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69.湖の精霊

天空の魔女 リプルとペブル

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69.湖の精霊


 しばらくすると、湖の中央の底あたりがだんだんと明るくなりはじめた。
 そして、その灯りが、湖面へとゆっくり浮かび上がってくる。
 やがてその灯りの中にかすかに人影のようなものが見えるようになった。

「迷い人よ。私を呼んだのは、そなたらか?」
 その人は、幻のようにかすかな声で尋ねる。
「はい。私たちは、この洞窟の東から入って、西へと向かう者たちです。ここまで歩き通してまいりました。湖の精霊であるあなたにお願いがあります。どうか、乾いたノドを潤す水を分けていただけませんか?」
 ジールが礼を尽くしお願いをすると、湖の精霊は、ひっそりとうなずいた。

「しかし、この闇の世界は、そなたらの世界と悪しき者が配する世界の境界の地。悪しき心を持つ者は、闇の世界に引きこまれないとも言えぬ。早々に日のあたる地へと急がれるがよかろう」
 そう言うと、湖の精霊は、ゆっくりと水の表面に手をかざす。すると、湖の上を波紋のようなさざ波が広がっていった。
「これで、そなたらにも飲める水となった」
「ありがとうございます」
 リプルたちは、口々に湖の精霊に礼を言うと、精霊が、またゆっくりと湖の底へと沈んでいくのを見送った。

「うわ、おいしい」
 ペブルは、今度は、ゆっくりと両手で水をすくって、味わいながらノドに流し込む。
 澄んだ水が体のあちこちに歌いながら、染みこんでいくようだった。
「なんだか不思議な感じの水。体に力がわいてくるみたい」

 リプルが、両手ですくった水をしげしげと眺めながら言う。
「きっと相当の魔力が溶け込んだ水なんじゃないかな」
 と、ジール。
「あら、それなら、もしかしてお肌にいいかもしれませんわね」
 イザベスは、目をキラキラさせて、頬のあたりにピチャピチャと水をたたき込んでいた。

 地底湖のほとりで休んだリプルたちは、不思議な水の力を得て、すっかり元気になった。
 そして、ふたたび西を目指して歩き出した。

「シッコク、あとどれくらい歩けば、外にでられるかな?」
「アト、ハンニチ。マヨワナケレバ」
 と答えが返ってきた。

「迷わなければ……か」
 シッコクの答えを聞いて苦笑したジールは、
 
「みんな、離ればなれにならないよう気をつけて行こう」
 と、後を振り返って声をかけた。ところが、
「あれ? ペブルとロッドがいない」
 同じく後ろを向いたリプルが驚いた声をあげた。
「あら、さっきまで、そのあたりで二人いつものようにじゃれてましたのに」
 イザベスも驚いた様な声をあげた。
「えーっ!」
 洞窟にジールの声がこだました。

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