天空の魔女 リプルとペブル

やすいやくし

文字の大きさ
上 下
3 / 103
2.お気に入りの魔女帽子が!

天空の魔女 リプルとペブル

しおりを挟む
2.お気に入りの魔女帽子が!

 さけび声に気づいたリプルが、ずるずると落ちかけているペブルの足をとっさにつかまなければ、ペブルもビニール袋やツタと同じ運命をたどっていたに違いない。

 ペブルの体は、逆さづりの状態となり、胸にかけていたネックレスが、キラリと光りながら落ちていった。
 だけどリプルもまだ幼い女の子。自分と同じ体重のペブルを引き上げることはできなかった。

「うーん、うーーっしょ」
 リプルは、必死でペブルを引き上げようとしたが、ぎゃくに空中へと引きずられていく。

「いや~!!」
 こわがってバタバタさせているペブルの足に顔をけられながらも
「アル、ハイラノ、レブー!」
 リプルは、必死で呪文を唱えた。

 これはペブルの背中に羽根を生やす呪文。
 しかし、何もおこらない。それも当然のこと。体を変形させる魔法など難しすぎて、子どもにはとても無理だ。
 
 ふたりの体はずるずると壁の穴から空中へとずり落ちていく。
 リプルは、片手でペブルの手を、もう片ほうの手でタランと垂れ下がっているつるをつかんだ。
 しかし、つるはプチと切れてしまった。

「あっ!」
 ふたりの体は、何もない空中へと放り出された。
 そのとき奇跡が起きた。

 光のつぶがペブルの背中に集まり、鳥の羽根の形にサッと広がった。
 光の描いた軌跡のとおりにペブルの背に羽根が生えた。

「え、あ?」
「その羽根をはばたかせて、ペブル!」
 逆にペブルにぶら下がるかっこうになったリプルが叫ぶ。

 ペブルは、バサバサと羽根を羽ばたかせ、体をふわっと宙に浮かべると、しっかりとリプルの手を握りしめたまま壁の穴をくぐりぬけて大地の上へと戻ってきた。

「た、助かった!?」
 リプルがほーっと息をはく。

「リプル、たすけてくれて、ぐすっ、ありがとーーー!!」
 両手をひろげてリプルに抱き着くペブル。

 わんわんと涙をながして泣くペブルの頭をリプルはよしよしとなでた。
「助かったんだから、泣かないの」

「だって……ぐすん……お気に入りの魔女帽子、なくしちゃったよぉ」
 そう言うとペブルはよりいっそう激しく泣きだした。
 もちろん魔女帽子ではなく、ただのビニール袋である。

「あれは……拾った袋で作ったニセモノだし。本物の魔女帽子は中等部生になったらもらえるから」
 そのことばにペブルは、チラっと顔をあげた。
「私も、魔女になれるかなぁ。魔女帽子もらえるかなぁ?」

 魔女に生まれたからといって全員が魔女になれるわけではない。試練や試験をクリアしないと正魔女にはなれないのだ。
「うん、いっしょに魔法の勉強がんばろうよ! 私も手伝ってあげるから」

 リプルのはげましに、ペブルもようやく泣き止んだ。
 その後、しばらくの間、ふたりは、ツタをより分けて壁にぽっかりと窓のように空いた空間から、カメみたいにひょっこり顔だけだして、壁のむこうに広がる青い世界をぽかんと見つめていた。

「世界のはてって、ほんとにあったんだね」
「はてのむこうには、雲のほかには、何もないんだね」

 壁の向こうに広がっていたのは、上も前も下も全部青い世界。
 目線の高さやもっと高い場所にも雲が浮いている。
 見上げれば、どこまでもやわらかな青の世界が広がっている。
 下を見ると、雲の間から空とは、また違った深い青が広がっていた。ところどころ、キラキラと輝いている。


「あっ! ペブル。見て、あそこ。大きな緑の大陸がある!」
「ほんとだ。すっごく下のほうだね。あんなとこにも陸があるんだ!」

「いつか、行ってみたいなぁ」
 と、目を輝かせるリプルにペブルは、首をふった。
「えー、でっかいモンスターとかいるかもよ」
 ペブルが口を大きく開け、両手をかぎづめみたいな形にして、リプルをおどかす。

「モンスターなんておとぎ話にしか出てこないよ。森とか洞窟に魔物はいるけど」
 たくさんの本や図鑑を読んでいるリプルは、おどされても落ち着いて言い返す。

 すると、ペブルがほおを真っ赤にして言った。
「さっき見たもん! でっかい細長い龍みたいなヤツが、下から来て天にかけあがっていったの。お尻から白い煙をもくもくって吐いて。あれ、ぜったいモンスター」

 リプルが首をかしげた。
「そういえば……すごーく大きな、人が何人も乗れちゃうくらい大きな銀色の鳥が、この大陸の近くを飛んでいるのをみたって話を読んだことがある」
「ほらね、外の世界はあぶないんだよ」

「でも、そこに知らないことがあれば、行ってみてみたいよ!」
 瞳をキラキラさせているリプルにたいして、ペブルは鼻の頭にしわをよせた。
「リプルの知りたがり屋!」
「でも、そこにすっごくおいしいお菓子があったら、ペブルはどうする?」

 ペブルは鼻の穴をふくらませて即答。
「行く!」
 リプルが「ほらね」と笑った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~

丹斗大巴
児童書・童話
 どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!? *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*   夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?  *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* 家族のきずなと種を超えた友情の物語。

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

時空捜査クラブ ~千年生きる鬼~

龍 たまみ
児童書・童話
一学期の途中に中学一年生の教室に転校してきた外国人マシュー。彼はひすい色の瞳を持ち、頭脳明晰で国からの特殊任務を遂行中だと言う。今回の任務は、千年前に力を削ぎ落し、眠りについていたとされる大江山に住む鬼、酒呑童子(しゅてんどうじ)の力の復活を阻止して人間に危害を加えないようにするということ。同じクラスの大祇(たいき)と一緒に大江山に向かい、鬼との接触を試みている間に女子生徒が行方不明になってしまう。女子生徒の救出と鬼と共存する未来を模索しようと努力する中学生の物語。<小学校高学年~大人向け> 全45話で完結です。

処理中です...