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39 不思議の国
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「どうして、俺は自分の過去なんか見せられてるんだろうって、お前と別れてからもずっと考えてたんだ」
仁科要平はそう言って、カップに添えた自分の手を無気力に見下ろした。
朝日が差し込むカウンター席は眩しく、その光に白々と照らされた自分の手は、抜けるように白い。弛緩した手がだらりとテーブルの乗った様はまるで死人の肉を髣髴とさせ、我ながら不気味だとぼんやり思う。
コーヒーの黒い表面が僅かに波打ち、その波紋の中に、歪んだ自分の顔を見る。どんな表情をしていたかは、さしたる関心もなく眺めた仁科には判らない。顔を上げれば窓硝子に映っているだろうが、ろくでもない顔だろうと簡単に想像がつく。
「吉野と別れた後。予想できてるだろうけど、あいつ、また死んだ」
淡々と、仁科は言った。それを言う声が、まるで他人事のように空気を打つ。自分の声だとは俄かに信じ難いほどに、空っぽの声だった。
本当に、馬鹿みたいだった。
ただ、飛び降り自殺をもう一度見た。それだけの事が、自分をこれほど変えるとは思わなかった。笑い飛ばせたら楽だろうが、何故か笑顔は固まった。
いつものように。そう思えば思う程、から回る。一度看破された笑顔を復元する事が、これほど心を砕いてもできない。そんな己に苛立つ心さえ、摩耗していた。
「……」
仁科の告白を聞いた吉野泰介は、何も言わなかった。俯き気味の姿勢をぴたりと維持し、両膝に乗せた拳を固く握り締め、テーブルのコーヒーを睨み付けるようにして座っている。仁科の心に、微かな感慨が湧き上がった。
――泰介は、帰ってきたのだ。
佐伯葵が失踪し、次に消えたのは泰介だった。萩宮に一人残された仁科はいつの間にかここへ着席していたが、顔を上げると、泰介がいた。短髪を揺らして辺りを窺う、心なしか擦り傷が増えたクラスメイト。その姿を見て初めて、固まったままの感情が、僅かだが動いた。心の閊えが一つ、確かに抜け落ちたのを感じた。
そして同時に、泰介の無事を確認したところで僅かほども変わらなかった己の虚無に、仁科は淡々と向き合っていた。
何が、ここまで自分を空っぽにしたのだろう。仁科は空っぽの心で考える。
泰介はやはり寡黙だった。頑なに引き結んだ口元が、呑みこんだ感情と言葉で歪んでいる。泰介が仁科への質問を諦めて聞き役に徹する姿勢を見下ろしながら、胸に暗い諦観が広がった。
――バレている。
泰介は、仁科の状態を見抜いている。こんなにもぼろぼろの自分を見抜いて、だから泰介は怒らない。
元々吉野泰介というクラスメイトは、感じた事を言葉にする事に躊躇いが薄い所為か、気性が荒いと見られがちだ。だがその実かなり面倒見がよく、問題を抱えている人間を放っておけない所があるらしい。苛立ちを隠そうともしない顔のまま葵の世話をこまごまと焼く姿からも、それは顕著に表れている。腹が立つのであれば放っておけばいいのに、それでも泰介は人の弱さや粗に構う。
穿った見方をしているのは承知していた。こんな感想を持っていたと知られれば泰介には手加減なしで殴られるだろうし、確実に葵を悲しませるだろう。だが仁科は泰介のそんな愚直さを、馬鹿だと蔑むのと同時に一目置いていたのだ。
それは、間違っても優しくなどない自分には、到底真似できないからだ。
皮肉だと思う。
その気遣いを、自分に向けられる日が来るとは思わなかった。
泰介が人に意識して優しくする時は、いつもそうなのだ。誰かに対して真摯な態度を取ろうとする時、泰介は寡黙になる。協調性皆無の自分のように、だが自分とは明らかに違う顔で、泰介はぶっきらぼうに口を閉ざす。
泰介は、不器用だ。
不器用だからこそ実直で、誠実だった。
それは確実に相手へと伝わる、拙いながらもはっきりとした配慮だった。
仁科にはない、優しさだった。
「……」
それをどうして、自分はあの時持てなかったのだろう。
ないものねだりをする気はなかった。だが、だとしたらこの感情は後悔だろうか。
最後の会話を、思い出す。結局誘いに乗って教室に出向いてしまった、鮮烈な最期の記憶。蘇った過去を前にして茫然と立ち尽くす自分の姿が、十四の自分と重なった。
何もできないのは、今も昔も変わらないのだ。仁科があの結末を後悔しているのだとしても、それは意味のない事だ。何故ならあの時の仁科に泰介のような優しさがあったとしても、それを侑の為に、仁科はきっと使わない。使う自分が、思い描けないのだ。
だから、駄目なのだ。何度でも、同じ事を繰り返す。
その堂々巡りに、心が擦り切れ果てるまで。
気づけば泰介の横顔を見ながら、随分と時間が過ぎていた。だが泰介は視線を動かさず、仁科を急かす事もしなかった。一度待つと決めた泰介はぴたりと静止し、それでも顔には悔しさと怒りと、仁科には想像もつかない何かの感情が色濃く滲んだ、複雑な表情を浮かべていた。
そして、何も言わない。待ってくれている。
「……吉野。萩宮の中学で、お前と話した時。佐伯ももしかしたら過去を見てるのかもしれないって俺に言ったの、覚えてるか?」
仁科は、そう切り出した。
「俺は、その考えが正しいんじゃないかって思ってる。俺が、自分の中学時代を見たみたいに。吉野は今も、そこは同じ考えだと思う。違うか?」
泰介はカウンターを睨み付けていたが、やがて顔を上げると言った。
「……ああ。俺もそうだと思ってる」
奥歯に何かが挟まったような、歯切れの悪い返答だった。
違和感を、覚えた。何事もはきはき喋る、泰介らしからぬ言い様だ。
訝しんだが、やがて気づく。
もしかしたら泰介も、仁科と分断された後に何らかの過去を鑑賞する羽目になったのだろうか。泰介は決まり悪そうに口を噤んでいたが、それが語る事を拒む姿勢なのか、単に仁科の態度への怒りなのかは判断がつかなかった。訊き出すべきだと分かっていたが、どうにも訊く気になれなかった。
泰介が何を見たにしろ、それは泰介の問題だ。訊いた所でどうにもならない。それにおそらく〝ゲーム〟との関係は薄いだろう。吉野泰介と宮崎侑との接点は皆無ではないと発覚したが、あまりに希薄な上にあれだけでは意味不明だ。わざわざ泰介に注進する気にもなれない。
自分と、侑。その関わりだけで、沢山だ。
「なんであいつが〝アリス〟を探せって言ったか。それがやっと分かった気がする」
仁科はコーヒーカップに触れたが、手に思うように力が入らず、爪がかつんとカップを叩いた。その挙動に自分で笑いそうになる。なんとか掴んで、一口飲んだ。コーヒーの匂いが鼻腔を抜けたが、何の味もしなかった。
「きっとそれは、あの場所が不思議の国だからかもしれない」
泰介が、不可解そうな顔をする。仁科は構わず、先を続けた。
「『不思議の国のアリス』は知ってるだろ? 不思議の国。非現実世界。あるわけはないし、そんなものは空想の産物だ。時間を気にするウサギがいたり、身体が大きくなったり小さくなったりする薬とか食い物とかがあったりする、馬鹿げた場所の事だ」
「……それが今実際に起きてる事と、関係してるって言いたいのか?」
「吉野はこういう話、嫌いだろ。俺もヤだけど」
「ああ。信じられないし馬鹿みてえ。信じて後で笑われる自分ってやつを想像してみろよ。恥ずかしくて外歩けねえよ」
仁科は笑い、コーヒーをとんと置いた。優しく置いたはずなのに、波打った黒い雫がコップの淵から一滴零れて、側面を伝い、コップの底をじわじわと回る。真っ黒な表面が揺れて、射しこむ朝日を跳ね返す。それを見下ろしながら、泰介がこちらを複雑な表情で睨んでいるのに気づいていた。
結局吉野泰介という人間は、優しさや労りの感情さえ怒りにしてぶつけてくるのだ。損な奴だと仁科は思う。そんな顔ばかりするから、誤解されるのだ。馬鹿だ、とまた思った。
だが、こういう馬鹿が傍にいた葵は幸せだっただろう、と。仁科はそんな風にも考えながら、言った。
「……きっと。一番最初に不思議の国に行ったのは、佐伯なんだ」
泰介の表情が、固まる。
「佐伯は消えたな。俺達と離れた僅かな時間の間に。その時あいつも、俺達みたいにどこかに飛ばされたんだ。そこを不思議の国だと仮定する」
「じゃあ、俺らが行った、仁科の中学時代も?」
「ああ。同じように仮定する。……吉野。不思議の国に迷い込むのは、アリスだろ?」
「つまり……不思議の国へ行けた者は、〝アリス〟。仁科が言いたいのは、そういう事かよ」
仁科は頷く事はせず、話し続けた。
「俺達は皆、〝アリス〟だったんだ。探すべき〝アリス〟なんて、俺達の中にはいなかった。というより、〝ゲーム〟にすらなってない。だって、〝アリス〟はあの空間に三人もいたんだ」
「……」
「俺達は、皆〝アリス〟だったんだ」
「けど、〝アリス〟は。小説のアリスは、目が覚めるだろ」
泰介が、声を割り込ませるように言った。
「仁科。ここに俺達は帰ってきたんだぞ。お前の言う不思議の国から、帰ってきたって事になるんだろ?」
「空想論の嫌いな吉野が、仮定を元に会話なんてするんだな」
「茶化すな。聞けよ」
歯痒そうな表情で、泰介が一喝した。
「ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』。俺一回しか読んだ事ないし、それもかなり昔だ。結構細部は忘れてると思う。でも、結末は忘れてないからな。不思議の国なんか、アリスの夢だ。あんなものはまやかしなんだ。アリスが目を覚ました瞬間に、全部消えちまうんだよ」
「ともかく、だ」
仁科は、冷たいコーヒーを一口含んでから、言った。
「目覚めたアリスは、正しいんだって俺は思う」
「正しい?」
「だって、そうだろ。アリスは絶対に目を覚ますものだろ。あのタイミングで」
「あのタイミング……?」
「女王に首を切られそうになるだろ。だからアリスは、目覚めた事で救われた」
泰介が、はっと息を呑んだ。
会話が、途切れる。その隙間を埋めるBGMだけが場違いに明るく、窓から射す外光は少しずつだが明るさを増し、泰介の手や頬の傷を鮮明に映し出していく。
一体何を頑張れば、ここまでぼろぼろになれるのだろう。硝子を割った時の事を思い出したが、その後にできた擦り傷の方が多く見える。まるで小学生のような奴だと、場違いにも笑いそうになった。
だが分かっていた。仁科の所為だ。
「……お前が言いたい事、分かった。仁科」
泰介が、小さな背もたれに思い切りもたれて天井を仰いだ。
「お前、〝アリス〟の正体分かったんだろ」
「……。絶対、俺だと思う。でも、第二候補も一応考えた」
「その第二候補、当ててやる」
「どうぞ」
「葵だと思ってるだろ!」
泰介が怒鳴った。
周囲の客がぎょっとしたようにこちらを振り向き、店内が静まり返る。泰介はその沈黙に虚を突かれたように息を呑むと、ひどくもどかしそうな表情で仁科の顔をひたと睨んだ。
「目覚めて、帰ってきた〝アリス〟。これが定型通りの正しい〝アリス〟。つまり俺とお前だ。帰ってきた〝アリス〟同士はここで無事に合流できた。でも、もう一人……まだ帰って来れてない〝アリス〟がいる。仁科、そう言いたいんだろ」
――アリスが不思議の国から、帰って来れなかったら。
耳鳴りのように頭に響くのは、甘ったるい少女の声。その声で、言うのだ。
不思議の国から、帰ってこられない、〝アリス〟は。
「不思議の国のアリス、か。文字通りそれって、佐伯葵の事だろ。あいつまだ、帰ってきてない」
仁科はそれだけの台詞を抑揚なく述べると、自嘲気味に笑った。
全て、自分の蒔いた種だった。それが今、葵を追い込んでいる。
佐伯葵の事を、仁科は思う。黒く真っ直ぐな、少し長めの髪。オレンジ色の頭髪の自分が隣に立つと、両者の髪色の差が激し過ぎて笑い合ったのを思い出す。今にして思えば何がそんなに可笑しかったのか分からないが、ただ仁科よりも葵の方が、ずっと楽しそうに笑っていた。
仁科の髪を、綺麗だと言ったのは葵だった。
オレンジ色の髪を、褒められたのは初めてだった。
馬鹿な奴だと、そう思ったのを覚えている。非行の象徴のような如何にも頭の悪そうな頭髪を指して、綺麗とは一体何事だろう。だがそんな風に言われるのはどうしてか嫌ではなくて、一房摘まんで日の光に透かした。金色に見えた髪が懐かしいと、葵の言葉が耳に残る。
何故、葵なのだろうと自問した。だがそんなものは自問するまでもなかった。あの日の、自分が悪いのだ。
葵は、どうなるのだろう。〝ゲーム〟の言葉が過る。死ぬのだろうか。死ぬべき仁科要平が死なないで、仁科要平でない誰かが死ぬ。そうやって繰り返すのが、この〝ゲーム〟なのだろうか。これから死ぬかもしれないのが佐伯葵だという事実が、途方もない絶望となって、胸にぽっかりと穴を開けた。少しの間笑い続けた仁科は、ぜんまいの切れた人形のように笑いを収めて、緩慢に泰介を振り返った。
視線を受けた泰介は、仁科をきつく睨んでいた。
「お前のその推理。穴だらけだぞ」
泰介は言いながら立ち上がり、隣席へ乗せていた葵の鞄を引っ掴んで肩へ提げると、仁科を傲然と見下ろした。
「仁科、さっきの不思議の国って仮説。それ、正しいって立証できないだろ」
「ああ。勿論。仮説だし」
「もう一つ。ここがその不思議の国じゃないって保障、どこにあるんだよ?」
仁科は、沈黙する。泰介の言わんとする意味が分からなかった。
だが、すぐに理解が追いついた。
「まだ、〝ゲーム〟終わってないだろ。過去見せられたくらいで終わるわけないだろ。多分これ、そんなぬるい〝ゲーム〟じゃねえよ。あの過去が不思議の国なんじゃなくて、ここが、ここ全体が、不思議の国なんじゃないかって思ってる」
泰介は伝票を引っ掴むと、「行くぞ、仁科」と乱暴に言った。
「俺はお前に反論するぜ。お前の理論に則るなら、〝アリス〟はまだ俺ら全員だ。葵だけが怪しいなんて思わないし、葵は絶対、どこかにいるはずだ」
真っ直ぐに仁科を見る泰介の目に、怒りと、何かを呑み込んだような感情の色が閃く。それでもはっきりと、泰介は言った。
「それに俺、仁科も自分で言ってたけど。最初からお前が、〝アリス〟だって思ってる」
「……そうだろうな」
仁科は、乾いた声で笑った。泰介は顔を顰めたが、今はもう文句を言う気はないようだ。「出るぞ。早く立てっての」と仁科に催促しながら、足はレジへ向かっている。それらの言葉には、迷いというものがまるでなかった。日本刀の切れ味を髣髴とさせる言葉尻は相変わらず乱暴で、自分の言葉と心を毛ほども疑っていないそのスタンスが、仁科のがらんどうの心へ、風のように流れ込む。
何を感じたのか、分からない。だがそれでも、何かが響いた。以前泰介に言われた言葉を、不意に思い出す。
――御崎川に、三人で。
「……」
「葵、探すぞ。これで葵があっさり見つかったら、お前の今の理論総崩れだからな。すっげえ格好悪りぃぞ。覚悟しとけ」
「……吉野」
「ん?」
泰介が、振り返った。
「今まで、あんまり考えなかったけど」
仁科はそう前置きして、言うか言うまいか迷い、結局言った。
「お前が〝アリス〟って可能性、どうなんだろうな」
泰介が、息を吸い込む。
不意を衝かれたような表情だった。仁科は特に根拠も何もなく口にしたのだが、言ってみて初めて、その可能性に自分でも少し驚く。
吉野泰介が、〝アリス〟。考えてもみなかった事だった。
二人の間にこの時流れた沈黙は、象徴的なものだった。疑問を投げかけたその瞬間に、鬱屈も悲哀も憤懣も猜疑も、互いの間から消え失せた。重い感情の枷が外れて、純粋な驚きで見つめ合った。やがて長い沈黙の末に、泰介が言った。
「……そっか。それでも俺、構わねえよ。守る対象が自分ならやりやすい」
瞳に挑むような光を宿して、泰介が笑う。
ここに来てから、初めて浮かべた笑みだった。
「なあ仁科。俺、分かった。誰が〝アリス〟でも俺としては全然問題ないんだな、って」
「は? 何?」
「守ればいいんだろ? 〝アリス〟」
あっけらかんと、泰介は言った。
「お前だろうが葵だろうが、手がかかるお前らまとめて、俺が面倒見てやるって言ってんだよ。お前、さっき俺の事面倒見がいいってからかったろ。お望み通り面倒みてやるから感謝しろ。帰ったら飯でも奢れよな」
泰介は唖然として動かない仁科を怪訝そうに見ると、「だからっ、お前いつまで突っ立ってんだよ」と鬱陶しそうに目を細めた。
「行くぞ。仁科。葵が待ってる」
そう言って、泰介は表情を引き締めて歩き出す。
仁科は、カウンター席を振り返った。
手つかずのまま残された泰介のコーヒーを見て、それから前をずんずんと歩いていく背中を見た。葵の鞄を掴む泰介の指は、きつく生地を握っている。
背筋をぴんと伸ばし、迷いなく歩を進める同級生の姿は、仁科より小柄なはずなのにどういうわけだか眩しかった。その眩しさが何故だかひどく疎ましく、同時に血でも吐きそうなほどの鬱屈と後悔と贖罪、そして安堵の気持ちが、凄まじい勢いで湧き上がった。
一瞬眩暈がするほどの、情動。その意味が自分でも分からない。
これでは、まるであの時と同じだった。自分の事が一番分からない。何を考えても何を話しても、自分だけは分からないのだ。
何故、安堵したのだろう。そんな余裕などないはずだ。葵がまだ見つかっていない。にも関わらず、こんな所で安息を得るなどお笑い種だ。
泰介の気遣いが仁科の心へ吹き抜けて、そのまま通り過ぎていく。
その優しさにどう報いればいいのか分からず、仁科は空っぽの心と向かい合ったまま、泰介に続いて歩き始めた。
仁科要平はそう言って、カップに添えた自分の手を無気力に見下ろした。
朝日が差し込むカウンター席は眩しく、その光に白々と照らされた自分の手は、抜けるように白い。弛緩した手がだらりとテーブルの乗った様はまるで死人の肉を髣髴とさせ、我ながら不気味だとぼんやり思う。
コーヒーの黒い表面が僅かに波打ち、その波紋の中に、歪んだ自分の顔を見る。どんな表情をしていたかは、さしたる関心もなく眺めた仁科には判らない。顔を上げれば窓硝子に映っているだろうが、ろくでもない顔だろうと簡単に想像がつく。
「吉野と別れた後。予想できてるだろうけど、あいつ、また死んだ」
淡々と、仁科は言った。それを言う声が、まるで他人事のように空気を打つ。自分の声だとは俄かに信じ難いほどに、空っぽの声だった。
本当に、馬鹿みたいだった。
ただ、飛び降り自殺をもう一度見た。それだけの事が、自分をこれほど変えるとは思わなかった。笑い飛ばせたら楽だろうが、何故か笑顔は固まった。
いつものように。そう思えば思う程、から回る。一度看破された笑顔を復元する事が、これほど心を砕いてもできない。そんな己に苛立つ心さえ、摩耗していた。
「……」
仁科の告白を聞いた吉野泰介は、何も言わなかった。俯き気味の姿勢をぴたりと維持し、両膝に乗せた拳を固く握り締め、テーブルのコーヒーを睨み付けるようにして座っている。仁科の心に、微かな感慨が湧き上がった。
――泰介は、帰ってきたのだ。
佐伯葵が失踪し、次に消えたのは泰介だった。萩宮に一人残された仁科はいつの間にかここへ着席していたが、顔を上げると、泰介がいた。短髪を揺らして辺りを窺う、心なしか擦り傷が増えたクラスメイト。その姿を見て初めて、固まったままの感情が、僅かだが動いた。心の閊えが一つ、確かに抜け落ちたのを感じた。
そして同時に、泰介の無事を確認したところで僅かほども変わらなかった己の虚無に、仁科は淡々と向き合っていた。
何が、ここまで自分を空っぽにしたのだろう。仁科は空っぽの心で考える。
泰介はやはり寡黙だった。頑なに引き結んだ口元が、呑みこんだ感情と言葉で歪んでいる。泰介が仁科への質問を諦めて聞き役に徹する姿勢を見下ろしながら、胸に暗い諦観が広がった。
――バレている。
泰介は、仁科の状態を見抜いている。こんなにもぼろぼろの自分を見抜いて、だから泰介は怒らない。
元々吉野泰介というクラスメイトは、感じた事を言葉にする事に躊躇いが薄い所為か、気性が荒いと見られがちだ。だがその実かなり面倒見がよく、問題を抱えている人間を放っておけない所があるらしい。苛立ちを隠そうともしない顔のまま葵の世話をこまごまと焼く姿からも、それは顕著に表れている。腹が立つのであれば放っておけばいいのに、それでも泰介は人の弱さや粗に構う。
穿った見方をしているのは承知していた。こんな感想を持っていたと知られれば泰介には手加減なしで殴られるだろうし、確実に葵を悲しませるだろう。だが仁科は泰介のそんな愚直さを、馬鹿だと蔑むのと同時に一目置いていたのだ。
それは、間違っても優しくなどない自分には、到底真似できないからだ。
皮肉だと思う。
その気遣いを、自分に向けられる日が来るとは思わなかった。
泰介が人に意識して優しくする時は、いつもそうなのだ。誰かに対して真摯な態度を取ろうとする時、泰介は寡黙になる。協調性皆無の自分のように、だが自分とは明らかに違う顔で、泰介はぶっきらぼうに口を閉ざす。
泰介は、不器用だ。
不器用だからこそ実直で、誠実だった。
それは確実に相手へと伝わる、拙いながらもはっきりとした配慮だった。
仁科にはない、優しさだった。
「……」
それをどうして、自分はあの時持てなかったのだろう。
ないものねだりをする気はなかった。だが、だとしたらこの感情は後悔だろうか。
最後の会話を、思い出す。結局誘いに乗って教室に出向いてしまった、鮮烈な最期の記憶。蘇った過去を前にして茫然と立ち尽くす自分の姿が、十四の自分と重なった。
何もできないのは、今も昔も変わらないのだ。仁科があの結末を後悔しているのだとしても、それは意味のない事だ。何故ならあの時の仁科に泰介のような優しさがあったとしても、それを侑の為に、仁科はきっと使わない。使う自分が、思い描けないのだ。
だから、駄目なのだ。何度でも、同じ事を繰り返す。
その堂々巡りに、心が擦り切れ果てるまで。
気づけば泰介の横顔を見ながら、随分と時間が過ぎていた。だが泰介は視線を動かさず、仁科を急かす事もしなかった。一度待つと決めた泰介はぴたりと静止し、それでも顔には悔しさと怒りと、仁科には想像もつかない何かの感情が色濃く滲んだ、複雑な表情を浮かべていた。
そして、何も言わない。待ってくれている。
「……吉野。萩宮の中学で、お前と話した時。佐伯ももしかしたら過去を見てるのかもしれないって俺に言ったの、覚えてるか?」
仁科は、そう切り出した。
「俺は、その考えが正しいんじゃないかって思ってる。俺が、自分の中学時代を見たみたいに。吉野は今も、そこは同じ考えだと思う。違うか?」
泰介はカウンターを睨み付けていたが、やがて顔を上げると言った。
「……ああ。俺もそうだと思ってる」
奥歯に何かが挟まったような、歯切れの悪い返答だった。
違和感を、覚えた。何事もはきはき喋る、泰介らしからぬ言い様だ。
訝しんだが、やがて気づく。
もしかしたら泰介も、仁科と分断された後に何らかの過去を鑑賞する羽目になったのだろうか。泰介は決まり悪そうに口を噤んでいたが、それが語る事を拒む姿勢なのか、単に仁科の態度への怒りなのかは判断がつかなかった。訊き出すべきだと分かっていたが、どうにも訊く気になれなかった。
泰介が何を見たにしろ、それは泰介の問題だ。訊いた所でどうにもならない。それにおそらく〝ゲーム〟との関係は薄いだろう。吉野泰介と宮崎侑との接点は皆無ではないと発覚したが、あまりに希薄な上にあれだけでは意味不明だ。わざわざ泰介に注進する気にもなれない。
自分と、侑。その関わりだけで、沢山だ。
「なんであいつが〝アリス〟を探せって言ったか。それがやっと分かった気がする」
仁科はコーヒーカップに触れたが、手に思うように力が入らず、爪がかつんとカップを叩いた。その挙動に自分で笑いそうになる。なんとか掴んで、一口飲んだ。コーヒーの匂いが鼻腔を抜けたが、何の味もしなかった。
「きっとそれは、あの場所が不思議の国だからかもしれない」
泰介が、不可解そうな顔をする。仁科は構わず、先を続けた。
「『不思議の国のアリス』は知ってるだろ? 不思議の国。非現実世界。あるわけはないし、そんなものは空想の産物だ。時間を気にするウサギがいたり、身体が大きくなったり小さくなったりする薬とか食い物とかがあったりする、馬鹿げた場所の事だ」
「……それが今実際に起きてる事と、関係してるって言いたいのか?」
「吉野はこういう話、嫌いだろ。俺もヤだけど」
「ああ。信じられないし馬鹿みてえ。信じて後で笑われる自分ってやつを想像してみろよ。恥ずかしくて外歩けねえよ」
仁科は笑い、コーヒーをとんと置いた。優しく置いたはずなのに、波打った黒い雫がコップの淵から一滴零れて、側面を伝い、コップの底をじわじわと回る。真っ黒な表面が揺れて、射しこむ朝日を跳ね返す。それを見下ろしながら、泰介がこちらを複雑な表情で睨んでいるのに気づいていた。
結局吉野泰介という人間は、優しさや労りの感情さえ怒りにしてぶつけてくるのだ。損な奴だと仁科は思う。そんな顔ばかりするから、誤解されるのだ。馬鹿だ、とまた思った。
だが、こういう馬鹿が傍にいた葵は幸せだっただろう、と。仁科はそんな風にも考えながら、言った。
「……きっと。一番最初に不思議の国に行ったのは、佐伯なんだ」
泰介の表情が、固まる。
「佐伯は消えたな。俺達と離れた僅かな時間の間に。その時あいつも、俺達みたいにどこかに飛ばされたんだ。そこを不思議の国だと仮定する」
「じゃあ、俺らが行った、仁科の中学時代も?」
「ああ。同じように仮定する。……吉野。不思議の国に迷い込むのは、アリスだろ?」
「つまり……不思議の国へ行けた者は、〝アリス〟。仁科が言いたいのは、そういう事かよ」
仁科は頷く事はせず、話し続けた。
「俺達は皆、〝アリス〟だったんだ。探すべき〝アリス〟なんて、俺達の中にはいなかった。というより、〝ゲーム〟にすらなってない。だって、〝アリス〟はあの空間に三人もいたんだ」
「……」
「俺達は、皆〝アリス〟だったんだ」
「けど、〝アリス〟は。小説のアリスは、目が覚めるだろ」
泰介が、声を割り込ませるように言った。
「仁科。ここに俺達は帰ってきたんだぞ。お前の言う不思議の国から、帰ってきたって事になるんだろ?」
「空想論の嫌いな吉野が、仮定を元に会話なんてするんだな」
「茶化すな。聞けよ」
歯痒そうな表情で、泰介が一喝した。
「ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』。俺一回しか読んだ事ないし、それもかなり昔だ。結構細部は忘れてると思う。でも、結末は忘れてないからな。不思議の国なんか、アリスの夢だ。あんなものはまやかしなんだ。アリスが目を覚ました瞬間に、全部消えちまうんだよ」
「ともかく、だ」
仁科は、冷たいコーヒーを一口含んでから、言った。
「目覚めたアリスは、正しいんだって俺は思う」
「正しい?」
「だって、そうだろ。アリスは絶対に目を覚ますものだろ。あのタイミングで」
「あのタイミング……?」
「女王に首を切られそうになるだろ。だからアリスは、目覚めた事で救われた」
泰介が、はっと息を呑んだ。
会話が、途切れる。その隙間を埋めるBGMだけが場違いに明るく、窓から射す外光は少しずつだが明るさを増し、泰介の手や頬の傷を鮮明に映し出していく。
一体何を頑張れば、ここまでぼろぼろになれるのだろう。硝子を割った時の事を思い出したが、その後にできた擦り傷の方が多く見える。まるで小学生のような奴だと、場違いにも笑いそうになった。
だが分かっていた。仁科の所為だ。
「……お前が言いたい事、分かった。仁科」
泰介が、小さな背もたれに思い切りもたれて天井を仰いだ。
「お前、〝アリス〟の正体分かったんだろ」
「……。絶対、俺だと思う。でも、第二候補も一応考えた」
「その第二候補、当ててやる」
「どうぞ」
「葵だと思ってるだろ!」
泰介が怒鳴った。
周囲の客がぎょっとしたようにこちらを振り向き、店内が静まり返る。泰介はその沈黙に虚を突かれたように息を呑むと、ひどくもどかしそうな表情で仁科の顔をひたと睨んだ。
「目覚めて、帰ってきた〝アリス〟。これが定型通りの正しい〝アリス〟。つまり俺とお前だ。帰ってきた〝アリス〟同士はここで無事に合流できた。でも、もう一人……まだ帰って来れてない〝アリス〟がいる。仁科、そう言いたいんだろ」
――アリスが不思議の国から、帰って来れなかったら。
耳鳴りのように頭に響くのは、甘ったるい少女の声。その声で、言うのだ。
不思議の国から、帰ってこられない、〝アリス〟は。
「不思議の国のアリス、か。文字通りそれって、佐伯葵の事だろ。あいつまだ、帰ってきてない」
仁科はそれだけの台詞を抑揚なく述べると、自嘲気味に笑った。
全て、自分の蒔いた種だった。それが今、葵を追い込んでいる。
佐伯葵の事を、仁科は思う。黒く真っ直ぐな、少し長めの髪。オレンジ色の頭髪の自分が隣に立つと、両者の髪色の差が激し過ぎて笑い合ったのを思い出す。今にして思えば何がそんなに可笑しかったのか分からないが、ただ仁科よりも葵の方が、ずっと楽しそうに笑っていた。
仁科の髪を、綺麗だと言ったのは葵だった。
オレンジ色の髪を、褒められたのは初めてだった。
馬鹿な奴だと、そう思ったのを覚えている。非行の象徴のような如何にも頭の悪そうな頭髪を指して、綺麗とは一体何事だろう。だがそんな風に言われるのはどうしてか嫌ではなくて、一房摘まんで日の光に透かした。金色に見えた髪が懐かしいと、葵の言葉が耳に残る。
何故、葵なのだろうと自問した。だがそんなものは自問するまでもなかった。あの日の、自分が悪いのだ。
葵は、どうなるのだろう。〝ゲーム〟の言葉が過る。死ぬのだろうか。死ぬべき仁科要平が死なないで、仁科要平でない誰かが死ぬ。そうやって繰り返すのが、この〝ゲーム〟なのだろうか。これから死ぬかもしれないのが佐伯葵だという事実が、途方もない絶望となって、胸にぽっかりと穴を開けた。少しの間笑い続けた仁科は、ぜんまいの切れた人形のように笑いを収めて、緩慢に泰介を振り返った。
視線を受けた泰介は、仁科をきつく睨んでいた。
「お前のその推理。穴だらけだぞ」
泰介は言いながら立ち上がり、隣席へ乗せていた葵の鞄を引っ掴んで肩へ提げると、仁科を傲然と見下ろした。
「仁科、さっきの不思議の国って仮説。それ、正しいって立証できないだろ」
「ああ。勿論。仮説だし」
「もう一つ。ここがその不思議の国じゃないって保障、どこにあるんだよ?」
仁科は、沈黙する。泰介の言わんとする意味が分からなかった。
だが、すぐに理解が追いついた。
「まだ、〝ゲーム〟終わってないだろ。過去見せられたくらいで終わるわけないだろ。多分これ、そんなぬるい〝ゲーム〟じゃねえよ。あの過去が不思議の国なんじゃなくて、ここが、ここ全体が、不思議の国なんじゃないかって思ってる」
泰介は伝票を引っ掴むと、「行くぞ、仁科」と乱暴に言った。
「俺はお前に反論するぜ。お前の理論に則るなら、〝アリス〟はまだ俺ら全員だ。葵だけが怪しいなんて思わないし、葵は絶対、どこかにいるはずだ」
真っ直ぐに仁科を見る泰介の目に、怒りと、何かを呑み込んだような感情の色が閃く。それでもはっきりと、泰介は言った。
「それに俺、仁科も自分で言ってたけど。最初からお前が、〝アリス〟だって思ってる」
「……そうだろうな」
仁科は、乾いた声で笑った。泰介は顔を顰めたが、今はもう文句を言う気はないようだ。「出るぞ。早く立てっての」と仁科に催促しながら、足はレジへ向かっている。それらの言葉には、迷いというものがまるでなかった。日本刀の切れ味を髣髴とさせる言葉尻は相変わらず乱暴で、自分の言葉と心を毛ほども疑っていないそのスタンスが、仁科のがらんどうの心へ、風のように流れ込む。
何を感じたのか、分からない。だがそれでも、何かが響いた。以前泰介に言われた言葉を、不意に思い出す。
――御崎川に、三人で。
「……」
「葵、探すぞ。これで葵があっさり見つかったら、お前の今の理論総崩れだからな。すっげえ格好悪りぃぞ。覚悟しとけ」
「……吉野」
「ん?」
泰介が、振り返った。
「今まで、あんまり考えなかったけど」
仁科はそう前置きして、言うか言うまいか迷い、結局言った。
「お前が〝アリス〟って可能性、どうなんだろうな」
泰介が、息を吸い込む。
不意を衝かれたような表情だった。仁科は特に根拠も何もなく口にしたのだが、言ってみて初めて、その可能性に自分でも少し驚く。
吉野泰介が、〝アリス〟。考えてもみなかった事だった。
二人の間にこの時流れた沈黙は、象徴的なものだった。疑問を投げかけたその瞬間に、鬱屈も悲哀も憤懣も猜疑も、互いの間から消え失せた。重い感情の枷が外れて、純粋な驚きで見つめ合った。やがて長い沈黙の末に、泰介が言った。
「……そっか。それでも俺、構わねえよ。守る対象が自分ならやりやすい」
瞳に挑むような光を宿して、泰介が笑う。
ここに来てから、初めて浮かべた笑みだった。
「なあ仁科。俺、分かった。誰が〝アリス〟でも俺としては全然問題ないんだな、って」
「は? 何?」
「守ればいいんだろ? 〝アリス〟」
あっけらかんと、泰介は言った。
「お前だろうが葵だろうが、手がかかるお前らまとめて、俺が面倒見てやるって言ってんだよ。お前、さっき俺の事面倒見がいいってからかったろ。お望み通り面倒みてやるから感謝しろ。帰ったら飯でも奢れよな」
泰介は唖然として動かない仁科を怪訝そうに見ると、「だからっ、お前いつまで突っ立ってんだよ」と鬱陶しそうに目を細めた。
「行くぞ。仁科。葵が待ってる」
そう言って、泰介は表情を引き締めて歩き出す。
仁科は、カウンター席を振り返った。
手つかずのまま残された泰介のコーヒーを見て、それから前をずんずんと歩いていく背中を見た。葵の鞄を掴む泰介の指は、きつく生地を握っている。
背筋をぴんと伸ばし、迷いなく歩を進める同級生の姿は、仁科より小柄なはずなのにどういうわけだか眩しかった。その眩しさが何故だかひどく疎ましく、同時に血でも吐きそうなほどの鬱屈と後悔と贖罪、そして安堵の気持ちが、凄まじい勢いで湧き上がった。
一瞬眩暈がするほどの、情動。その意味が自分でも分からない。
これでは、まるであの時と同じだった。自分の事が一番分からない。何を考えても何を話しても、自分だけは分からないのだ。
何故、安堵したのだろう。そんな余裕などないはずだ。葵がまだ見つかっていない。にも関わらず、こんな所で安息を得るなどお笑い種だ。
泰介の気遣いが仁科の心へ吹き抜けて、そのまま通り過ぎていく。
その優しさにどう報いればいいのか分からず、仁科は空っぽの心と向かい合ったまま、泰介に続いて歩き始めた。
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