願う……




ギルドからそう遠くない町中に、その店はあった。

ガラスがはめ込まれ中の工房が見える店。

白髪に汚れたエプロン姿の老人が、コツコツ机の上で作業中だった。

「どぉ見覚えは?」

『ないわ……』

当てになるのだろうか……

士郎は重そうな木のドアを開け、店内に入る。

「すいません… ちょっとお聞きしたいことがありまして……」

見もせず作業を進める老人が答える。

「客じゃないなら出て行け。客なら座ってまっちょれ!」

頑固親父極まれりだな……

ついでだ、小さめのバッグでも買うかなぁ、ずっと手ぶらじゃ怪しまれるし。

そう思い士郎は店内を見て回り出す。

一周見て回ると丁度作業も終わった様で、老人が肩を叩きながら話しかけて来る。

「で、なんじゃい! どんなのが欲しいんじゃ」

「肩掛けのバッグで、丁度この位のサイズでいくらぐらいで作れますかね?」

「ならそれでええじゃろ! 値段も書いてある」

「そうなんですが…… そのデリラって女性ご存知ですか?」

「知らん! それがなんじゃ!」

「いやその人がここを薦めてくれまして」

「なんじゃ値引きか! 値引きはやっとらん! 帰えれ!」

いや…… バタン。

取り付く島もない……

だが店内にまだデリラが残っている。

店内を眺め動かないデリラ。

ガラス越しに店内の様子を見ていると、デリラが壁をスゥっとすり抜け現れる。

「思い出したのか?」

『ええ、あの店なのは間違いないわ…… 彼と一緒に始めた店だもの……』

幸せだった記憶を思い出したのだろう、優しさを感じる言い方だった。

「じゃあの爺さんが?」

『分からない…… でもきっと彼じゃないわ。店も大分変わっていたし、彼ならきっとそんな事しないわ』

デリラとの思い出を変えたりしない……

そう言う事なのだろうか。

ガラス越しに中を眺め続けるデリラ。

気が済むまで待つかと夕飯を諦める。









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