天空の魔女 リプルとペブル

やすいやくし

文字の大きさ
上 下
75 / 103
74.ふしぎなお客様

天空の魔女 リプルとペブル

しおりを挟む
74.ふしぎなお客様

 すると、その時、
「こんにちは」
「おいしそう」
「お邪魔していい?」
 と、いう声が聞こえた。

「えっ?」
 リプルたちが声のした方を振り返ると、十五人ほどの精霊たちが、リプルたちを取り囲むように宙に浮かんでいた。
透明な体と透明な羽根を持つ精霊たちだった。

「どうぞ。いっしょに楽しみましょう」
 リプルは、笑顔で精霊たちを招く。

「ありがとう」
「うれしいね」
「おいしそう」
 精霊たちは口々にそう言うと、テーブルに座ったり、リプルの肩に乗ったりと思い思いの場所に陣取った。
 中には、イザベスの金髪の巻き髪の中にすっぽりと収まる者もいた。

 リプルはケーキを小さく切り分けて、精霊たちが食べやすいようにしてあげた。
 精霊たちは、手に手にケーキを持って、嬉しそうに味わっている。

「ところで、あなたたち、地上の住人でしょう? どうしてこんなところにいるの?」
 リプルの肩に座った精霊が問う。

「実は、あっちの方から来たんだけど、途中で友達とはぐれてしまって」
 リプルは自分たちが歩いてきた洞窟の入り口のほうをゆびさした。

「はぐれてしまったの。さみしいね」
「この洞窟、迷うのよ。道がいっぱいあるから」
「そうよ。しかも迷わせ鬼が住んでいるのよ」
 精霊たちは口々にしゃべる。

「迷わせ鬼って?」
 リプルが聞くと
「光で誘うの、で、どんどん洞窟の奥へ誘うの」
「どうして、彼らはそんなことするのかしら?」
「面白いからよ。だって、ここ闇の世界は、ずっと変わらない退屈な世界。不変なの。安定しているけど、不変よ」
 と、一人の精霊が言うと、隣の精霊が、異を唱えた。

「でも。いいとこよ。地上の住民も来る。闇の住民も来る。ここは境界の地だから」
「闇の住人!」

 その言葉に、ジールがハッとしたように精霊に問い返す。
「奴らがここにも現われるのか?」
「うん。この間、来た時は、たしか二百年前」
「そ、そっか。そんなに前のことか」
 ジールはそれを聞いてほっと安心した。

 そのとき、ひとりの精霊がイザベスの前にふわりと飛んできた。そして、じっとイザベスの顔をみた。
「あわ、わたくしの顔がそんなに美しいかしら?」
 イザベスがにっこりとほほ笑むと、精霊は首をふった。

「あなた、闇の香りがする」
「失礼ね! わたくしは立派な魔女ですわ」

 いきり立つイザベスには反応せず、精霊はジールに告げた。
「……近い。境界の結界が開く」

 ほかの精霊も声をそろえた。
「そろそろまた開きそう」
「境界の結界が開けば……闇の住人も来る」

「……どうして分かるの?」
 リプルが聞いた。

「分かる。空気の匂いが変わる」
「あの人もかすかに闇の匂い」

 ふたたび精霊に指さされたイザベスは、キリキリと奥歯をかみしめ叫んだ。
「おだまりなさい!」

 精霊がおびえたようにリプルの腕の中に逃げ込む。
「怒りはダメ、闇を呼ぶ」
「花が枯れる」
「ここに花が咲くの?」
 リプルがそう尋ねると精霊たちは口々に答える。

「そう、あなたたちの目には見えないだけ」
「ここにもいっぱい咲いている。私たちには見える」
「そうなの、教えてくれてありがとう」

 リプルは、精霊たちにお礼を言った後、ジールと顔を見合わせた。
 ジールも難しい顔をしていた。
 境界の結界が開く時、何が起るのか、まだ中等部の生徒である彼や彼女たちには、予想もつかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

モモとマイキーの魔法の杖探し

朝日はじめ
児童書・童話
巴桃香は、御伽の世界に憧れる小学生の女の子だ。 そんなある日のこと、桃香は家に帰る途中で、ゴミ箱のなかに閉じ込められていた妖精リー・マイキーと出会う。 マイキーはうっかり落とした魔法の杖を探しに御伽の世界からやってきた。魔法の杖がないと元の世界に帰れないというマイキーは、桃香に杖探しに協力してくれたら願いを一つ叶えてあげると提案し、桃香は手伝うことになるが……。 毎日19時30分に更新予定。中編くらいの分量で終わる予定です。

ルーカスと呪われた遊園地(中)

大森かおり
児童書・童話
 ルーカスと呪われた遊園地(上)のつづきです。前回のお話をご覧いただく方法は、大森かおりの登録コンテンツから、とんで読むことができます。  かつて日本は、たくさんの遊園地で賑わっていた。だが、バブルが崩壊するとともに、そのたくさんあった遊園地も、次々に潰れていってしまった。平凡に暮らしていた高校二年生の少女、倉本乙葉は、散歩に出かけたある日、そのバブルが崩壊した後の、ある廃墟の遊園地に迷い込んでしまう。そこで突然、気を失った乙葉は、目を覚ました後、現実の世界の廃墟ではなく、なんと別世界の、本当の遊園地に来てしまっていた! この呪われた遊園地から出るために、乙葉は園内で鍵を探そうと、あとからやってきた仲間達と、日々奮闘する。

テムと夢見の森

Sirocos(シロコス)
児童書・童話
(11/27 コンセプトアートに、新たに二点の絵を挿入いたしました♪) とある田舎村の奥に、入ったら二度と出られないと言われている、深くて広い森があった。 けれど、これは怖い話なんかじゃない。 村に住む十才の少年テムが体験する、忘れられない夢物語。

ダークロッドを打ち破れ

Emi 松原
児童書・童話
ファンタジーの世界の中で繰り広げられる、主人公達の冒険と、そして恋。仲間達との青春。 ほのぼのした世界で起こる事件とは……。

circulation ふわふわ砂糖菓子と巡る幸せのお話

弓屋 晶都
児童書・童話
精霊魔法と剣の世界の片隅で紡がれる、少女と小さな幸せの物語。 まったりのんびりMMORPG風ファンタジー。 冒険者登録制度のある、そんなゲーム風ファンタジー世界で、パーティーでクエストをこなしています。 〜あらすじ〜 家事能力高めの魔法使い、正義感溢れる紳士な盗賊、マッドサイエンティストなヒールに白衣の魔術師の三人は、ある日、森で記憶を無くした小さな女の子を拾います。 その子を家族に返そうと調べるうち、その子の村がもう無い事や、その子に託された願いと祝福された力を知る三人。 この力を正しく使うためにはどうすればいいのか。 道に迷い悩む幼女と、それを支える仲間達の、友愛あふれるお話です。

マモルとマトワ

富升針清
児童書・童話
立花守はどこにでもいる小学六年生。周りからしっかり者と言われている。 ある日、四年生弟が夜に家を抜け出して肝試しに行こうと友達から誘われている現場に遭遇。 しっかり者の守は勿論止めるが、絶賛反抗期の弟は褒められる兄を疎んじて言うことをまったく聞かない。 弟が肝試しに出かける夜、守も心配だからついていく。 肝試しの場所は近所で有名な幽霊が出ると言われてる心霊スポット。 守もお化けが怖いが、弟を心配してあとを付ける。 マモルが見守ってると、いわくつきの墓に石を投げたりいたずらしようとするが、大人がコラコラだめだよって優しく声をかける。 でも、子供たちがその大人をからかってると……。

【完結】だからウサギは恋をした

東 里胡
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞応募作品】鈴城学園中等部生徒会書記となった一年生の卯依(うい)は、元気印のツインテールが特徴の通称「うさぎちゃん」 入学式の日、生徒会長・相原 愁(あいはら しゅう)に恋をしてから毎日のように「好きです」とアタックしている彼女は「会長大好きうさぎちゃん」として全校生徒に認識されていた。 困惑し塩対応をする会長だったが、うさぎの悲しい過去を知る。 自分の過去と向き合うことになったうさぎを会長が後押ししてくれるが、こんがらがった恋模様が二人を遠ざけて――。 ※これは純度100パーセントなラブコメであり、決してふざけてはおりません!(多分)

城下のインフルエンサー永遠姫の日常

ぺきぺき
児童書・童話
永遠(とわ)姫は貴族・九条家に生まれたお姫様。大好きな父上と母上との楽しい日常を守るために小さな体で今日も奮闘中。 全5話。

処理中です...