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52.中庭で

天空の魔女 リプルとペブル

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52.中庭で

 そのころ、いっこうに戻ってこないペブルを探すため、リプルは実験室を出た。
 まさか、すぐ隣の調理室でお腹いっぱいになって寝ているとは思わないリプルは、ペブルは、リギン草をお日さまにあてているはずだからと中庭にやってきた。

 あちこち探してもペブルは見当たらない。
 探すのをあきらめたリプルは、噴水のふちにかがむと冷たい水に手を入れた。
 中央の水柱から噴き出す水しぶきがリプルの髪にかかって、実験でフル回転させていた頭を冷やしてくれている。

 つめたい水に心地よさを感じつつも、リプルの心の中は曇っている。
「どうすれば、闇の天魔たちをやっつけることができるんだろう」

 考えれば考えるほど、それは難しいことのように思えた。
 今まであまたの魔女や魔法士たちが、戦ってきたにも関わらず、闇の天魔たちは、ほろんではいない。
 つまり、一時的に彼らの力を押さえることができたとしても、彼らを滅亡させることはできないということではないだろうか。

 しかも、敵は今までとはちがって、進化をしつつあるらしい。
 心のそこから不安がせりあがってきて、リプルは噴水のふちに両手をかけると、深くうつむいて首をたれた。

 その後ろ姿があまりにも頼りなく見えたせいだろうか。
「リプル、どうしたの? 何か悩みでもあるの?」
 と、声をかけられ、驚いてふりかえったら、そこにおだやかにほほえむジールがいた。

「あっ」
 おどろいたリプルだったが、すぐに
「会議は、どうだった?」
 と、ジールにたずねた。

 ジールは、うでぐみをすると顔をくもらせた。
「やはり僕らには、圧倒的に情報が足りない。闇の天魔たちの活動がおとなしい時期が続いたせいで、相手の変化が把握できていないんだ。そういう意味では昨日のリプルの報告は、とても役立ったよ」
 
 リプルは胸に手をあてて、ほっとしたように目を伏せた。
 最初から正直に報告できなかった自分のふがいなさをジールはまったく気にしているそぶりはなかったからだ。

 ジールはまなじりに決意をにじませる。
「明日、僕らは王都に戻るが、道中、闇の天魔たちの情報を得ながら、戻ることになるだろう」
「情報を、どうやって?」
 ジールはさわやかにわらいつつ
「戦いながら、かな」
 と、言い放った。
 


「ジールは、これからあちこちで闇の天魔たちが現れるって予想してるんだね?」
 ジールは、静かにうなずいた。
「ここに来る途中、なんどもヤツらを見かけたし、戦いもした。おそらく天魔たちが闇のエネルギーを放出する日は近い。だけど、僕はそれをなんとしても阻止しなければならないんだ。この大陸の人々、地球の人々を守るために」

「私も、私も守りたい! ジールお願い、私も王都に連れてって」
 ジールの見ひらいた目に、驚き以上の感情が浮かんだ。
 が、その感情を冷静さでおおいかくしたジールはひとつうなずいた。

「危険が伴うが……しかし、それはいい手かもしれない。じつは王都からこの学園に持って戻ってほしい本があるんだ。秘伝の魔法書だ。魔女しか手に取ることができない気難しい本でね。リプルが王都からその本を学園に持って戻ってくれれば助かる」
 秘伝の魔法書と聞いて、今度はリプルが目をキラキラに輝かせた。

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