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6.大波乱の中等部入学試験(3)
天空の魔女 リプルとペブル
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6.大波乱の中等部入学試験(3)
「おめでとう!リプル~!」
観客席のペブルは、立ち上がり両手を振りながら、大声でリプルを祝福している。
「さすがリプルだね。魔法も完璧だけど、なんというかストーリー性のある美しい世界をえがいてる。さすがだ」
シズクもリプルを手ばなしでほめる。
「うん、うん。よかった。よかった」
「残るはペブルだね」
「もう帰りたい……」
シズクのことばに、われにかえったペブルは真顔に戻って、ため息をついた。
リプルは、ほおを赤らめてペブルのとなりの席へと戻ってきた。
「おめでとう、リプル」
「ありがとう……って。ペブル、なんか悲しそうだけど?」
「だって。次、私が魔法失敗したら、ここでリプルとお別れなんだよ。小さい頃からずっと二人で楽しく暮らしてきたのに。そう思うと悲しくて」
昨日は、大船に乗ったつもりで、などと豪語していたくせに、リプルの完璧な魔法を見たペブルはすっかり意気消沈していた。
「ばかっ! やる前から失敗すること考えてるなんて、ペブルらしくない。そんな気持ちじゃ、失敗するに決まってる!」
リプルが立ち上がって、あまりにも大声を出したので、まわりの人たちがみんな何事かと注目した。
校長先生がコホン! と、せきばらいをした。
「ここは試験会場ですよ。お静かに」
でも、その声はリプルの耳には届かなかった。
「ばか、ペブル。ばか、ばか、ペブル。一度くらい自分の限界を乗り越えてやってみなさい!」
そうリプルが叫んだとたん、リプルの髪がぼわっと逆立った。
ペブルがハッとした。リプルの言葉にやる気スイッチが入った、わけではなかった。
「リプル、耳、耳」
リプルの耳は、ひとの耳ではなく、灰色のとんがったオオカミの耳に変わっていた。
ペブルがあわてて、リプルの耳を押さえる。
ところが、リプルの耳を押さえたとたん、今度は、リプルのおしりのあたりから、ボスンとふさふさのしっぽが生えてきた。灰色のするどい毛がいっぱい生えたオオカミのしっぽ。
「あわわわ。ねえ、リプル、落ち着いて。しっぽまで出てるから」
ペブルが、わさわさわさわさと、超高速で手を左右に動かしてみんなの目からリプルの耳としっぽをかくそうとする。
そこで、はじめてリプルは、はっとわれにかえった。
「はい、深呼吸するよ。スー、ハー」
ペブルの声に合わせて、リプルは大きく息を吸ったり吐いたりする。
すると、しっぽも耳も引っ込んで、リプルは普通の女の子、じゃなくて、普通の魔女の女の子に戻った。
まわりでは、ふたりを指さしてひそひそと話す声や、首をかしげる子もいたけど、ペブルの手の高速わさわさのおかげでよく見えなかったようだ。
リプルは「なにかありました?」とでも言いたげに、スカートのすそを押さえながら静かに席についた。
一方、ペブルは、もともと自信がなかったところに、リプルの秘密を守ろうと、高速わさわさをしたために、手とうでが、じ~んとしびれてしまった。
とても平常心では試験にいどめそうにない。
しかも最悪なことに、次がペブルの番だった。
「はい、では次の人。お願いします」
ヒゲの校長先生も何事もなかったかのように、試験をはじめるよううながしている。
ペブルは、まるで足かせを100個くらいはめているかのような思い足取りで、演台へと向かった。
胸ポケットにいるはずのシズクに語りかける。
「この際だから言っておくわ。シズク、今日まで……ありがとうね。試験落ちたら、そこで私たちお別れだからさ」
「……」
返事がないのを不思議に思ったペブルは胸ポケットをのぞき込んだ。
そこにシズクの姿はなかった。
「えっ、ええ~!?」
ペブルはあせった。
リプルは使い魔の力を体に宿しているので、自分ひとりで魔法を使うことができるが、普通の魔女はそうはいかない。
大きな魔法を使うときは、使い魔と力をあわせて呪文を唱える必要があるのだ。
「シズク! どこにいるの?」
すると、リプルがすくっと立ち上がり、何かを投げてよこした。
ペブルがキャッチしたまるまるふわふわしたそれは、ぐっすり寝ているシズクだった。
「起きてよ。これから本番なのに」
ペブルがシズクのお腹をくすぐると、のんきなシマリスの使い魔は、ようやく目を覚ました。
「は~よく寝た。で、夜ご飯?」
「ばかっ! 今から、魔女学校中等部の入学試験。今からもっとも魔力を使うべき時なの。何で寝てるのよ」
「しけんってどんな料理だ……ええーっつ試験?!」
シズクは、ようやくしっかりと目をさました。
「じゃ、じゃあ行くよ」
ペブルはじっと目を閉じる。自分の体の中に魔力が満ちてくるのを感じ取ろうとした。
でも、集中しようとすればするほど、頭の中には、寝ぼけたシズクの顔がうかんできたり、リプルがオオカミ耳になってる姿がうかんできたりする。
(ダメだ、人生の一大事なんだから。ここ、失敗したら、リプルともシズクとも魔法界ともお別れなんだぞ。しっかりしろ、私)
「おめでとう!リプル~!」
観客席のペブルは、立ち上がり両手を振りながら、大声でリプルを祝福している。
「さすがリプルだね。魔法も完璧だけど、なんというかストーリー性のある美しい世界をえがいてる。さすがだ」
シズクもリプルを手ばなしでほめる。
「うん、うん。よかった。よかった」
「残るはペブルだね」
「もう帰りたい……」
シズクのことばに、われにかえったペブルは真顔に戻って、ため息をついた。
リプルは、ほおを赤らめてペブルのとなりの席へと戻ってきた。
「おめでとう、リプル」
「ありがとう……って。ペブル、なんか悲しそうだけど?」
「だって。次、私が魔法失敗したら、ここでリプルとお別れなんだよ。小さい頃からずっと二人で楽しく暮らしてきたのに。そう思うと悲しくて」
昨日は、大船に乗ったつもりで、などと豪語していたくせに、リプルの完璧な魔法を見たペブルはすっかり意気消沈していた。
「ばかっ! やる前から失敗すること考えてるなんて、ペブルらしくない。そんな気持ちじゃ、失敗するに決まってる!」
リプルが立ち上がって、あまりにも大声を出したので、まわりの人たちがみんな何事かと注目した。
校長先生がコホン! と、せきばらいをした。
「ここは試験会場ですよ。お静かに」
でも、その声はリプルの耳には届かなかった。
「ばか、ペブル。ばか、ばか、ペブル。一度くらい自分の限界を乗り越えてやってみなさい!」
そうリプルが叫んだとたん、リプルの髪がぼわっと逆立った。
ペブルがハッとした。リプルの言葉にやる気スイッチが入った、わけではなかった。
「リプル、耳、耳」
リプルの耳は、ひとの耳ではなく、灰色のとんがったオオカミの耳に変わっていた。
ペブルがあわてて、リプルの耳を押さえる。
ところが、リプルの耳を押さえたとたん、今度は、リプルのおしりのあたりから、ボスンとふさふさのしっぽが生えてきた。灰色のするどい毛がいっぱい生えたオオカミのしっぽ。
「あわわわ。ねえ、リプル、落ち着いて。しっぽまで出てるから」
ペブルが、わさわさわさわさと、超高速で手を左右に動かしてみんなの目からリプルの耳としっぽをかくそうとする。
そこで、はじめてリプルは、はっとわれにかえった。
「はい、深呼吸するよ。スー、ハー」
ペブルの声に合わせて、リプルは大きく息を吸ったり吐いたりする。
すると、しっぽも耳も引っ込んで、リプルは普通の女の子、じゃなくて、普通の魔女の女の子に戻った。
まわりでは、ふたりを指さしてひそひそと話す声や、首をかしげる子もいたけど、ペブルの手の高速わさわさのおかげでよく見えなかったようだ。
リプルは「なにかありました?」とでも言いたげに、スカートのすそを押さえながら静かに席についた。
一方、ペブルは、もともと自信がなかったところに、リプルの秘密を守ろうと、高速わさわさをしたために、手とうでが、じ~んとしびれてしまった。
とても平常心では試験にいどめそうにない。
しかも最悪なことに、次がペブルの番だった。
「はい、では次の人。お願いします」
ヒゲの校長先生も何事もなかったかのように、試験をはじめるよううながしている。
ペブルは、まるで足かせを100個くらいはめているかのような思い足取りで、演台へと向かった。
胸ポケットにいるはずのシズクに語りかける。
「この際だから言っておくわ。シズク、今日まで……ありがとうね。試験落ちたら、そこで私たちお別れだからさ」
「……」
返事がないのを不思議に思ったペブルは胸ポケットをのぞき込んだ。
そこにシズクの姿はなかった。
「えっ、ええ~!?」
ペブルはあせった。
リプルは使い魔の力を体に宿しているので、自分ひとりで魔法を使うことができるが、普通の魔女はそうはいかない。
大きな魔法を使うときは、使い魔と力をあわせて呪文を唱える必要があるのだ。
「シズク! どこにいるの?」
すると、リプルがすくっと立ち上がり、何かを投げてよこした。
ペブルがキャッチしたまるまるふわふわしたそれは、ぐっすり寝ているシズクだった。
「起きてよ。これから本番なのに」
ペブルがシズクのお腹をくすぐると、のんきなシマリスの使い魔は、ようやく目を覚ました。
「は~よく寝た。で、夜ご飯?」
「ばかっ! 今から、魔女学校中等部の入学試験。今からもっとも魔力を使うべき時なの。何で寝てるのよ」
「しけんってどんな料理だ……ええーっつ試験?!」
シズクは、ようやくしっかりと目をさました。
「じゃ、じゃあ行くよ」
ペブルはじっと目を閉じる。自分の体の中に魔力が満ちてくるのを感じ取ろうとした。
でも、集中しようとすればするほど、頭の中には、寝ぼけたシズクの顔がうかんできたり、リプルがオオカミ耳になってる姿がうかんできたりする。
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