天空の魔女 リプルとペブル

やすいやくし

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71.ペブルの気分をアゲる方法

天空の魔女 リプルとペブル

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71.ペブルの気分をアゲる方法

 基本の炎魔法というのは、たとえば木とか紙とか、燃材となるものがなくとも、空中に炎を出すことができる魔法のこと。
 炎の天の魔石を持っているイザベスにならそのような魔法も可能だったが、あいにくロッドは風の天の魔石、ペブルは雨の天の魔石しか持っていない。

「だけど、ペブルは魔女だから基本魔法は、使えるんだよな」
 ロッドが確かめると、
「もちろん!」
 と、元気な声が返ってきた。

 ペブルたち魔女学校中等部の生徒たちは、ロッドのように剣術と魔法の両方を学んでいる魔法士たちに比べると、魔法中心の勉強をしているから、火のエレメントを持っていなくても、基本的な魔法は使うことができる。
 ただし、人によって得意不得意があり……。

「と、言えたらいいんだけど。ごめん、私、炎苦手なの」
 と、ペブルは、さらっと白状する。

「は? と、いうことは」
 ロッドが息を飲む。

「暗闇の中を肝試し感覚で歩くっていうのも、またスリルがあっていいかもね?」
「ペブル、それ本気で言ってるのか?」
「まさか、私、おばけと暗闇が大嫌いなんだってば」
 さっきと打ってかわって震える声でペブルが言う。

「こんなとこで、死んじゃうのイヤだよう。リプルに会いたいよ。もう一回、リプルの作ってくれるカップケーキ食べたいよう。カルキーの肉……は、もういいけど。ぐすん」
 いろいろ言っているうちにペブルが、どんどんネガティブになってきた。

 ロッドはあわてて
「わかった、大丈夫だから心配するな」
 と、ペブルをなだめにかかった。
 
 しかし、いったん落ち込んでしまったペブルの気持ちは、なかなか元にもどらない。
「オルサト村の魔女学校に帰りたいよう。ホキントン先生に会いたいよう。うっうっ……」

(やばい。ペブルが本気で泣きそうだ)ロッドは焦った。
 たいていの男の子と同じように、ロッドも女の子が泣くのを見るのが苦手だった。

「あ、そうだ。王都にはな、カルキーより美味しい鳥料理があるぞ」
「鳥料理はイヤだ。カルキーに追われてこんなことになったんだもん、うっうっつ」
 だめか……ロッドは必死に考えた。
 王都ではやっている食べ物……。

「あーあれだ。アイスクリームが女子には人気だぞ」
「アイスクリーム?」
 ペブルがいっしゅん泣き止んだ。

「そうだ。冷たくて甘くて、口の中に入れると溶けるんだ。イチゴ味とかチョコレート味とかあって」
「ね、ミント味もある?」

「あるある、ジールはチョコミントが好きだぞ」
「えー! 食べてみたい」

「よし、アイスクリームを目標に王都目指してがんばれるか?」
「うんうん、行く行く」
 変わり身の早いペブルだった。
 ロッドは、単純なヤツでよかったと胸をなで下ろしながら、背中に背負っていた布袋を探った。
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