65 / 103
64.カルキ―たちの反撃
天空の魔女 リプルとペブル
しおりを挟む64.カルキ―たちの反撃
次の日の朝。
「う、体が痛い。板の上で寝たからかも」
リプルが目を覚まして独り言をいう。
昨日の夜は、遅くまでみんなと、くだらない話をして……いつの間にか馬車の荷台の上で寝たのだった。
周りを見回すと、となりにはペブルがだらしなく口を開けて、すーぴー、すーぴーと気持ちよさそうな寝息を立てている。ジールとロッドの姿は見えない。
「おはよう」
リプルが上半身を起こしたのを見て、マーサが声をかけた。
「おはよう、あれ? イザベスは?」
リプルは、あたりを見回してマーサにたずねた。
「『朝、顔を洗わないなんて、レディにはあり得ませんわ』って、洞窟の外に水を探しに行ったわ」
というマーサの言葉が終わるか終わらないかのうちに、洞窟の入り口の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「早く! イザベス。走れ」
ロッドの声だ。
リプルは慌てて、馬車の荷台から駆け下り、入口の方へ向かう。
するとジールが、洞窟の入口に立って、空に向かって雷魔法を唱えていた。
「どうしたの?」
ジールは、呪文をとなえつつ空をゆびさした。
空の色が変だ。
まるで嵐の前のような不気味な茶色い雲に空が覆われている。
雲ではなかった。
空を茶色に染めんばかりの数多くのカルキーが集まってきていたのだ。
ロッドは、洞窟の外にいて、風魔法で上空の気流を乱すことで、カルキーの攻撃を邪魔している。
その下を魔女服の裾をたくし上げつつ、転びそうになりながら駆けてくるイザベスの顔は蒼白だった。
リプルは、とっさにイザベスの走る速度を速くする魔法をかけた。
イザベスは、
「んま、あららららー」
と、声を上げながら、あり得ない早さでこちらを目指して走ってくる。
時々、ジールの雷が、ビリビリと空を引き裂く。
そのたびにカルキーたちは、驚いたように身を引くので、空に穴が空いたようになるのだが、またすぐに穴はふさがってしまう。
イザベスが洞窟に倒れ込むように入りこんだ。
水を入れてきたとおぼしきバケツには、走っているうちにこぼれてしまったらしく、水は、ほとんど残っていなかった。
しかも身だしなみを整えるどころか髪はボサボサだ。
「はあ、はあ。何ですの? このカルキーとやらの大群は!?」
イザベスが息を切らせながら憤慨している。
「お、はよ。ふあああ」
その時、のんきにあくびをしながらペブルが、ようやく起きてきた。
まだ寝ぼけているようで半目の状態だ。
すると、それを見たロッドが
「おう、ペブル。すっきり目覚めたいか?」
と、ペブルの手を引き、洞窟の入口へと連れていく。
「ふえ?」
ペブルは頭をぐらぐらさせて、まだ半分寝ぼけたまま。
ロッドは、入口をふさいでいる岩の中から小さな岩を一つどけると、そこからペブルの頭を外へとつき出した。
洞窟から顔を出したペブルに、外のカルキーたちは、いっせいにギャーギャーと騒ぎ立てた。
その様子に目を皿のように見開いたペブルは、慌てて頭を引っ込めた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
水色オオカミのルク
月芝
児童書・童話
雷鳴とどろく、激しい雨がやんだ。
雲のあいだから光が差し込んでくる。
天から地上へとのびた光の筋が、まるで階段のよう。
するとその光の階段を、シュタシュタと風のような速さにて、駆け降りてくる何者かの姿が!
それは冬の澄んだ青空のような色をしたオオカミの子どもでした。
天の国より地の国へと降り立った、水色オオカミのルク。
これは多くの出会いと別れ、ふしぎな冒険をくりかえし、成長して、やがて伝説となる一頭のオオカミの物語。
最後の魔導師
蓮生
児童書・童話
11歳のニゲルは、毎日釣りに行く。
釣った魚は、晩のおかずにするのだ。
香ばしい皮に、自分で作ったソースをかけてかぶり付くと、中のジュワッとした身に甘辛いタレが絡んで本当においしいのだ。
そんなニゲルの住む小さな洞穴の家には弟と妹がいる。
最初からお父さんはいないけど、一年前この洞穴に引っ越してから、お母さんも突然居なくなった。だから、妹と弟は、お腹を空かして、ニゲルが帰ってくるまでずっと待っている。
何とかして魚を釣らないと、そんな弟達は今日も畑から掘った芋の煮っころがしだけになってしまうのだ。
だから1匹はだめだ。
何匹か捕まえてから帰ろう。
そう思っていた。
お兄さんに会うまでは……
これは11歳の男の子ニゲルが、伝説の魔導師に出会い、唯一の弟子となって自分の道を切り開いていくお話です。
***
後々アレ?似てるっと思われる方がいらっしゃるかもしれませんので最初にお知らせいたしますが、第3章から出てくる地名や城は架空のものですがほぼ、スコットランドに存在する場所ですので、世界観は中世ヨーロッパです。
二条姉妹の憂鬱 人間界管理人 六道メグル
ひろみ透夏
児童書・童話
★巧みに姿を隠しつつ『越界者』を操り人間界の秩序を乱す『魔鬼』とは一体誰なのか?★
相棒と軽快な掛け合いでテンポよく進みつつ、シリアスな現代社会の闇に切り込んでゆく。
激闘の末、魔鬼を封印したメグルとモグラは、とある街で探偵事務所を開いていた。
そこへ憔悴した初老の男が訪れる。男の口から語られたのはオカルトじみた雑居ビルの怪事件。
現場に向かったメグルとモグラは、そこで妖しい雰囲気を持つ少女と出会う。。。
序章
第1章 再始動
第2章 フィットネスジム
第3章 宵の刻
第4章 正体
第5章 つながり
第6章 雨宮香澄
第7章 あしながおじさんと女の子
第8章 配達
第9章 決裂
第10章 小野寺さん
第11章 坂田佐和子
第12章 紬の家
第13章 確信にも近い信頼感
第14章 魔鬼
第15章 煉獄長
終章
演劇とトラウマと異世界転移~わたしが伯爵令嬢のフリ!?~
柚木ゆず
児童書・童話
とある出来事が切っ掛けでトラウマを抱えている、演劇部所属の中学3年生・橋本エリス。
エリスは所属する演劇部の大事な発表会が始まる直前、突然足もとに現れた魔法陣によって異世界にワープしてしまうのでした。
異世界にエリスを喚んだのは、レファイル伯爵令嬢ステファニー。
ステファニーは婚約者に陥れられて死ぬと時間が巻き戻るという『ループ』を繰り返していて、ようやく解決策を見つけていました。それを成功させるには姿がそっくりなエリスが必要で、エリスはステファニーに協力を頼まれて――
怪異探偵№99の都市伝説事件簿
安珠あんこ
児童書・童話
この物語の主人公、九十九卯魅花(つくもうみか)は、怪異専門の探偵である。年は三十歳。身長が高く、背中まで髪を伸ばしている。彼女は、怪異が関係していると思われる事件を、彼女自身の特異能力によって解決していた。
九十九卯魅花は鼻が効く。怪異の原因となる人外を臭いで感じ取れるのだ。だから、ある程度の距離なら大体の居場所もわかる。
九十九卯魅花は物に魂を宿すことが出来る。どんな物体でも、付喪神(つくもがみ)にして、自分の頼れる仲間に出来るのだ。
そして、九十九卯魅花は、過去に神隠しにあっている。翌日発見されたが、恐怖で彼女の髪は白く染まっていた。その時から、ずっと彼女の髪は白髪である。
東京都杉並区高円寺。とある小説で有名になった賑やかな商店街のいっかくにある九十九探偵事務所が、彼女の仕事場である。ここで彼女は助手の鷹野サキとともに、怪異の事件に巻き込まれた依頼人を待ち受けているのだ。
サキは童顔で身体が小さい。ショートボブの髪型も相まって、よく中学生と間違えられているが、年は二十七歳、アラサーである。
扉絵:越乃かん様
夏の城
k.ii
児童書・童話
ひまわりが向いている方向に、連綿とつらなる、巨大な、夏雲の城。
あそこに、きっと、ぼくのなくしてしまったとても大切なものがあるんだ。
ぼくは行く。
あの、夏の、城へ。
*
2006年に創作した児童文学作品です
当時通っていたメリーゴーランド童話塾で一部を発表しました
原稿用紙換算で120枚程だったと思います
13年も過去の作品であり今思えば拙い面も多々あるかと感じますが、記録の意味も含め、WEBに連載形式で初公開します
おばあちゃんっ子 ーもうこの世界にいないあなたへー
かみつ
児童書・童話
20年以上前に死んでしまった、祖母との大切な思い出を、思い出すままに書いていきます。人はどんなに大事な想いもいつかは忘れていく生き物です。辛いこともそうです。だから、もう2度と思い出すことのないことかもしれない、何気ないことも、書いていきます。
人として、とても素晴らしい、
誰からでも愛されるそんな祖母でした。
今は亡き祖母へ
もう届くことのない、わたしの想いをここに書き記します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる