お姉様は小鳥に夢中

ありんす

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第16話 目潰しは二度刺す

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「それで、今何してるの?」
「掃除して、洗濯ものを洗いにだして、皆の着替えを用意してる」
「…………それあたしの着替えも洗濯に出した?」
「出したぞ。洗濯籠に入ってた奴。まずかったか?」
「いや……いいけど。ってかそういうのはあたしがやるわ。あんたが下着選びするとか絵面が犯罪的よ」
「俺もその方が助かる。正直女性服はどうなってるのかよくわからない」
「それじゃあ今後そういう分担でね」
「朝食どうしようか?」
「食堂に行くんじゃないの?」
「昨日犬神さんが作れって言ってた気がするぞ。調理スキルはあって徳しかないとか」
「そう? いいわ、洗濯してくれたし今日はあたしが朝食作るわ」
「できるのか?」
「あんまりお嬢なめないで」

 輝刃はツインテを弾きながらエプロンを身に着けると、キッチンへと立つ。
 そつなく何でもこなす輝刃のことだ、朝飯くらいすぐ作るだろう。じゃあその間に俺はシャワーだけ浴びてこよう。

 15分後――風呂から上がると異様な臭いが室内に充満していた。

「なぁ龍宮寺、俺は朝食が出来ると思ってたんだ」
「…………」
「このダークマターは一体なんだ?」

 フライパンの上でブジュルルルと黒い泡を噴出する謎の物質X。
 浮かび上がった気泡が破裂すると紫のガスのようなものが放出される。

「目玉焼きよ」
「お前の家はエイリアンの卵でも焼いてるのか。ってかなぜ卵を焼くだけでこうなる」
「甘いのが好きだから砂糖と水とソースとカラメルエキスを入れた」
「自分の好きなものを混ぜていくバカのクッキングだな」
「う、うっさいわね! あんただって大したものできないでしょ!」
「かわれ、チェンジだ」

 更に15分後――
 テーブルにはトーストとサラダ、スープ、ベーコンエッグが並ぶ。どれも少し焦げたり切り方が不格好だったりするが、ダークマターと比べればまともな料理と言えるだろう。

「……やるじゃない」
「普通だ。切って焼くだけで大失敗する奴なんかそうおらんぞ」
「成績低いくせに無駄に生活能力高いわね」
「お前は成績高いくせに生活能力低いな。容姿とフィジカルにステータス振り過ぎなんだよ」
「小鳥遊君はもう少し顔にステータス振りなさいよ」

 俺は泣いた。

「ごめんって、泣かないでよ!」

 っと、そろそろ先輩たちを起こさなくては。というか、多分皆起きてる。
 あえて俺たちに朝の準備をやらせるために寝たふりをしていたと思う。

「皆さーん朝ですよー」

 俺が声をかけると、白兎さん以外はむくりと起き上がる。

「なんか変な臭いするけど大丈夫かしら?」
「大丈夫です」

 輝刃が即答する。凄いな、さっきまでバイオテロ起こしてたくせに堂々と嘘ついたぞ。

「着替え用意してくれたんだ。ありがと~」
「間違ってたり足りなかったらごめんなさい」

 大丈夫大丈夫と言って、雫さん達はその場で着替えを始める。

「ちょっ、なんでここで着替えるんですか!?」

 堂々と着替え始めた先輩方に、輝刃が叫ぶ。
 しかし雫さんも犬神さんも軽く小首を傾げる。

「えっ?」
「隠して下さい! 男がいるんですよ!」
「大丈夫、従妹だから」
「従妹でも隠して下さい! ってか牛若先輩、従妹って言葉便利に使いすぎでしょ!」

 確かに雫さんは従妹を全ての免罪符に使ってる感はある。

「そ奴は男ではない。狸の置物と同じようなモノじゃ。見られて恥ずかしがる必要はない」

 マジかよ狸の置物最低だな。俺は置物なのでガン見するが。
 二人はそのまま着替えを行う。

「ちょ、ちょっと皆さん!」

 うるさい輝刃に犬神さんは顔をしかめると、キセルを手に取り一息煙を吐いた。
 すると犬神さんと雫さんの体に薄い煙がかかる。
 凄い、見えてはいけないところだけギリギリ煙で見えない! リアル規制というやつだ。

「これで良かろう」
「そ、そうですね。大分薄い気がしますが……」

 俺はもうちょっとで見えそうと、そろりそろり近づいていくと、輝刃が俺の目にちょきを見舞ってきた。
 俗にいう目つぶしと言う奴だ

「痛いぃぃぃ!」
「ごめん小鳥遊君。あたしもやりたくはなかったの……」
「サイコパスみたいなこと言うな!」

 俺たちがギャーギャー言ってるにも関わらず、白兎さんはすやぁと寝たままだ。

「あの、白兎さんが起きてこないんですが?」
「多分もうすぐ起きるわよ」

 雫さんの言う通り白兎さんさんはむくりと起き上がると、朝日を浴びるように大きく伸びをした。――上半身裸で。これには規制ケムリも間に合わない。
 俺は即座に輝刃の目つぶし(本日二度目)をくらって床をのたうち回る。

「ごめん小鳥遊君。でもあなたが悪いのよ……」
「サイコパス!!」

 右手をちょきにした輝刃が申し訳なさげに言う。
 白兎さんはそのままふらふらとした足取りで風呂場に行ってシャワーを浴びる。

「あの、もしかして白兎さんって朝弱いんですか?」
「彼女低血圧でね。朝は全然脳が動いてないの。多分さっきのも覚えてないわよ」

 そうか白兎さん朝弱いのか……。あの軍神意外と弱点多いな……。
 白兎さんが風呂から上がってきてから俺たちは朝食をとっていた。

「うん、悠君美味しい」
「焦げておる。米がない」
「…………(モソモソ)」

 反応は三者三様。雫さんは当然のように俺に甘く、犬神さんは朝は米派、白兎さんは無言で本当に兎みたいにモソモソ食べる。
 まぁ初日としては悪くないのではないだろうか。
 そろそろランドリーで洗濯が終わるだろう。甲板で洗濯物を干しに行くか。


 ――以上、朝の回想終わり。

「そんな感じで、洗濯物干して今に至ります」
「判決」
「「死刑」」

 猿渡と戦国先輩は俺を床にダウンさせると、容赦なく蹴りを入れてくる。
 聞き耳をたてていた関係ない男子生徒まで参加していた。

「死ね豚野郎。何がそんな感じだ。美人お姉さまの下着を洗濯して着替えさせただと!?」
「お風呂場でラッキースケベなんて、拙者都市伝説だと思っていたでゴザル!」
「お前の朝の回想、何回裸が出てくるんだよ!」
「痛い痛いです! 死んでしまいます!」

 猿渡たちから謂われなき暴力を受けていると、腕時計型生徒手帳レイヴンズ・ファイルがピピッと音を鳴らす。
 どうやらメールらしく、テキストファイルを開くと招集が指示されていた。
 
「任務みたいなので行ってきます!」
「あっ、オイ!」
「逃げたぞ!」
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