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ビジネスチャンス到来!
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桃色の髪をした儚い系美少女と赤色の髪をしたワイルド系イケメンが満開の桜の木々の下で見つめ合っています。
その光景はまるで一枚の写真のように美しく、その光景に既視感を覚えた私は思い出すと同時に思わず口にしていたフランスパンを地面に墜落させました。
地面に落ちたフランスパンを呆然と眺めつつこの光景は、前世でドハマリした乙女ゲーム『桜姫』のプロローグ一発目に出現するスチルでありヒロインが攻略キャラの一人である不良王子ことレオ・フィルクライスと初めて出会う場面と同じ光景だと気付いたのです。
放心状態からハッと我に返った私は、落としたフランスパンの砂を払い取り再び口に運びながら全力疾走を開始します。
気を抜くと口から雄叫びが出そうになるのをぐっと堪えフランスパンを咀嚼しながら先ほど見た光景と自分の記憶を擦り合わせました。
その結果、やはりここは前世でプレイした乙女ゲーム『桜姫』の世界に間違いないようです。
食べ終わったフランスパンの欠片を払い、私は「キターーーーーーーー!!!」と叫びながら満開の桜並木の間を走り抜けたのでした。
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走って走って、着いた先は私が通っている学校『聖ブロッサム魔法学園』。
一般的には『ブロッサム』と呼ばれており、幼稚園から大学にあたる年齢までの貴族達が通う学校です。
他の生徒に見つからないように隠れて呼吸や身なりを軽く整えてから門を通り抜け、自分の教室へと向かいます。
このブロッサムには生徒会ならぬブロッサム5と何ともダサい名前で呼ばれている五人が存在します。
先ほど紹介した不良王子レオ・フィルクライスの他に冷酷王子ウィル・サブディル、小動物王子リッシト・プーリアン、陽だまり王子ケイ・アルフレッド、俺様王子シン・レイアックの五人。
ちなみに本人たちはなんちゃら王子と呼ばれていることを知りません。
そこはファン達が箝口令をしき、徹底的に隠しているそうです。
まあ、そんなことは置いておきましょう。
この世界でゲームタイトルにも入っている桜は世界樹みたいな扱いでとても重要視されています。
何でも、昔この世界はとても人が住めるような環境ではなくそこに神様ならぬ桜姫様が地に桜を植えたところ、そこから次々に様々な植物が生え始め、やがて人や動物が生まれたそうです。
そして貴族達はその世界に最初に生まれた人間で桜姫様の恩恵を一番受けているらしく、それにより魔法が使えるとかなんとか。
貴族達より遅く誕生した人達は桜姫様の恩恵が弱く魔法が使えないとかでそれが平民と呼ばれています。
まあ、平民にもたまに魔法が使える人が生まれるのですがその場合は姫子と言う姫様が何となく気にいった人間と言う扱いです。
この国では魔法が使えると判明した人間は病気で動けないなどの一部例外を除き強制的にこの学園に入学させられます。
魔力の暴走を防ぐためなどともっともらしい理由がつけられていますが、実際には強力な魔法を使える者がいた場合、国へ囲い易いようにと自国の戦力たりえる魔法使いを管理しやすくすると言うのが理由でしょう。
貧乏で入学金が払えない場合は無償でこの学園に入学でき、その場合は更に国から本人や家族へ資金が渡されると言った好待遇措置が取られています。
この措置により平民の魔法使いの秘匿率と魔法による犯罪発生率もぐっと下がりました。
やはりお金の力は何よりも偉大と言うことですね。
ちなみに魔法が使えるかどうかが判明するのは大抵5歳から15歳までの間で魔法の属性は火、水、風、土、木の五つ。
人が使える属性は一つでしかも一種類の魔法だけと決まっているという何ともケチ臭い設定。
15歳で能力を開花させ名門貴族学校に通うことになった平民出のヒロインは木属性、それもなんと桜の木を生やせます。
先にも言いましたがこの世界では桜の木が最も重要視されます。
桜はこの世界で唯一魔法を打ち消す力が宿っているらしくその桜を使った魔道具は特級神官と呼ばれる神官で最も位が高い人と王族の極一部の人しか使う事ができない決まりになっているのです。
しかも本当に神聖な物なので今まで桜の花吹雪を出す者はいても過去一度も桜の木その物を出せた者はいなかったですし、その桜吹雪を出した人が初代国王その人だけ。
その上で桜の花と同じ髪色ときたものだから一部からは桜姫の再来と呼ばれ、世間から彼女への注目度はマックス。
王族のみならず様々な派閥の貴族たちが彼女を何とか手に入れようとあの手この手を使ってくる中、真実の愛を見つけると言うのがこのゲームの大まかなストーリーです。
桜の木を生やすことしかできないヒロインが知恵を使って難を逃れるところとか舞台裏での策略とかが結構面白くてハマったんだよなあと懐かしく思いながらうんうんと頷きます。
ちなみにブロッサム5の五人にはそれぞれ婚約者がおり、それぞれのルートで婚約者が邪魔をします。
属に言う悪役令嬢と呼ばれるポジションに位置する人たちです。
そして私、フィア・リンディアはその悪役令嬢、ではなくストーリーにモブとしてもちろりとも出てこないモブの中のモブ……とどのつまりは全く関係の無い、モブと言えもしない人物です。
前世で良く読んだゲームの知識を生かしてモブでも逆ハーを!とかは世界に愛されまくっているヒロインちゃんに対して無理ゲー過ぎる、と言うか全く興味が湧かないので没。
商家貴族の一員、何より次期当主の座を狙う者としてはこの機会は前世の知識を有効活用しまくって次期当主第一候補である愚兄を蹴落とし、一山築くビジネスチャンスとしか思えません。
やり方は簡単。
ゲームでヒロインが攻略キャラに贈る物や逆にキャラ達がヒロインに贈る物を私が売りつければ良いのです。
注目度マックスのヒロインが身に着ける物は流行になること間違いなしでしょうし、もしヒロインがうちで買った物をプレゼントして攻略キャラと両想いにでもなれば新たなジンクスの誕生につながり、それにあやかろうとその商品を買っていく人も出てくるだろうことが予想されます。
攻略キャラたちは例によって貴族ばかりだし、その恋人、果ては妻となるであろうヒロインちゃんに上手く気に入られれば大口の顧客になってくれるかもしれない。
そして、もしも彼女が王子と結ばれた場合王家御用達の一員となれる可能性も出てきます。
そう考えるとヒロインや攻略キャラたちは私にとってまさに鴨葱というか金の卵を産む鶏にしか見えません。
そうと決まれば行動は早い方が良いでしょう。
私は授業もそこそこにノートに思い出せる限りの攻略キャラたちやヒロインの好みや癖、趣味家族構成や交友関係などの情報を書き連ねていきます。
ヒロインの名前は初期設定のままのようですが、もしかしたら転生している人間の可能性もあることも考慮しなければなりません。
攻略キャラ達は今のところ今までの情報と思い出してからの私の記憶と変わりがないように思えます。
ですが、もしかしたら転生者でヒロインと接触した時に記憶を取り戻す可能性もありますのでこれからの情報収集は気が抜けません。
これまでの情報収集方法を見直して念入りに行動しなくては。
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昼休みになったので昼食を手早く済ませ、私は校内を歩き回りあちこちで魔法を展開させます。
私の属性は木、好きなところに桜以外の好きな植物を咲かせ、その生やした植物から音声や映像などの情報を得る事ができます。
つまりは天然素材の盗聴器&盗撮機。
室内にはカビを生やす事で室内外を網羅、一定のキーワードを設定しておくとそれを自動で知らせてくれる上に高性能。
ちなみに周りの人間には一人を除いて盗聴機能については一切話していないのでただ植物を生やす魔法としか思われていません。
調べてみたところ盗聴や姿を消すなどはありましたが、植物を媒体にして盗聴する魔法を使っている人は過去にいなかったようなのでバレる可能性は低いと考えられます。
生やす時に魔力を消費しますが、一度生やしたら後は地面などから勝手に魔力を吸収してくれるのですから使い勝手はかなり良いと言えます。
前世の記憶が戻るまで考えてはいませんでしたが、もしかしたらこれは転生チートと呼ばれるモノなのかも知れません。
今まで人の使用頻度が高い場所と良く隠れて使われる場所のみにしていましたが今回の件で学園中を網羅しようと決意しました。
正直、かなりきついですがこれもお金のためと考えれば容易いものです。
私は積み上がるであろう金貨の山を妄想しながら着々と植物を生やしていきました。
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放課後、学生寮にある自分の部屋に帰ると早速紙にヒロインやキャラ達がイベント時に使う重要アイテムとその他の細々した物と簡単な説明図を書き出します。
書き終わってから一度見直し、二度手を叩きました。
「お呼びでしょうか、主」
天井裏から黒い衣服に身を包んだ一人の少女が現れ、床に膝をつきます。
彼女はリン。
私がまだ幼い頃、屋敷を脱走した時に道端に倒れていたのを発見、保護したらしいです。
体調が回復するまで屋敷で保護し、その後施設に預けようとしたのですが彼女と仲良くなった私がそれを地団太を踏んで抗議し、泣き喚いて彼女を自分の侍女にすると我が儘を言ったとかなんとか。
実を言うと全く覚えていません。
ぶっちゃけますと、気が付いたら一緒にいた記憶しかないので今でも両親がその話をするときは愛想笑いでお茶を濁しています。
「ええ、ちょっとこの紙に書かれている物を調達するのを手伝って欲しいの。お金は私の口座からで構わないわ」
「承知いたしました。……ところで主、やってみたいと言うので今朝は容認いたしましたがやはりフランスパンを咥えながら走るのは淑女としていかがなものかと思われます。今後は控えていただけないでしょうか」
「あら、何事も経験って言うじゃない。お蔭で得るものもあったしまたやろうかしら」
「……お願いですからお止めください」
「冗談よ」
ジトーと疑わしそうな表情を笑顔でやり過ごすとため息を吐かれました。
失礼ですね。
「それで、早速明日調達したいのだけど大丈夫?」
「問題ありません。いつも通り主の植物を持って私が念話を飛ばして主の指示を仰げばいいのですね?この絵と同じ物、もしくは近い物を探せばいいですか?」
「ええ、いつも通りお願い。できれば同じものをお願いするわ。髪に挿しておく植物は明日渡すわね」
「畏まりました。他にご用件はございませんか?」
「そうね、じゃあお茶をお願いしようかしら。リンの入れたお茶は美味しいから」
「ありがとうございます」
リンは遠話と呼ばれる遠くにいる人物と会話ができる魔法が使えます。
先にも言いましたがこの国では魔法が使えると判明した人間は病気などの一部例外を除き強制的にブロッサム学園に入学することが決まっています。
本来ならリンもこの学園に通う予定だったのですが、学園に通うことを彼女は拒否しました。
理由としては私のお世話ができなくなるからだそうです。
そんなに世話を焼かれなくてもある程度は私一人でもできますし、どうしても人手が必要なら他の使用人に頼めば良いので私の事は気にするなと言いました。
ですがリンは頑として聞いてくれませんでした。
挙句の果てには私のお世話を他の人間に任せるくらいなら自害すると言い出す始末。
いっそのこと、家族に暴露しようとしましたがそんなことをしたらその瞬間に死んでやると宣言。
何度も説得しましたがリンは一度言い出したら梃子でも動かないところがあるので最終的には仕方がないと諦め、法に反してはいますがバレなければ良いのだと開き直る事にしました。
幸い、彼女が初めて魔法を使ったのは私に対してでしたし、遠話は心の中で会話する能力なので他人からは使っているのが分かりません。
私かリンから言い出さない限り彼女が魔法を使えることは誰も知る手段がないのです。
リンが魔法を使えると判明した時から密かに訓練して今では距離に関係なくどこでも彼女と接続できるようになりました。
更には遠話で人に虫の知らせのように何となくこうした方が良いかもと思わせる事もできるようになりました。
一歩間違えればそくリンが魔法を使えるのがばれてしまう危険がありましたがその緊張感が良い感じに作用したようでメキメキ腕をあげ、今では複数人に同時に行えるようになりました。
バレてしまえばなし崩し的に国に報告が出来ると考えてもいたのですが、そんな失敗をリンが犯す事も無く。
ここまで便利な能力だとリンが魔法を使える事を愚兄が知っていたら今頃彼女はどうなっていたかと戦慄を覚えます。
そう考えるとあの頃のリンに拍手を贈りたいです。
ゲームでは今日はヒロインと攻略キャラ達が顔合わせする程度で終わります。
その後しばらくは地道な好感度上げ。
事態が動くとしたら早く見積もって三日後からと考え、しっかり気を引き締めていきましょう。
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一日の授業を終え、学校のトイレに籠って流れてくる情報をノート片手に整理します。
今日のヒロインちゃんは朝寝坊し、教室へ向かう途中に廊下を走って冷酷王子ウィル・サブディルを押し倒し、二時限目を終え、教室に戻る途中陽だまり王子ケイ・アルフレッドの飛ばしたプリントを拾うのを手伝い、四時限目になる前にお腹を空かせていた小動物王子リッシト・プーリアンに飴をわけ与え、昼休みに俺様王子シン・レイアックにビンタをかまし、その後五時限目終了時に不良王子レオ・フィルクライスには頭突きを食らわせたようです。
さすがヒロインちゃん、神がかり的なイベント回収率ですね。
初日から素晴らしい働きっぷりです。
これが天然で巻き起こされたものなのかはたまた転生者という存在が作為的に巻き起こしたものなのかは分かりませんが、この調子でどんどん回収してフラグを乱立していって欲しいものですね。
ちなみに私は今日一日授業を受けるフリをしながら頭の中でリンとあーでもないこーでもないと必要な物を買い付けていました。
何回か当てられましたがあらかじめ予習していたところだったので問題ありません。
日頃の予習復習の積み重ねって大事ですよね。
まあ、そんなことは置いて置くとして必要な物は手に入れたので私の方からも早速行動を起こしてみようと思います。
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陽だまり王子ことケイ・アルフレッドは悩んでいた。
彼は昔から運が悪かった。
天気が良いからちょっと散歩でもと思い庭に出た途端に土砂降りになり全身ずぶ濡れになったり、用事があって遠くに行った帰りに馬車の車輪が外れたり、道を歩いていたら勢いよく水をぶちまけられたり、棚に小指をぶつけて悶えているところに上から本が降ってきたりと様々だが他の人よりわりと高い頻度でそんな目に合っていた。
長男として将来アルフレッド家を継ぐことになるのだからこんなことではいけないと思ったが、運は努力ではどうすることもできなかったのか努力した分能力は高いがそれ以上に圧倒的に運が悪いと言うなんかもう笑うしかない状態になってしまった。
8歳の頃、彼は風魔法が使える事が判明したので魔法を使えるようになってからは常に風を体の周辺に纏うようにすることで何かにぶつかるようなことは減ったし雨などで濡れた服を一瞬で乾かせるようになった。
体と反射神経を鍛える事で水をかけられる前に素早く避けられるようになった。
馬車の車輪は改良を加えて人的以外では外れにくくしたし、例え壊れても修理道具と全輪分のスペアを持ち歩く事でフォローできるようになった上に改良の良さを認められ、新たな販路を開く事に繋がった。
常に最悪の事態を予測しそれに対するいくつもの対応策を用意しておく癖がついた。
お陰で緊急時の対応に関しては彼を凌ぐ者はいないとされるまでになり、次期当主に相応しいと両親や世話役に太鼓判を押されるまでに成長し、ブロッサム5にも選ばれた。
彼の持ち前の運の悪さは彼の努力によって全てが良い方向へと転がった。
だが最近、その運の悪さが強まってきている気がすると彼は考える。
転ぶまではいかないにしても何もない所で躓いたりプリントが飛ばされたり物を落としたりとそれ自体はまだ良いのだがそれよりも毎回何か失敗した際に必ず他人に見られてしまっている。
それがただの他人なら良かったのだが、それがよりにもよって桜の木を生やす事ができる奇跡の少女、ユイ・ブロッサムなのだから性質が悪い。
両親にケイに他に好きな人がいないのであれば可能なら恋人に、それができなければできるだけ太いパイプを作れと言われた重要人物に悪いところばかりを見られてしまっているのは非常に不味い。
幸い彼女は心優しい子なのか毎回一緒にプリントを拾ってくれたり落として割れた物の掃除をしてくれている。
一度落として割れた物の破片を集めるのに魔法で生やした桜の木を折って箒変わりにしようとした時は慌てて止めた。
あれ以来、簡易箒と塵取りが必需品になった。
本当はプリントや落とした物は風魔法で簡単に拾えるのだがその機会に彼女と少しでも打ち解けようと彼女が次の授業に遅れないように注意しながら全てワザと遅く作業をするようにしている。
そんな浅ましい事を考えている自分に嫌気がさしてくるが何故か彼女と話せるのであればそれでも良いとも思ってしまう。
そんな自分の感情に首を傾げる。
気付けば最近は特に彼女のことばかり考えている気がする。
そしてその彼女には格好悪い所ばかり見られてしまっているのだから何とかしなければと言う気持ちが湧き上がってくる。
けれど、一体どうすれば……。
悩んで歩いているといつの間にか中庭に来ていた。
ブロッサムの中庭は日当たりも良く、ベンチや噴水などがあり生徒には人気の場所だ。
かく言う彼もこの場所は好きだった。
昼休みによく木にもたれながら木陰で本を読んでいる。
いつもは生徒がそれぞれ思い思いに休んでいるのだがこの日は何故か人だかりができていた。
近くにいた生徒を捕まえて聞いてみる。
「何かあったのかい?」
「あ、はい。商家貴族のリンディア一族はご存知ですか?そこの娘があそこで展示即売会を開いているんですよ」
「展示即売会?」
「はい、これが結構品揃えが豊富で魔法アイテムから庶民の物まで幅広くて面白いんですよ。是非ケイ様もご覧になるべきです!おい。お前ら、ちょっと道を開けろ!ケイ様を前に出すんだ!」
「いや、別にそこまでしなくても……」
人垣が割れ、前に出されると一人の少女が手にしていた丸いガラス玉のような物を良く通る声で紹介していた。
「さあ、こちらの商品は風魔法が込められており、物を瞬時に乾燥させる事が出来ますよ!例えば雨の日にうっかり教科書が!!と水たまりに落ちてしまってもこの通り!瞬時に綺麗に乾かすことができます。ページもよれていません。
しかも、先ほど紹介した物を凍らせるアイテム同様風魔法の適性が無い方でも使用可能となっています。
ただし、先ほど同様風魔法適性者の方は使用不可能となっておりますのでご容赦下さい」
彼女の前にはいくつかトランクが置いてあり、そのうちの一つに彼女が手にしている物と同じような物が中に入っている。
彼女が紹介している商品は火・水・風・土・木それぞれの属性分あるようだ。
他のトランクにはノートやインクなどの勉強道具や石鹸などの生活用品、チェスやトランプなどの遊戯物やリボンやハンカチ、タイピンなどのアクセサリーとそれぞれ分けて入れられているみたいだ。
トランクの中を見ているうちに商品の紹介が終わったようだ。
「紹介した商品やトランクの中で欲しい商品がございましたら中央廊下の所に箱を用意いたしましたのでこちらの紙に欲しい物と個数を記入してお入れ下さい。今日か明日にでもお届けします。代金はその時にお願いします。
では、昼休みも終わりに近いですし後10分後には商品も片付けるのでそれまではごゆっくりご覧下さい」
人ごみから抜け出して周りを見回す。
周りには貴族庶民関係なく人が集まっている。
なるほど、普段展示即売会など見ることもない貴族と普段あまり魔法具なんて見ない庶民の両方の気を引くことができる。
遊戯物以外にも勉強道具や生活用品も揃えているので興味はなくてもそれらを買いたい人間もくる。
なるほど、上手く考えられているなあと感心する。
何となく辺りを見回してユイ・ブロッサムが即売会の人ごみの中にいるのを発見した。
友人らしき人物と二人で展示即売会開催者の女生徒と笑顔で話している。
彼女の笑顔を見ているとなんだかこう胸のあたりがムズムズすると言うか不思議な感じになる。
もしかしたら何か病気かもしれない、放課後あたりにでも医務室で見てもらおう。
放課後、医務室に向かう途中何となく中庭に行ってみると展示即売会開催者の子に遭遇した。
周りを見回すと丁度良く他に誰もいない。
「あら、ケイ様。どうかなさいましたか?」
「あ、ああ。その、君、今日即売会をやっていただろう?ちょっと世話になった子にプレゼントを贈りたいんだけど何か良いのはないかな?」
「そのお世話になった方は男性ですか?女性ですか」
「……女性だ」
「年はおいくつですか?」
「えぇっと、16だね」
「平民の方ですか?貴族の方ですか?」
「………平民だ」
変な勘繰りを受けないか心配だったが彼女は特に気にした様子もなくトランクを漁りだす。
「なるほどなるほど。16歳の平民の方ですね。すると、こちらなんかどうでしょうか」
そう言って彼女がトランクから取り出したのはハンカチだった。
「平民の方ですとあまり高価な物では恐縮してしまうと思うので程々の値段の物がよろしいかと思われます。こちらは最近平民の間で流行りの小物屋の最新デザインハンカチです。あまり派手過ぎず地味過ぎない畳んだ際のワンポイントとしての刺繍が可愛いと人気ですよ。色は白、ピンク、藍、黄色と全四種類そろえております」
始めはちょっと冷やかす程度のつもりだったけど、彼女が取り出した物があまりにもユイ・ブロッサムのイメージにぴったりだったのでここで買うことにした。
「そうだなあ……じゃあ、ピンクでお願いするよ」
彼女の髪色を思い浮かべながら色を選ぶ。
喜んでくれると良いな。
「プレゼント用ラッピングをしますか?」
「お願いするよ」
「畏まりました。少々お時間がかかりますので商品でも見てお待ちください」
しばらくした後に綺麗に包装されたハンカチを手渡された。
まるで渡す相手が分かっているかの様にハンカチ同様彼女のイメージにピッタリなラッピングに驚きつつも渡した時に一体どんな反応をしてくれるのかを想像して思わず顔が綻ぶ。
「ご満足いただけたようで何よりです」
「え、あ、ああ。ありがとう」
微笑ましい物を見るかのような表情に気恥ずかしさを覚えつつもお礼を言うと彼女は笑った。
「いえいえ、喜んでもらえるといいですね。またのお越しをお待ちしております」
「その時はまたお願いするよ。今更だけど僕の名前はケイ・アルフレッド。君の名前を聞いても良いかな?」
「これは失礼いたしました。私は商家貴族のリンディア家長女、フィア・リンディアと申します。どうぞお見知りおきを」
「こちらこそ」
「そうそう、私実は最近占いに凝っていまして僭越ながら勝手に占わせていただいた所、今日のケイ様のラッキーポイントは図書室です。この後行ってみるのをおススメします」
「?良く分からないけど図書室に行って見るよ。ありがとう」
フィア・リンディアと別れてプレゼントを手に図書室へと向かってみる。
普段なら他人にこの場所へ行くと良いと言われても何かあるのでは無いかと疑ってかかるのだが、何故か今日はフィア・リンディアの言葉どおりに図書室に行ってみようという気持ちが浮いてきた。
一瞬精神操作系の魔法かと思ったがそういう系統には二、三重にもしっかりと対策をとっているのでそれはないと 断言できる。
対策を上回る程の魔力を秘めている可能性もあるが国の将来を担う者たちが多く通うこの学校にそんな人物が入学するとなったら噂にならないはずがない。
だとするとこれは本当に気まぐれなのだろうな、と誰に言い訳するでもなくつらつらと考えていると図書室に着いた。
カウンターに座っていた司書に頭を下げ、中へと進むと本棚の陰になり人目に付きにくい場所の椅子に座っているユイ・ブロッサムの姿が見えた。
僕の足音に顔を上げた彼女が僕の目を見てふわりと笑った。
次のプレゼントもフィア・リンディアのところで買おうかなと思った。
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自室で図書室に仕掛けたカビから送られてきた情報にほくそ笑みます。
どうやらイベントは上手く行ったようです。
陽だまり王子との好感度がある一定数値に達した時に起こる逆プレゼントイベント。
今後のための実験も兼ねて数種類ハンカチを用意しましたが彼は迷わずイベントスチルでも見たデザインのハンカチを選んだことから多少はゲームの強制力というのは存在しているのかもしれません。
となると残りのメンバーを誘導するのもある程度は上手くいくでしょう。
後はイベントの起こるタイミングと商品を売りつけるタイミングを見誤らなければ何とかなりそうです。
「目指せ、次期当主!!」
何としてもこの機を逃してなる物かとぐっと手を握りしめたのでした。
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「ユイ!遊ぼう~♪」
小動物王子リッシト・プーリアンがヒロインちゃんに飛びつきます。
その衝撃によろけたヒロインちゃんをすかさず俺様王子シン・レイアックが支えます。
「おいこら、いきなり飛びつくな。ユイが怪我したらどうする」
「その時は俺が手当してやるよ、な、ユイ?」
不良王子レオ・フィルクライスがヒロインちゃんの顎を手でくいっと掬い上げ不敵に笑います。
真っ赤になったヒロインちゃんを不良王子からさっと奪い取ったのは陽だまり王子ケイ・アルフレッド。
「レオの手当じゃ不安だからそう言う時は僕を頼ってね。もちろんそれ以外でも大歓迎だから」
「なんだと!?」
「君みたいな素人の手当で彼女の肌に傷が残ったら大変だろう?アルフレッド家なら最高の名医で彼女を手当できる」
「ぐっ」
否定できなかった不良王子は悔しそうに顔を歪めています。
「やれやれ、騒がしいですね。ユイ、あちらで美味しいケーキでも食べましょう」
騒ぎに便乗してさり気無くヒロインちゃんを連れ出そうとしているのは冷酷王子ウィル・サブディル。
「偶々、ユイが食べたいと言っていたお店のケーキが手に入ったんですよ」
「おいこら、何抜け駆けしようとしている」
俺様王子がすかさずヒロインちゃんの肩を掴んで制止しました。
「僕もケーキ食べたーい!」
「君たちの分はありませんよ。僕とユイの二人分だけです」
「じゃあウィルの分を頂戴?」
「あげるわけないでしょう」
名案でしょ?と首を傾げる小動物王子を冷酷王子が一笑します。
「ケチ!!」
「何とでもおっしゃい」
「もうっ!みんな仲良くしようよ!!ウィルも意地悪言わないの!」
五人に囲まれているヒロインちゃんが叫びました。
「はーい」
「……すみません」
「ふん、いい気味だぜ」
「レオもだよ!」
「…ちっ」
「舌打ちしない」
「いってっ」
不良王子の頬をヒロインちゃんが片手で捻ります。
口では痛いと言っていますが目元は緩んでいます。
そんな二人の様子を他の4人は羨ましそうに見つめています。
「私が足りない分買ってくるからみんなでお茶会しよう。ね?」
頬から手を放すとそう提案して首を傾げて微笑むヒロインちゃんに5人は嬉しそうに笑いました。
「しょうがないな。俺様が一緒に買いに行ってやろう」
「大丈夫だよ。その代わりみんなでお茶会の用意してて、ね?」
「…ふん、俺様をそんな風に使えるのはユイだけだ、光栄に思え」
「はいはい、俺様発揮してないで準備しますよ」
「ユイちゃんのために頑張って準備してくるね!レオもほら」
「俺もかよ」
「じゃあ僕は茶葉持って来るよ。丁度良いのが手に入ったんだ」
「じゃあ決まりね。行ってきます!」
「「「「「いってらっしゃい」」」」」
ヒロインちゃんが走り出します。
その様子を植物から観察していた私は開店準備をしていた手を早めます。
丁度開店の準備ができたところでヒロインちゃんがやってきました
「こんにちは」
「あら、いらっしゃいませ、ユイさん。本日はどの様な物をお探しですか?」
「えぇっと、ケーキが欲しいのだけれど今日はある?」
「ええ、偶々今日はケーキを取り扱っていますよ。いつも良いタイミングですね」
「ふふ、私って運が良いみたいなの!」
「それは何よりです。今日はチーズケーキ、チョコケーキ、ショートケーキ、モンブラン、フルーツタルトの他に新商品のマカロンもございますよ」
「マカロン?」
「はい、最近我が家の系列店から売り出し始めた物です。味はクリーム、ストロベリー、チョコの3種類あります」
「へぇ……久々に食べたいかも」
「あら、もう食べたことがおありなんですか?」
「え!…う、うん。実はそうなの」
「流石流行には目ざといですね」
「えへへへ、まあね」
ちなみに最近我が家の系列店から売り出し始めた物と言うのは嘘です。
この世界にはマカロンは存在していなかったので私が前世の記憶を頼りに作製、今日初めてこの世に出しました。
これで彼女が転生者というのは確定しました。
まぁ、だからと言って何かする気は今の所は全く無いのですが、情報は商人の命ですからね。
最終的にヒロインちゃんには全ての種類のケーキとマカロンを全種類人数分お買い上げいただきました。
毎度ありがとうございます。
他の生徒達にケーキやその他の物を売りながらヒロインちゃん達の様子を除くとワイワイと賑やかにケーキをつついています。
その様子はゲームでも見たことのあるハーレムエンドのスチルのそれと同じです。
どうやら今日でエンディングまでの全てのイベントが終了したようです。
ここまで来るには実に短いようで長い一年でした。
陽だまり王子の次に来た俺様王子シン・レイアックにはアクセサリーにもなりますが部屋にも飾れますし、何より手作りって素敵ですよねと花輪を提案。
その作り方を伝授し、お昼に紹介していた風の魔法道具でドライフラワーを制作しました。
「何となく興が湧いて作った物だ、偶々お前がそこを通りがかったしやる」
とでも言えば自然な感じで渡せますよとアドバイスするとそれを実行したらしく後日、上手くプレゼントできた礼だとその日持っていたトランクの商品を全てお買い上げ頂けました。毎度ありがとうございました。
その次に来た不良王子レオ・フィルクライスには可愛い模様の入った絆創膏を。
こんな物持てるか!と言われましたが
「偶々人から押し付けられて困っていたから丁度いい」
などと言えばさり気無く手当できますよと仄めかすと簡単に折れました。
押し付けられたと言うのですからとサービスで絆創膏を差し上げたのですが、後日無事にイベントをこなした彼にいたく感謝されそれ以来何かあるごとに色々とお買い上げされています。タダより高い物は無いとは本当ですね。
次に来たのは冷酷王子ウィル・サブディルです。
最初にケーキはお好きですかと質問すると冷酷王子の名に相応しい絶対零度な眼差しでお前には関係ないと言われました。
ですが、ヒロインちゃんも例にもれず女の子は甘い物が好きな方が多いので甘い物が嫌いなら
「ケーキが好きな友人に感想を聞かせろと無理矢理押し付けられたが甘い物嫌いだから食べて欲しい。できれば感想を聞かせて欲しい」
とプレゼントしてその後もまたあったら頼むとでも言えば話しかける機会は増えますし甘い物が好きなら
「買いすぎたから一緒に食べてくれないか」
と声をかければその後二人で噂のスイーツ店にお出かけなどもしやすくなります。
それに普段のイメージからのギャップに女の子は弱いんですよと言うとあっさり甘い物が好きだと白状されました。
その日は偶々前世の記憶を頼りに作ったこっちの世界にはなかったエクレアを魔法道具で冷蔵庫状態にしたトランクに入れていたのでそれを販売しました。
エクレアはヒロインちゃんだけではなく彼にも気に入っていただけたようでそれ以来ケーキの日には必ず来店される常連さんになりました。スイーツ系男子ってやつですね。
最後に小動物王子リッシト・プーリアンが来店されました。
プレゼントした後に髪を縛ってあげると良いですよとリボンをお勧めしました。
小動物王子は普段人に物をあげるよりも貰う、人に何かするよりもしてもらう方が多い典型的な末っ子甘えん坊体質なのでやってみたいと言えばヒロインちゃんは何の警戒も無く髪を縛らせてくれるでしょう。
可愛く縛ってあげた後に
「やっぱり似合うね、可愛いよ」
とでも言ったら喜ばれること間違いなしですよとアドバイスをしました。
人の髪を縛った事が無いと言うので私の髪でしばらく練習させてからイベント発生場所をアドバイスしたのですが、相当上手くいったようでそれ以来ヒロインちゃんの次くらいには懐かれました。チョロイですね。
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そんなこんなでヒロインちゃん含む6人にイベントのある毎にイベントアイテムを売りつけ時にアドバイスをしていった所、トランクの展示即売会から中庭に店を建設して売店を営む事に成功しました。
ブロッサム5とヒロインちゃんを常連客にしたかいがあり、6人とお近づきになりたいという下心を含めて学校内で欲しい物があれば使用人にわざわざ言わないで売店で買おうと言う流れができ、売店は交流の場としても活躍しています。
学校外では平民をターゲットにした小物屋、前世の知識を利用して作ったスイーツ店を展開。
従業員には平民貴族関係なく接客するように教育をしていた所その姿勢が評価されたらしく今最も注目を浴びているお店として新聞に紹介され、各部門の賞を総なめにしました。
更には魔法道具を使えば瞬時に凍らせたり乾燥させたりできると言う事に着眼した結果フリーズドライを作製するのに成功したので軍事用食として国に独自販売する事が決まっています。
これらの販売に伴う特許と店の経営者はもちろん私なので毎日増えていく金貨にウハウハが止まりません。
途中愚兄が私の特許を横取りしようとしたり、リンが愚兄に攫われたりと色々と事件も起きましたが、それ位は予想していましたのでしっかり対策を立てていたかいありすぐに解決することができました。
そうこうしている内に私の個人総資産額が実家であるリンディア家の総資産額を大幅に追い越したので、この結果を元に両親と話し合いをした結果、次期当主は愚兄から私へと変わりました。
私に対して様々な嫌がらせや妨害を起こしつつ何があっても後を継げると思い込んでいた愚兄の唖然とした表情にあの時は笑いが止まりませんでした。
時間になり売店を閉店しているとリンが現れました。
閉店作業を手伝ってくれます。
思えばリンにはこの一年間特にお世話になりました。
彼女なくしては今回の次期当主成り代わり作戦は成功しなかったでしょう。
閉店作業後、リンに右手を差し出します。
「リン、今まで色々とありがとう。この先何があるか分からないけれど、できるならこれからも変わらず私と一緒にいてくれる?」
「はい、私の主は拾っていただいたあの時からフィア・リンディア様だけです。貴女にいらないと言われるまでは死ぬまでお傍に置いて下さい」
私の質問に一切迷うことなく地面に片膝を付き、私の手を額に当てながらリンは言いました。
右手を差し出したのは握手をするためだったのですが予想以上に嬉しい言葉が返ってきたのでまあ良いでしょう。
「ええ、もちろんよ。よろしくね」
リンの言葉を受け入れ、跪いている彼女を立たせて一緒に寮へと帰ります。
これから先はエンディング後で私の知らない未来が待ち受けています。
ですが、リンとなら何が起こっても二人で力を合わせて乗り越えていけるでしょう。
次期当主となった私が次に目指すは王家御用達の座です。
「さあ、これからどんどん忙しくなるわよ」
「お任せ下さい」
新たな決意を胸にぐっと手を握りしめ、夕日に向かって叫びました。
「目指せ、億万長者!!」
END
その光景はまるで一枚の写真のように美しく、その光景に既視感を覚えた私は思い出すと同時に思わず口にしていたフランスパンを地面に墜落させました。
地面に落ちたフランスパンを呆然と眺めつつこの光景は、前世でドハマリした乙女ゲーム『桜姫』のプロローグ一発目に出現するスチルでありヒロインが攻略キャラの一人である不良王子ことレオ・フィルクライスと初めて出会う場面と同じ光景だと気付いたのです。
放心状態からハッと我に返った私は、落としたフランスパンの砂を払い取り再び口に運びながら全力疾走を開始します。
気を抜くと口から雄叫びが出そうになるのをぐっと堪えフランスパンを咀嚼しながら先ほど見た光景と自分の記憶を擦り合わせました。
その結果、やはりここは前世でプレイした乙女ゲーム『桜姫』の世界に間違いないようです。
食べ終わったフランスパンの欠片を払い、私は「キターーーーーーーー!!!」と叫びながら満開の桜並木の間を走り抜けたのでした。
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走って走って、着いた先は私が通っている学校『聖ブロッサム魔法学園』。
一般的には『ブロッサム』と呼ばれており、幼稚園から大学にあたる年齢までの貴族達が通う学校です。
他の生徒に見つからないように隠れて呼吸や身なりを軽く整えてから門を通り抜け、自分の教室へと向かいます。
このブロッサムには生徒会ならぬブロッサム5と何ともダサい名前で呼ばれている五人が存在します。
先ほど紹介した不良王子レオ・フィルクライスの他に冷酷王子ウィル・サブディル、小動物王子リッシト・プーリアン、陽だまり王子ケイ・アルフレッド、俺様王子シン・レイアックの五人。
ちなみに本人たちはなんちゃら王子と呼ばれていることを知りません。
そこはファン達が箝口令をしき、徹底的に隠しているそうです。
まあ、そんなことは置いておきましょう。
この世界でゲームタイトルにも入っている桜は世界樹みたいな扱いでとても重要視されています。
何でも、昔この世界はとても人が住めるような環境ではなくそこに神様ならぬ桜姫様が地に桜を植えたところ、そこから次々に様々な植物が生え始め、やがて人や動物が生まれたそうです。
そして貴族達はその世界に最初に生まれた人間で桜姫様の恩恵を一番受けているらしく、それにより魔法が使えるとかなんとか。
貴族達より遅く誕生した人達は桜姫様の恩恵が弱く魔法が使えないとかでそれが平民と呼ばれています。
まあ、平民にもたまに魔法が使える人が生まれるのですがその場合は姫子と言う姫様が何となく気にいった人間と言う扱いです。
この国では魔法が使えると判明した人間は病気で動けないなどの一部例外を除き強制的にこの学園に入学させられます。
魔力の暴走を防ぐためなどともっともらしい理由がつけられていますが、実際には強力な魔法を使える者がいた場合、国へ囲い易いようにと自国の戦力たりえる魔法使いを管理しやすくすると言うのが理由でしょう。
貧乏で入学金が払えない場合は無償でこの学園に入学でき、その場合は更に国から本人や家族へ資金が渡されると言った好待遇措置が取られています。
この措置により平民の魔法使いの秘匿率と魔法による犯罪発生率もぐっと下がりました。
やはりお金の力は何よりも偉大と言うことですね。
ちなみに魔法が使えるかどうかが判明するのは大抵5歳から15歳までの間で魔法の属性は火、水、風、土、木の五つ。
人が使える属性は一つでしかも一種類の魔法だけと決まっているという何ともケチ臭い設定。
15歳で能力を開花させ名門貴族学校に通うことになった平民出のヒロインは木属性、それもなんと桜の木を生やせます。
先にも言いましたがこの世界では桜の木が最も重要視されます。
桜はこの世界で唯一魔法を打ち消す力が宿っているらしくその桜を使った魔道具は特級神官と呼ばれる神官で最も位が高い人と王族の極一部の人しか使う事ができない決まりになっているのです。
しかも本当に神聖な物なので今まで桜の花吹雪を出す者はいても過去一度も桜の木その物を出せた者はいなかったですし、その桜吹雪を出した人が初代国王その人だけ。
その上で桜の花と同じ髪色ときたものだから一部からは桜姫の再来と呼ばれ、世間から彼女への注目度はマックス。
王族のみならず様々な派閥の貴族たちが彼女を何とか手に入れようとあの手この手を使ってくる中、真実の愛を見つけると言うのがこのゲームの大まかなストーリーです。
桜の木を生やすことしかできないヒロインが知恵を使って難を逃れるところとか舞台裏での策略とかが結構面白くてハマったんだよなあと懐かしく思いながらうんうんと頷きます。
ちなみにブロッサム5の五人にはそれぞれ婚約者がおり、それぞれのルートで婚約者が邪魔をします。
属に言う悪役令嬢と呼ばれるポジションに位置する人たちです。
そして私、フィア・リンディアはその悪役令嬢、ではなくストーリーにモブとしてもちろりとも出てこないモブの中のモブ……とどのつまりは全く関係の無い、モブと言えもしない人物です。
前世で良く読んだゲームの知識を生かしてモブでも逆ハーを!とかは世界に愛されまくっているヒロインちゃんに対して無理ゲー過ぎる、と言うか全く興味が湧かないので没。
商家貴族の一員、何より次期当主の座を狙う者としてはこの機会は前世の知識を有効活用しまくって次期当主第一候補である愚兄を蹴落とし、一山築くビジネスチャンスとしか思えません。
やり方は簡単。
ゲームでヒロインが攻略キャラに贈る物や逆にキャラ達がヒロインに贈る物を私が売りつければ良いのです。
注目度マックスのヒロインが身に着ける物は流行になること間違いなしでしょうし、もしヒロインがうちで買った物をプレゼントして攻略キャラと両想いにでもなれば新たなジンクスの誕生につながり、それにあやかろうとその商品を買っていく人も出てくるだろうことが予想されます。
攻略キャラたちは例によって貴族ばかりだし、その恋人、果ては妻となるであろうヒロインちゃんに上手く気に入られれば大口の顧客になってくれるかもしれない。
そして、もしも彼女が王子と結ばれた場合王家御用達の一員となれる可能性も出てきます。
そう考えるとヒロインや攻略キャラたちは私にとってまさに鴨葱というか金の卵を産む鶏にしか見えません。
そうと決まれば行動は早い方が良いでしょう。
私は授業もそこそこにノートに思い出せる限りの攻略キャラたちやヒロインの好みや癖、趣味家族構成や交友関係などの情報を書き連ねていきます。
ヒロインの名前は初期設定のままのようですが、もしかしたら転生している人間の可能性もあることも考慮しなければなりません。
攻略キャラ達は今のところ今までの情報と思い出してからの私の記憶と変わりがないように思えます。
ですが、もしかしたら転生者でヒロインと接触した時に記憶を取り戻す可能性もありますのでこれからの情報収集は気が抜けません。
これまでの情報収集方法を見直して念入りに行動しなくては。
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昼休みになったので昼食を手早く済ませ、私は校内を歩き回りあちこちで魔法を展開させます。
私の属性は木、好きなところに桜以外の好きな植物を咲かせ、その生やした植物から音声や映像などの情報を得る事ができます。
つまりは天然素材の盗聴器&盗撮機。
室内にはカビを生やす事で室内外を網羅、一定のキーワードを設定しておくとそれを自動で知らせてくれる上に高性能。
ちなみに周りの人間には一人を除いて盗聴機能については一切話していないのでただ植物を生やす魔法としか思われていません。
調べてみたところ盗聴や姿を消すなどはありましたが、植物を媒体にして盗聴する魔法を使っている人は過去にいなかったようなのでバレる可能性は低いと考えられます。
生やす時に魔力を消費しますが、一度生やしたら後は地面などから勝手に魔力を吸収してくれるのですから使い勝手はかなり良いと言えます。
前世の記憶が戻るまで考えてはいませんでしたが、もしかしたらこれは転生チートと呼ばれるモノなのかも知れません。
今まで人の使用頻度が高い場所と良く隠れて使われる場所のみにしていましたが今回の件で学園中を網羅しようと決意しました。
正直、かなりきついですがこれもお金のためと考えれば容易いものです。
私は積み上がるであろう金貨の山を妄想しながら着々と植物を生やしていきました。
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放課後、学生寮にある自分の部屋に帰ると早速紙にヒロインやキャラ達がイベント時に使う重要アイテムとその他の細々した物と簡単な説明図を書き出します。
書き終わってから一度見直し、二度手を叩きました。
「お呼びでしょうか、主」
天井裏から黒い衣服に身を包んだ一人の少女が現れ、床に膝をつきます。
彼女はリン。
私がまだ幼い頃、屋敷を脱走した時に道端に倒れていたのを発見、保護したらしいです。
体調が回復するまで屋敷で保護し、その後施設に預けようとしたのですが彼女と仲良くなった私がそれを地団太を踏んで抗議し、泣き喚いて彼女を自分の侍女にすると我が儘を言ったとかなんとか。
実を言うと全く覚えていません。
ぶっちゃけますと、気が付いたら一緒にいた記憶しかないので今でも両親がその話をするときは愛想笑いでお茶を濁しています。
「ええ、ちょっとこの紙に書かれている物を調達するのを手伝って欲しいの。お金は私の口座からで構わないわ」
「承知いたしました。……ところで主、やってみたいと言うので今朝は容認いたしましたがやはりフランスパンを咥えながら走るのは淑女としていかがなものかと思われます。今後は控えていただけないでしょうか」
「あら、何事も経験って言うじゃない。お蔭で得るものもあったしまたやろうかしら」
「……お願いですからお止めください」
「冗談よ」
ジトーと疑わしそうな表情を笑顔でやり過ごすとため息を吐かれました。
失礼ですね。
「それで、早速明日調達したいのだけど大丈夫?」
「問題ありません。いつも通り主の植物を持って私が念話を飛ばして主の指示を仰げばいいのですね?この絵と同じ物、もしくは近い物を探せばいいですか?」
「ええ、いつも通りお願い。できれば同じものをお願いするわ。髪に挿しておく植物は明日渡すわね」
「畏まりました。他にご用件はございませんか?」
「そうね、じゃあお茶をお願いしようかしら。リンの入れたお茶は美味しいから」
「ありがとうございます」
リンは遠話と呼ばれる遠くにいる人物と会話ができる魔法が使えます。
先にも言いましたがこの国では魔法が使えると判明した人間は病気などの一部例外を除き強制的にブロッサム学園に入学することが決まっています。
本来ならリンもこの学園に通う予定だったのですが、学園に通うことを彼女は拒否しました。
理由としては私のお世話ができなくなるからだそうです。
そんなに世話を焼かれなくてもある程度は私一人でもできますし、どうしても人手が必要なら他の使用人に頼めば良いので私の事は気にするなと言いました。
ですがリンは頑として聞いてくれませんでした。
挙句の果てには私のお世話を他の人間に任せるくらいなら自害すると言い出す始末。
いっそのこと、家族に暴露しようとしましたがそんなことをしたらその瞬間に死んでやると宣言。
何度も説得しましたがリンは一度言い出したら梃子でも動かないところがあるので最終的には仕方がないと諦め、法に反してはいますがバレなければ良いのだと開き直る事にしました。
幸い、彼女が初めて魔法を使ったのは私に対してでしたし、遠話は心の中で会話する能力なので他人からは使っているのが分かりません。
私かリンから言い出さない限り彼女が魔法を使えることは誰も知る手段がないのです。
リンが魔法を使えると判明した時から密かに訓練して今では距離に関係なくどこでも彼女と接続できるようになりました。
更には遠話で人に虫の知らせのように何となくこうした方が良いかもと思わせる事もできるようになりました。
一歩間違えればそくリンが魔法を使えるのがばれてしまう危険がありましたがその緊張感が良い感じに作用したようでメキメキ腕をあげ、今では複数人に同時に行えるようになりました。
バレてしまえばなし崩し的に国に報告が出来ると考えてもいたのですが、そんな失敗をリンが犯す事も無く。
ここまで便利な能力だとリンが魔法を使える事を愚兄が知っていたら今頃彼女はどうなっていたかと戦慄を覚えます。
そう考えるとあの頃のリンに拍手を贈りたいです。
ゲームでは今日はヒロインと攻略キャラ達が顔合わせする程度で終わります。
その後しばらくは地道な好感度上げ。
事態が動くとしたら早く見積もって三日後からと考え、しっかり気を引き締めていきましょう。
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一日の授業を終え、学校のトイレに籠って流れてくる情報をノート片手に整理します。
今日のヒロインちゃんは朝寝坊し、教室へ向かう途中に廊下を走って冷酷王子ウィル・サブディルを押し倒し、二時限目を終え、教室に戻る途中陽だまり王子ケイ・アルフレッドの飛ばしたプリントを拾うのを手伝い、四時限目になる前にお腹を空かせていた小動物王子リッシト・プーリアンに飴をわけ与え、昼休みに俺様王子シン・レイアックにビンタをかまし、その後五時限目終了時に不良王子レオ・フィルクライスには頭突きを食らわせたようです。
さすがヒロインちゃん、神がかり的なイベント回収率ですね。
初日から素晴らしい働きっぷりです。
これが天然で巻き起こされたものなのかはたまた転生者という存在が作為的に巻き起こしたものなのかは分かりませんが、この調子でどんどん回収してフラグを乱立していって欲しいものですね。
ちなみに私は今日一日授業を受けるフリをしながら頭の中でリンとあーでもないこーでもないと必要な物を買い付けていました。
何回か当てられましたがあらかじめ予習していたところだったので問題ありません。
日頃の予習復習の積み重ねって大事ですよね。
まあ、そんなことは置いて置くとして必要な物は手に入れたので私の方からも早速行動を起こしてみようと思います。
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陽だまり王子ことケイ・アルフレッドは悩んでいた。
彼は昔から運が悪かった。
天気が良いからちょっと散歩でもと思い庭に出た途端に土砂降りになり全身ずぶ濡れになったり、用事があって遠くに行った帰りに馬車の車輪が外れたり、道を歩いていたら勢いよく水をぶちまけられたり、棚に小指をぶつけて悶えているところに上から本が降ってきたりと様々だが他の人よりわりと高い頻度でそんな目に合っていた。
長男として将来アルフレッド家を継ぐことになるのだからこんなことではいけないと思ったが、運は努力ではどうすることもできなかったのか努力した分能力は高いがそれ以上に圧倒的に運が悪いと言うなんかもう笑うしかない状態になってしまった。
8歳の頃、彼は風魔法が使える事が判明したので魔法を使えるようになってからは常に風を体の周辺に纏うようにすることで何かにぶつかるようなことは減ったし雨などで濡れた服を一瞬で乾かせるようになった。
体と反射神経を鍛える事で水をかけられる前に素早く避けられるようになった。
馬車の車輪は改良を加えて人的以外では外れにくくしたし、例え壊れても修理道具と全輪分のスペアを持ち歩く事でフォローできるようになった上に改良の良さを認められ、新たな販路を開く事に繋がった。
常に最悪の事態を予測しそれに対するいくつもの対応策を用意しておく癖がついた。
お陰で緊急時の対応に関しては彼を凌ぐ者はいないとされるまでになり、次期当主に相応しいと両親や世話役に太鼓判を押されるまでに成長し、ブロッサム5にも選ばれた。
彼の持ち前の運の悪さは彼の努力によって全てが良い方向へと転がった。
だが最近、その運の悪さが強まってきている気がすると彼は考える。
転ぶまではいかないにしても何もない所で躓いたりプリントが飛ばされたり物を落としたりとそれ自体はまだ良いのだがそれよりも毎回何か失敗した際に必ず他人に見られてしまっている。
それがただの他人なら良かったのだが、それがよりにもよって桜の木を生やす事ができる奇跡の少女、ユイ・ブロッサムなのだから性質が悪い。
両親にケイに他に好きな人がいないのであれば可能なら恋人に、それができなければできるだけ太いパイプを作れと言われた重要人物に悪いところばかりを見られてしまっているのは非常に不味い。
幸い彼女は心優しい子なのか毎回一緒にプリントを拾ってくれたり落として割れた物の掃除をしてくれている。
一度落として割れた物の破片を集めるのに魔法で生やした桜の木を折って箒変わりにしようとした時は慌てて止めた。
あれ以来、簡易箒と塵取りが必需品になった。
本当はプリントや落とした物は風魔法で簡単に拾えるのだがその機会に彼女と少しでも打ち解けようと彼女が次の授業に遅れないように注意しながら全てワザと遅く作業をするようにしている。
そんな浅ましい事を考えている自分に嫌気がさしてくるが何故か彼女と話せるのであればそれでも良いとも思ってしまう。
そんな自分の感情に首を傾げる。
気付けば最近は特に彼女のことばかり考えている気がする。
そしてその彼女には格好悪い所ばかり見られてしまっているのだから何とかしなければと言う気持ちが湧き上がってくる。
けれど、一体どうすれば……。
悩んで歩いているといつの間にか中庭に来ていた。
ブロッサムの中庭は日当たりも良く、ベンチや噴水などがあり生徒には人気の場所だ。
かく言う彼もこの場所は好きだった。
昼休みによく木にもたれながら木陰で本を読んでいる。
いつもは生徒がそれぞれ思い思いに休んでいるのだがこの日は何故か人だかりができていた。
近くにいた生徒を捕まえて聞いてみる。
「何かあったのかい?」
「あ、はい。商家貴族のリンディア一族はご存知ですか?そこの娘があそこで展示即売会を開いているんですよ」
「展示即売会?」
「はい、これが結構品揃えが豊富で魔法アイテムから庶民の物まで幅広くて面白いんですよ。是非ケイ様もご覧になるべきです!おい。お前ら、ちょっと道を開けろ!ケイ様を前に出すんだ!」
「いや、別にそこまでしなくても……」
人垣が割れ、前に出されると一人の少女が手にしていた丸いガラス玉のような物を良く通る声で紹介していた。
「さあ、こちらの商品は風魔法が込められており、物を瞬時に乾燥させる事が出来ますよ!例えば雨の日にうっかり教科書が!!と水たまりに落ちてしまってもこの通り!瞬時に綺麗に乾かすことができます。ページもよれていません。
しかも、先ほど紹介した物を凍らせるアイテム同様風魔法の適性が無い方でも使用可能となっています。
ただし、先ほど同様風魔法適性者の方は使用不可能となっておりますのでご容赦下さい」
彼女の前にはいくつかトランクが置いてあり、そのうちの一つに彼女が手にしている物と同じような物が中に入っている。
彼女が紹介している商品は火・水・風・土・木それぞれの属性分あるようだ。
他のトランクにはノートやインクなどの勉強道具や石鹸などの生活用品、チェスやトランプなどの遊戯物やリボンやハンカチ、タイピンなどのアクセサリーとそれぞれ分けて入れられているみたいだ。
トランクの中を見ているうちに商品の紹介が終わったようだ。
「紹介した商品やトランクの中で欲しい商品がございましたら中央廊下の所に箱を用意いたしましたのでこちらの紙に欲しい物と個数を記入してお入れ下さい。今日か明日にでもお届けします。代金はその時にお願いします。
では、昼休みも終わりに近いですし後10分後には商品も片付けるのでそれまではごゆっくりご覧下さい」
人ごみから抜け出して周りを見回す。
周りには貴族庶民関係なく人が集まっている。
なるほど、普段展示即売会など見ることもない貴族と普段あまり魔法具なんて見ない庶民の両方の気を引くことができる。
遊戯物以外にも勉強道具や生活用品も揃えているので興味はなくてもそれらを買いたい人間もくる。
なるほど、上手く考えられているなあと感心する。
何となく辺りを見回してユイ・ブロッサムが即売会の人ごみの中にいるのを発見した。
友人らしき人物と二人で展示即売会開催者の女生徒と笑顔で話している。
彼女の笑顔を見ているとなんだかこう胸のあたりがムズムズすると言うか不思議な感じになる。
もしかしたら何か病気かもしれない、放課後あたりにでも医務室で見てもらおう。
放課後、医務室に向かう途中何となく中庭に行ってみると展示即売会開催者の子に遭遇した。
周りを見回すと丁度良く他に誰もいない。
「あら、ケイ様。どうかなさいましたか?」
「あ、ああ。その、君、今日即売会をやっていただろう?ちょっと世話になった子にプレゼントを贈りたいんだけど何か良いのはないかな?」
「そのお世話になった方は男性ですか?女性ですか」
「……女性だ」
「年はおいくつですか?」
「えぇっと、16だね」
「平民の方ですか?貴族の方ですか?」
「………平民だ」
変な勘繰りを受けないか心配だったが彼女は特に気にした様子もなくトランクを漁りだす。
「なるほどなるほど。16歳の平民の方ですね。すると、こちらなんかどうでしょうか」
そう言って彼女がトランクから取り出したのはハンカチだった。
「平民の方ですとあまり高価な物では恐縮してしまうと思うので程々の値段の物がよろしいかと思われます。こちらは最近平民の間で流行りの小物屋の最新デザインハンカチです。あまり派手過ぎず地味過ぎない畳んだ際のワンポイントとしての刺繍が可愛いと人気ですよ。色は白、ピンク、藍、黄色と全四種類そろえております」
始めはちょっと冷やかす程度のつもりだったけど、彼女が取り出した物があまりにもユイ・ブロッサムのイメージにぴったりだったのでここで買うことにした。
「そうだなあ……じゃあ、ピンクでお願いするよ」
彼女の髪色を思い浮かべながら色を選ぶ。
喜んでくれると良いな。
「プレゼント用ラッピングをしますか?」
「お願いするよ」
「畏まりました。少々お時間がかかりますので商品でも見てお待ちください」
しばらくした後に綺麗に包装されたハンカチを手渡された。
まるで渡す相手が分かっているかの様にハンカチ同様彼女のイメージにピッタリなラッピングに驚きつつも渡した時に一体どんな反応をしてくれるのかを想像して思わず顔が綻ぶ。
「ご満足いただけたようで何よりです」
「え、あ、ああ。ありがとう」
微笑ましい物を見るかのような表情に気恥ずかしさを覚えつつもお礼を言うと彼女は笑った。
「いえいえ、喜んでもらえるといいですね。またのお越しをお待ちしております」
「その時はまたお願いするよ。今更だけど僕の名前はケイ・アルフレッド。君の名前を聞いても良いかな?」
「これは失礼いたしました。私は商家貴族のリンディア家長女、フィア・リンディアと申します。どうぞお見知りおきを」
「こちらこそ」
「そうそう、私実は最近占いに凝っていまして僭越ながら勝手に占わせていただいた所、今日のケイ様のラッキーポイントは図書室です。この後行ってみるのをおススメします」
「?良く分からないけど図書室に行って見るよ。ありがとう」
フィア・リンディアと別れてプレゼントを手に図書室へと向かってみる。
普段なら他人にこの場所へ行くと良いと言われても何かあるのでは無いかと疑ってかかるのだが、何故か今日はフィア・リンディアの言葉どおりに図書室に行ってみようという気持ちが浮いてきた。
一瞬精神操作系の魔法かと思ったがそういう系統には二、三重にもしっかりと対策をとっているのでそれはないと 断言できる。
対策を上回る程の魔力を秘めている可能性もあるが国の将来を担う者たちが多く通うこの学校にそんな人物が入学するとなったら噂にならないはずがない。
だとするとこれは本当に気まぐれなのだろうな、と誰に言い訳するでもなくつらつらと考えていると図書室に着いた。
カウンターに座っていた司書に頭を下げ、中へと進むと本棚の陰になり人目に付きにくい場所の椅子に座っているユイ・ブロッサムの姿が見えた。
僕の足音に顔を上げた彼女が僕の目を見てふわりと笑った。
次のプレゼントもフィア・リンディアのところで買おうかなと思った。
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自室で図書室に仕掛けたカビから送られてきた情報にほくそ笑みます。
どうやらイベントは上手く行ったようです。
陽だまり王子との好感度がある一定数値に達した時に起こる逆プレゼントイベント。
今後のための実験も兼ねて数種類ハンカチを用意しましたが彼は迷わずイベントスチルでも見たデザインのハンカチを選んだことから多少はゲームの強制力というのは存在しているのかもしれません。
となると残りのメンバーを誘導するのもある程度は上手くいくでしょう。
後はイベントの起こるタイミングと商品を売りつけるタイミングを見誤らなければ何とかなりそうです。
「目指せ、次期当主!!」
何としてもこの機を逃してなる物かとぐっと手を握りしめたのでした。
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「ユイ!遊ぼう~♪」
小動物王子リッシト・プーリアンがヒロインちゃんに飛びつきます。
その衝撃によろけたヒロインちゃんをすかさず俺様王子シン・レイアックが支えます。
「おいこら、いきなり飛びつくな。ユイが怪我したらどうする」
「その時は俺が手当してやるよ、な、ユイ?」
不良王子レオ・フィルクライスがヒロインちゃんの顎を手でくいっと掬い上げ不敵に笑います。
真っ赤になったヒロインちゃんを不良王子からさっと奪い取ったのは陽だまり王子ケイ・アルフレッド。
「レオの手当じゃ不安だからそう言う時は僕を頼ってね。もちろんそれ以外でも大歓迎だから」
「なんだと!?」
「君みたいな素人の手当で彼女の肌に傷が残ったら大変だろう?アルフレッド家なら最高の名医で彼女を手当できる」
「ぐっ」
否定できなかった不良王子は悔しそうに顔を歪めています。
「やれやれ、騒がしいですね。ユイ、あちらで美味しいケーキでも食べましょう」
騒ぎに便乗してさり気無くヒロインちゃんを連れ出そうとしているのは冷酷王子ウィル・サブディル。
「偶々、ユイが食べたいと言っていたお店のケーキが手に入ったんですよ」
「おいこら、何抜け駆けしようとしている」
俺様王子がすかさずヒロインちゃんの肩を掴んで制止しました。
「僕もケーキ食べたーい!」
「君たちの分はありませんよ。僕とユイの二人分だけです」
「じゃあウィルの分を頂戴?」
「あげるわけないでしょう」
名案でしょ?と首を傾げる小動物王子を冷酷王子が一笑します。
「ケチ!!」
「何とでもおっしゃい」
「もうっ!みんな仲良くしようよ!!ウィルも意地悪言わないの!」
五人に囲まれているヒロインちゃんが叫びました。
「はーい」
「……すみません」
「ふん、いい気味だぜ」
「レオもだよ!」
「…ちっ」
「舌打ちしない」
「いってっ」
不良王子の頬をヒロインちゃんが片手で捻ります。
口では痛いと言っていますが目元は緩んでいます。
そんな二人の様子を他の4人は羨ましそうに見つめています。
「私が足りない分買ってくるからみんなでお茶会しよう。ね?」
頬から手を放すとそう提案して首を傾げて微笑むヒロインちゃんに5人は嬉しそうに笑いました。
「しょうがないな。俺様が一緒に買いに行ってやろう」
「大丈夫だよ。その代わりみんなでお茶会の用意してて、ね?」
「…ふん、俺様をそんな風に使えるのはユイだけだ、光栄に思え」
「はいはい、俺様発揮してないで準備しますよ」
「ユイちゃんのために頑張って準備してくるね!レオもほら」
「俺もかよ」
「じゃあ僕は茶葉持って来るよ。丁度良いのが手に入ったんだ」
「じゃあ決まりね。行ってきます!」
「「「「「いってらっしゃい」」」」」
ヒロインちゃんが走り出します。
その様子を植物から観察していた私は開店準備をしていた手を早めます。
丁度開店の準備ができたところでヒロインちゃんがやってきました
「こんにちは」
「あら、いらっしゃいませ、ユイさん。本日はどの様な物をお探しですか?」
「えぇっと、ケーキが欲しいのだけれど今日はある?」
「ええ、偶々今日はケーキを取り扱っていますよ。いつも良いタイミングですね」
「ふふ、私って運が良いみたいなの!」
「それは何よりです。今日はチーズケーキ、チョコケーキ、ショートケーキ、モンブラン、フルーツタルトの他に新商品のマカロンもございますよ」
「マカロン?」
「はい、最近我が家の系列店から売り出し始めた物です。味はクリーム、ストロベリー、チョコの3種類あります」
「へぇ……久々に食べたいかも」
「あら、もう食べたことがおありなんですか?」
「え!…う、うん。実はそうなの」
「流石流行には目ざといですね」
「えへへへ、まあね」
ちなみに最近我が家の系列店から売り出し始めた物と言うのは嘘です。
この世界にはマカロンは存在していなかったので私が前世の記憶を頼りに作製、今日初めてこの世に出しました。
これで彼女が転生者というのは確定しました。
まぁ、だからと言って何かする気は今の所は全く無いのですが、情報は商人の命ですからね。
最終的にヒロインちゃんには全ての種類のケーキとマカロンを全種類人数分お買い上げいただきました。
毎度ありがとうございます。
他の生徒達にケーキやその他の物を売りながらヒロインちゃん達の様子を除くとワイワイと賑やかにケーキをつついています。
その様子はゲームでも見たことのあるハーレムエンドのスチルのそれと同じです。
どうやら今日でエンディングまでの全てのイベントが終了したようです。
ここまで来るには実に短いようで長い一年でした。
陽だまり王子の次に来た俺様王子シン・レイアックにはアクセサリーにもなりますが部屋にも飾れますし、何より手作りって素敵ですよねと花輪を提案。
その作り方を伝授し、お昼に紹介していた風の魔法道具でドライフラワーを制作しました。
「何となく興が湧いて作った物だ、偶々お前がそこを通りがかったしやる」
とでも言えば自然な感じで渡せますよとアドバイスするとそれを実行したらしく後日、上手くプレゼントできた礼だとその日持っていたトランクの商品を全てお買い上げ頂けました。毎度ありがとうございました。
その次に来た不良王子レオ・フィルクライスには可愛い模様の入った絆創膏を。
こんな物持てるか!と言われましたが
「偶々人から押し付けられて困っていたから丁度いい」
などと言えばさり気無く手当できますよと仄めかすと簡単に折れました。
押し付けられたと言うのですからとサービスで絆創膏を差し上げたのですが、後日無事にイベントをこなした彼にいたく感謝されそれ以来何かあるごとに色々とお買い上げされています。タダより高い物は無いとは本当ですね。
次に来たのは冷酷王子ウィル・サブディルです。
最初にケーキはお好きですかと質問すると冷酷王子の名に相応しい絶対零度な眼差しでお前には関係ないと言われました。
ですが、ヒロインちゃんも例にもれず女の子は甘い物が好きな方が多いので甘い物が嫌いなら
「ケーキが好きな友人に感想を聞かせろと無理矢理押し付けられたが甘い物嫌いだから食べて欲しい。できれば感想を聞かせて欲しい」
とプレゼントしてその後もまたあったら頼むとでも言えば話しかける機会は増えますし甘い物が好きなら
「買いすぎたから一緒に食べてくれないか」
と声をかければその後二人で噂のスイーツ店にお出かけなどもしやすくなります。
それに普段のイメージからのギャップに女の子は弱いんですよと言うとあっさり甘い物が好きだと白状されました。
その日は偶々前世の記憶を頼りに作ったこっちの世界にはなかったエクレアを魔法道具で冷蔵庫状態にしたトランクに入れていたのでそれを販売しました。
エクレアはヒロインちゃんだけではなく彼にも気に入っていただけたようでそれ以来ケーキの日には必ず来店される常連さんになりました。スイーツ系男子ってやつですね。
最後に小動物王子リッシト・プーリアンが来店されました。
プレゼントした後に髪を縛ってあげると良いですよとリボンをお勧めしました。
小動物王子は普段人に物をあげるよりも貰う、人に何かするよりもしてもらう方が多い典型的な末っ子甘えん坊体質なのでやってみたいと言えばヒロインちゃんは何の警戒も無く髪を縛らせてくれるでしょう。
可愛く縛ってあげた後に
「やっぱり似合うね、可愛いよ」
とでも言ったら喜ばれること間違いなしですよとアドバイスをしました。
人の髪を縛った事が無いと言うので私の髪でしばらく練習させてからイベント発生場所をアドバイスしたのですが、相当上手くいったようでそれ以来ヒロインちゃんの次くらいには懐かれました。チョロイですね。
***********************************
そんなこんなでヒロインちゃん含む6人にイベントのある毎にイベントアイテムを売りつけ時にアドバイスをしていった所、トランクの展示即売会から中庭に店を建設して売店を営む事に成功しました。
ブロッサム5とヒロインちゃんを常連客にしたかいがあり、6人とお近づきになりたいという下心を含めて学校内で欲しい物があれば使用人にわざわざ言わないで売店で買おうと言う流れができ、売店は交流の場としても活躍しています。
学校外では平民をターゲットにした小物屋、前世の知識を利用して作ったスイーツ店を展開。
従業員には平民貴族関係なく接客するように教育をしていた所その姿勢が評価されたらしく今最も注目を浴びているお店として新聞に紹介され、各部門の賞を総なめにしました。
更には魔法道具を使えば瞬時に凍らせたり乾燥させたりできると言う事に着眼した結果フリーズドライを作製するのに成功したので軍事用食として国に独自販売する事が決まっています。
これらの販売に伴う特許と店の経営者はもちろん私なので毎日増えていく金貨にウハウハが止まりません。
途中愚兄が私の特許を横取りしようとしたり、リンが愚兄に攫われたりと色々と事件も起きましたが、それ位は予想していましたのでしっかり対策を立てていたかいありすぐに解決することができました。
そうこうしている内に私の個人総資産額が実家であるリンディア家の総資産額を大幅に追い越したので、この結果を元に両親と話し合いをした結果、次期当主は愚兄から私へと変わりました。
私に対して様々な嫌がらせや妨害を起こしつつ何があっても後を継げると思い込んでいた愚兄の唖然とした表情にあの時は笑いが止まりませんでした。
時間になり売店を閉店しているとリンが現れました。
閉店作業を手伝ってくれます。
思えばリンにはこの一年間特にお世話になりました。
彼女なくしては今回の次期当主成り代わり作戦は成功しなかったでしょう。
閉店作業後、リンに右手を差し出します。
「リン、今まで色々とありがとう。この先何があるか分からないけれど、できるならこれからも変わらず私と一緒にいてくれる?」
「はい、私の主は拾っていただいたあの時からフィア・リンディア様だけです。貴女にいらないと言われるまでは死ぬまでお傍に置いて下さい」
私の質問に一切迷うことなく地面に片膝を付き、私の手を額に当てながらリンは言いました。
右手を差し出したのは握手をするためだったのですが予想以上に嬉しい言葉が返ってきたのでまあ良いでしょう。
「ええ、もちろんよ。よろしくね」
リンの言葉を受け入れ、跪いている彼女を立たせて一緒に寮へと帰ります。
これから先はエンディング後で私の知らない未来が待ち受けています。
ですが、リンとなら何が起こっても二人で力を合わせて乗り越えていけるでしょう。
次期当主となった私が次に目指すは王家御用達の座です。
「さあ、これからどんどん忙しくなるわよ」
「お任せ下さい」
新たな決意を胸にぐっと手を握りしめ、夕日に向かって叫びました。
「目指せ、億万長者!!」
END
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