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25.出しぬかれたリプル

天空の魔女 リプルとペブル

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25.出しぬかれたリプル

 リプルはあわててケヤキの大木にかけよった。木の幹をトントンと手でたたいてみた。
 どこにも傷はない。木の後ろに回り込んでみたけど、先生も台車も影も形もない。
 元の場所に戻って地面を確認してみた。

 車輪のあとが2本、まっすぐ木にむかって進み、そこから先は消えてしまったようにあとが残っていない。

「せ、先生?」
 返事はない。
「私、まぼろしを見たのかな……」

 しかし、振り返れば地面にはしっかりと車輪のあとが残っている。
 リプルは、なにかを決意したようにうなずくと、少し離れた場所に移動した。
 ケヤキの木がよく見える植え込みの陰にしゃがみこんだ。先生がふたたび姿を現すのをここで待つつもりだ。

 1時間、2時間と時間がすぎていく。リプルはお腹が空いたので、
「ココルーラ、ア、テン」
 と呪文を唱えた。

 たちまちリプルの膝の上に、輪切りのオレンジが乗ったカップケーキがコトと落ちてきた。
「うーん、いい香り!」
 リプルは、カップケーキをパクっと食べながら、ケヤキの木をじっと見はり続けた。

 やがて、太陽が真上にあがってきた。
 春の温かな日差しが真上からふりそそぎ、リプルは、こっくりこっくりし始めた。

 そのとき、ケヤキの木の一部がまるで扉のように、パタンとひらいて、中から台車を押したホキントン先生が出てきた。台車の上の本はすべてなくなっている。
 先生は、リプルがかくれている茂みのほうをチラっと見ると、やさしいほほえみを浮かべ台車を静かに押して校舎のほうへと歩いていった。
 
「「リプル!!」」
 しばらくして自分の名を呼ぶ声に、ハッと目をさましたリプル。
 立ち上がり、両手をうーんと空にあげて、ふぁ~っとあくびをした。

「あ! いたぁ!!」
 茂みの陰から立ち上がったリプルを見つけたペブルが、いのししみたいに突進してきた。
 その肩にはシマリスのシズクが必死でしがみついている。



 まだ完全に目が覚めていないリプルは、ごしごしと目をこすった。
 そこに
「リプル~、探したよぉ」
 ドーンと体当たりするペブル。

 ふたりは地面に倒れこんだ。そのはずみで、シズクが、ひゅーんと飛んでいく。
「生まれ変われるなら、ムササビになりたーい」
 と、いう叫びを残してシズクは茂みの中へガサガサと落ちていった。

「痛ったぁ~。リプルってすんごい石頭っ」
 と、リプルにぶつけて赤くなったおでこをさするペブル。
「もう、なんなの!?」
 と、しりもちをついたままのリプル。ようやくさめたらしい目をぱちくりとしている。

「ホキントン先生が、私たちの部屋に来て『リプルはどこ!?』って言うからさ、あわてて探しに出ようとしたら、先生が『待って!』って言って目の上に手をかざしてあちこちを見たの。そしたら『わかった! 西、西にいるわ』って。だから、必死に走ってきたんだよ。先生、すごい。なんでわかったんだろう。透視とかできちゃうのかな」

 リプルはそれを聞いて、やられたと思った。たぶん、リプルが先生のあとをつけていたことや、ここで見張っていることなど、先生はとうに気づいていたのだろう。
 リプルが寝落ちするのを待って、こっそりあのケヤキの木から出て行ったに違いない。

 ということは、このケヤキの木には、なにか重大な秘密があるに違いない。
 リプルは、ケヤキの木をじっと見つめながら「知りたい」とつぶやいた。
 ペブルが何を勘違いしたのか、
「リプルは『尻いたい』のか、私はでこ痛いよ」
 とつぶやいた。
 
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