上 下
12 / 103
11.くりかえす悪夢

天空の魔女 リプルとペブル

しおりを挟む
11.くりかえす悪夢

 シズクを連れ戻し、自分たちの部屋に戻ったペブルは、ムスッとした表情でつぶやいた。
「ぜんぜんプリンセスじゃなかった、あの金髪。エラそうだし、ジコ中っぽいし。使い魔のコウモリもシズクのこと食べるだなんて!」
 プンスカ怒っているペブルをなだめるために、リプルが提案した。
「気分を変えるために、おやつにしようよ」

「わっふー♡」
 たちまちペブルはごきげんに。

 リプルが、テーブルの上に手をかざし、
「ココルーラ、ア、テン」
 と、唱えた。
 すると、テーブルの上には、フルーティな香りの紅茶が入ったティーカップと、焼きたてホカホカのカップケーキがポン! ポン! といくつもあらわれた。
 チョコチップ、バナナやリンゴ、ナッツが乗っているものもある。

「うわー!こういう時、私、心のそこから、リプルとパルでよかったと思うんだよね」
 ペブルが両手をあげて喜ぶ。
「でも、この魔法は小学部で習った魔法だよ。誰でも使えるはずだけど?」
 リプルの言葉をペブルは聞こえないふりして
「いっただきまーす」
 と、ちょうどシズクが取ろうとしていた、好物のマロングラッセがのったカップケーキをパクっとひとくちで食べてしまった。

「あ~!ボクのケーキ。栗が乗ってるの、それしかなかったんだよ!!」
 シズクが、両手をぐるぐる回して怒る。

「もぐもぐ、ぼめん、ぼめん。はへちゃった」
「ペブル、口の中にものを入れたまま、しゃべらない」
 リプルはペブルにそう注意すると、シズクに笑顔を見せる。
「待っててね、シズク」

 リプルは、また呪文を唱えて新たにマロングラッセのカップケーキを2個出した。
「ありがと、リプル!」
 シズクは、まるまるくるんのしっぽをピンと伸ばして喜んだ。
「あ、ペブルは食べちゃダメ、さっき食べただろ。これは僕らのぶん」
 ふたたびマロングラッセのカップケーキをねらって、すっとのばしてきたペブルの手をシズクは、ハシッとはたいた。

 リプルは、小さくひとくちカップケーキを口に入れると、
「うーん、おいしい」
 と、幸せそうな笑顔になる。

 シズクも、カップケーキの上に座り込んで、マロングラッセに大きな前歯をきたてた。
 そんなふたりの様子を見て、
「え~、私ももっとゆっくり味わったらよかった……」
 ペブルはがっくりと肩を落とした。




 午後のやわらかな日差しが部屋の中に差し込んで、床を金色に染めている。
 

 その日の夜。
 リプルは久しぶりに悪夢を見た。
 幼い頃から何度となく、繰り返しみている悪夢だ。


 リプルはどこか知らない場所をほうきで飛んでいた。
 何があったのか、地上の家々はくずれ、木々はなぎ倒され、地面はでこぼこと隆起りゅうきしている。

 ふと誰かの泣き声が聞こえた。リプルはあわてて声のするほうに飛んだ。
「魔法なんてウソ。魔法使いなんて、いない」
 小さな女の子がひとりで泣きながら歩いている。

 彼女の服はドロドロであちこちやぶれている。
「……誰も助けてくれなかった。魔法使いなんていない」

 そのとき、大地が泣き叫ぶように鳴動めいどうしたかと思うと、バリバリという音が聞こえてきた。
「逃げろ! 地割じわれれだ!」
 巨大な斧で切りさかれたかのように大地に黒い地割れが走った。

 その途上にある建物や木々がバラバラといとも簡単に大地のけ目に落ちていく。
 地割れは、泣きながら歩く女の子のほうへすごい速度で向かってきた。
 
 リプルは空から女の子に向かって叫んだ。
「逃げて!」
 だけど女の子はぼう然と立ちすくんでいる。

 大勢の人がなすすべもなく、次々と地割れに飲みこまれていく。

「なんで、みんな魔法を使わないの!? 飛べば助かるのに!」

 リプルは、女の子を助けようと飛んだ。
 ようやく地割れに背を向け、かけだした女の子が、空中にいるリプルを見つけて「魔法使いさん、助けて!」と手を伸ばす。
「助ける!」

 リプルが女の子めがけて急降下きゅうこうかしたとき、地割れを追い越して、何本もの大きな竜巻が横に並んで走ってきた。
 リプルはそれでも必死に手を伸ばす。女の子の指に手が触れそうになったとき、

「ゴオォオオオ!!」
 竜巻に巻き込まれたリプルはもみくちゃにされた。
 ほうきもバラバラにくだけ、空中に投げ出されたリプルは気を失った。


 そこで目が覚めた。
 小さな女の子の恐怖にみひらかれた目が忘れられない。
「また助けられなかった……」
 
 ポロっと涙がひとつぶ、リプルの目からこぼれ落ちた。
 リプルは、頭からブランケットをすっぽりかぶると声を押し殺して泣いた。

 ペブルは、まったく知らずに寝息をたてて寝ていたが、シズクはクルミのからのベッドから起き上がってリプルを見ると、小さく(つらい夢だったんだね)というようにうなずいていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

絆の輪舞曲〜ロンド〜

Ⅶ.a
児童書・童話
キャラクター構成 主人公:水谷 陽太(みずたに ようた) - 年齢:30歳 - 職業:小説家 - 性格:おっとりしていて感受性豊かだが、少々抜けているところもある。 - 背景:幼少期に両親を失い、叔母の家で育つ。小説家としては成功しているが、人付き合いが苦手。 ヒロイン:白石 瑠奈(しらいし るな) - 年齢:28歳 - 職業:刑事 - 性格:強気で頭の回転が速いが、情に厚く家族思い。 - 背景:警察一家に生まれ育ち、父親の影響で刑事の道を選ぶ。兄が失踪しており、その謎を追っている。 親友:鈴木 健太(すずき けんた) - 年齢:30歳 - 職業:弁護士 - 性格:冷静で理知的だが、友人思いの一面も持つ。 - 背景:大学時代から陽太の親友。過去に大きな挫折を経験し、そこから立ち直った経緯がある。 謎の人物:黒崎 直人(くろさき なおと) - 年齢:35歳 - 職業:実業家 - 性格:冷酷で謎めいているが、実は深い孤独を抱えている。 - 背景:成功した実業家だが、その裏には多くの謎と秘密が隠されている。瑠奈の兄の失踪にも関与している可能性がある。 水谷陽太は、小説家としての成功を手にしながらも、幼少期のトラウマと向き合う日々を送っていた。そんな彼の前に現れたのは、刑事の白石瑠奈。瑠奈は失踪した兄の行方を追う中で、陽太の小説に隠された手がかりに気付く。二人は次第に友情と信頼を深め、共に真相を探り始める。 一方で、陽太の親友で弁護士の鈴木健太もまた、過去の挫折から立ち直り、二人をサポートする。しかし、彼らの前には冷酷な実業家、黒崎直人が立ちはだかる。黒崎は自身の目的のために、様々な手段を駆使して二人を翻弄する。 サスペンスフルな展開の中で明かされる真実、そしてそれぞれの絆が試される瞬間。笑いあり、涙ありの壮大なサクセスストーリーが、読者を待っている。絆と運命に導かれた物語、「絆の輪舞曲(ロンド)」で、あなたも彼らの冒険に参加してみませんか?

おねしょゆうれい

ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。 ※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

小さな王子さまのお話

佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』…… **あらすじ** 昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。 珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。 王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。 なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。 「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。 ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…? 『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』―― 亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。 全年齢の童話風ファンタジーになります。

ヒョイラレ

如月芳美
児童書・童話
中学に入って関東デビューを果たした俺は、急いで帰宅しようとして階段で足を滑らせる。 階段から落下した俺が目を覚ますと、しましまのモフモフになっている! しかも生きて歩いてる『俺』を目の当たりにすることに。 その『俺』はとんでもなく困り果てていて……。 どうやら転生した奴が俺の体を使ってる!?

泣き虫な君を、主人公に任命します!

成木沢ヨウ
児童書・童話
『演技でピンチを乗り越えろ!!』  小学六年生の川井仁太は、声優になるという夢がある。しかし父からは、父のような優秀な医者になれと言われていて、夢を打ち明けられないでいた。  そんな中いじめっ子の野田が、隣のクラスの須藤をいじめているところを見てしまう。すると謎の男女二人組が現れて、須藤を助けた。その二人組は学内小劇団ボルドの『宮風ソウヤ』『星みこと』と名乗り、同じ学校の同級生だった。  ひょんなことからボルドに誘われる仁太。最初は断った仁太だが、学芸会で声優を目指す役を演じれば、役を通じて父に宣言することができると言われ、夢を宣言する勇気をつけるためにも、ボルドに参加する決意をする。  演技を駆使して、さまざまな困難を乗り越える仁太たち。  葛藤しながらも、懸命に夢を追う少年たちの物語。

処理中です...