天空の魔女 リプルとペブル

やすいやくし

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51.イザベスの失敗クッキー

天空の魔女 リプルとペブル

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51.イザベスの失敗クッキー

 イザベスとマーサが実験室を出ていくと、ペブルがキランと目を光らせた。
「むっふ、イザベスは、昨日のさわぎにこりもせずジールをねらってるっぽい」

 シズクが首をかしげる。
「うーん。イザベスは何をするためにこの中等部に入ったのかな」
「結婚して王都に住むのが夢だって言ってたから、ある意味、自分の夢にむかってまっしぐらだよね」
 ペブルが感心したふうにうんうんとうなずきながらつぶやく。

「ペブル、これお日様の光にあててきて」
 リプルにわたされたお皿の上には、細く切ったリギン草が乗っている。
「わかった」
 ペブルは、お皿を手にシズクを肩にのせて実験室を出た。

 調理室の前を通りすぎようとしたペブルは、くんくんと匂いをかいだ。
「なんかいい匂いがする」
 匂いにひかれて調理室へと入っていくペブル。

「あら、ペブル」
「あら、ちょうどいいところに」
 マーサとイザベスがふりむいた。
「改良しましたの。食べてみて」

 ペブルはブンブンと頭をふる。
「やだよ、さっきのクッキーめちゃくちゃ苦かったもん。思い出しても顔がにがにがしくなる」
 と、目をつぶってポカーンとあけたペブルの口の中にイザベスが真顔でクッキーをポイとほうり込んだ。

「ん?」
 反射的にクッキーをガリリとかみくだいたペブル。

「にがーい、にがーい」
 と、口をおさえておおさわぎした。

 そのときうっかり手に持っていたお皿を落としてしまい、その上に乗っていた枯草が焼きあがったクッキーの上にパラパラとこぼれおちた。
 しかも、緑の枯草は、クッキーの中に溶けるように吸い込まれていった。

「あぁ~、リプルに叱られる」
「あぁ~、クッキーが!」
 その結果、すべてのクッキーにリギン草のひどい匂いがついてしまった。

「もう捨てるしかないわね、イザベス。しかも、材料を使い切ってしまったわ。やっぱり、ほれ薬入りのクッキーなんて作ってはいけないという神様からのいましめだよ」
 めずらしくマーサが、強めにイザベスをいさめた。

 しかし、そんなことであきらめるイザベスではなかった。
「いいえ、あきらめるもんですか。このクッキーの成果を確かめるまでは!」
 そう言うとイザベスは、両手でペブルの手をとり、しおらしい態度でたずねた。

「ねぇ、ペブル。あなた、わたくしをご覧になってどう思います?」
「金髪だなぁって思うよ」
「は? わたくしのこの燃えるような瞳に見とれたりしませんこと?」



 ペブルはポカン顔ののち、ブンブンと首をふった。
「1ミリもない」

 イザベスは、にぎっていたペブルの手をブンと振って離すと、プイと横を向いた。
「マーサ、計画は取りやめですわ、どうやらこのクッキーに惚れ効果はまったくないようですから」

 マーサがホッとしたようにうなずく。
「それがいいよ。イザベスは、そんなことしなくてもステキだもの。男子がほうっておかないわ」

 イザベスは両手を腰にあてると、高らかに笑った。
「おほほっ、そうですわ。わたくしのこの魅力でジール様をとりこにすればいいだけの話でしたわね。では、お昼寝をしてお肌の調子を整えるとしましょう」
 イザベスとマーサのふたりが出ていった。

 残されたペブルは、
「うーん。でも、このクッキーもったいないよね。苦いクッキーに苦いリギン草をまぜたら苦みが消えるとか、そんな夢みたいな話……」
 と、いいながらクッキーを一つ、おそるおそる口に運んだ。

「ん!? おいしくなってる!!」
 ペブルは、イスに座るとクッキーを次から次へと口にほうり込みはじめた。

 すべてのクッキーを食べおえると、ペブルはその場で、こてっと寝てしまった。
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