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1.世界のはしっこ

天空の魔女 リプルとペブル

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やみより暗き洞穴どうけつを進みて
 至るは光の空か、はたまた更なる常闇とこやみの大地か>


1.世界のはしっこ

「ねー、リプル。もう帰ろうよ。こんなに遠くまで来ちゃって。先生たちが心配してるよ」
「お願い、ペブル。もうちょっとだけ。私、世界のはしっこを見てみたい。この本に書いてあった世界のはしっこをどーしても見たいの!!」
「もうリプルってば、ほんと知りたがり屋なんだから!」

 ぼんやりとした薄もやが、そこここにただよう青い森の中を歩く、ふたりの幼い女の子。
 人間でいえば5歳くらいだろうか。
ふたりは、空のように青い色のワンピースを着ている。

リプルと呼ばれたダークブラウンの長い髪の子は、きりっとしたまなざしで、分厚い本を小脇こわきにかかえ、前を見すえてどんどん歩いて行く。

ペブルと呼ばれた短い水色髪の子は、あごをあげ、足をほうり出すような歩き方。もうくたくたといったようすだ。

しかもペブルは水色の頭になにやらおかしなものをかぶっている。
シャリシャリの白いビニール袋。よく見ると赤字で「ウニクロ」と印刷されている。袋の底に小さく「窒息ちっそくのおそれがありますので、お子さまがかぶって遊んだりしないようご注意ください」と注意書きがある。

が、ふたりともこの文字は読めない。それはふたりが幼いから、だけではなく、私たちとは違う国に住む魔女だから。正確に言うと魔女の修行中の身なのだけれど。



頭にかぶったビニール袋のシャリシャリという音にまじって「お腹空いた」とか「疲れた」と不満をもらすペブルをなだめつつ、リプルがなおも進んでいくと、突然、ふたりの目の前に大きなレンガの壁が現れた。
上を見ても、もやにおおわれていて見通せないくらい高い。左右を見ても果てしなく壁が続いている。

「すっごい。これっていったい誰が作ったんだろ? そして、どうやって??」
リプルは、おそるおそるレンガに手をふれた。かなり古いもののようで、ところどころ苔むしたり、ツタが生い茂ったりしているけど、てざわりはいたって普通のレンガである。
リプルたちが暮らしているオルサト村には、こんなに大きな建物はない。
魔女の子どもたちが集団で暮らしている魔女学園の教会の塔だって、こんなには高くない。

 これがずっと探していた「世界のはしっこ」なのだろうか? 
リプルはその場に座りこむと、抱えていたぶあつい本をひらいた。
「えっと。『せかいのはしっこ……』うーん難しい字は、読めない。えっと『××大陸は、しゅういを高いレンガかべでかこまれている。××事故をふせぐためである』」

 指でなぞりながら読みおえたリプルは、ほおを赤らめ、本をパタリとひざの上に落とすと両手で胸をおさえた。
「高いレンガの壁!! ペブル、やっぱりここが『世界のはしっこ』だ!」

 リプル以上に喜んだのはペブルだった。
「やったー!! じゃ、もういいよね。満足したよね。さぁ帰ろう」
 ペブルはレンガの壁にクルリと背を向け、これでつとめは果たした……と言わんばかりに、もときた道へと歩きだそうとした。

ところが、そんなペブルの言葉には耳も貸さずにリプルは、レンガの壁をトントンとたたいたりして、何かを調べはじめた。
「なんで、ここに壁があるの? なんとか事故ってなんだろう。もっと勉強して、むずかしい字も読めるようになりたいっ」

 そんなリプルの背中をあきれたようにながめるペブル。
「もういいでしょ。世界のはしっこを見つけたんだから」
 返事はない。

「もぉ~リプルったら。なにかに夢中になると、まわりの声が聞こえなくなっちゃうんだから! もぉ~疲れちゃったよぉ」
 ペブルはむすっとした表情で腕組みし、壁に寄りかかろうとツタに覆われた壁に背をもたせかけた。

が、そこにあると思っていた壁はなかった。ちょうど、もたれた部分の壁が丸く崩れていたのだ。しかも悪いことに穴の開いた部分にツタが生い茂っていて壁がないことにペブルは気づけなかった。

勢いあまったペブルは、あおむけに倒れた。上半身は壁の向こう側に投げだされ、ふくらはぎから下だけがかろうじて地面に接している。

ペブルはとっさにツタのつるをつかみつつ、思い知った。
 これが世界のはしっこだ。青い…どこまでも。

 壁の向こうには、はるか遠くまで青い空間が広がるだけで、他に何もなかった。
白い雲が手に届きそうな場所にふわふわと浮かんでいる。
頭にかぶっていたビニール袋は、どこかに吹き飛ばされていき、ペブルの水色の髪は、下から吹き上げてくる風にあおられて暴れている。

 ふと、「ゴォオオオー」と、すごい音が聞こえてきた。
白い煙をまとった長細い物体が、天を目指してかけあがっていく。すごい速度だ。
「な、なにあれ!? 銀の龍??」

 なぞの物体はお尻のあたりからすごく大きな炎を吹きだしていた。が、途中で炎が消えたかと思うと、バラバラと下のほうが崩れておちていく。
「あっ、こわれた!?」
 しかし、こわれたのは下のほうだけだったようだ。細長い物体は、まだ天めがけて駆け上がり続けていた。

 そして、ペブルは「こわれた?」とナゾの物体の心配をしている場合ではなかった。
ぎゅっと両手でつかんでいる命づなのツタのつるが、ペブルの重みで、プチ、プチと切れはじめたのだ。

ちぎれた葉やつるが風にふかれて飛び去っていく。その時になってようやく声が出た。
「た、助けて!」
 と叫んだときには、体のほとんどが空中になげだされていた。

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