天空の魔女 リプルとペブル

やすいやくし

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14.杖になる枝を探して

天空の魔女 リプルとペブル

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14.杖になる枝を探して

 森の中は、鳥たちのカラフルなさえずりと、木々の精気せいきにあふれていた。
 胸いっぱいに空気を吸い込みながら、気持ちよさそうに歩くリプル。
 その右手には、ペブルがしっかりとしがみついている。

「えっと、ペブル歩きにくいよ」
 リプルがそう言っても、ペブルはますますがっちりリプルの腕をつかんでくる。

「私は、自分の感覚にしたがって歩いているんだよ。ペブルも自分の感覚をとぎすまして、自分の木を探した方がいいよ」
「いや、なんて言うか、私たちパル同士だから、きっとリプルの木の近くに、私の木もあると思うんだよね」
 苦しい言い訳をするペブル。
 左肩に乗っているシズクがクスリと笑った。
「ペブル、声がうわずってる」
「そ、そそそそんなことないわわ」
 動揺どうようをずばり指摘されたペブルは、カミまくり。

「大丈夫よ、ケルクスは、逢魔の刻にならないと出てこないから」
 リプルがはげます。
「そそそそ、そうだよね。うん、今は大丈夫。大丈夫」

 その時、シズクが突然「ワッ!」と、大声を出した。
「ヒーッ」
 ペブルは、思わず腰を抜かして地面にしゃがみこんだ。
 右手をつかまれたままのリプルも引っ張られて、うしろに倒れそうになった。
 ところが、リプルのうしろには、大きなメイプルが生えていて、しかもその木の下枝がリプルの背中をやさしくささえてくれたのだった。
「危ないなぁ。倒れるところだった。シズク、怖がってるペブルをからかっちゃダメ!」
 シズクは、ペロっと舌を出すと、しましましっぽを優雅に膨らませながらペブルの頭のうえに駆けあがった。
 
 ……あれ? 
 その時、リプルは背中に不思議な心地よさを感じた。
 背中を支えてくれているメイプルの木が触れているあたりが、ほんわりと温かい。

 正面を向いて改めて木の様子を見ると、根元は、リプルがちょうど腕を回せるくらいの太さの堂々とした木の幹。 
 見上げると、深く濃い緑の葉がたくさん重なりあって、やさしい陰影を描いている。なんだか、懐かしいような……。

「もしかして私が探していたのは?」
 リプルは、木を見上げてそう問いかける。
 やわらかな風が吹いてきて木の枝を揺らす。まるで、木が「そうだよ」と返事してくれているようだった。

「リプル。誰と話しているの?」
 ペブルが腰を抜かしたまま、弱々しい声で尋ねるが、全身の感覚を開いて、木へメッセージを送ろうと集中しているリプルの耳には届かなかった。

(メイプルの木よ、木の精霊よ。もし許してもらえるなら、あなたの一部を私の魔法の杖として、さずけていただけないでしょうか)
 リプルは、両足の膝を地面について、そう祈った。
 すると、木のてっぺんから、黄金色の光につつまれた一本の枝が、ゆっくりと降りてきた。リプルは目を閉じ、頭を垂れて祈っている。



 シズクは、固唾かたずをのんで、降りてくる枝と光を見つめていた。
 ペブルは、相変わらず地面に座り込んだままポカンとその様子をながめていた。
 やがて、ゆっくりと降りてきた木の枝は、静かにリプルの両手の中に収まった。

(役立ててください。みんなを守るために)胸にそんな言葉が響いたような気がしたが、それはリプルの気のせいだったのかもしれない。
 木の枝は、リプルの肘から指の先までと同じくらいの長さ。
 枝の先から1/3のところに小さな葉が1枚ついている。

 リプルは嬉しそうに微笑むと、自分の手に収まった木の枝を両手で大切そうに頭の上に掲げた。そして、
(大切に、大切に使わせていただきます)と、木と木の精霊に向かって胸のうちで誓った。

「わわ、うわー、いいなあリプル!!」
 ペブルがリプルの枝をのぞき込む。
「リプル、この木だって、感じた?」
「うん、わかった」
「どんな感じ?」
「うまく説明できないよ。でも、きっとペブルも、その木に向き合ったら分かると思うわ」

「おおー楽しくなってきた。私も探しに行こっ、探すぞー!」
 と、両手を宙に突き上げたペブルだったが、二~三歩歩くと、首をすくめつつリプルを振り返った。
「あの~、リプルちゃん、もう自分の木が見つかったからヒマでしょ。よかったら、一緒に私の木の枝探しに付き合わせてあげるよ?」
上目づかいでうかがうようにリプルを見上げるペブル。そんなペブルの顔を見て、リプルは思わず吹き出した。
「しかたないなぁ。付き合ってあげるよ」
「やったー!」
 ペブルは、再び両手を宙に突き上げた。

 しかし、そのあとペブルたちは森の中をあちこち歩き回るはめになり……。
「ねえ、ペブルまだ見つからないの?」
 ペブルの左肩に乗っている使い魔のシズクが、うんざりしたように言う。
「うーん、これも違う。これもなんかちょっと足りないって感じ~」
 ペブルは、シズクのぐちなど、聞いていない様子で次から次へと木にタッチしつつ、どんどん森の奥へと入っていった。

 その時、森の奥の方から、するどい悲鳴が聞こえてきた。みんなは、顔を見合わせる。
「女の子の声だ」
「て、ことは同じ学校の子だよね」
「行ってみよう」
 リプルが声のした方に駆け出す。
「待って~」
 ペブルもあわててリプルの背を追いかけた。


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